第五話:黄巾党討伐(前篇)
「・・・・・というわけです」
その日の朝議も、暴徒たちの鎮圧から戻ってきた春蘭の報告で始まった。
「そう・・・・やはり、黄色い布が」
「こちらの暴徒達も同じ布を持っておりました」
秋蘭も続けて報告した。
ここ最近増えてきた、謎の暴徒たち。
各々黄色い布を身に付けた彼らは、何の予兆もなく現れては暴れ、
俺達にあっさりと鎮圧されていく。
「桂花。そちらはどうだった?」
「は。面識のある諸侯に連絡を取ってみましたが、
・・・どこも対応に手を焼いているようです」
「具体的には?」
「ここと・・ここ、それからこちらも」
地図の上に丸石が置かれていく。
「それと、一団の首魁の名前は張角というらしいですが・・正体は全くの不明だそうです」
「正体不明?」
「捕らえた賊を尋問しても、誰一人として話さなかったとか」
「士郎は何か気付いたことはある?」
「・・・・とりあえず、黄色い布という共通点から黄巾党と呼ぶとして、
[デモ]に似ている気がするな」
・・・過去の経験から考えると。
「[でも]とはなんなの?」
「そうだな・・・、政治などに不満を持った民衆たちが、
それを主張する集団示威行動のことだ。社会不満が民衆に溜まっている状況下では、
無秩序に集まった結果として暴動に発展する傾向も強い」
「・・・まさに今の状況というわけね」
「問題なのは無秩序に集まったせいで、集団の目的がぶれてしまう場合だ」
・・・情報伝達技術が拙いこの時代なら起こりうる。
そうだと本当に面倒になる。
「どういうこと?」
「無秩序なわけだから集団としての意思が統一されず、
それぞれが好き勝手にやるかも知れないということだ。その結果、誰も制御しきれなくなる」
まして、乱世の時代だ。
利用しようとしたり、便乗したりする悪党は必ずいるだろう。
「・・・そうだとすると、対処が面倒ね」
「まあ、似ているだけで、同一ではないだろう。
だが、・・・制御しきれなくなる可能性があると考えていいと思うが」
「とにかく、まずは情報収集ね。その張角という輩の正体も確かめないと・・・」
その時、慌てて一人の兵士が入ってきた。
「会議中失礼いたします!」
「何事だ!」
春蘭が問いただした。
「はっ!南西の村で、新たな暴徒が発生したと報告がありました!また、黄色い布です!」
言い終わった時には、既に全員の表情は真剣になる。
「休む暇もないわね。・・・さて、情報源がさっそく現われてくれたけれど。
今度は誰が言ってくれるのかしら?」
「はいっ!ボクが行きます!」
「いや、私が行こう」
俺と季衣の言葉が重なった。
「あなた達はここ最近働き過ぎよ。今回は休んでもらうわ」
「華琳さま!ボクはボクの村みたいに困っている村を助けたいんですよ・・!」
「・・・正義の味方を名乗る以上見過ごせない時がある」
俺達二人の言葉に華琳は言う。
「あなた達の心はとても貴いものだけれど、・・・無茶を頼んで体を壊しては、
元も子もないわよ」
「無茶なんかじゃ・・・ないです」
「無茶には慣れていてるのでね、体が壊れる限界は超えんさ」
反論に対し華琳は言う。
「そうね。一つの無茶で、あなた達の目の前にいる百の民は救えるかもしれない。
けれどそれは、その先救えるはずの何万という民を見過ごす事に繋がることもある。
・・・わかるかしら?」
・・・・華琳の言葉はかつて戦場でイリヤに言われた言葉を連想させた。
『・・・シロウが死んだら、誰がこの先の大勢の人達を救うの?
彼らは救わなくて良いというの?』
『だからって、彼らを見殺しにしていいわけがない!・・・俺は行く!』
・・・俺の反論は次の言葉に黙らされた。
『シロウ!偶には人に頼りなさい!私はこの人たちを見殺しにするなんて言ってないわ!
