第五話:黄巾党討伐(中篇)
「季衣、現在の封鎖状況は?」
「西側の大通り、三つ目の防柵まで破られました!」
先発隊として黄巾党と戦っていた俺達はあまりの数の多さに厳しい状況だった。
そんな中、義勇軍として立ち上がった者達と合流出来たのは、
基本的に運が悪い俺としては幸運だったとしか言えない。
おかげでまだ持ちこたえている。
俺は使わずにおきたかった弓を最大限に利用して敵を倒していく。
「はっ・・・!」
放れたれた五本の矢は、
遠くで防柵を壊そううとしていた者たちを確実に射抜く。
「・・・・兄ちゃん、どうして今まで弓使わなかったの?」
「・・・使うに足る時が無くてな。手札は適切な時に適切な物を切ることにしている。
今回の防衛のようにな」
俺は話しながらも矢を放つ。
「おまけにそんな道術使えたんだ」
投影を見て季衣は文句を重ねる。
「そうは言っても普段は役に立たなくてね。・・・作り置きすることができないからな」
そう。
今の制限付きの投影では、投影物を長期存続させるのは酷く疲れる。
干将・莫耶を長期存続できるよう投影したときは疲労で倒れそうになった。
おかげで途中でしばらく休まざる負えなかった。
故に基本的には使い捨てでの使用が限界だ。
通常の仕事にさし障る。
・・・やはり、医者を探す必要があるな。
「けど、矢がいくらでも放てるのは便利だと思う」
「いくらでもではないが、かなり便利なのは事実だな」
さらに四本の矢を放つ。
「それはともかく、防柵はあと二つか。どのくらい保ちそうだ?李典。
私見では一刻が精々と思うが」
義勇軍の一人である少女に聞いた。
・・・夏侯惇人形を入手したあの少女とこうして共闘することになるとは。
こういうのを縁があるというのだろうな。
「せやなぁ・・・。師匠と同じ意見や」
「やはり微妙なところだな。皆が間に合えば良いのだが・・・。
ところで李典、師匠は止めて欲しいのだが・・」
「いやだって、夏侯惇人形作ったん師匠なんやって?子供から聞いて確認したんや。
あれだけのもん作る人を師匠て呼ばずに誰を師匠て呼ぶんや?」
「・・・・」
・・・・諦めるしかないか。
「しかし、衛宮さまがいなければ、我々だけではここまで耐えることは出来ませんでした。
ありがとうございます」
体中に傷跡を持つ義勇軍の少女、楽進は礼を述べてきた。
「お互い様だ。君たちがいなければ、敗走していたところだった」
「いえ、それも衛宮さまの指揮があってのこと。いざとなれば、後のことはお任せします。
自分が討って出て・・・」
その言葉に俺は、
「ふざけるな!!」
怒声を上げた。
「・・・・っ!」
「・・・・命を賭けることはいつでも出来る。大切なのは最後まで足掻くことだ。
・・・・簡単に命を捨てることは絶対に許さん」
・・・・まったく、人のことを偉そうに言えはしないのにな。
まあ、ここは大目に見てもらおう。
「そうだよ。今日はぜったい春蘭さま達が助けに来てくれるんだから、
最後まで頑張って守りきらないと!」
「・・・せやせや。突っ込んで犬死にしても、誰も褒めてくれへんよ」
「・・・うむむ」
・・・まだ納得できないようだ。
「今日百人の民を助けるために死んじゃったら、
その先助けられる何万の民を見捨てることになるんだよ。わかった?」
「・・・・肝に銘じておきます」
俺は季衣の言葉に笑みを浮かべる。
「あ、何がおかしいの、兄ちゃん!」
「なに、季衣の成長が嬉しくてな」
そういって、俺は季衣の頭を撫で回した。
「・・・もう、あまり子どもあつかいしないでよ」
・・・そんな嬉しそうな顔では説得力ないぞ?
