ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
第六話:反董卓連合(前篇)
「む?」

俺は中庭で上機嫌そうにしている季衣の姿を見つけた。

「どうした、季衣。ずいぶん嬉しそうだが?」
「あ、兄ちゃん。へへー。手紙、書いてるんだー」
「なるほど。ひさしぶりに出せる手紙なら、嬉しくて当然か」

この時代の情報伝達手段は手紙しかなく、
しかも相手のいる地方に行く旅人や商人などに預けるだけ。
そのため届くのに時間がもの凄くかかる。
そんな方法ですら、黄巾党の騒ぎで使えなかったのだから、季衣の上機嫌も頷ける。

「ねえ、兄ちゃん」
「む、なんだね?」
「楽しみにしている、ってどう書くんだっけ?」
「それはこう書く」

俺は地面に文字を書いた。

「ありがとう、兄ちゃん!」

「あら、どうかしたの?」
「季衣に手紙の書き方を教えたところだ」

現れた華琳に俺は端的に回答した。

「手紙?相手に証拠にされない、正しい脅迫文の書き方とか?」
「・・・ごく一般的な手紙の書き方だ」

・・・・脅迫文については俺が学びたいところだな。

「それにしても、季衣は秋蘭につけて物事を学んだ方が良いわね」
「同意だな。このまま猪になられても困る」

猪突猛進は春蘭だけで十分だ。

「にゃ?猪って?」
「単なる例えだ。とにかく私も暇を見つけて季衣に物事を教えよう」
「えー。ボク、お勉強って苦手なんですけど・・・。
体動かしてる方が楽しいし・・・そっちを勉強するんじゃダメですか?」

そんな季衣に華琳は苦言を呈す。

「好きなことを学ぶのは勉強と言わないわ。
知らないと困ることや立場が悪くなることくらい、学んでおいても損はなくてよ?」
「華琳の言うとおりだな。
今の小遣いで幾つの饅頭が買えるかくらい計算出来た方がいいと思うが?」
「うぅぅ・・・。それはそうだけど・・・。兄ちゃんはどうだったの?」
「何?」
「だから、兄ちゃんは勉強は嫌じゃなかったの?」

季衣の言葉に一瞬俺は言葉を失った。
なぜなら・・・。

「・・・私は嫌とは思わなかった」
「どうして?」
「・・・昔の私は今以上にやせ我慢が強くてね。
・・・・自分の理想を追うため、自分に出来ることは何でも勉強したからな」

・・・その延長上に、毎日の命がけの魔術訓練があったのだから。
人として壊れている自分は、季衣の参考にならない。

「もっとも、私は才能がないから覚えるのに時間がかかったよ」
「兄ちゃんの理想って?」
「【全てを救う正義の味方になる】という理想だ」
「今の兄ちゃんがそうなの?」

・・・・・季衣は純粋だな。

「・・・残念だが、違う。全てを救う正義の味方など誰にもなれはしないさ。
私は届かないと分かり切ったそれを、生涯追い続けると決めただけだ」
「・・・どうして、届かないと分かっているのに目指すの?」

華琳の質問に俺は答える。

「・・・・本当に譲れないことなら、出来る出来ないの問題ではない。
やるか、やらないかの問題だからだ。そして、私はやると決めた」
「・・・・確かにそうね」

華琳は納得してくれたようだ。

「話は変わるが、何かこの国に動きは?」
「・・・どうしてそう思うの?」
「市井が平和になったところで、こうも国が腐敗していればな。
似た例などいくらでも知っている」
「・・・何進が殺されたそうよ」

・・・・国の有力人物が死んだか。

「・・・大きく動くことになるな。現在、有力なのは誰になる?」
「何でも・・・董卓と言うらしいわ」

董卓・・・俺の知識では極悪人だが・・・。

「華琳はその人間を知っているか?」
「初めて聞く名よ。桂花や秋蘭たちも知らないそうだし
、張三姉妹も戦っていた将の中に、そんな名は聞いたことがないと言っていたわ」
「そうか・・・」

俺の知識では有名人のはずだ。
やはり持っている知識と似ていることは多いが、鵜呑みに出来ないな。

「このあいだ都から戻った間諜も、
董卓の正体は不明と言っていたし・・・恐らく、誰かの傀儡なのでしょうけれどね」

・・・その可能性は高いな。
・・・・場合によっては・・・。

「できた!華琳さま、兄ちゃん!ボク、ちょっと手紙出しに行ってくるよ!
あっちに行く隊商、昼過ぎに出ちゃうって言ってたし!」
「ええ、いってらしゃい」
「気をつけていくといい」
「うん」

