第二話:盗賊退治(中篇)
現在俺達は賊討伐のため行軍をしている。
「それにしても、ようやく馬に乗るのも様になったな」
「まあ、秋蘭達の教え方が上手かったことが一番の理由だと思うが。
むしろこれだけ優秀な教え役から学び、毎日時間を割いたのだから、
もう少し上達したかったところだ」
前の世界では必要性がほとんどなかったため、俺は乗馬が出来なかった。
だが、この世界では馬に乗れなくては話にならないので、
春蘭達に頼んで教えを請うことにしたのだ。
おかげでそこそこには乗馬出来るようになった。
……うまく乗れない俺を見てにやにやしている春蘭を見るのが腹立たしくて、
一人での練習もしていたことは秘密にしとこう。
多くの技術は自分の可能性たるアーチャーとの戦闘時に、
奴の記憶と供に流れてきた技術経験のおかげで大幅なショートカットが出来たが、
奴も乗馬経験がなかったらしく[反則]抜きだったので習得が遅いのは仕方がない。
「まあ、なんでも完璧に出来る人間なんていないのだから気にしないことだ」
フォローをする秋蘭に軽い口調で返事を返すことにした。
「そうだな。 だが、華琳はなんでも完璧に出来そうだな」
「華琳さまは[出来そう]なのではなく[出来る]のだ」
……秋蘭、さっきのフォローと矛盾するんだが。
普段は真面目で常識人なのに華琳と春蘭の事となると人が変わる。
[親バカ]とか[子煩悩]という言葉があるが、この場合は何て言うんだろう。
そんなことを考えながら進んでいると、前方に桂花の姿が見えたので声をかける事にした。
「桂花。 少し話をしていいか?」
その声を聞いて桂花は嫌悪感を隠そうともせず、不愉快だと万人に分からせる口調で返事した。
「なんで、……なんで、あんたなんかに真名を汚されなくちゃいけないのよ!?
わたしの段取りをぶち壊して、計画を失敗させそうになった奴に!?」
「いや、真名については華琳の命令だが?
まあ、段取りをぶち壊しそうになった件については悪いと思っている。
知ってたらあんな事しなかった。だから、今こうして謝ろうと声をかけた」
俺は冷静に返答したのだが……。
「じゃあ、今すぐわたしの見えないとこへ行って、死んできてくれる?
そうしたら許してあげられるかもしれないわよ?」
桂花はとんでもない事を言ってきた。
……少なくとも、目が冗談ではないと示している。
「そこまでしないといけないのかね!?その上、そこまでしても許すとは言わないのか!?」
流石に突っ込んだ。
今の言い方では可能性ができるというだけだ。
彼女が言い間違いをすることはまずないのだから。
「うるさいわね。大の男が細かいことで 。
可能性をあげるだけでも万歩譲ってあげるんだから、むしろ感謝しなさい」
どこまで毒舌なんだろうか。
相手の生死を細かいことと言い切り、万歩譲って可能性だけ。
ここまでくると、いっそ清々しく感じるのは俺だけだろうか。
正直、口で勝てそうにないと感じたのはいつ以来だろうか。
というより嫌味で返すと泥沼な展開になりそうだ。
それは面倒なので黙っていると
「そこまでにしとけ。 士郎は華琳さまの軍の大事な戦力だ。 簡単に死なれるのは困る。
それから真名については、
士郎の言った通り華琳さまの命令なのだから我慢するしかないだろう」
秋蘭の仲裁は正直ありがたかった。
……同じことを俺が言っても確実に反発するだろうから。
「………分かっているわ。曹操さまのため、曹操さまの命令なのだから、
わたしは例えどんな低劣で、愚劣で、
神にも勝るとも劣らない偉大なる曹操さまでさえ救いようのない、
木偶の坊に真名を犯される死にも勝る絶望的な屈辱にも耐えて見せましょう!!」
……どこぞの毒舌シスターも賞賛しそうな毒舌だな。
しかも華琳を讃えながら、ここまで人を貶めるとは。
まあ、これがデフォルトなのだろうと考えて、
それを前提にして接すれば何とかなるだろう。
……正直凄く疲れるが。
「まあ、なんだ。 ・・・頑張れ」
何気ない気遣いが、疲れた今の俺にはありがたい。
「礼を言う、秋蘭。それにしても桂花も糧食を半分にするなんて、ずいぶん無茶をしたな」
面倒なので話題を変えてこれ以上矛先がこちらに向かないようにした。
「別に無茶でもないわよ。今の曹操さまの軍なら、これぐらい出来て当たり前なんだから」
確かに出来るだろう。
だが……。
「確かに自軍の強さもある上に優れた軍師が入ったから出来るだろうが、