む、まずいな。
「衛宮さまー!東側の防壁が破られたのー。向こうの防壁は、あと一つしかないの!」
義勇軍の一人、干禁が報告した。
「ああ、確認した!しばらくそちらに矢を放ち時間を稼ぐ、西側は防御部隊に任せ、
残る全員で東の侵入を押しとどめろ!」
千里眼で状況を判断し、俺は指示を出した。
さて、ここからが正念場だ。
気合を入れ直したのだが、
・・・・どうやら正念場はこないようだな。
「報告です!街の外に大きな砂煙!大部隊の行軍のようです!」
「なんやて!」
「えー・・・また誰か来たの?」
「いや、旗印は曹と夏侯!味方だ!攻勢に出るぞ!」
俺達は味方に合わせて出撃した。
味方本隊の軍勢に浮足立った敵はもろかった。
数だけを頼りに戦っていた以上、数に勝られた話にならないのは当然だ。
「士郎!季衣!無事かっ!」
「危ないところだったが、問題ない」
「春蘭さまー!助かりましたっ!」
「二人とも無事で何よりだわ。損害は・・・大きかったようね」
確かに街自体の損害は大きかった。
だが、真に守るべきものは守れた。
「確かに。だが、彼女たちのおかげで、最小限の損害で済んだ。
一番守るべき住人は全員無事だ」
「・・・彼女らは?」
その言葉に楽進が答える。
「・・・我らは大粱義勇軍。黄巾党の暴乱に抵抗するため、
こうして兵を挙げたのですが・・・」
「「「あー」」」
三人の声が上がった。
「・・・何よ、一体」
「・・・さあ、私も聞きたい。李典なら華琳も視察であったはずだが。
絡繰を置いていたカゴ屋の少女だ」
「・・・思い出したわ。士郎に質問攻めをしていた子ね。どうしたの、こんな所で」
「ウチも大粱義勇軍の一員なんよ。そっか・・・あの時の姉さんが、
陳留の州牧さまやったんやね・・」
俺は干禁に質問することにした。
「干禁はどうしたんだ?」
「ええとねー、前に服屋でむぐぐ」
「(そ、それは内緒にしておいてくれっ!)」
「(むぐぐ・・・んー?よくわからんないけど、内緒にしとけばいいの?
わかったの・・・)」
・・・・残念だが、俺には分かった。
まあ、黙っていてやろう。
「どうしたんですか?春蘭さま」
「い、いや、何でもないっ。何でも!」
「・・・で、その義勇軍が?」
「はい。黄巾の賊がまさかあれだけの規模になるとは思いもせず、
こうして衛宮さまに助けていただいている次第・・・」
「そう。己の実力を見誤ったことはともかくとして・・・
街を守りたいというその心がけは大したものね」
「面目次第もございません」
「とはいえ、あなた達がいなければ、私は大切な将を失うところだったわ。
士郎と季衣を助けてくれてありがとう」
「はっ」
そこで、俺は華琳に提案する。
「華琳、彼女らを部下にしてやってくれないか?」
「義勇軍が私の指揮下に入るということ?」
「聞けば、曹操さまもこの国の未来を憂いておられえるとのこと。
僅かな力ではありますが、その大業にぜひとも我々の力もお加え下さいますよう・・」
楽進は自分達の意思を告げた。
「・・・そちらの二人の意見は?」
華琳の問いに二人も同意する。
「士郎。彼女たちの能力は・・・?」
「鍛えればひとかどの将になれるな」
「そう・・。良いでしょう。三人の名は?」
それに三人は答える。
「楽進と申します。真名は凪・・・曹操さまにこの命、お預けいたします」
「李典や。真名の真桜で呼んでくれてもええで。以後よろしゅう」
「干禁なのー。真名は沙和っていうの。よろしくおねがいしますなのー♪」
「凪、真桜、沙和ね。・・・士郎」
「ふむ?」
「さしあたりあなたたち三人は、士郎に見させます。別段の指揮がある時を除いては、
彼の指揮に従うように」
その言葉に俺は反論する。
「華琳。客将でしかない私に任せるのはどうかと思うが?」
「そうですっ。なんでこんなのに、部下をお付けになるんですか・・・!」
「・・・・・・」
・・・今まで静かで良かったんだがな。
それにしても・・・・桂花に言われるのは少々釈然としない。
「任務ご苦労さま、桂花。で、なんの話だったかしら?」
「衛宮のことです!こんな唐変朴に華琳さまの貴重な部下を預けるなど・・・!」
「あら、士郎なら上手く活用してみせると思うけれど。あなた達はどう思う?」
華琳の問いに三人は口々に言う。
「見事な指揮でした。衛宮さまなら文句はありません」
「同じくや。師匠が上司なら色々学べそうやし」
「同じくなのー。すごい弓と道術だったのー」
・・・・仕方がないとはいえ、随分投影したからな。
いつまでも完全には隠せないか。
「・・・・師匠というのも気になるけど、士郎、あなた道士だったの?」
「・・・いや、少し変わった道術を使えるだけだ」
「何ができるの?」
「一時的に仮初めの矢を作れる。
使い捨てで作り置き出来ないから、矢を持ち運ぶ必要がないくらいにしか意味がない」
その言葉に秋蘭が反応する。
「・・・矢を取る動作を省ける以上、弓使いとしては重宝すると思うが?」
