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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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83話 内外

 8月5日水曜日、午前7時30分。

 闘技場のある第2港町にて、出入り口の1つである北門に、大小大きさの違いがある馬車を含めた数千のプレイヤー達が集合していた。

 彼らの目的は北門から生産職プレイヤー達の乗る馬車を守りながら、馬の名産地である第2の村を目指すことだ。

 「もう集まったのか?」

 「はい。漸く集まりました」

 その中の1人である鉄次が、この集団の実質的なリーダーとなっているマーセルの元に歩み寄り呆れ混じりの声色で尋ねると、彼は苦笑しながら頷いた。

 昨日、鉄次が一華にメールした時点では、ゲーム内で太陽が昇り出す8月5日の午前5時00分にここへ集合しているはずだった。
 しかしその後早すぎるという反対意見が出た為、午前7時00分に変更になったのだ。

 そして現在の時刻は午前7時30分。
 本来なら予定通り7時には出発するはずだったのだが、遅刻するプレイヤーや急遽参加しないプレイヤーが相次いだことで、30分ほど遅れが出てしまっている。

 それでも漸く出発できる準備が整ったようで、予定通りこの集団で最も強いプレイヤーである鉄次とリヒトを先頭に動き始めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 「この人数でこのまま進めばゲームをクリア出来そうな気がしますね!」

 順調に歩を進める生産職プレイヤー護送集団の中で、列の最後尾に居る彩矢が笑顔で声を出す。
 兄であるシンの隣に陣取っているのは変わらないが、当初の緊張からオドオドしていた頃と比べると、段々と雰囲気が柔らかくなっている。
 何よりも大きかったのは、年齢も割りと近い女の子である恵麻がパーティーメンバーに入ったからかもしれない。

 今までは中年のオッサン、素顔を見せない全身アーマー、そして実の兄と、男だらけのパーティーだっただけに、心強い部分もあるのだろう。

 「そうなってしまうと賞金が稼げなくなってしまいますよ」

 「あっ!そうですね……」

 ダメ男が苦笑いになりながら、暗に彩矢とシンの目的が果たせなくなることを指摘すると、彩矢も気づいたらしく少し落ち込んでしまう。
 するとその空気を壊すように、もう1人の少女である恵麻が、余り無い胸を張りながらニヤリと笑う。

 「私が居ればこんな人数が居なくてもクリア出来るわ」

 まさにドヤ顔とはこのことかと言わんばかりの表情に、今度は彩矢が苦笑してしまう。
 恵麻は彩矢を勇気づける為に言ったのか、それとも本気で言っているのか、普段が自信たっぷりな言動なので判断がつかないのだ。

 すると恵麻の言葉に、シンがある1人のプレイヤーを思い出してポツリと呟く。

 「零さんならクリア出来るのかな?」

 「レイ?それは誰?」

 ジロッと睨み付けるように質問してきた恵麻に、シンは多少たじろぎながらも誰なのか説明しようと口を開く。

 「えっと……。僕がダメ男さん達と出会う前にソロでやってた時、助けてくれた人だよ」

 「ふ~ん……。そんなに強いの?」

 「うん!始まりの森の中でブルーウルフってモンスターに襲われた時に、一瞬で倒しちゃったんだ」

 そのシンの発言を聞いて、ダメ男はブルーウルフは夜にしか出ないモンスターだったことを思い出す。
 そして夜の始まりの森に入ったほとんどのプレイヤーが殺されたことで、夜は街から出ない方が良いという現在の風潮が出来上がったことも、同時に頭に(よぎ)った。

 「そのレイという人はソロプレイヤーだったんですか?」

 「はい。ソロだって言ってました」

 「それならもしかしたら、そのレイという人が謎のソロプレイヤーかもしれませんね」

 半分冗談でダメ男が告げると、シンは「はい!そうだと思います!」とまるで間違いないと断言するような笑顔で嬉しそうに肯定した。
 その子供特有の純粋な表情を、微笑ましく見ていたダメ男の顔が急に切り替わる。

 「恵麻さん!避けて!」

 「えっ?」

 ダメ男が必死に叫んだ瞬間、恵麻の背中から心臓を剣が貫く。
 そして叫んだ当人のダメ男も、背後から剣の横払いによって首を斬り飛ばされそうになっていた。
 しかしダメ男は腕を上げることでガードし、首を斬られることは免れる。
 それでも剣の(やいば)によって(よろい)ごと腕の半分まで斬られてしまった。

 「チッ。ミスったか」

 ダメ男の背後で舌打ちをした男は、今度は逆側から剣を横払いする。
 しかしその攻撃は隣に居た紙装甲の盾によって防がれた。

 「おい!失敗したら逃げろと言われてるだろ!早く逃げるぞ!」

 恵麻を剣で貫いたもう1人が声を荒げて、ダメ男を攻撃している男を叱りつけると、叱られた男は舌打ちをしながらも、ダメ男たちから離れる為に走り出す。

 「一体何が起きて……」

 まだ現在の状況に頭が追い付いていないシンが、小さく呟きながら呆気に取られている中、奇襲で殺された恵麻が蒼い粒子になりながら消えていく。

 (恵麻さんは救えませんでしたか……)

