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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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88話 見参

 (思っていたよりも少ないですね……)

 護衛集団のリーダー的存在であるマーセルは、周囲に集まったソロプレイヤーの数を見て表情を曇らせていた。
 元々スキル・メイク・オンラインでソロプレイヤーとして戦い続けるのは容易なことではない為、集まる人数が少なくても不思議はない。
 しかし今回は特別な事情が存在する。

 護衛集団は人数が多く安全だからという理由で、パーティーメンバーが居なくても問題ないはずだと考えたプレイヤーが1人で参加していたり、公式動画に映れるかもしれないという野次馬たちが1人で参加しているパターンが、大量に発生していたのだ。

 それでも実際に集まった人数は想定より少なかった事実が変わる事は無い。
 頭を切り替えたマーセルは、現状を打破する為の指示を口から発する。

 「皆さん、モンスターたちの包囲を一点突破します。目標は集団の最後尾のオークたちです。そこを突破して廃墟に向かいます」

 何故マーセルが草原側の豚型モンスターたちを目標とせずに、廃墟側のオークたちを目標としたのか。
 それは突破した後に広がる地形を考慮してのことだった。

 もし草原側に向かって突破すれば、開けていて障害物も無い場所では隠れる事も出来ない。
 しかし廃墟側ならば、廃れた家々が邪魔になり敵から攻撃される範囲を狭める事も見込め、更にオーク達を()ける可能性すらあるからだ。

 本来目指すべき第2の村とは逆方向なので、今までの努力が水の泡になってしまうが、それよりも今は被害を最小限に抑える事を優先すべきだとマーセルは考えたのだ。

 マーセルの指示を受けて、集まったソロプレイヤー達が最後尾へと走って向かおうとする中、当の本人は護衛集団の中央で指示を出していたガッザの元に走って行った。

 「ガッザ。これから後ろのオーク達の群れを一点突破して包囲から脱出します。貴方はそのことを皆さんに伝えて下さい。それと申し訳ありませんが、殿(しんがり)もお願いします。」

 「了解した」

 このまま何も伝えずにマーセルたちがオークの群れを突破しても、全体の意思が統一出来ていなければ、取り残されるプレイヤーが出て来ることは明白だ。
 ガッザはマーセルの言いたい意図を読み取り素早く頷くと、突破する位置から最も遠く危険が(ともな)うであろう前列に向かって走り出して行った。

 走り去って行くガッザを見送ったマーセルは、そのまま後方へと走って行くソロプレイヤー達と合流し、ダメ男たちの居る最後尾へと向かっていく。

 (もう既に後ろは戦ってましたか……)

 姿が見えて来た最後尾では、紙装甲を先頭にオーク達と剣を交えていた。

 「オークの群れを一気に突き破って脱出します!私が先陣を切るのでついて来て下さい!」

 ソロプレイヤーたちの集団の先頭に立ったマーセルは、全員に聞こえる声量で叫び、左手に全身を覆うほどの盾を、右手にランスを構えオークの群れへと突っ込んで行く。
 風を切ながらスピードに乗って突き出されたマーセルのランスは、前方のオークを一気に貫いて絶命させた。
 マーセルは貫かれて動かなくなったオークの死体を見ると、その死体を蹴ってランスを引き抜き、更に前方のオークを貫いていく。

 マーセル自身は問題なくオークを蹴散らしていた為、一見順調に見えた突破劇だったが、実際は長く続かなかった。

 勇気あるプレイヤー、またはその場の雰囲気に乗せられたソロプレイヤー達が、最初はマーセルの後ろから続いてオークの群れに攻勢を仕掛けていたが、更にその後ろのプレイヤー達が、わざと走るスピードを緩めて戦おうとしなかったのだ。

 彼らの一部は真の意味でのソロプレイヤーを覗いて、野次馬だったプレイヤーも多い。
 それに本当の意味でのソロプレイヤー達も、元々集団での行動に嫌悪感を抱く者たちが存在していた。

 何故自分がパーティーメンバーでもない人々の為に命を賭けなければならないのか?
 何故他にもプレイヤーは居るのに自分たちが外れクジを引かなければならないのか?
 何故これからエリアボスを討伐して行く上でライバルになるプレイヤー達を助けなければならないのか?
 ライバルがここで減れば、自らが賞金を手に入れられる可能性が上がるのだから助けるなんて馬鹿らしい。