「・・・・・・そうだな」
万全な時と比較してしまうと、どうしても見劣りしてしまう。
「他には?」
流石だな。
まだ隠していることがあるか確認するか。
「今の私に出来るのはそれぐらいだ」
「・・・〔今の〕あなたはそれ〔ぐらい〕ね。まあ、追及はしないで上げる。
とにかく三人はあなたに付けるから」
・・・・華琳は気付いていて黙ってくれるみたいだな。
代わりに譲歩しろということか。
こうして、俺に三人の部下が付けられた。
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「さて、黄巾党に対しこれからどうするかだけど・・・。
大軍となった上、盗賊団やそれなりの指導者と結びついて組織としてまとまりつつある。
誰か意見はある?」
・・・・旅芸人という以上基本的な拠点をもたないだろうが、
・・・大軍になり始めている以上、食糧の問題があるはず。
なら・・・・。
「華琳。」
「なにかしら士郎?」
「物資を探し出し叩くことを提案しようと思うが」
「良いわね。その案使わせて貰うわ」
皆が納得する中、季衣と春蘭だけ取り残される。
「どういうことだ?」
「いくら決まった拠点を持たなくても、大軍なら食糧を貯めておく場所が必要ということだ」
「そっか。お腹がすいたら戦えませんもんね」
「そういうこと。どこかに、連中の集積地点があるはずよ」
俺達は集積地点を探すべく行動を始める。
そして・・・・。
「ここね」
俺達は見つけ出すと、すぐ軍を率いて駆けつけた。
そこは山奥の古ぼけた砦。
「既に廃棄された砦ね・・・良い場所を見つけたものだわ」
「敵の本隊は近くに現れた官軍を迎撃しにいっているようです。
残る兵力は一万がせいぜいかと」
「・・・連中にとっては拾った程度である以上、
あと一日遅かったらもぬけのからになってたろうな」
・・・この流動性こそが一番厄介な所だな。
「・・・秋蘭、こちらの兵は?」
「義勇軍と併せて、八千と少々です。向こうはこちらに気付いていませんし、
荷物の搬入で手一杯のようです。今が絶好の機会かと」
「ええ。ならば、一気に攻め落としましょう」
そこで桂花が前に出た。
「華琳さま。一つ、ご提案が」
「何?」
「戦闘終了後、全ての隊は手持ちの軍旗を全て砦に立ててから帰らせてください」
なるほどな。
官軍の狙いもおそらくここである以上、宣伝効果が期待できる。
「・・・面白いわね。その案、採用しましょう。ただし、作戦の趣旨を違えないこと。
狙うは敵の守備隊と、糧食を一つ残らず焼き尽くすことよ。いいわね」
「はっ!」
「あの・・・華琳さま?」
「何?沙和」
「その食糧って・・・さっきの街に持っていっちゃ、ダメなの?」
・・・それがどういう事態を招くか俺には分かる。
それが悪い方向にしか働かないことを。
「・・・ダメよ。糧食は全て焼き尽くしなさい」
「どうしてなの・・・?」
・・・仮にも上司となり、真名を預かった以上俺が教えるべきだな。
「・・・一つは華琳の風評が傷つく。下賤な賊から食糧を強奪して食べたと。
それにより、救えたはずの者が救えなくする」
「けど・・・・!」
「もう一つ、奪った食糧を街に持っていけば、今度はその街が黄巾党の復讐対象になる。
それでは本末転倒でしかない」
「・・・あ」
確かにもったいないが、それで人を危機にさらせない。
「あの街には警護の部隊と糧食を送っているわ。それで復興の準備は整うはず。
華琳さまはちゃんと考えておられるのだから・・・安心なさい」
「そういうこと。糧食は全て焼くのよ。米一粒たりとも持ち帰ることは許さない。
それがあの街を守るためだと知りなさい。いいわね?」
「分かったの・・・」
・・・まあ、頭では分かったが、感情が納得してないってところだな。
「なら、これで軍議は解散とします。先鋒は春蘭に任せるわ。
いいわね?春蘭」
「はっ!お任せください!」
「なら、この戦をもって、大陸の全てに曹孟徳の名を響き渡らせるわよ。
我が覇道はここより始まる!各員、奮励努力せよ!」
軍議も終わり、部隊の配置となった。
俺は先の戦で見た三人の戦い方に合わせて兵を再配置することにし、
その終了報告を待つだけとなった。
「隊長。楽進隊、布陣完了しました!」
「承知した」
・・・それにしても。
今までも感じていたが、少女たちを戦場に出すのは抵抗感がある。
彼女たちは覚悟を持ち、相応の実力を持つ以上感傷でしかないが。
「・・・隊長?」
「ん、どうした?何か問題があったか?」
あったのならすぐ行動しなければ。
「い、いえ。隊長の表情が暗く感じたものですから」
「・・・いや、よく教えてくれた、凪。礼を言おう。上に立つ者が暗くては士気にかかわる。
私もまだまだ未熟だな」
「はっ。ありがとうございます!・・・暗かった理由をお聞きしてもいいでしょうか?」
・・・さて、どうするか?
