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聖家族 作者:門戸明子
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室生剛の話(下)


「った……」

 気が付くと、廊下の長椅子に寝そべっていた。

「気が付いたか」

「管理官!」

 そばに立つ川上に気づいて、オレはあわてて体を起こした。途端に全身のあちこちが悲鳴を上げる。

「つ……」

 一体何が起こったんだ?
 口の中には血の味が広がっている。誰かに殴られた……?
 ゆっくりと記憶をたどってみる。たしか山崎につかみかかって……それから、それから……どうなったんだ?

「取調室で刑事が殺人なんて、マスコミが大喜びしそうなネタだな」

「え……」

 まさか……まさかオレは……?

 息をのんだオレを、川上は大きくため息をついて見下ろした。

「殺しちゃいない。危なかったけどな」

 どうやらその時、大量に同僚から殴られたらしい。血の味のする唾液を、不快な気分とともにぐっと飲み下した。

「お前、その様子じゃほんとに何も覚えてないみたいだな? まさかそんなことがほんとにあるなんてな……」

「……」

「2月1日、お前非番だったよな? 夜はどこで何してた?」

「管理官、まさか山崎の言うことを鵜呑みにされるわけじゃないですよね?」

「……」

「管理官っ!」

「心配するな。俺はお前を信じてるよ。だがな、他の捜査員の手前、放ってもおけないだろう。あんなにはっきりとお前だと言ってるんだから」

「でたらめに決まってるじゃないですか! 自分が助かりたい一心でそんな嘘を! だいたい、犯人じゃないなら、事件のあとすぐに出頭してくればいいじゃないですか!」

「とにかく、お前はしばらく家でおとなしくしてろ」

「……謹慎ですか」

「それとも、1日の夜、確かなアリバイでもあるか?」

 オレはギリギリと不快な音を脳内に響かせて奥歯をかみしめた。

「なあ、一度病院で診てもらったほうがいいんじゃないのか?」



 オレはようやく、自分の置かれた立場、そして将来の危険さを理解し始めた。
 署内中に取調室でのオレの話が流れたらしく、どこを歩いても、引いていく波のように、誰もが道を譲った。
 本庁から来ている同僚連中まで、まるで檻の中のパンダのような目でオレを見やがる。
 くそっ! 毒づきながら1階へ降りた時だった。

「大丈夫ですか?」

 目の前にハンカチがぐいっと差し出された。

「え?」

 野沢がオレの手を見ている。
 その視線で両手を握りしめていたことに気づいて、ゆっくりと開いた。
 力を入れすぎていたんだろう。手のひらの感覚はなく、血が滴っていた。

「大丈夫だ」

 正直、今は誰とも話したくない。ハンカチを無視して、再び歩き出した。

「あの、あの、あたしは信じてます! 警部は人殺しなんかする人やないって」

 当たり前だ! 叫びたい衝動をこらえて、ひたすら歩き、外に出た。
 交差点を大股で渡り……しかし野沢は犬のように後ろにまとわりついて離れない。

「なんなんだお前は!」

 渡り切ったところで勢いよく振り向くと、野沢は「わ!」とぶつかるようにして止まった。

「もぉ危ないやないですか! 車は急に止まれへんのですよ!」

 お前は車か!

「まだ言いたいことがあるなら、とっとと話せ!」

 また中目黒の事件について新事実が、とか言うんじゃないだろうな。こっちはそれどころじゃないんだ!
 絞め殺してやりたい気持ちでにらむ。しかし野沢が発した言葉は、オレの予想とは全く違うものだった。

「紗智先生から何か連絡ありました?」

 ……なんだって? 紗智?

