chapter2 「そもそも、歴史/時代小説の違いって?」
そもそも、「歴史小説」と「時代小説」の違いはどこにあるのでしょうか。
まあぶっちゃけた話、「Wikipedia日本語版の当該ページを参照してください」ってだけでいいんですけども、そんな突き放した結論を書くんじゃあんまりなので、ちょっと能書きを垂れてみたいなあと思います。
たとえば、です。
司馬遼太郎先生の「竜馬がゆく」は歴史小説です。下母沢寛先生の新撰組関係の諸連作(新撰組ファンの方なら下母沢先生の実績はご存じかと思います)も歴史小説です。外国に目を向ければ、羅貫中先生の「三国志演義」(あれは厳密には“奇書”という扱いですけど)も一応歴史小説です。
夢枕獏先生の「陰陽師」は微妙なところです(個人的には時代小説に分類したいです)。
宮部みゆき先生の江戸時代ものはほとんどが時代小説です。池波正太郎先生の「剣客商売」は時代小説です。映画「座頭市」も時代ものです(異説あり)。山田風太郎先生の諸作の多くが時代小説です。外国に目を向ければ、映画「ロック・ユー」(どうでもいいですが、この映画おすすめです)も時代ものです。
では、歴史小説と時代小説を分かつ要素はなんなのか。
それは、プロットと歴史的事実との距離感です。
お話の骨格となる部分のことを“プロット”と呼ぶのは周知のとおりですが、そのプロットの中に“歴史的事実”がどれだけ入り込んでいるか、それによって歴史小説か時代小説かが決まります。
たとえば、「竜馬がゆく」を例にとりましょう。
あの小説のプロット部分を洗い出してみると、実は主人公たる坂本竜馬の人生の軌跡(=歴史的事実)が色濃くプロットに影響を及ぼしていることが分かります。そのように、プロットの中に歴史的事実が多く刷り込まれている小説を“歴史小説”というのです。
じゃあ、時代小説は?
時代小説にだって歴史的事実は多く含まれています。けれどその歴史的事実たちの多くはプロットにまで影響を及ぼしていません。そこが歴史小説との差異なのです。
たとえば、「水戸黄門」で考えてみましょう。
確かに「水戸黄門」にだって歴史的事実は書かれています。たとえば当時の将軍綱吉との微妙な関係や側用人柳沢吉保との対立といった事実です。けれど、そういった歴史的事実はプロットそのものには大きな影響は与えていません。「水戸黄門」の主だったプロットは、「街道筋にはびこる悪を懲らしめる」という、歴史的事実とはあまり関係ない部分なのです。
え? 「よくわからない」って?
じゃあざっくばらんに説明しちゃいましょう。
・歴史小説とは、歴史的事件や出来事、歴史上の人物を主眼に書いた小説のことである
・時代小説とは、舞台設定を“過去”に求めた小説のことである
まあ、違いはこんな感じとなります。
ではなぜ、筆者は「陰陽師」を歴史小説とも時代小説ともジャッジしかねているのでしょうか。それには、以下のような理由があります。
「陰陽師」というと安倍清明と源博雅のコンビによる平安時代を舞台にした小説ですが、あの作者様、様々な文献から取材をしています。平安時代の往生集や歴史物語、あるいは古い物語などから。すごくざっくばらんに言えば、「陰陽師」は平安時代の不思議な話を材にとって書かれた小説なのです。
もしも、その“不思議な話”たちが実話ならば歴史小説なのですが、残念なことにそれらの文献に書かれていることにどれだけ真実性があるのかというと疑問符が付きます。
なので、「陰陽師」は歴史小説として扱うよりも、「伝奇時代小説」と分類してしまった方がいいのかもしれません。(念のため書いておきますが、歴史小説としてカテゴライズされようが時代小説としてカテゴライズされようが、それが「陰陽師」の作品としての面白さに何ら影響を及ぼすものではありません。看板がどのようなものであれ、おいしい喫茶店のコーヒーはやっぱりおいしいように、ジャンルが違うくらいでその小説の真価は決まりません。ただここで例に挙げたのは、“単に説明がしやすいから”にすぎません。)
なんで最初にこんなアウトラインの話をさせて頂いたのかと言うと、それは日本人の歴史小説に対する認識のためです。
日本の歴史小説は、殊更に“歴史的事実”を重要視する傾向があります。
それは、江戸時代の講釈の延長にあるエンターテイメント性を重要視した(言いかえれば歴史的事実を軽視した)“江戸時代的文芸”への反省として、日本の歴史小説がスタートしたという経緯のためです。
時代小説はそうでもないですが、「歴史小説」を名乗るならば、歴史的に間違いのないものを描くべし! というような風潮があるんです。
どっちにせよ、これから歴史を材にとった小説を書いてみたいと思われたあなたは、最初に「自分が書きたいのは歴史小説なのか、それとも時代小説なのか」を考えてみるとよろしいかなと思います。
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