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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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87話 正義と悪

 モンスターの群れに囲まれつつある護衛集団内では、混乱の最中(さなか)逃げ出そうとするプレイヤーたちが存在していた。

 護衛集団などという(まと)まりのあるような名前をした一行(いっこう)であったが、あくまでも烏合の衆であり、一時的な協力関係でしかない。
 しかもその中には、スキル・メイク・オンラインの公式がスポンサーとなりプロゲーマーとなった、マーセルたちの生放送に出て注目を浴びたいだけの、野次馬のような連中も居るのだから尚更(なおさら)だ。

 そんな中、廃墟の一角から見下ろす形で見ていた聖の視界にも勿論、逃げ出しているプレイヤーたちが映っている。
 聖はその瞳に映る自己中心的な行動をするプレイヤーたちの中でも、特に面白そうな存在を発見し注意を向けていた。

 「あれは、あの時の子か」

 護衛集団を内外から襲撃している、真紅の鎧を着た犯罪者プレイヤーたち。
 そんな彼らに、始まりの町で現在着用している装備を与えた(のち)に出会った茶髪の少年――(ひかる)

 あの少年にも犯罪者プレイヤーたちと同じ装備を与えていたが、明らかに他の真紅の鎧を着たプレイヤーたちとは違い、サイズが小さい。

 そんな少年が一生懸命走って追いかけているのは、馬に乗った彼と同じ装備を身に着ける犯罪者プレイヤー。
 その犯罪者プレイヤーが追いかけているのが、護衛集団から逃げ出そうとしている2人の男性プレイヤーだった。

 何とも可笑しな状況だったが、面白い事になりそうだと笑みを浮かべた聖は、ヒーローになりたいと語っていた無垢な少年が、どう変化(・・)していくのか注目しながら、彼らの動向を追っていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「本当にあの中から離れて大丈夫なのか?」

 「あの中にいるよりも逃げたほうが良いに決まってるだろ。心配するな。木の上でやり過ごせばいいんだ」

 聖が注意を向けている4人の内、護衛集団から逃げ出した2人の男たちは、草原の中で(まば)らに生えている木々の内の1本に向かって駆けていた。
 彼らは護衛集団から離れた場所の木の上ならば、オークや豚の姿をした地上型モンスターからも襲われず、奇襲を仕掛けてきた真紅の鎧を着たプレイヤーたちからも、身を隠してやり過ごすことが出来ると考えていたのだ。

 そんな彼らが、息を切らせながら目的地である木の真下に到着し、互いに顔を見合わせて逃げ切ったことへの安堵からニヤリと笑みを浮かべたところで、背後から声が掛けられる。

 「久しぶりだな。クソ野郎共!」

 2人を追いかけていた馬に乗った真紅の鎧を纏ったプレイヤーが、彼らに追いついて声を荒げてきたのだ。
 後ろを振り向かずに一心不乱に走っていたことで、逃げ切ったと錯覚していた2人が勢い良く後ろを振り向き、威圧的に馬上から見下ろす真紅の鎧を着用したプレイヤーを見上げる。

 「久しぶりって?一体誰だ?」

 真紅の鎧を着たプレイヤーは、同じ色の兜を(かぶ)っている影響で、顔を窺うことが出来ない状態だった。
 しかし久しぶりだと声を掛けてきたということは、面識があるはずだ。
 つまり追われていた2人からしてみれば、声を聞いても誰だか思い出せない程度の相手でしかないということを、暗に相手に知らせてしまう愚かな行為を犯してしまっていた。

 「声だけじゃあ思い出せないか?……ならこれでどうだ!」

 ゆっくりと被っていた兜を両手で持ち上げて、深紅の鎧を着たプレイヤーが馬上で素顔を(さら)け出す。
 視界に映し出された黄色のウルフヘアをした青年の顔を見て漸く思い出したのか、2人の表情が一変した。

 「「宵月(よいづき)!?」」

 深紅の鎧を纏う青年の素顔を視界に収め、目を見開いて何度もマジマジと確認した2人を見て、黄色の髪色をした青年は憤怒の表情を浮かべながら、2人に剣先を向けて布告する。

 「バラン。トレイン。お前たち2人を殺しに来た!」

 ゲームの中とはいえ、相手を殺したいと思うほどの怒りを(いだ)宵月(よいづき)という名の青年。
 彼が2人の殺害を宣言したその時、もう1人の追跡者である(ひかる)が介入した。