「妹の紗智のことか? お前、なんでオレの妹のことなんか知って……? いや、それよりどうして紗智の名前が今でてくるんだ?」

 聞くと、野沢は「ええ!?」と大げさにのけぞった。

「え……だって……あれ、もしかして、知らへんのですか!?」

「だから、何のことだ?」

「出頭した山崎秀一て、紗智先生のお見合い相手ですやん」

「……な……っ」



 携帯から、家の電話から、何度も連絡をとろうとしたが、紗智はでなかった。
 何を考えてるんだ、あのバカ女!
 何十回目かわからない「電波の届かない所にいる」メッセージを聞いてブチ切れたオレは、怒鳴り声で留守電を吹き込んだ。

「バカかお前は! 見合いするならどうして兄であるオレに事前に一言も相談しなかったんだ? しかも相手はあの山崎だと!? たとえあいつがシロだったとしても、あんな男とも思えんような奴、絶対に室生の敷居はまたがせんぞ! 阿呆! いいか、聞こえてるか? 絶対に破談だ。破談! 許さんからな!」

 荒い息を吐いて言葉を切ると、すでに録音時間は過ぎ、通話は終わっていた。

「くそっ!」

 子機を床に投げつける。床の上で跳ね、プラスチックの破片がいくつか散った。
 まさか、こんな形で妹に裏切られるとは思わなかった。

――ごめんなさい兄さん。

 紗智の小さく震えた声を思い出す。お袋に似たのか体が弱く、我が家の伝統である道場通いもできず、部屋に閉じこもっていた妹……。
 親戚連中は、そんな紗智に厳しかったが、オレはいつだってかばってやった。
 体が小さく弱く生まれたのは彼女のせいじゃない。そんなことで彼女を非難するのはかわいそうだ、と。
 そうさ、いつだって守ってやったのに。


 あの部屋に呼ばれた時だって……


「……え?」

 ふと、オレは思考を停止する。今、オレは何を考えた?
 あの部屋に呼ばれた時……?
 あの部屋……書斎のことか?
 ……どういうことだ?
 強烈な痛みが脳の中央を横断し、オレはそれ以上考え続けることができなかった。



 翌日、東新宿に出たオレは、秀英医科大学付属医療センターを訪れた。紗智の居所を聞くと、受付の女は奇妙な顔をしてオレを見て、どこかへ電話をかけている。
 オレたちのやりとりを聞いていたのか、周囲の看護婦たちもオレをジロジロ見る。
 なんだっていうんだ、一体?

「ご案内します」

 そういわれて連れていかれたのは、テーブルとイスがあるだけの狭い部屋だ。ミーティングでもするところなんだろうか?
 椅子に腰かけて待っていると、じきにドアがノックされ、紫イモのような色の服に白衣をはおった、中年女が入ってきた。

「室生さん、紗智先生の、お兄様ですね? わたくし、当病院で脳神経外科の教授を勤めております佐伯美津子と申します」

 つまり、紗智の上司ということか。

「このたびは、なんて申し上げればいいか……実は、わたくしなんです。紗智先生に山崎さんとのお見合いを勧めたのは」

 頭にカッと血が上り、腰が浮いたが、かろうじてこらえた。

「では、山崎のことをご存じなんですね?」

「はい。主人の教え子で、とてもいい方だって」

「どうしてオレに……私に何も言ってくださらなかったんですか」

「すみません。紗智先生がお話ししてるものとばかり思っておりまして」

くそっ!

「それで、紗智はどこに? 話がしたいんですが」

 そういうと、佐伯教授は目を見開いた。

「あの……お聞きじゃないんですか?」

「は?」

「今朝、ロンドンへ発ちましたけど」

 ロンドン!?

「どういう……ことですかそれは」

「数日前に紗智先生に直接山崎さんから連絡があったそうなんです。自分は歌舞伎町の事件の被害者の少年と付き合っていて、あの事件があった日も一緒にいたって。だからお見合いの話はなかったことにしてくれと」

 なんだって……?