もしなにか他の要因が入ったら厳しいと思うが?」
そう、余裕があまりない以上予測が少しずれるだけでもアウトなのだから。
「そこも考えて、余裕を持たせているから大丈夫よ」
華琳が出した糧食量は様々な事態に余裕を持たせる量だ。
いくら多くの面を短縮出来ても余裕はかなり減っている。
「まあ、セイバーや虎みたいな規格外がいない限り、大丈夫か」
彼女達のためにウナギ登りになった、
当時の我が家のエンゲル係数を思い出して小声で呟いた。
「まあ、その辺りの手並みはおいおい見せてもらうとしよう。
……しかしあのやりとりは肝が冷えたぞ」
それには俺も同意だが。
「まあ、軍師の募集はしていなかった以上、あれぐらいの強攻策でもないと無理だろうな」
「そうだな。経歴を偽って申告する輩が多いせいで、文官はよほど名の通った輩でない限り、使ってみないと判断がつかん」
「ちょっと、待って。試験官だった秋蘭はともかくなんであんたが知っているのよ!」
なんでも何も
「試験官ではなかったが、秋蘭の補佐をしていたからだが?」
確かに試験場にはいなかったがいろいろ裏で雑務をしていた。
「ああ、あの時はいろいろ楽させてもらった。で、華琳さまはどうだった?」
「思った通り、素晴らしいお方だったわ……。あのお方こそ、
私が命を懸けてお仕えするに相応しいお方だわ!」
秋蘭の問いに、恋する乙女の顔を浮かべ桂花は答えた。
なるほど……、華琳に惚れているという事か。
「まあ、華琳ほどの為政者はそうそういないだろうな。完璧な万事における才能、
人を惹きつける魅力、そしてそれらを生かす心。正直華琳以上の為政者は思い浮かばない」
強いて挙げればアーサー王たるセイバーだが、彼女は『自分自身』を殺しすぎた。
……私情に流されてはいけない時もあるが、それは私情を殺し尽くすことではない。
時には自らの想い、自らの願いをみせるべきだったのだろう。
自らを全く見せない者を信じきれるほど人は強くないのだから。
……アーチャーが誰からも信じられなかったように。
「あなたのような木偶の坊にもその素晴らしさを気付かせられるなんて、
流石は曹操さまだわ」
……分かっていたが、意地でも俺を褒めたくないのだろう。
「おお、貴様ら、こんな所にいたか」
「どうした、姉者。急ぎか?」
「うむ。前方に大人数の集団がいるらしい。華琳さまがお呼びだ。すぐに来い」
それならすぐに行くべきだな。
華琳の前に着いたとき、兵の一人がこちらに来るのが見えた。
秋蘭が前に出る。
「……遅くなりました」
「ちょうど偵察が帰ってきたところよ。報告を」
「はっ!行軍中の前方集団は、数十人ほど。旗がないため所属は不明ですが、
格好がまちまちな所から、どこかの野盗か山賊だと思われます」
「様子を見るべきかしら」
「もう一度、偵察隊を出しましょう。夏侯惇、衛宮、あなた達が指揮を執って」
妥当な判断だな。
俺の視力は偵察向きだし、春蘭もいれば戦力として十分だろう。
俺の視力の良さは警備でみせたため自軍に知れ渡っている。
ただし、四キロ先が見えるなどという、けた外れであることは隠している。
「わかった」
「了解した」
「それと衛宮。あなたは、夏侯惇の抑え役もやりなさいよ」
「……まあ、何とかしよう」
考えてなかったが、それは偵察自体より大変だな。
「おい、何を納得している!それではまるで、
わたしが敵と見ればすぐ突撃するようではないか!」
「違うの?」
「違うのか?」
「違わないでしょう?」
「うう、華琳さままでぇ〜……」
本当のことだからなぁ。
まあ秋蘭が黙っていてあげるのが唯一の救いか。
俺達は華琳の本体から離れ、先行して移動を始めていた。
「まったく。先行部隊の指揮など、わたし一人で十分だというのに……」
「偵察がなければ同意するが。通りすがりの傭兵部隊とかだったら、
突っ込むんじゃないぞ?」
「士郎に言われるまでもないわ。そこまで迂闊ではないぞ」
そうなら楽なんだがな。
「ん?あれはいったい?」
「どうした?」
結構普通ではない光景になれた身ではある。
「……この世界の人は腕力だけであれだけ人を吹き飛ばせるのか」
「なんだ、あれは!」
春蘭もようやく気付いたようだ。
しかし、何かが高く上がってるぐらいにしか見えないだろう。
戦っているとまでは流石に分らないだろう。
「戦っているのは……、こ、子供!?」
いくらなんでもありえないだろ!?