 「待て!2人は俺が殺させない!」

 宵月(よいづき)とバラン、トレインの間に現れたヒーローを目指す少年の登場は、剣先を向ける宵月に向かい合い、バランとトレインには背を向ける形となっていた。

 「何だお前は?」

 いきなり場の空気を壊してきた少年に対して、当然とも言える問いかけをした宵月。
 その問いに、輝は胸を張って宣言する。

 「俺は正義の味方だ!」

 小さなヒーローの登場に、宵月は腹の底から笑い声をこぼし出す。

 「正義の味方?なら俺に味方しろよ。こいつらは俺を見捨てて殺した悪人だぞ」

 悪人だと思っていた相手から、まさかの守る筈だった2人が悪い奴だと言われて、輝は困惑を露わにする。

 「こいつらはな。パーティーメンバーだった俺を1人置き去りにして逃げ出し、見殺しにして俺の装備を奪っていった奴らだ!」

 「えっ?」

 「それだけじゃない。俺を間接的に殺した後は、また他の人間をパーティーに加えて同じように見殺しにし、そいつの装備を奪っていくようなクズだ。システムの穴をついて犯罪者プレイヤーにならない分、更に(たち)が悪い」

 宵月の説明を聞いて呆然とした輝が、後ろを振り向いてバランとトレインを見る。
 すると2人は輝まで敵に回られる訳にはいかないと、慌てて言い訳を口にし始めた。

 「あの時は仕方がなかったんだよ。逃げてたらいつの間にか宵月が居なくなってたんだ。お前もこのゲームをやってるなら分かるだろう?」

 「そうだって。ヤバいと思って逃げたら宵月が(はぐ)れただけなんだ」

 命乞いをするように自分たちは悪くないと言い張る2人。
 その必死さを見て輝は信じたくなってしまったが、宵月の怒気を露わにする表情を見ても、嘘を言っていないように感じる。

 「それにだ。どんな理由があっても人殺しは悪だろう?正義の味方なら俺たちを助けろよ!」

 バランの口から飛び出た何とも都合の良い言い分だったが、まだ正義と悪の定義を明確に定めることが出来ていない12歳の少年は、バランから発せられた言葉に反論することが出来なかった。

 どちらが悪でどちらが正義なのか。
 それともどちらも悪なのか、正義なのか。
 そもそも正義や悪なんて存在しないのか。

 12歳の少年は困惑して動くことが出来ないでいる。

 頭がパンクし放心状態で佇む輝を見て、邪魔されない内に()ってしまおうと、宵月が馬を2人に向かって走らせる。
 バランとトレインは逃げ出すために宵月に背を向ける形で駆けだすが、背後ががら空きの相手ほど楽に倒せる相手はいない。

 呆気なく追いつかれた2人は背を剣で斬り裂かれ、(うめ)き声を上げながら地面に倒れこむ。
 2人の前に回り込んだ宵月は馬から降りて切っ先を2人に向け、見下(みくだ)しながら嘲笑(あざわら)う。
 悪かったと謝りながら足元で縋って来る2人に蹴りを入れて、「今更遅い」と言葉を吐き捨てた宵月は剣を振るう為に腕に力を込めた。

 「報いを受けろ!クズども!」

 最後にバランとトレインを罵倒しながら2人の首を()ねたことで、宵月の復讐はここに完結した。

 その姿を振り返って見ていた輝は、結局どちらに加担することも出来ず、唯々(ただただ)立ち(すく)みながら、どうするべきだったのか考え続けていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「良い感じに壁にぶち当たっているね」

 一部始終を観察していた聖は、考え込んでいる(ひかる)に視線を向けながら、緩む頬を押さえきれずにいた。

 「相変わらずだな。お前は」

 その聖の姿を画面越しに現実世界から見ていた拍摩(はくま)は、呆れた声色で呟き溜め息を吐く。

 「そう言えば殺された2人が面白い事を言っていたね。どんな理由があっても人殺しは悪だと。拍摩。君の意見を聞きたいな」

 聖は戦場の変化(・・)――ではなく人の変化(・・)を見逃さない様に神経を研ぎ澄ませながらも、拍摩に問い掛ける。
 その質問に拍摩は暫く黙考(もっこう)し、自分なりの答えを見つけたのか口を開く。

 「殺しが容認されるようになれば自らも危険になるからか?」

 拍摩の答えを聞いて聖はフッと笑い「10点かな?」と呟き、再び拍摩に問い掛ける。

 「では何故戦争で人を殺した人間が英雄として崇められたりする?正義の味方やヒーローを題材にした映画や漫画、ドラマ等でも、悪人を殺せば称賛される。それは殺しを容認しているとは言えないかい?」

