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聖家族 作者:門戸明子
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余白 その6

 警察署の前でうろうろするのは、印象としてあまりいいものではない。

 そんなことはわかっていたが、拓巳はどうしても、中に入る決心をつけられずにいた。
 どうしたらいいのか、どうしたいのか、思考回路はカオスのように混濁していて、出口が見つからなかったからだ。

「あれえ? イノキ……じゃなかった、エノキくん!」

 ふいに明るい声がして振り向くと、背の高い女性警官が立っていた。

「わたしのこと覚えてる? 君の高校の前で会ったことあるんだけど。野沢みのりの同僚」

「ああ……はい」

「長谷川桃子っていうの、よろしくね」

 無理やり拓巳の手をとって握手すると、桃子は「みのりに用事?」と聞いた。

「ごめんね、あの子今いないのよ」

「お休み、ですか?」

「ううん違うの。実は……ここだけの話なんだけどね」

 そういうと、手招きしてひそっと耳打ちした。

「あの子、飛び降り現場に居合わせちゃってね」

「……飛び降り?」

「まだ事件か事故かわかんないんだけどね。ほら今朝のニュースでもやってたでしょ。東京駅近くのビルから男が、ってやつ」

 言われて、拓巳は「ああ」と頷いた。

「それでね、今現場立ち会ってんの」

「そう、ですか……」

 肩をおとした拓巳に、桃子が申し出る。

「いつごろ戻るか、聞いてみようか?」

「いえあの」

 拓巳が制止する間もなく、桃子は自分の携帯を取り出すと、電話をかけた。

「あ、みのりー? そっちどうなってんの? まだかかりそう? え、身元割れた? ええっ、ガイシャの娘と一緒だった? すっごい偶然ねえ。小坂丈太郎? それがガイシャ? 自殺で決まりそうなの?」

 カタン……

「あ、ちょっと待って。あんたのこと訪ねて、男の子が来てるのよ。ほら、曙であんたがいじめどうのって言ってた子、そうそうエノキくん、ちょっと待って」

 桃子が顔を上げると、拓巳の姿はどこにもなかった。

「あれ? さっきまでそこに……いたのに」
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