話しても特に問題はないか。
「・・・ただの感傷だ。どうも、君たちのような少女を戦場に出すことに抵抗感があってな。
安心しろ。それに流されたりはしない」
「ですが、我らは望んでここにいるのですから気にする必要など・・」
「ああ、承知している。これは私の性根の問題でな。・・・自分でも甘いし筋違いと思うが、それを消すことは許容できなくてな」
「何や何や。なに、話しとるん」
「ずるーい!布陣終わったんだから、わたしも混ぜてなのー!」
どうやら他の二人も終わったようだな。
「なに、たわいもない無駄話だ。それより、布陣が完了したのなら持ち場につけ。
そろそろ頃合いになる」
布陣完了の報告を華琳に出した後、すぐに春蘭の声が辺りに響く。
「銅鑼を鳴らせ!鬨の声を上げろ!追い剥ぐ事しか知らない盗人と、威を借る官軍に、
我らの名を知らしめてやるのだ!総員、奮闘せよ!突撃ぃぃぃぃっ!」
不意を打たれた敵軍は混乱から立て直る暇すら持てなかった。
「はあああああっ!」
俺は双剣を振い敵を掃討していく。
弓を隠す必要はなくなったが、
攻め込むときはやはり双剣のほうがやりやすい。
「沙和!兵を百連れて右へ回れ。真桜は左方を塞げ!凪は俺の後に続き、
撃ちもらした者を掃討せよ!」
「「「はいっ!」」」
俺達は城内を確実に掃討し続ける。
「隊長!周囲の掃討、終わりました!」
「了解した!ならば、手薄になっている北の方へ向かうぞ!」
「はっ!」
凪、真桜、沙和の三人がいるおかげで俺は格段に楽となった。
・・・基本的に俺の武は守勢だからな。
宝具という反則が使えない以上、攻めが甘いのは仕方がない。
俺は敵兵の攻撃をいなし反撃しながら三人に指示を出し、
三人は指示に従い敵兵を減らしていく。
「とりあえず、これぐらいか」
辺りにはもはや敵兵は居らず、春蘭の声が響くのみ。
「火を放て!糧食を持ち帰ること、まかりならん!持ち帰った者は厳罰に処すぞっ!」
春蘭たちの指示で、糧食は庭の中央へ集められ、火を掛けられていく。
こうして俺達は目的を果たした。
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城までの帰り道。
華琳は俺達を集め、簡単な会議らしきものを開いていた。
特に急ぎの用はないが、
帰ったら片付けに専念してすぐ休めるようにという配慮だろう。
華琳らしい気遣いだ。
「作戦は大成功でしたね、華琳さま!」
「ええ。皆もご苦労様。特に凪、真桜、沙和。初めての参戦で、見事な働きだったわ」
三人は華琳の言葉に礼を言った。
「さしあたり、これでこの辺りの連中を牽制することが出来たはずだけれど・・・」
「はい。しばらくは大きな動きは出来ないでしょう。
ただ、もともと本拠地を持たない連中のこと。
今回の攻撃も、時間稼ぎにしかならないはずです」
「でしょうね。だから、連中の動きが鈍くなった今のうちに、
連中の本隊の動きを掴む必要があるわ」
・・・だが本拠地を持たない以上時間がかかるな。
「地道に情報を集めるしかないな」
「ええ。補給線が復活すれば、優先順位の高い順に補給を回していくでしょう。
しばらくは小規模な討伐と情報収集が続くでしょうけれど、ここでの働きで、
黄巾を私たちが倒せるかどうかが決まると言っていいわ。
皆、一層の努力奮闘を期待する!以上!」
こうして黄巾党との緒戦は幕を下ろす
+注意+
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