「それがずいぶんショックだったようで、彼女勤務中に倒れまして。それで、しばらくロンドンの提携病院に研修という形で行かせることにしたんです。もちろん、本人が落ち着いたら呼び戻すつもりですけれど」

 どうして……どうして紗智は、オレに何も話さなかったんだ?
 足に力が入らず、オレは椅子に崩れ落ちた。

「紗智は……何か、言っていませんでしたか。オレに伝言とか……」

 佐伯教授は、申し訳なさそうに眉をひそめたが、きっぱりと首を振った。

「そう、ですか」

 紗智……? お前は、何を考えてたんだ?
 急に、妹が異星人のような別の生命体になってしまったような気がして、オレは眩暈がした。
 よろめきながら席を立ったオレに、「何かできることがあれば、何でもおっしゃってくださいね」と佐伯教授が言った。
 首を振って帰ろうと背を向けたが……ふと思いついて振り返った。

「先生」

「はい?」

「……酒を飲んで、違う場所で寝ていた、というようなことってありますよね」

「ええ……わたくしはないですけど」

「たとえば、酒もドラッグも何もやっていないのに、そういうふうに記憶がぶっ飛ぶということというのは、あると思いますか?」

「一時的な記憶喪失、というようなことでしょうか?」

「ええ、そうですね。そんな感じです」

 脂肪がたっぷりついた頬に手をあてていた教授は、「そうですね」とオレを見た。

「ありえないことではないと思います」

「治すことは、できますか?」

「病気の治療には、まず原因となるウイルスを特定しなくてはなりません。きっと、その方も、記憶を失うようになった原因が、どこかにあると思います」

「原因……」

「もしかしたら、何か忘れたいと思うような体験を、過去になさったんじゃないかしら?」



 忘れたいような……過去、だって?
 オレは駅に向かって歩きながら、頭の中の記憶を遡り、手がけた事件の数々を思い起こした。
 飛び散った臓器、ウジが沸いた死体……目を覆いたくなるような悲惨な現場なんか、いくつも見てきた。その中のどれか、あるいは……それらすべて、だろうか?
 ぼんやり歩いていたオレは、目の前にすべるように止まった黒塗りの車に、ぶつかるギリギリで気づいて足を止めた。
 くそっこんなところに停めやがって! 毒づくオレの前で音もなく後部座席の窓が開いた。中に座っていた人物と目が合う。喉の奥からうめきが漏れた。


 さした渋滞にひっかかることもなく、車はスムーズに都心を抜けて走っていた。

「記憶がない、という言い訳が、警察に通用すると思っているわけじゃないだろうな?」

「……」

 隣に座る男……室生忠成警察庁刑事局長の言葉に、オレは沈黙した。

――覚えてませんだと?

――そんな言い訳、通用すると思ってるのか!

 犯人に向かって、何百回も自分が吐いてきた言葉。まさか自分が、その言葉を浴びせられる日がくるとは思わなかった。
 オレは膝の上でこぶしを握り、じっと耐えた。

「お前の苦労は、私が一番理解しているつもりだ。他人の倍以上の注目を浴び、やっかみから足を引っ張られてきたのは、なにもお前だけじゃないからな。それは室生の家に生まれた以上、仕方のないことだ」

「……はい」

「なあ剛、私の跡を継いで、上がってくるのはお前だと思っている。兄さんは……あんな状態になってしまったしな。だからこそ、お前は上を目指さなくてはならない。それがお前の義務だ」

「わかっています」

「私も、近々一段上に上がることが決まっている。そのさなかに、身内のスキャンダルはまずいのだ」

 つまり自分の保身か。腹の中で吐き捨てたが、もちろん口に出したりはしない。殊勝にうなずくだけだ。
 歩道に降り、ドアをしめようとしたオレに、叔父の言葉が投げかけられた。

「お前……本当に何もやってないんだろうな?」

 その疑惑に満ちた言葉は、まるで耳から流し込まれた毒のように、オレの息を詰まらせた。



 その夜は、千駄ヶ谷駅近くの居酒屋で、酒を飲み続けた。
 この体に、一体何が起こっているのか? 
 わけのわからない寒気に、背筋が粟だった。

 本当に……何かが憑りついてるんじゃないだろうな……?