 そんな自己中心的な思いが彼らを支配していた。

 必死で前へ前へと進んでいるマーセルには後ろの状況を確認する余裕が無かったが、その姿が元々最後尾に居たダメ男たちの目にはしっかりと映っていた。

 マーセルは最後尾に辿り着くまでに集団に居るプレイヤー達に向かって「後ろから包囲を突破します!皆さんも最後尾に向かってください!」と指示を出しながら走っていた。
 勿論その指示はダメ男にも聞こえていたので、ダメ男はマーセルの作ったチャンスを逃さない様に、自身に協力してくれていたプレイヤー達に向かって要請の言葉を口にする。

 「皆さん!守るのを止めて攻勢に移ります!マーセルさんが空けた穴を突破しましょう!」

 ダメ男からの指示に対して、真っ先に呼応したのはやはり彼のパーティーメンバーだった。

 他のプレイヤー達を守るために壁となって動かないでいた紙装甲は、前方へと足を踏み出し前に進み出す。
 自由に動いて苦戦していたプレイヤーを助けていたシンも、マーセルの後ろに続こうと走って行く。
 矢を放って後方支援していた彩矢は、狙いをマーセルの周囲に居るオーク達へと移し出した。 

 そして動いた彼らに続くように、ダメ男に協力していたプレイヤー達も動き出す。
 膠着気味になっていた突破劇が再び成功しそうになったところで、今度は内部から水を差す者が現れた。

 「そう簡単にやらせると思ってるのか?」

 真紅の鎧を着用したプレイヤーたちが、自らを倒そうとする護衛集団のプレイヤー達から逃げながらも、オーク達に突っ込むプレイヤーの足を引っ張るように、後方から矢を放ち出したのだ。

 彼らから放たれた矢は、走りながら放った物だった為精度こそ良くは無かったが、それでもオーク達を倒すことに集中していたプレイヤー達に命中して行く。
 その結果、前だけでなく後ろから飛んでくる矢にまで注意を向けなくてはならなくなったことで、再び突破しようとしていたプレイヤー達は停滞を余儀なくされる事となった。

 (不味いですね……)

 倒しても倒しても湧き出て来るオーク達を倒しながら、マーセルが心の中で上手くいかない現状に焦りを覚える。
 今はまだオーク達と戦っているだけだが、もうオークよりも足の速い豚型モンスター達がすぐ(そば)まで近づいている。

 このままでは全滅してしまうかもしれないと冷や汗を垂らしている所で、マーセルにとって予想だにしなかった事態が発生する。

 「えっ!?」

 目の前で戦っていたはずのオークが、真紅の大剣によって胴から真っ二つに斬り裂かれたのだ。

 オークの上半身がゆっくりと崩れ落ちて行くと、その先には黒いフード付きロングコートで全身を覆い隠したプレイヤーが(たたず)んでいた。
 そのプレイヤーの周囲のオークは大剣によって真っ二つに斬り裂かれ、黒フードのプレイヤーの周りだけが、緑色の血に染まりながら開いた状態になっている。

 その状況をマーセルが唖然と見ていると、黒フードは大剣の切っ先を地面に付けた状態で、左手を(つか)から放して自らの後ろを親指で()し示す。
 一言も声を発していないが、黒フードがオーク達を倒して作った自らの道を使えと言っていることを、マーセルは何となく理解することが出来た。

 「感謝します!」

 マーセルは目の前に居る黒フードにお礼の言葉を述べると、黒フードの作った道がオーク達によって塞がらない内に走り出した。
 一言も会話を交わさず、名乗ってもいない相手だとしても、この道を作った黒フードのプレイヤーこそが、噂に聞く謎のソロプレイヤーだと確信を抱きながら、彼の横を駆けて通り過ぎて行く。

 マーセルについて来ていたプレイヤー達も、黒フードの正体が気になっていたようだが、今はそれどころでは無いと考え、次々と彼の横を走り去って行った。

 今度こそ突破に成功したと、マーセルがオークの群れから抜け出した先で安堵しながら後ろを振り向くと、彼の瞳にまた新たなトラブルが映し出された。
 それは上空から鷹の姿をしたモンスターが、逃げ出すプレイヤー達を襲おうと急降下している光景だった。

