第三話:予言
現在俺は敷地内の広場で皆が集まるのを待っている。
「そろそろかな」
正確な時間を知らせるものは存在せず、細かい時間が決まっていない以上仕方がないことだ。
それに女性は準備に時間がかかることは自然なことだ。
・・・・それを知るのに、かつて随分高い授業料を強制的に払わされた。
「なんだ士郎、随分早いな」
「ああ、春蘭。こういう時は男が先に待っていなければならないと、相場が決まっている。
それより華琳と秋蘭は?昼食は済んでいると思うのだが?」
「うむ、なにか髪のまとまりが悪いとかでな。今、秋蘭に整えさせている」
「なるほど。納得だ」
彼女の両脇の螺旋を整えるのは手間だろう。
「あなた、随分女性の化粧や髪型に理解があるのね」
「理解できなければ、・・・いろいろ危険だったのでね」
赤いあくまとか、金のあくまとか・・・・。
無神経なひと言が即座に自身の体へ数倍返しにされるのだ。
「まあ、その上州牧ともなったお方が、だらしない格好で公の前に出てみろ。
臣下たる我々どころか、主の品格まで疑われるわ」
「あら、珍しく意見が合ったじゃない」
「当然だ」
「見た目が全てではないが、極めて大きな要因の一つだからな。
陳留の州牧になった以上、そこも疎かには出来まい」
そう。
あの戦いの後、華琳はより広い地域を治める州牧へと昇進したわけだが、
引き継ぎや手続きを済ますのについ先日までかかった。
落ち着いたのを機に、一度、みんなでより賑やかになった街の様子を見て回ろう、
ということになったわけだが。
「どうした、士郎?」
「いや、華琳には既に陳留刺史としての十分な実績があり、
本来の州牧が逃亡した非常時でもあるから、州牧になったのは当然なんだが、
本来ならもう少し時間がかかると思うのだが?」
中央が大きな権力を持ちながら腐敗した場合、かなり駆け引きが重要になる。
「私が中央の知人に手回ししたからよ」
「なるほど、そういえば桂花は袁紹のもとにいたのだったな。
袁紹は名家だろうから中央との繋がりも作りやすかったろうな」
「それだけがあそこにいて良かった点なのよね・・・」
「けれど、それが私の役に立っている」
「華琳さま・・・」
「悪いけどなりふりを構っているほど、今の私たちに力も余裕もないの。
使えるものなら正義の味方でも部下の繋がりでも、遠慮なく使わせてもらうわ」
どうやら、髪は上手くまとまったようだ。
「ん?」
「どうかした?」
「季衣はどうした?」
街へはみんなで行くと聞いていたが・・・いつも賑やかな、季衣の姿が見えない。
「季衣は熱を出してしまってな。
・・・楽しみにしすぎて昨日は眠れなかったことも原因らしい」
・・・ある意味子供らしい理由だった。
「・・・出来れば今からでも看病したいんだが・・・」
「止めとけ。本人が気にする。逆効果になるだけだ。
私たちだって本当は看病したいんだ」
「ならば、せめて土産くらいは買って帰らないとな」
「なんだ、考えることは同じか・・・」
「あんたたち、観光に行くわけじゃないのよ?」
「視察をすることと、土産を買うことは両立しないわけではあるまい。
構わないだろう、華琳」
「士郎がそういう所を疎にしない事は分かっているからいいとして・・・、
春蘭はしっかり仕事をするならいいわ」
「はいっ!」
「・・・返事だけにならなければいいけれど」
「さて、揃ったのなら出掛けるわよ。桂花、留守番、よろしくお願いね」
「華琳さまぁ・・・。なんでこれは連れて行くのに私はお留守番なんですかぁ・・・?」
・・・これって。
「警備隊で日々街を回っている私以上に、街に詳しいというのなら、
桂花の代りに留守番でも構わないが」
それが出来れば、季衣の看病に回っている。
だが、季衣は許さないだろうな・・。
「・・・・分かったわよ」
こうして、俺達は町へ向かった。
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街の前で三人の少女が話をしている。
「あれが陳留か・・・」
全身傷痕だらけの凛々しい少女が言った。
「やっと着いたー。凪ちゃーん、もう疲れたの」
おしゃれな少女の言葉に凪と呼ばれた先ほどのが言葉を返す。
「いや、沙和・・・これからが本番なんだが」
「もう竹カゴ売るの、めんどくさーい。真桜ちゃんもめんどくさいよねぇ・・・・」
真桜と呼ばれた少女が反論する。
「そうは言うてもなぁ・・・全部売れへんかったら、
