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技能チートで異世界迷い込み―芸は身を助ける― 作者:便器詰まったときのカッポンてやつ
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一話

『小人閑居して不善を為す』
意訳…駄作者に暇を与えると、しょうもない小説ばかり書いてしまう。
 この地球とはまったく別の次元に存在するとある世界。

 そんな世界に、地球から一人の男性が訪れた。
 理由は誰にも分からない。
 事故なのか。
 何者かの仕業なのか。

 そんなこんなで異世界に迷い込んだ男。
 名前を伊吹(いぶき)という。

 彼が召喚(?)された場所は、その国の首都から遠く離れた農村近くの森の中であった。

 たまたま近くを通りがかった猟師に拾われたイブキは、その猟師の元で生活することになる。









 イブキが流れ着いたこの国を治める王には一人の娘がいる。
 その王女は容姿に優れ、文武に秀で、下の者にも分け隔てなく接する人物であった。

 王女は誰からも好かれていたが、一つだけ皆が困惑する趣味があった。

 それはファッションだ。

 王女は、隣国に素晴らしいファッションデザイナーがいると聞けば、すぐさま呼びつける。
 優秀な細工師がいると聞けば、ありとあらゆる宝石をかき集め、装飾品を作らせる。

 それらには相当な額が費やされていたのだが、それによって国の服飾技術は他国をはるかに凌ぐほどになり、世界中からデザイナー志望者が集まってくるようになった。
 そして、集まってきたデザイナーたちにより、さらにファッション業界は発展していく、という好循環が生まれた。

 こちらの世界は、地球に比べ娯楽が少ない。
 なので、身分の高い女性たちの趣味といえば服飾や芸術になる。
 金に糸目をつけない彼女たちにより、国に入ってくる金は相当な金額になる。

 そんなわけで王女の趣味は、周りに呆れられながらも、何だかんだで推奨されているのだ。




 そんな王女だが、近ごろ一つの悩みがある。
 御抱えのデザイナーたちから上がってくる最新のデザインが、どれも過去に流行ったデザインの二番煎じだからだ。

 これはデザイナーたちの技量不足というわけではない。
 人間の考えうるアイデアがほとんど出尽くしてしまったのだ。

 デザインというものは、一定の周期で昔流行ったデザインがまた流行り、ごくまれに天才と呼ばれる者たちが、斬新なアイデアを出していくものなのだ。

 そんなとき、王女の元にある報告がもたらされた。
 王女には、服飾関係の情報を専門に収集する直属の諜報員がいる。
 彼らによりもたらされた情報曰く、とある村にとても斬新なデザインをするデザイナーがいる、というものだった。




 イブキは夫が猟師を営む夫妻の元で生活を始めた。
 五十近くになっても子の産まれなかった夫妻はイブキを実の息子のように可愛がってくれた。

 イブキとしても夫妻に恩返しをしたいと考えたのだが、猟師の仕事を手伝うことが出来るわけもなく、村中のこまごまとした雑用をして、給金(というより金額的には小遣いと言った方が正しい)を貰い、夫妻に渡す生活をしていた。

 猟師の仕留めた獲物は、肉のほとんどは村中で消費し、一部の高価な肉や、滋養に良かったり薬の材料になる内臓等や、毛皮類は処理を施して、近くの街に売りに行く。
 他の野菜やら生糸等の商品とまとめて、村の代表者が売りに行くのだが、買い叩かれてしまい、街で生活用品を買って村に戻ってくると、ほとんど残っていない有り様だ。


 あるとき、イブキは村に住む年ごろの娘たちが、なにやら本のような物を読んで騒いでいるのを見掛ける。

 彼女たちの読んでいる本は、王女が陣頭指揮をとり編集・発行されるファッション雑誌だ。
 このファッション雑誌には、ファッション情報以外にもさまざまな商店の広告や、ページ数こそ少ないが男性服の情報も入っており、男性でも楽しめる物だ。

 発行や印刷にかかる資金は全て広告料で賄われており、人件費等の諸経費を全て差し引いても利益が出るほどの金額だ。
 余った利益分は王女個人の収入となるが、その全額が孤児院等の福祉に費やされる。

 他にも、ファッション誌には官報的な役割もあるため、地方に住む国民の情報源の一つにもなる。
 大きな街などでは至るところで無料で配布され、街から遠い村などでは、役人の定期巡察などの際に持ってきてもらったり、誰かが所用で街に出掛けた際に土産物として持ってきてもらったりする。

 イブキは村の娘から、そのファッション誌を受け取り目を通す。

 イブキの見たところ、日本で販売されているようなファッション誌に比べ情報量が多いため分厚く、ページ数がかなりある。
 ちょっとした電話帳ほどの重量だ。
 紙の材質も、やや日本のものと比べ劣る。
 だがこの世界の技術力は、村中と伝聞しか比較材料はないが、だいたい産業革命前の中世ヨーロッパレベルということを考えると、製紙技術や印刷技術、製本技術は異常に発達していると言える。
 載せられている絵も、写真ほどではないがとても精巧なものだった。