動く時はすぐ傍まで来ている。
なら、今だけでも平穏を楽しんでもらいたいな。

衛宮士郎はそう思った。

―――――――――

その華琳との話から、しばらくの時が過ぎた。

俺達が兵を調練し、力を蓄える間にも、
都の董卓は着実に勢力を強めているとの報告が入っている。
だが、それは華琳の治めるこの街に影響を及ぼしていない。

「む?」

俺がいつものように街を巡回していると、スリを発見した。
俺はそいつに近付くと、相手の腕を捻り上げ、地面に押さえつけた。

「ってえ!なにしやがる!」
「何してるかと言われたら、スリを押さえつけているとしか言えんな」
「な、なんの証拠があって!」
「そこの君、これは君のではないか?」

俺はすぐ近くにいた青いリボンの少女に、スリの手から取り上げた財布を見せて問いかけた。

「え?あ、ない!確かに私のです!」

少女は自分の懐をあわてて確認した上で答えた。

「ち、ちくしょう!」

スリは観念したようだ。

「隊長!どうかしましたか?」
「スリの現行犯だ。縛って、牢屋に連れてけ」

部下に指示を出し、俺は少女に財布を返す。

「これからは気を付けるといい」
「ありがとうございます!・・・あの、お礼をしたいのですが」
「ああ、別に気にする必要はない。街の治安を守ることは我らの当然のし『ぐ〜』」

腹の虫がよりによってこの瞬間に空腹を訴えた。
くっ、不覚!

少女は笑いをこらえた後、提案してきた。

「もしよろしければ、何か御馳走しましょうか?私、料理屋で料理人をしているんです」
「・・・なら、御馳走にならせてもらおう」
「はい!」

・・・流石に断れる雰囲気ではなくなってしまったしな。

「そういえば名乗っていなかったな。私は衛宮。この街の警備隊長も兼任しているものだ」
「私は典韋といいます。兼任ということは他に何かしているのですか?」
「文官と武官も兼任している。それにしても、その若さで料理人とは大したものだ」
「ありがとうございます!それにしても、凄いのですね」

俺と典韋は会話をしながら典韋の働く店へむかった。

「あの・・・・」

その途中でおかっぱ頭の少女に声をかけられた。

「何かね?」
「すみません。ちょっと教えて欲しいことがあるんですけどぉ・・・」
「ふむ。道に迷ったのかね?」
「えっと、お城・・「の前に、美味しい料理食べさせてくれるところ、教えてくれよ!」
ちょっ!文ちゃぁん!」

おかっぱ少女の連れであるボーイッシュな〔文ちゃん〕という少女が口を出してきた。

「いいじゃんか。あんなバカでかいもん、別に逃げやしないんだし。それより斗詩ぃ。
あたい、お腹すいたよー!お腹すいた、お腹すいたー!」

・・・・彼女を見ていると、【藤ねえ、またの名を虎】をすごく思い出す。
・・・・理不尽な所とか、人の計画を無視する我がままな所とか。

「うー。まったくもぅ、しょうがないなぁ・・・」
「・・・・苦労しているようだな」
「・・・ありがとうございます」

俺も苦労したからな。
斗詩という少女もこういう理解の言葉がうれしいはずだ。

「それでは料理街に案内ということでいいかね?」
「はい。よろしくお願いします」

通り道だし問題はないな。

「それでしたら、ご一緒にどうですか?」

それまで黙っていた典韋が提案してきた。

「ん?どうゆうことだ?」
「実は私の働いている料理屋へ衛宮さまを案内しているところなんです。
味には自信がありますから、満足してもらえるかと」
「へー、良いじゃんか。よし。行かせてもらおう!」
「ちょっと、文ちゃん。いくらなんでも・・」
「構いませんよ。お客が増えることに問題などありません」

こうして俺達四人は典韋の働く店へと行った。

―――――――

「美味いっ!斗詩も食ってみろ!びっくりするほど美味いから!」
「もう食べてるよぅ・・・」

・・・もし虎と合わせたら意気投合しそうだな。
俺は想像を急いで振り払った!
・・・苦労が相乗すること間違いないのだから。

・・・消費量も虎と同じくらいか。

「それにしてもこれ、美味いなぁ。南皮でもこんな美味い店、なかなかないぜ!」
「確かに美味いな。最近美味しい店だと聞いていたがこれほどとは」
「ありがとうございます!どんどん食べてくださいね」