せっかくカゴ編んでくれた村のみんなに合わせる顔がないやろ?」
「そうだぞ。せっかくこんな遠くの街まで来たのだから、みんなで協力してだな・・・・」
「うぅうー・・・・。わかったよぉ」
沙和はまだ不満そうだが了承した。
「最近はなんや、立派な州牧さまが来たとかで治安も良うなっとるみたいや。
特にこの街は警備隊とやらが優秀で安全と噂されてるんもあって、
いろんな所から人も来とるからな。気張って売り切らんと」
「・・・そうだ。人が多い街なら、みんなで手分けして売った方が良くないかな?」
「・・・・なるほど、それも一理あるな」
「それじゃ、三人で別れて一番売った奴が勝ちってことでええか?
負けたヤツは晩飯、オゴリやで!」
その言葉に真面目な凪が反応した。
「こら真桜。貴重な路銀を・・・」
「分かったの」
「沙和まで・・・」
「よっし。二対一で、可決ってことで!凪もそれでええやろ?」
凪は諦めて
「はぁ・・・・やれやれ。仕方ないな」
了承した。
「ほな決まり!」
「おーなのっ!」
「・・・なら、夕方には門の所に集合だぞ。解散!」
そうして、三人は街へ入って行った。
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「はい!それでは、次の一曲、聞いていただきましょう!」
「姉さん、伴奏お願いね!」
「はーい」
三人の旅芸人が一曲を奏で始めた。
「ほぅ。旅芸人も来ているのか・・・」
「あれは・・・・、南方の歌か。あちらからの旅人はさほど来なかったはずだが?」
「我々の働きで街道が安全になってきた、ということが認められたということだろう。
そうでなければ連中は寄ってこないからな」
「なるほどな」
「特に彼女らは女だけのようですしね。武芸に相当の自身があるか、安全でなければ、
こんな所までは来ないでしょうよ」
「ありがとうございまいたー」
「次、もう一曲、言ってみましょう!」
・・・だが、それほど人気はないみたいみたいだな。
下手ではないが人だかりが出来るわけでもなく、
おひねりなんかもほとんど入っていないようだ。
「まあ、腕としては並という所ね。
それより、私たちは旅芸人の演奏を聴きに来たワケではないのよ?」
「ああ。街の視察だが広い上に時間もあまりない。手分けして見ることを提案するが?」
「では、わたしは華琳さまと・・・」
「士郎は私を案内しなさい」
確かに街の案内はいつも警備隊長として見回っている俺が適任だろう。
「了解した」
「えー・・・」
「・・・諦めろ、姉者。我々は士郎ほど街に詳しくないだろう」
「うう、・・・分かった」
・・・いや春蘭、そんなに羨ましげに見られてもな。
「華琳さま。私は街の右手側、姉者には左手を回らせます。
それでよろしいですか?」
「問題ないわ。では、突き当たりの門の所で落ち合いましょう」
「はっ」
「・・・はぁ」
そんなわけで俺達は、春蘭や秋蘭と別れて回ることになった。
俺と華琳が担当する街の中央部は、真ん中を走る大通りと、
そこに並ぶ市場がメインとなる。
「どうだ、実際の街の雰囲気は?随分良くなっていると思うが?」
「ええ。やはり人の流れや客層、雰囲気は地図や報告書だけでは実感ができないわ。
たまにはこうやって視察して実際に確かめておかないと、
住民たちの意にそぐわない指示を出してしまいかねないわ」
「さすがだな、華琳は。それに気付かず民を数字と文字だけで知った気になる、
愚かな為政者がどれだけいる事か・・・」
・・・・・・それで不幸になった者がどれだけいたことか。
「そうね。それに・・・ああいう光景は紙の地図だけではなかなか確かめられないもの」
華琳が視線を止めたのは、露店の前の人だかり。
「はい、寄ってらっしゃい見てらっしゃーい!」
そこにいたのは、露天商らしき女の子だった。
ネコの額ほどのスペースには、竹カゴがずらりと並べられていて、そして・・・。
「なんだと!?」
「カゴ屋のよう・・・だけれど?」
「いや、カゴではなく・・こちらだ」
店主らしい女の子の脇に置いてある、カラクリ。
この時代にあれだけ精巧な歯車が技術として存在することに当初は驚いたものだが・・・。
「この仕組みはまさか・・・。―――同調・開始<トレース・オン>」
「製造目的は全自動のカゴ編み、・・・流用した技術は・・カラクリ夏侯惇人形!?」
思わず叫んでしまった。
「お、カラクリ夏侯惇人形知ってるん?