彼らも救うし、この先の大勢も救うの。今ここには士郎以外に行動できるものがいる。
時には無茶も必要だけど、少なくとも今ではないわ。』
それは記憶に刻まれた想いの一つ
SIDE 華琳
「だったらその百の民は見殺しにするんですか!」
季衣の言葉に私は怒鳴った。
「するわけ無いでしょう!」
「・・・・・・っ!」
私の声に士郎以外が身を縮ませる。
・・・士郎だけはどこか呆然としている。
だが、今は言うべきことを言おう。
「今日の百人も助けるし、明日の万人も助けて見せるわ。
その為に必要と判断すれば、無理でも何でも遠慮なく使ってあげる。
・・・けれど今はまだ、その時ではないの」
「季衣。お前が休んでいる時は、わたしが代わりにその百の民を救ってやる。
だから、今は休め」
春蘭が慰めた。
「ううー・・・・・」
「季衣、ここは私たちの負けだ」
「・・・・兄ちゃん?」
士郎はひどく嬉しそうな雰囲気で季衣に言った。
「士郎、あなたは文句を言わないのね」
正直、急に黙り込んだことが気になる。
・・・嬉しそうなのも。
「いや、むしろ礼を言いたい。(・・・イリヤに怒られたのにな。
まったく、姉の言葉を蔑ろにするところだった。いつまで経っても不出来な弟だよ)」
後に言った言葉は呟くような小声だったが、私はなんとか聞き取ることができた。
・・・・・イリヤ。・・・・今の言葉からすると【イリヤ】は士郎の・・・。
士郎にとってそれはどれだけ大切な想いなのだろうか?
・・・それは、彼の根幹に関わる想いなのかもしれない。
・・・・セイバーに勝るとも劣らない大切な・・・。
「随分、嬉しそうね?」
私は自分の思考を気付かれないように会話を続けた。
「なにしろ、あそこまで見事な 啖呵を聞いたのでね。
華琳、君に仕えて良かったと改めて思ったよ」
士郎の言葉と笑みに私の心臓が跳ねた。
・・・自分でも顔が赤くなったのがわかる。
だけど、ここで黙り込む私ではない。
「なら、私のために全てを捧げてみる?」
「それは魅力的だな。 だが今の私には荷が重いようだ。
華琳に心から捧げて欲しいと思わせられるまで止めておこう 」
流石に一筋縄ではいかないようね。
「なら、私はあなたが自分からどうしても捧げたいと思わせるようにするとしましょう」
・・・私は素直ではない。
うすうす感じている。
この気持ちが本物かもしれないと。
念のため、自分のものになるよう直接的に言うべきなのかもしれない。
だが、今はこの関係が心地良い。
いつかその時が来るまでは、この関係を楽しもうと思った。
SIDE 華琳end
「桂花。編成を決めなさい」
「御意。・・・では秋蘭。今回の件、あなたが行ってちょうだい」
話し合いが再開された。
・・・華琳との会話の間、睨んでくる桂花の視線が痛かったが。
「なにっ!この流れだと、どう考えても私だろう!どうして秋蘭が出てくる!」
「今回の出勤は、戦闘よりも情報収集が大切になってくると、
華琳さまもおっしゃたでしょう。出来る?あなたに」
無理だな。
「ぐ・・・っ」
「決まりね。秋蘭。くれぐれも情報収集は入念にしなさい」
「は。ではすぐに兵を集め、出立致します」
「秋蘭さま!」
「どうした。私も華琳さまや姉者と同じ気持ちだが」
「そうじゃなくって・・・。あの・・ボクの分まで、よろしくおねがいしますっ!」
その季衣の言葉に対し、秋蘭は
「ふ・・・うむ。お主の想い、しかと受け取った。任せておけ」
微笑し言った。
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秋蘭達の出発を見送ろうとする季衣の姿を見つけ、俺は城壁の上にあがった。
「隣に座っていいか?」
「あ、兄ちゃん・・・」
「・・・やはり気にしているのか?」
「・・・兄ちゃんはどうして納得したの?