「そういえば聞いていなかったな。君たちは城に用事があるようだが?」
「はい。ええっと、ですね・・・」
「失礼する。」

華琳と秋蘭の二人が店に入ってきた。

「華林と秋蘭か。華琳たちもここで食事を?」
「あら。士郎たちも来ていたの。・・・そちらは?」
「美味しい料理屋を案内してくれと頼んだ者たちだ。結果として、一緒に食事をしている」

「お兄さんにはお世話になってますー」
「ふぅん・・・若い女の子には優しいのね、士郎」

・・・どこか懐かしい寒気だな。

「そうだと言いたいところだが、困っている者になら性別関係なく優しいつもりだ」

・・・かつての自分とは違い、動揺するほど甘くはない。

「あ、いらしゃいませ!曹操さま、夏侯淵さま、今日もいつものでよろしいですか?」
「っ!」
「・・・・?」

・・・今の斗詩という少女の反応・・・。
今まで得た情報を整理しよう。
[南皮]出身で、[城]に用事があり、[曹操]に驚く・・・。
・・・南皮を統治しているのは確か・・・・。
それにこの時期。
なるほどな。
憶測だが二人は・・・・。

「ええ。お願いするわ」
「私も同じもので」

俺は思考を切り替えた。

「そういえば、二人は常連のようだな」
「まだ若いのに、大した腕の料理人よ。お抱えで欲しいくらいなのだけれど・・・」

確かに典韋は見事な料理の腕だった。

「・・・断られたのか?」

断ったとすると、よほどの理由があるな。

「ええ。親友に呼ばれてこの街に来たのだけれど、結局合流出来なかったらしいのよ。
それで、手掛かりが見つかるまでここで働いているんですって」
「ふむ。名前と特徴を教えてもらえれば探してみよう」

それも警備隊の仕事のうちだ。

「はいっ。お待たせしましたー!」
「典韋、彼があなたの親友を探してくれるそうよ。良かったら、
特徴を言ってみてはどうかしら」
「本当ですか?」
「もちろんだ。その子も料理人かね?」
「いえ、食べるのは大好きなんですけど・・・料理はさっぱりなんです。
ただ、私を呼んでくれたって言うことは、料理屋で働いているんじゃないかな・・・と」
「仕事について何か書いていなかったのか?」
「住み込みの良い仕事が見つかったから、来いとだけしか・・・。
ただ、私が呼ばれるくらいですから、彼女も食堂の給仕か、力仕事の裏方をしているかと。
力には自信のある子なので」

・・・その程度の内容で来いを言う方も問題だが、来る方も問題だな。

「それでその子の真名ではない名前は?」
「ええっと、真名じゃない名前なら、許緒・・・」

・・・・なんでさ?

「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・にゃ?」

俺・華琳・秋蘭が呆然とする中、店へ入ってきた季衣は自分の名を呼ばれて奇声を出した。

「あーーーーーーーーーーーーっ!」
「あー。流琉ー♪どうしてたの?遅いよぅ」
「遅いよじゃないわよーっ!あんな手紙よこしてわたしを呼んだと思ったら、
なんでこんな所にいるのよーーーーっ!」
「ずーっと待ってたんだよ。城に来いって書いてあったでしょー!」
「季衣がお城に勤めてるなんて、冗談としか思わないわよ!
どこかの大きな建物をお城と思ってるんだと思って・・もぅうっ!」

・・・・・・止めないとまずいな。
物理的な被害が出始めた。

「士郎と秋蘭、二人で止めてくれる?」
「了解した」
「分かりました」

俺は季衣を、秋蘭は流琉という子を掴み上げた。

「季衣、周りの食事中の客に迷惑をかけるのは頂けないな」
「それに部屋で暴れるのもな」

二人はすまなそうに身を縮めている。

「おー!なかなかやる♪」
「ええ。お見事です。」

どうやら二人は食事を終えたようだ。

「お初にお目にかかります、曹孟徳殿。私は顔良と申します」
「あたいは文醜!我が主、袁本初より言伝を預かり、南皮の地よりやって参りました!」
「・・・こんな場面で恐縮ではありますが、ご面会いただけますでしょうか?」

・・・どうやら憶測は当たったようだな。

「・・・・あまり聞きたくない名を聞いたわね。
まあいいわ、城に戻りましょうか。」

―――――――

現在、城に戻り面会が始まった。

「袁紹に袁術、公孫賛、西方の馬騰まで・・・
よくもまあ、有名どころの名前を並べたものね」

「董卓の暴政に、都の民は嘆き、恨みの声は天高くまで届いていると聞いております。
先日も、董卓の命で官の大粛正があったとか・・・」
「それをなげいた我が主は、よをただすため、
董卓をたおすちからをもったえいゆうのかたがたに・・・」