 「最後の最後で……」

 勘弁して欲しいという気持ちから呟いたマーセルだったが、上空の鷹型モンスターの大きさがし奇怪(おか)い事に気づいて目を見開く。
 道中に倒した鷹型モンスターよりも、明らかに巨大だったのだ。

 「エリアボスがここで来るなんて……」

 まさかの展開にマーセルが頭を悩ませる。

 今から戻って他のプレイヤー達を助けに行こうとも間に合わないのは明白な状況。
 なら今自分に出来る事は、上空から襲い掛かって来る鷹型のエリアボスの存在を少しでも多くのプレイヤーに教えて、被害を最小限にすることだと思い至ったマーセルは、声を大にして叫び出す。

 「上空にエリアボスです!全員逃げて下さい!」

 マーセルの声が届いたのか、逃げ出していたプレイヤー達が振り向きながら上空を見る。
 広がっている翼によって直径10メートルはある横幅に、大きな長靴のような足先から生えている鉤爪(かぎづめ)を光らせながら急降下してくるエリアボス。

 一目見ただけで、あの爪に斬り裂かれれば一溜まりも無い事が理解できたプレイヤー達は、左右に逃げてエリアボスの攻撃から逃れようとする。

 プレイヤー達を襲っていたはずのオーク達までも逃げ出し始めたことで、あの鷹の姿をしたエリアボスがどれだけ強いのかを示していた。

 そんな中、恐怖から動けなくなっているプレイヤー達が存在した。
 普段モンスターと戦わない生産職のプレイヤー達や、海路を使ってほとんど戦わずに第2の港町までやって来た初心者プレイヤー達だ。

 安全な旅がこんな大惨事になっただけでなく、逃げ出せると思った直後に発生した絶望的な状況。
 もう間に合わないと諦めるプレイヤーが出て来る中、逃げ出す道が出来た事で一端ダメ男の元へと戻っていた紙装甲が、エリアボスの攻撃を止めようと盾を構えて立ちふさがった。

 とは言え上空から降りて来る相手に盾を構えたところで余り意味も無い。
 焼け石に水かと思われたその時、紙装甲の肩に衝撃が走る。

 その瞬間、エリアボスを見る為に上空に向けていた紙装甲の視界に、黒い人影が映し出された。

 その人影は、地面を蹴って飛び上がり、更に前方に居た紙装甲の肩を蹴って飛び上がった黒フードのプレイヤーの姿だった。

 黒フードのプレイヤーは、エリアボスが地上にいるプレイヤーを鉤爪で斬り裂く直前に、真紅の大剣を縦に構えて鷹型エリアボスを斬り裂いていく。
 エリアボスの特徴である巨大な長靴のような足と足の(あいだ)を通り過ぎながら、鷹の身体を頭の後ろ辺りから縦に斬り裂いたことによって、鷹型エリアボスは絶命した。

 するとエリアボスは飛ぶためのコントロールを失った影響で、頭から地面に突き刺さってしまう。

 しかしそれでも急降下して来たときの勢いを殺し切る事は出来ず、草原の地面を抉りながら盾を構える紙装甲の元に向かっていく。
 紙装甲が鷹型エリアボスの巨体を盾で受け止めたことで、漸く誰も被害を受けずに鷹型エリアボスは沈黙した。

 鷹型エリアボスが地面を抉った事で起きた土煙が晴れて行くと、そこに着地していた黒フードのプレイヤーの姿が映し出されていく。

 道を斬り開き、エリアボスを倒した黒フードのプレイヤーを見ながら、唖然としている周囲のプレイヤー達。
 その中の1人であるシンが、その後姿を目に焼き付けながら小さく呟く。

 「やっぱり凄い……」

 オークの群れの外側から一部始終を見ていたマーセルも、多くのプレイヤーを救った黒フードの活躍を見て感嘆の表情を露わにしていた。

 「あれが謎のソロプレイヤーですか……」

 マーセルの呟きは、黒フードのプレイヤーの活躍を見ていた全ての人々の気持ちを代弁した一言だった。
 黒フード自身が名乗った訳では無い。
 しかしそれでも、あのプレイヤーこそが謎のソロプレイヤーだと、あの強さこそが、謎のソロプレイヤーである(あかし)だと、悠然と佇む彼の姿を見ながら、誰もがそう感じていた。
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