 しかしいくら飲んでも意識は飛んでくれない。
 夜明け近く、店主に叩き出されるまで、オレは飲み続けた。

 寒さに凍えながら、右に左に揺れ動く体を叱咤し、這うように部屋に戻った。
 そして酔った勢いに任せて押入れの中から茶色の紙袋を引っ張りだし、中身を床に放り出す。
 何度確認しても、それは鳩やウサギに変わってはくれなかった。

 それは……ナイフ。赤黒い液体をぬぐった跡が生々しいナイフだった。

 アイクホン社のロゴが、禍々しく曇ったシルバーの刀身に刻み込まれている。
 これは、名倉殺しの凶器なんだろうか? どうしてそんなものをオレが持ってるんだ?
 本当にオレは……何もやっていないのか?
 もしかして……もしかしたらこの、ナイフ
で……人を刺したのだろうか?
 しかし混濁した脳みそは、何も答えを出してはくれない。

 覚えていない、何も覚えてないんだ!
 親父! ……オレは一体何をやったんだ?
 お袋! ……違うって言ってくれよ……!
 ……紗智……!

「ちくしょおおおおっ!!」

 助けてくれ! 紗智、オレを……助けてくれ!



 携帯が鳴っていた。
 くそっ……
 ドロドロに溶けそうなほど疲労という泥がたまった体をベッドから起こすと、のろのろと手を伸ばして携帯を探した。その間にあきらめてくれないかと思ったが、相手は粘り強く、一向に音は止まない。
 しかたなく床に放り出された携帯を手に取り、「室生です」とうめいた。

「……え?」

 オレは、相手の名を二度聞き返した。



 品川からJR横須賀線に乗り換え、保土ヶ谷という駅で降りる。タクシーに乗って国道を西へ進み、権太坂と呼ばれる緩やかな坂を上っていくと、その先に、「憩村」があった。
 残りの人生を豊かに過ごす……つまりは老人ホームだ。
 髭くらい剃ってくるべきだったか……今さら言っても仕方ないが。
 オレはひどい様相に間違いない顔で受付をのぞき、名前を告げた。
 職員らしき男がでてきて、「室生さんですね」と2階に案内してくれた。

「申し訳ありません。転倒した時に一時意識をなくされたので、新人のスタッフが動転してご連絡してしまったようでして。でも受け答えもはっきりされてますし、先生も大丈夫だろうとおっしゃってますので、安心してください」

 なんだよ、それならそうと、早く言え!
 オレは目の前の男の背中をにらみつけた。
もう今にも死ぬ、みたいな口調で連絡よこしやがって。大丈夫なら、今こんな時に、こんなところまでこなかったものを……。

「お会いになるのは、お久しぶりですか?」

「はあ……仕事が忙しいもので」

「忠邦さん、おもしろい方ですよねえ。優しいし、職員にも人気なんですよ」

 おもしろい? 優しい?

 親父の形容の仕方に、これほど似合わない単語があるだろうか?
 別人と間違えてるんじゃないだろうな?
 オレは少し不安になりながらエレベーターに乗り込んだ。



 親父は勤務中に軽い脳梗塞で倒れ、半身に麻痺がでた。仕事を辞め、家でぼんやりしていることが多くなり……オレはそんな姿をそばで見ているのが耐えられなくて、入所を勧めた。
 それ以来、もう5年以上も会っていないことになる。
 見舞った親戚の話じゃ、ボケが始まってるってことだったから、やはりホームに入れて正解だったんだろうと思う。
 明るい雰囲気のフロアには、車いすに座ってこっくりこっくり船をこぐ奴、折り紙を折り続けてる奴、独り言をブツブツつぶやく奴……いろんな老人がいる。
 親父も……あんな風になってるんだろうか。オレはひそかに心の準備をした。
 その時、ひときわ大きな笑い声が沸いた。声のした方向を見ると、数人の女性スタッフが車いすを取り囲んで笑っている。
 車いすには、老人が座っている。目じりを下げ、虫も殺さぬような穏やかな笑みを満面に浮かべた好々爺……。だがあの顔はまぎれもなく。