・・・・見事なまでの棒読みだな。

「持って回った言い方は止しなさい。あの麗羽の事だから・・・
どうせ、董卓が権力の中枢を握ったことへの腹いせなのでしょう?」
「う・・・・っ。」
「その大粛清も、都で悪い政事をしていた官を粛正しただけと聞いているわよ?
統制の取れていない文官がやりたい放題にしている事を、
董卓の所為にしているだけではなくて?」
「・・・よく知っていますねー」

情報は政治においても重要な要素だからな。
当然、華琳は情報収集力に力を注いでいる。

「あまり知りたくもないけれどね。どう思う、桂花」
「は。顔良殿、先ほどあげた諸侯の中で、既に参加が決まっている方々は?」
「先ほど挙げた皆様は既に。今も、流れを見ていた小勢力や、
袁家に縁のある諸侯たちを中心に、続々と表明を受けております」

「桂花。私はどうすればいい?」
「参加されるのが最上かと・・・。これだけの英傑が一挙に揃う機会など、
この先あるとは思えません。
ここで大きな手柄わ立てれば、華琳さまの名は諸侯の間に一気に広まります」

・・・・ここで華琳や俺が参加しなくても、
諸侯に董卓は無実の罪で殺されることには変わりないな。
なら、俺は参加して・・・・・。

「そうね。顔良、文醜。麗羽に伝えなさい。曹操はその同盟に参加する、と」
「はっ!」
「ありがとうございます!これであたい達も、麗羽さまにおしおきされないで済みます!」

――――――――

「この辺りと聞いたのだが・・」

森を進んでいくと、木々の間から轟音が聞こえてきた。

「はぁ・・・・はぁ・・・・・はぁ、はぁ・・・」
「ふぅ・・・ふっ・・ふぅ・・ふぅ、ふぅ・・・」

昼食後、そのままでは収まりが付かないだろうと、
華琳は郊外の森で気の済むまで二人が喧嘩することを許可した。

「どう?調子は。」
「あ、華琳さま。見ての通りですわー」

辺りは砕けた木や、穴があいた地面など荒れ果てている。

「やるなら徹底的にやれ、という言葉に全力で従ったようだな」
「ウチ、何度死ぬ思うたか、教えたろか?」
「・・・言わなくても予想は付く」

俺達が会話している間も、一撃必殺クラスの激突は終わらない。
二人は子供じみた言い争いを続けながら、自然を破壊していく。
また一本、木が吹っ飛んだ。

「さっきから、ずーっとあのノリやで」
「あれでいいのよ。下手にしこりが残るよりは、余程ましだわ」

・・・アーチャーの記憶に刻まれた(恐らく心と体にも)、
遠坂とルヴィアの喧嘩を彷彿とさせる光景だな。
・・・まあ、あちらと違ってほのぼのとしているだけましだが。
巻き込まれたら命にかかわる点は同じだけど。

「で、師匠。その面会とやらはどうなったん?」
「ああ。これからみんなで、都へ遠征することになった。
もう凪と沙和には準備を命じておいた」
「都かぁ・・」

「恐らくこの戦で、都の権力は完全に失われる。
大陸ももっと混乱することになるはずよ・・・」
「なんやて・・・!?じゃあなんで華琳さまは、そんな戦いに行くん?
守るための力を溜めた方が、ええんとちゃうん?」
「変化の波にむざむざ呑まれるよりも、波の頂にいたいと思ったからよ」
「・・・ゴメン。
ウチ、海って見たことないねん。」

「混乱が起こるのを外から見るより、内から見極め、確実に収めたいという事か」
「・・・ああ。それなら、何か分かる気がするわ」

「ちょぉりゃあああああーーー!!」
「どぉりゃぁぁぁぁぁぁーーー!!」

森を今までとは違う快音が響いた。

「・・・・きゅう」
「うみゅ・・・」

子供二人は同時に倒れた。

「相討ちか」
「やれやれ。向こうも終わったようね」

二人は互いに謝り始めた。
どうやら、仲直りもできたようだ。

「ようやく決着が着いたようね。二人とも」
「華琳さま・・・」
「曹操さま・・・」

「立ちなさい、典韋」
「はい」
「もう一度誘わせて貰うわ。季衣と共に、私に力を貸してくれるかしら?
料理人としてではなく、一人の武人・・・武将として」
「分かりました。季衣にも会えたし・・・季衣がこんなに元気に働いている所なら、
わたしも頑張れます」
「ならば私を華林と呼ぶことを許しましょう」


覇王はこうして一人の将を加え都への遠征に向かう


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。