「なんだと!?」
俺の言葉を聞くが早いか、春蘭は馬に鞭を振り、一気に加速させていく。
俺は必要最低限の指示を出し、あわてて春蘭を追った。
一瞬弓を使うか視野に考えたが、あの子の強さなら十分間に合うだろう。
まだ、弓を使うべき時ではない。
「でえええええいぃ!」
女の子が巨大な鉄球を振り回し、その度に野盗たちが空を飛ぶ。
「ええい、テメェら、ガキ一人に何を手こずって!数でいけ、数で!」
だが、数の暴力の前に疲弊している。
「はぁ……はぁ……はぁ…。もう、こんなにたくさん……多すぎるよ……!」
「ぐふぅっ!」
「……え?」
そこへ春蘭が、遅れて俺がその場に乱入した。
「大丈夫か!勇敢な少女よ!」
「どうやら間に合ったようだな?」
どうやら突然の事態に混乱しているようだ。
「貴様らぁ!子供一人によってたかって……卑怯というにも生温いわ!
てやああああああっ!」
「さて、悪事を働く以上、当然覚悟は出来ているな?ああ、返答はしなくていい。
どちらにしろ、やることに違いはないのでな!はああああああああっ!」
瞬く間に敵の数は減っていく。
「うわぁ……っ!た、たた、た退却!退却!」
「逃がすか!全員、叩き斬ってくれるわ!」
気持は分かるが止めないと。
「待て、春蘭!」
「士郎!なぜ止める!」
「私達の仕事は偵察だ。その子を助けるために戦うのはいいとして、
敵を全滅させることが目的じゃないだろっ!?」
俺も問題がなければ全滅させたいところだが。
「ふんっ。敵の戦力を削って何が悪い!」
「悪くはない。が、今はもっと他にするべき事がある」
「……例えばなんだ!」
「逃がした敵をこっそり追跡して、敵の本拠地を掴む」
「……おお、それは良い考えだな。誰か、おおい、誰かおらんか!」
「春蘭が突撃した後に、前もって指示しておいた。すでに何人か偵察に出てる」
……こうなるのは春蘭がいる以上分かり切ったことだった。
「むぅぅ、また、貴様に手柄を取られたか」
「はぁ……」
武勇は見事なのに……。
まあ、なんとか抑えられたから良しとしよう。
「あ、あの……」
おずおずと女の子が声をかけてきた。
とりあえず、怪我の確認をしよう。
「おお、怪我はないか?少女よ」
「あるなら言ってくれ、治療しよう」
「はいっ。ありがとうございます!おかげで助かりました!」
うん。
気持ちのいい返事だ。
「それは何よりだ。しかし、なぜこんな所で一人で戦っていたのだ?」
「一人で戦うには敵が多すぎだな」
「はい、それは……」
女の子が話をしようとすると、向こうから本隊がやって来た。
「来たみたいだな」
「………っ!」
「士郎。報告は聞いたわ。御苦労さま」
「あ、あなた……!」
……怒気だって?
「お兄さん、もしかして、国の軍隊……っ!?」
「……一応、そう呼べなくもないかな」
次の瞬間、鉄球と双剣が甲高い音色を鳴り響かせた。
「……助けられた相手に攻撃する理由、聞いていいかね?」
もし不意を突かれていたら、野盗達と同じく空を飛んだだろう。
「国の軍隊なんか信用できるもんか!
ボク達を守ってもくれないクセに税金ばっかり持っていって!」
……なるほど。
「てやあああああっ!」
「………くぅっ!」
まともに受け止めるのはきついので、受け流しながら問いを重ねることにした。
「だから君は一人で戦ってたのか…?」
「そうだよ!ボクが村で一番強いから、ボクがみんなを守らなきゃいけないんだっ!