「親父……?」

 あんなデレデレした顔なんか、見たことなかったが……。

「お嬢さん、あなたのそれ、入れ歯かね」

 再びどっと笑いが沸いた。

「えークニさんやだー何それ」

「いやぁ、あまりに美しい歯なので」

 また笑い声があがった。
 ……誰が危篤だって? バカバカしくなりながらも少しホッとして、オレは歩み寄った。そして「元気そうでよかったよ」と声をかけた。

 親父は顔をあげて、オレを見た。

 あんなに会いたくなかった人だが、こけた頬やたるんだ皮膚は、確実に流れた時間を物語っている。
 たまには面会にきてやればよかったか、とわずかに後悔しながら親父の返事を待った。

「……」

「親父?」


「どなたでしたかな」


 それは、予想だにしなかった一言で……。
 オレの思考回路は、バチバチと音をたててショートした。
 おいおい、まさか……忘れた?
 なんの冗談だ?

「クニさん! やだなあ、息子さんじゃないですか! 久しぶりだから思い出せない?」

 慌てたようにスタッフが笑顔でフォローする。
 だが、親父の表情は変わらない。

 やはり、覚えていない?
 オレのことを?

 オレにしたことを?

 スタッフを押しのけ、オレは親父の襟首をつかんだ。

「冗談……じゃねえぞ……」

 そしてそのまま、車椅子から引きずりおろした。

「キャアアアア!」

 悲鳴がフロアに響き渡ったが、オレは手を止めなかった。親父に馬乗りになり、夢中でブチのめした。

 オレは、忘れていない。オレは何も忘れない。何も! 忘れるものか! 何もかも、覚えているとも!

 脳みその底から、幼い悲鳴が響いてくる。引きつれたような、泣き叫ぶ、声。
 そして……


 ドアが、開いた。


 ここは……どこ? 暗くてかび臭くて……。

 書斎だ……親父の書斎。

 くぐもった荒い息遣いが響いて……床に蠢いているのは、親父の体と……オレ。小学生の、オレだ。
 のしかかってくる親父の重たい体……。
 親父の手が、オレの両足を開いて……強引に体を押し込んでくる。

 痛い……痛い……お父さん、痛いよ……!

 歯の隙間から漏れる、悲鳴のような喘ぎ。

――静かにしてろ。暴れるんじゃない。

 でも、でも、お父さん、痛い……こんなの、嫌だよ……!

 声を殺して、叫んで。
 殺しきれない魂の悲鳴が、部屋の中にはじけ飛ぶ。


――なにか、忘れたい過去があるんじゃないですか?


 忘れる? 冗談じゃない! 忘れて、忘れて終わりになど、させるものか!

 オレは振り上げ続けるこぶしを止めなかった。
 親父の血が、フローリングの床に点々と飛び散り、鮮血が、顔にかかる。
 血の、鉄くさい血の味が、口の中に広がり……。

 瞬間、映画が始まる前にスクリーンの幕がするすると開くように、脳内のフィルターが突如クリアになっていた。


――喧嘩なんです! 男の人が2人で。お願いです、止めてください!


 女だ。赤いハイヒールを履いた女……。
 あの日、歌舞伎町の居酒屋から出たところで、女が駆け寄ってきて、そう叫んだんだ。
 言われるまま、路地裏に行ってみると……確かに2人の男が言い争っていた。そうだ、山崎と名倉だ。

――どうする? 別れる?

――結局あんたはさ、自分が可愛いんだよな。

 そうして名倉は、山崎の首に腕を回して……キスをした。

 訳の分からない衝動が、全身を突き上げた。

 お前ら……一体何をしてるんだ……!
 オレはしばらくしゃがみこんでこみあげる吐き気を耐えなきゃならなかった。
 それは……そうだ。親父の嗜好を知った時の吐き気と同質のものだった。
 許さない……許さない……
 オレは、口の中でつぶやき続け、そして……視界が真っ赤に染まって――。



「誰か! 誰か警察を呼んでくれ!」

 遠くで誰かの、声がしている。誰の、声だろう?



 ああ、オレが、殺した。

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