 聖から痛いところを突っ込まれ、拍摩は言葉に詰まってしまった。
 その後、彼は熟考(じゅっこう)していたが、結局返答することが出来なかった。

 無言のまま時が流れたことで、拍摩が理由を説明することが出来ないと判断した聖が、自らの持論を展開し始める。

 「重要なのは目的と、殺しが容認される場合と否定される場合の線引きだ。
 今回の目的は君の言う通り、大多数の人間が『殺しが容認されるようになれば、自らも殺される可能性が高まるから』と思っているからで間違いない。
 しかし殺しは種類によって、その可能性を減らす役割を果たすことがある。
 それは自らの属する集団、または自分自身を守る手段としての殺人だ。
 集団の単位は国なのか、家族なのか、はたまた人種なのか、それは時と場合によって様々に変化する。
 だから守られる側の集団はその殺しを称賛し、敵対する側の集団はその殺しを否定する。
 正当防衛とでも言うべきかな?」

 「お前の言い分だと目的が変われば線引きも変わるように聞こえるが……」

 「そうだね。例えば殺されることが正しい事だと説いている宗教があったとして、その思想に染まっている信者が集団の大多数を占めるなら、目的が『殺されること』に変わる。そうすれば正義と悪の線引きが変わるわけだ。
 殺しに来る人間が正義で、殺しに来ない人間が悪だという風にね」

 あっさりと拍摩の指摘を認めた聖に対して、拍摩は更に問い掛ける。

 「つまり殺人が正義か悪かは、自身の所属する集団の目的によって変わって来ると言いたいのか?」

 「そうなるね。もしその線引きを変えたいなら、その集団で自身の考える目的を多数派にするか、独裁者になるしかない。例え集団の大多数が否定する目的でも、それを押し付けることが可能なほどの力を持った独裁者にね」

 「じゃああの(ひかる)って少年が今回出すべき答えは何だったんだ?」

 漸く今回の騒動の当事者に話が及んだことで、聖は動けないでいる輝を視界に収めながら、言葉を(つむ)いでいく。

 「それは彼の所属する集団の目的、今回ならスキル・メイク・オンラインのプレイヤーの大多数の目的。つまり『自らが死なない可能性を高める事』だね。
 そうなると、復讐した宵月(よいづき)の今後次第になる。彼が犯罪者プレイヤーのまま、復讐の対象者以外の他プレイヤーまで殺すのならば、3人とも殺して少しでも弱体化させて、彼らに殺される可能性を低くすることが、集団にとっての正義になる。
 もし宵月が今後他のプレイヤーを殺さないなら、システムの抜け道を使って間接的に他プレイヤーを殺していた2人を共に成敗することが、正義だったと言えるかもしれない」

 「明確な答えは変動するって事か……」

 「人は0か1を求める物だけど、確実な答えは存在しない。だからこそ面白いんだよ」

 クスクスと笑う聖を拍摩は画面越しに見ながら、腕を組んで溜め息をこぼす。

 「言いたいことは理解できるが、あの子にはお前のような考えに至る事は難しいんじゃないか?」

 「どうだろうね。彼がどう変化(・・)するのかは、とても興味深い」

 聖が目を細めて悩む輝を見た後に、他の場所にも視野を広げていくと、看過(かんか)できない存在を視界に収める。

 「あれは……」

 聖の呟きを聞いて、腕を組んでいた拍摩が腕を(ほど)き、キーボードとマウスを操作して聖の視界の先にある物体をモニターに映し出した。

 「馬に乗るプレイヤーか?あのまま1人でオークの群れに突っ込むなんて無謀だな」

 愚かな行為だと鼻で笑う拍摩とは対照的に、聖の表情は晴れない。

 「どうした?お前がそんな難しそうな顔をするなんて珍しい」

 訝し気に拍摩が問い掛けると、聖は目線を護衛集団の内部に移し、困ったように苦笑した。

 「拍摩。(じん)に撤退するように伝えてくれ。謎のソロプレイヤーが現れたと」

 「何だと!?あれがそうなのか?」

 聖の言葉を聞いて、慌てて拍摩が再び馬で突撃する黒いプレイヤーをモニターに映す。

 「お前が言う最重要人物か。まさかゲームの製作者じゃなく、(ただ)のプレイヤーを挙げるとは思わなかったから、あれには驚かされた」

 「おそらく彼がスキル・メイク・オンラインを手に入れる上での最大の障害になるはずだ。だからこそ早めに彼を止める為にも、例の件が可能になるようにして欲しい」

 「分かった」

 短く返答した拍摩には、例の件が何なのか見当がついているようだ。
 そんな拍摩の返事を聞いた聖は、直ぐに廃墟の屋上から下りるべく歩き出す。

 「仕方がない。皆が逃げる為の時間稼ぎをしてあげないとね……」

 階段を下りながら呟いた聖は、イレギュラーが混ざった事で本来の目的の一部しか完遂出来ていない事を残念に思いつつも、仕方がないと割り切って前を向く。

 「君には大人しくして貰わないとね。零」

 最後に謎のソロプレイヤーの本当の名前を告げた聖は、妖しい笑みを浮かべて廃墟の陰に姿を消していくのだった。
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