 だが、そんなことよりイブキの目を引いたのは、この世界でも最先端のファッションたちだった。

 日本に居たころのイブキは、若くして世界的に有名なデザイナーとして活躍していた。
 そんな彼にとって、ファッション誌に載せられたファッションは、まさにダイヤの原石といえるものだった。

 あそこをほんの少し弄れば。
 靴の色にも気を使えば。
 彼にはそれがとても歯痒かった。

 そして彼は思った。
 ならば自分で作ろうと。

 こちらの世界では衣服の値段は高い。
 飛び杼も無ければジェニー紡績機も無く、生産業もいまだに家内制手工業と問屋制家内工業ときている。
 布一枚にしてもかなりの高額なのだ。
 この国では服飾関係の技術が発達しているため、他国に比べれば安いといえるが、それでもおいそれと購入できるものではない。

 しかし、それらは大した問題ではなかった。

 イブキの座右の銘は温故知新である。
 古くからある知識や歴史を学んでこそ、新しいアイデアや見解を得ることが出来ると彼は考えている。

 そして、ファッションデザイナーを志したときから、彼は服飾の歴史についての知識を貪欲に学んだ。

 その知識の中には紡績機や織機、ミシンの仕組みから製造方法まで含まれていた。

 イブキは村に置かれていた廃材を使い、二日でそれらを製造した。

 次の日、村で育てられていた綿花を分けてもらった。
 村では、空き地を遊ばせておくには勿体ないので、少しでも収入を増やすためにと綿花を育てているのだ。

 そしてイブキは、綿花から糸を作り、糸から布を作り、布から服を作り出した。

 この世界で流通している衣服は全て手縫いである。
 それでも、ファッション大国であるこの国の製品は、他国に比べれば、かなり精巧なできである。

 そもそも村で育てている綿花にしても、特別品質が良いわけでもない。
 だがイブキの作った衣服のできは、それらを圧倒していた。

 この世界では、日本のように新品の既製品の販売をする店はほとんど無い。

 服屋は大きく分けて二種類ほどある。

 まずは古着を扱う服屋。
 これは一般的に庶民向けの服屋だ。
 店によっては、有料の修繕サービスを行ったり、雑貨屋などと兼業の場合もある。
 もともとの材質や職人の技量があまり高いとはいえないので、何でもいいから着れればいいという人向けだ。

 もう一つは、布の購入から採寸、仕立てまでの一連を、全てしてもらうタイプの店だ。
 こちらはピンキリで、そこそこ裕福な庶民が購入するような店から、貴族や王族の御用達の店まである。

 イブキの作った服は、シンプルなデザインでありつつ色気を漂わせさりとて下品ではなくどこかアンニュイでメランコリーな雰囲気を漂わせつつも活動的な印象を与え素朴な美しい村娘のようでもあり宮廷で臣下をかしずかせる女帝のようでもあるどこか懐かしい香りがして着る者と見る者の両者をまるで母親の羊水に包まれたかのような気分にさせると同時に自身が主張し過ぎずあくまでも着用者の魅力を十二分に発揮させる引き立て役に徹するアグレッシブでいてディフェンシブな女性用ワンピースだ。

 他にもさまざまな服を作り、ほとんどは安価で村人たちに売り渡し、イブキはその売り上げを居候先の夫婦に全額渡した。

 村人たちは単純にイブキは服を作るのが上手いという印象しか受けなかった。
 高級品とはまったく縁の無い村人たちにしてみれば、都会ではみんなこんな服を着ているのだろうと思って、せいぜい新品の丈夫で綺麗な服が着れるとしか考えなかった。
 もちろん、その技能だけで十分村人たちは喜んでいるが。

 そんなイブキ謹製のワンピースを近くの街で売ったところ、一着で村人一人の半年分の収入と同額で売れたのだ。
 しかも、その金額ですら、足元を見られて買い叩かれた金額だった。

 服を売った代金で、質の良い生地や糸を買い、それをイブキが裁縫し、また街で売る。
 いつの間にかそのようなサイクルが出来上がっていた。











 そんなこんなで評判になったイブキの情報はあっ! という間に王女の耳に届いた。

 王女はすぐさま、その評判のデザイナーを呼びつける。
 在野である前途有望な人材を支援するのも支配する側の義務であるからだ。
 本音としては、ただおしゃれがしたいだけだが。

 イブキにしてみれば、自分からこっちに来い、と言いたい気分なのだが、イブキとて元の世界では社会人であった。
 長いものには巻かれておいた方が良いということは、知識としても実体験としても知っているし、村の人たちに迷惑はかけたくない。

 かくして、イブキは王女の呼び出しに応じて王城へと向かうことになった。
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