いやー、先日陳留から帰ってきた家族が持ってきたんや。凄い技術が使われてん見て、
土下座をして拝み倒して手に入れたんよ。教材として使わして貰とるんや」
・・・当然知っている。
・・・・・・俺が以前から暇を見つけて趣味で作った、
渾身の出来たる夏侯惇人形。
先日、村へ帰るという子供にあげたのだが・・・。
「せや、この全自動カゴ編み装置使ってみてや!」
「・・・悪いが、右上方の歯車及び、左下方の動力伝達が甘い。
さらには、全体の強度不足から竹のしなりに耐えられない。
それでは、木端微塵に爆発してしまう」
「士郎、これがどういう仕掛けか分かるの?」
「がらくた弄りは、小さいころからの趣味の一つだ」
しかも自分の技術が使われている上、解析までしたのだ。
「・・・あんた、なにもんや?一目でそれ見抜くなんて」
「・・・・からくりに詳しい文官だ」
結局最後まで質問され、当たり障りのない回答をし続けたのだった。
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全員集まり後は帰るだけとなった。
俺は途中の店で珍しい食べ物を手にいれ、調理して季衣の土産とすることにした。
どう調理するか考えていると老人に声をかけられた。
「そこのお方、少し待ちなされ」
その声に春蘭が反応する。
「貴様・・・、あの時は見逃したが・・!」
「やめなさい、春蘭」
「どういうことだ?」
俺は秋蘭に尋ねた。
「彼は華琳さまのことを[乱世の奸臣]と呼んだ占い師だ」
なるほど彼があの有名な人相見の許子将か。
「・・・無茶をなされるな、・・・今のままでは無限の剣に刺殺されましょう。
神の医伝承せし医師を探しなされ、それが未来を創りましょう。
・・・・くれぐれも[運命の書]に気をつけなされ」
そういって、彼は去って行った。
・・・[無限の剣]に気付くとは。
神の医を伝承せし医師、その者なら制約をはずせるということか?
「どういう意味だったのかしら?」
「さて、優れた医者を探しとけということだろう」
[運命の書]・・・・今は気にしても仕方がない。
若干の懸念と、制約解決への道筋をその日手に入れた。
「・・・そういえば、・・・太平要術の別名は確か・・・」
「どうした、華琳?」
「なんでもないわ」
これは正義の味方の未来を告げる一幕
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「この書凄いわ・・・。
私たちの思いも付かなかった有名になる方法が、たくさん書いてある」
追われていたファンを名乗る盗賊が持ってきた書を読み、
華琳たちの前で演奏をしていた三姉妹の一人、紫の短髪をした張梁が言った。
「ちょっと・・・ホントに!?」
活発な青い髪をした張宝が念押しをした。
「本当よ。これを実践していけば、きっと有名になれるわ!」
緩そうなピンクの長髪の張角が声をあげる。
「すごいんだね、この太平要術って書」
「よぉっし!ならわたしたち三人、力を合わせて歌でこの大陸、獲ってみせるわよ!いいわね!」
「おおーっ!」
「ええっ。」
[運命の書]たる[太平要術]との長い因果が巡り始める
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