ボク全然疲れてないから納得できないよ」
落ち込んでる季衣に俺は昔話をすることにした。
「・・・あるところに一人の男がいました」
「兄ちゃん?」
「男は馬鹿で自分の限界が分かっていませんでした。
いつでも限界を超えて無理や無茶ばかりするものだから、皆に迷惑をかけてしまいます。
あるときは、少女を守ろうと死にかけました。
あるときは、助けようとした相手に助けられました。
けれど、男は馬鹿だからこりません。
そのせいで、皆に迷惑をかけ続けたのに。
ある日、男の姉が言いました。
何故、そんなに無茶するのかと。
男は言いました。
救いたいからと。
姉は怒りました。
何故、人に頼らないと。
姉は周りにいた人たちと協力して男より上手く救いました。
姉は言いました。
[無茶や無理すべき時はあるけれど、一人で全てを抱えるな。]
[一人で出来ないことも、皆なら出来ることがある。]
[本当に救いたいのなら、人を頼ることも覚えなさい。]
男は無理や無茶全てを無くせませんでしたが、
必要な無理や無茶だけをするようになりました」
「・・・」
「さて、季衣。今の君は秋蘭たち以上に皆を助けられるか?」
「・・・・ボクはボクの我がままで皆に迷惑をかけようとしたんだね」
「その想いは間違いではない。ただ、一人ではないことを忘れるな」
そう言って、俺は季衣の頭をぐりぐりと撫でた。
「・・・・・・・・兄ちゃん、さっきの話の男って兄ちゃんのこと?」
「さて、誰だろうな?」
「ずるいよー。ちゃんと答えてよ」
「・・・・・そうだな、いつか必ず教えよう」
「うん、約束だよ」
季衣はそういうと、城壁の上に上がり歌を歌い始めた。
「・・・・ほぉ」
上手いわけではないが、聞いているだけで嬉しくなるような歌声だ。
「良い歌だな。何という歌なんだ?」
「さあ?ちょっと前に、街で歌ってた旅芸人さんの歌なんだけれど・・・。
確か、名前は張角・・・」
「なんだとっ!?」
「あっ!兄ちゃん!」
「すぐ華琳に報告するぞ!」
その日の晩遅くに、討伐から戻った秋蘭を含めた主要メンバーが集められ、
緊急報告会が開かれた。
「その旅芸人の張角という娘が、黄巾党の首魁の張角ということで間違いはないようね」
季衣の報告は秋蘭、桂花の裏付けにより確定された。
「正体が分かっただけでも前進ではあるけれど・・・。
可能ならば、張角の目的が知りたいわね」
「・・・・・・歌い手なら周りが暴走している可能性もあるな」
何気ない言葉に熱狂的なファンなら反応することがある。
・・・・だが、いきなりそこまで大量のファンが付くものか?
そこまで凄い歌い手なら少しは以前から聞いててもおかしくないはずだが。
「だとしたら余計タチが悪いわ。大陸制覇の野望でも持ってくれていた方が、
遠慮なく叩き潰せるのだけれど。
夕方に、都から[早急に黄巾の賊徒を平定せよ]と軍令が届いたのだし」
・・・・ここまで、大騒ぎになるまで動かないようでは・・。
この国はもう長く持たないな。
・・・さて、どこまで俺の知る歴史と同じ流れだろうか?
並行世界である以上、完全に同一と思っていたら足元を間違いなく掬われるな。
「華琳さまっ!」
「どうしたの、春蘭。兵の準備は終わったの?」
「いえ、それが・・・また件の黄巾の連中が現れたと。
それも、今までにない規模だそうです」
・・・集まる前に終わらせられれば良かったんだが。
「・・・そう。一歩遅かったということか。春蘭、兵の準備は終わっているの?」
「申し訳ありません。
最後の物資搬入が、明日の夜明けになるそうで・・・、既に兵に休息をとらせています」
「間が悪かったわね・・・。恐らく連中は、いくつかの暴徒が寄り集まっているのでしょう。
今までのようには行かないわよ」
「・・・確かに。それだけの集団が集まった軍団となれば・・・偶然ではなく、必然。
指揮官がいるな」
経験上、こういう事に偶然はない。
「仮にいなかったとしても・・・・それだけの能力持つ奴は、集団に一人や二人はいるものだ。そいつが必ず指揮官に祭り上げられる」
「出来れば万全の状態で当たりたくはあるけれど、時間もないわね。
さて、どうするか・・・」
「華琳さま!」
「華琳」
俺と季衣は声をあげた。
「・・・」
「季衣と士郎はしばらく休むことになっただろう!」
その言葉に俺は反論する。
「ああ、だから昼間報告した後、私と季衣は体を十分休めておいた」
「それに、華琳さまはおっしゃいましたよね!無理すべき時は、
ボク達に無理してもらうって!それに百人の民も見捨てないって!」
「・・・そうね。その通りだわ」
華琳は了承した。
「春蘭。すぐに出せる部隊はある?」
「は。当直の隊と、最終確認をさせている隊はまだ残っているはずですが・・・」
「士郎、季衣。それらを率いて、先発隊としてすぐに出発なさい」
「了解した!」
「はいっ!」
華琳は続ける。
「撤退の判断は士郎に任せるから。すぐに本隊も追い付くから無理しないように」
ならば、時間を稼ぐ戦い方をするべきだな。
「承知した」
こうして、華琳はそれぞれに指示を出し解散となり、俺と季衣は準備を早々に済ませ、
出発した。
こうして正義の味方は戦場へ行く。