盗人からも、おまえたち…役人からもっ!」
「くっ!本当に末恐ろしい腕力だな!」
人形の性能が無ければ耐えられなかっただろう。
守りながらも、問いの答えと自身の情報を整理する。
1、彼女は近くの村人
2、彼女の村は盗人の被害を受けている
3、彼女は盗人から村を守らないのに高い税金を奪う役人を憎んでいる
4、この一帯は華琳の納める土地ではない
5、盗賊追跡の名目で遠征出来ても、政策に口出しできない
結論、勘違い・筋違い
まあ、なんというか。
結果として空回りしてしまっているが、その想いは間違いではない。
それにしても、いつの時代も最低な役人はいるものだ。
いや、乱世の分この国は多いのだろう。
見つけしだい、その手の輩は自分に無理や影響が出ない範囲において、
あらゆる手段で排除することにしているのだが、
今の時点ではやっても似た輩が来るだけで意味がないか。
傷つけずに勝つため、持久戦に持ち込むべく攻撃しているが少々厳しい。
ふと横目にみると
「………」
何かに耐えるように黙っている華琳の姿があった。
「でえええええいっ!」
「ちぃっ……! 」
正直手が痺れてきている、傷つけることを前提にすればいくらでも手段があり楽なのだが。
「二人とも、そこまでよ!」
華琳の声が場を支配する。
「え……っ?」
「剣を引きなさい! そこの娘も、士郎も!」
「は……はいっ!」
その場に歩いてくる華琳の気迫に当てられて、女の子は軽々と振り回していた鉄球を、
その場に取り落とし、鈍い音と共に地面を陥没させた。
……バーサーカーの斧剣の重量を上回ってないか、あれ。
「……士郎。 この子の名は?」
「聞く前に戦闘になったから知らないな」
「き……許緒と言います」
こういう威圧感のある相手を前にするのは初めてなのだろう。
許緒と名乗った少女は、完全に華琳の空気に呑まれきっている。
「そう……」
そして、華琳の取った行動は……。
「許緒、ごめんなさい」
「………え?」
許緒に頭を下げることだった。
「曹操、さま……?」
「何と……」
「華琳さま……」
「あ、あの……っ!」
4人が声を漏らす中、俺は華琳の器の大きさを改めて実感した。
「名乗るが遅れたわね。 私は曹操、山向こうの陳留の街で、刺史をしているものよ」
「山向こう……? あ…それじゃっ!? ご、ごめんなさいっ!」
どうやら勘違いに気づいたようだ。
「山向こうの街の噂は聞いています!向こうの刺史さまはすごく立派な人で、
悪いことはしないし、税金も安くなったし、盗賊もすごく少なくなったって!
そんな人に、ボク……ボク…!」
「構わないわ。 今の国が腐敗しているのは、刺史のわたしが一番よく知っているもの。
官と聞いて許緒がが憤るのも、当たり前の話だわ」
「で、でも……」
許緒はまだ申し訳なさそうにしている。
「だから許緒。 あなたの勇気と力、この曹操に貸してくれないかしら?」
「え……? ボクの力を……?」
「私はいずれこの大陸の王となる。けれど、今の私の力はあまりに少なすぎるわ。
だから……村の皆を守るために振るったあなたの力と勇気。この私に貸して欲しい」
「華琳さまが、王に……?」
「ええ」
「あ……あの。
曹操さまが王様になったら……ボク達の村も守ってくれますか?
盗賊もやっつけてくれますか?」
「約束するわ。 陳留だけでなく、あなた達の村だけでもなく……
この大陸の皆がそうして暮らせるようになるために、私はこの大陸の王になるの」
「この大陸の……みんなが……」
華琳ならば出来るだろう。
それだけの意思と覚悟をもっているのだから。
王とは優しいだけではいけない。
民のために時には少数を切り捨てなければならないから。
王とは厳しいだけではいけない。
民の想いが王と国を支える以上、民に見放されれば成り立たない。
王とは自分を殺しすぎてはいけない。
自分を全く見せない者を信じられるほど民は強くない。
王とは自分を生かしすぎてはいけない。
民の為に時には私情を殺さなければ、国が滅ぶ。
セイバーは自分を殺しすぎ、ギルガメッシュは自分を生かしすぎた。
華琳はそれを全てそろえている。
覇王としての華琳を俺は評価している。
自分のような破綻者を使いこなすといった彼女を。
だから、こうしてそばにいる。
すべて従うわけではないが、覇王の約束に敬意を表し乱世が終わるその時まで、
彼女の覇道を助けよう。
そう決めた。
「さっきから黙ってどうしたのかしら士郎?」
「なに、改めて華琳の王としてのありように敬意を表したくなっただけだ」
「あら、それじゃあ今まで以上を期待していいかしら?」
「無論だ。私がいてよかったと、心の底から思わせて見せよう」
これは正義の味方が本当の意味で覇王を認めた一幕
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