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聖家族 作者:門戸明子
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余白 その7

 カチャ……

 ドアを開けると、誠司がいつもつけている整髪剤の香りがぷんと鼻孔をくすぐった。
 仮病を使って早退し、父も母も不在となる時間帯にこっそり戻ってきていたから、当然家の中は無人で、静まり返っている。
 なのになぜだろう。誰かに見られているような気がする……。
 鼓動が早まるのを感じながら、拓巳は自分を奮い立たせるように背筋を伸ばし、誠司の仕事部屋に足を踏み入れた。


 鏡面仕上げのワークデスク、皮張りのデザインチェア……。ディスプレイスペースを備えた本棚には、ウェブ関係の雑誌や書籍がすっきりと並んでいる。
 モダンな中にカジュアルさをちりばめたメリハリのきいたコーディネートは、誠司のセンスの良さを物語っていた。
 部屋をぐるりと見回す拓巳の耳に、さっきまでスマホで見ていたワイドショーの、興奮したアナウンサーの声がよみがえる。

『セレブな夫妻に、一体何があったのでしょうか?』

 朝からワイドショーは、首都高で起きた交通事故の話題で持ち切りだった。
 事故を起こしたのは、NAコーポレーションの取締役、米倉俊哉。カーブで曲がり損ねて壁に激突、即死だったという。
 車のスピードは200キロを超えており、しかもブレーキ跡がなかったこと、また同時刻に米倉の妻が、夫殺害をほのめかす遺書を残して自宅で首をつったことがわかり、セレブ夫妻の心中か、とマスコミは騒ぎ立てた。
 進展のない歌舞伎町の事件より、しばらくはこちらのニュースがトップで扱われることは間違いない。

「米倉さんが……死んだ……死んだ……なんで……?」

 うわごとのようにつぶやきながら、拓巳は机の引き出しを開け、中を改めた。
 本棚の本を1冊1冊引き出し、パラパラとめくる。
 しかし、仕事か、趣味のカメラに関する類のものしか見当たらない。
 何を見つけたいのか、目指すものがないままに探し続けるのは苦痛なものだ。
 拓巳はため息をついて、半ば投げやりな調子で隣の白いクローゼットを開けた。
 思った通り、中は何着か背広とコートがかかっているだけで。

「何もないか……」

 ドアを閉めようとして、しかし奥からキラリと光る何かを一瞬見たような気がして、拓巳は手を止めた。
 コートをかき分けて奥をのぞきこみ、拓巳は息をのんだ。
 窓から差し込む光を反射して光ったもの……それは、一回り小さなドアの取っ手だった。

「……隠し部屋だ!」

 小さく叫んで、ゴクリと唾を飲み込む。
 震える足を叱咤しながら、拓巳はおそるおそるクローゼットの中にもぐりこんだ。


 ドアの向こうは、6畳ほどの洋室だった。
 コンクリートで四方を塗り固められたその室内は、中央に置かれた大きなテーブルが面積の大部分を占めていた。
 3台のパソコンが置かれ、辺りに書類が散乱している。
 中の1枚を手に取ってみると、ゲームのデザイン案のようだった。手書きのキャラクターがいくつか描かれている。

「ブラッディプラン……? 聞いたことないな」

 これから発売予定のゲームなのだろうか?

 目を上げると、パイプ式のそっけない本棚があり、そしてその横の壁に……大量の写真が貼られていた。
 米倉俊哉、米倉祥子、名倉翔也……拓巳の知っている顔もあれば、知らない顔もあった。
 一体父さんは、何をしようとしてるんだ……? 母さんは知ってるんだろうか?
 わけのわからない恐怖と不安に襲われながら、拓巳は後ずさり。

 そしてぎくりと足を止めた。

 拓巳の視線は、一枚の写真に固定されていた。

 隠し撮りしたものらしく、笑いながら遠くを見つめる若い女性が写っている。その写真はまぎれもなく、野沢みのりを捉えていた。


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