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聖家族 作者:門戸明子
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余白 その4

 キキーーーーッ!

 深夜の新宿によどんでいた若者たちは、急停止したタクシーを怪訝そうに見つめた。
 バタバタと慌ただしく降りてきたのは、上品なベージュのコートの下にサンダル履きという女性、そして学生服の男子。

「なんだありゃ」

 つぶやきは、しかしひた走る2人には届かない。



 都立代々木総合病院、夜間緊急受付に駆け込んだのは、みずほと拓巳だった。

「あのっ新条ですけど、主人は!?」

 警備員がモタモタと調べているのを、拓巳とみずほはジリジリしながら見つめた。
 深夜の病院は、明かりが白々とついていてさえ、物言わぬ魂たちに見つめられているような、緊迫感がある。拓巳は長い廊下を抜けながら、不吉な予感を振り払った。
 誠司が駅のホームから転落したという連絡を受けた時のみずほの取り乱しようは、普段の彼女から想像できないほどひどいものだった。
 ぼくがしっかりしなければ、と拓巳は自分を叱咤し、母の背を見つめた。

 不安を振り払うように勢いよく病室のドアを開けると……しかし、ベッドはカラだった。人が寝ていた形跡すらなく、そっけないないほどの清潔さが、白い蛍光灯に照らし出されていた。

「まさか……」

 最悪の場合まで含めて、さまざまな想像が2人の脳内を駆け巡った。
 みずほがぐらりとよろめき、拓巳はとっさにその華奢な体を支えた。

「母さんしっかり!」

 自分に言い聞かせるように言い、踏みしめる足に力を入れた。

「あれ? 二人とも早かったな」

 緊迫感にそぐわぬのんびりした声がしてふりむくと、松葉づえをついた誠司がひょこひょこと廊下を歩いてくるところだった。

「パパ……!」

「父さん!」

 みずほは駆け寄ると、誠司がバランスを崩しそうになるくらいの勢いで抱き付く。静かな廊下に、しばらくみずほのすすり泣きの声だけが響いた。

「おいおいお前まで泣くことないだろ」

 誠司にそういわれて初めて、拓巳は自分も泣いているのに気付いた。



 ……ギョッとした。
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