 完全に消え去った恵麻を見ながら、ダメ男が悔しそうに顔を顰める。

 そもそも何故ダメ男が、背後で突然攻撃してきた男たちに気付けたのか。
 それは彼がマーセルに殿(しんがり)を任されていたからだった。
 ダメ男は与えられた任務を果たすべく、背後を常に警戒していたのだ。

 だからこそ恵麻や自分に対して剣で攻撃してきた男の姿が見えたのだった。

 「……どうする?」

 隣に居る紙装甲から発せられた声によって、ダメ男は現状の把握をするために辺りを見渡す。
 護衛集団の中では、自分たちの他にも襲われたプレイヤーが居るのか、混乱状態になっている。
 極めつけにモンスターの大群が、この護衛集団を包囲するように、自分たちを襲った深紅の鎧を着たプレイヤー達によって、連れて来られている真っ最中だった。

 (中と外、両方からの奇襲ですか……。一体誰が……)

 事前に準備しておかなければ不可能な状況。
 この事態を引き起こした犯人やその目的を考察したかったが、今はそれどころではないと頭を切り替える。

 「私たちは自分たちの役割を果たしましょう。殿として後方から来る敵を防ぎます。それと私は利き腕が使い物になりません。戦力にならないと思ってください」

 血が滴り落ちる右腕を、清潔な白い布で包帯のようにグルグルと巻いて止血しながら指示を出す。 
 直ぐに頷いた紙装甲と、まだ困惑しながらも「「はい」」と答えたシンと彩矢を見て、ダメ男は護衛集団の中に目を向ける。

 (()かくまずは自分たちの足元を固めないと、この状況を打破できません。マーセルさん。頼みますよ)

 この護衛集団のリーダーであるマーセルに対して、無茶な要求だと分かりながらも心の中でエールを送る。
 そして自分は戦えない分、この混乱を収める為に尽力しようと、近くの味方に声を掛け始めた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「不味(まず)いですね……」

 縦に長い列になっている護衛集団の中心で、集団の前後で距離が広がらないように、列から離れて指示を送っていたマーセルが、険しい表情で呟く。

 先ほどまでマーセルもダメ男たちと同じように、深紅の鎧を着たプレイヤーに襲われたが、列から離れ常に前後左右を確認していたため、問題なく返り討ちにすることが出来ていた。
 パーティーメンバーである他の3人も、上手く(しの)いだようで、マーセルの指示を仰ぐためにこちらへと向かって来ている。

 「おい!ヤバいぞ!どうするマーセル!」

 慌てて駆け寄って来たガッザの問い掛けに対して、マーセルは大和とゼオンが集まって来るまで黙殺し、全員が集まったところで口を開く。

 「同士討ちを避けるために、各パーティーで点呼を取らせて、一塊(ひとかたまり)になってもらいましょう。あとソロプレイヤーは列から離れて私のところに集まるように伝えてください。最後に各プレイヤーは疑心暗鬼になっているはずですから、攻撃してくる者以外は怪しくても自分たちから攻撃しないように厳命を」

 淀みなく指示を出すマーセルの言葉を聞いて、焦っていた3人が段々と落ち着いて行く。
 これからやることが明確になったこともあり、表情もしっかりとした物へと変わっていった。

 「ではガッザが中央を、ゼオンは左、大和は右でそれぞれ指示を出しに行ってください」

 「「「了解!」」」

 最後に場所を指定された3人は勢い良く返事をして、それぞれの位置に向かって走り去って行った。
 その後姿を見ながら、マーセルは深く溜め息を吐く。

 (まさかスポンサーが付いて初めての放送で、こんなことになるとは……)

 最強プレイヤー決定戦の後に、マーセルとガッザ、ゼオン、大和の4人は、スキル・メイク・オンラインの運営側から接触され、街の外でも撮影できる権利を貰っている。
 そしてその初仕事となるのが、現在進行形で放送されている生放送だった。

 撮影をしているのは運営側で、撮影方法は4人をそれぞれ頭上後方からの見下ろす形になっている。
 俗に言うTPS【サードパーソン・シューティングゲーム】と呼ばれる視点での撮影だ。

 どのくらいの人数が視聴しているかは、ゲーム内に居る4人には伝わっていない為、ログアウトしてからでないと分からない。

 しかし今回の、生産職プレイヤーの護送を放送すると、前日に公式で告知した際、護送される側のプレイヤーも、する側のプレイヤーも、急遽(きゅうきょ)参加したいと言い出した人間が多発した所為(せい)で人数が跳ね上がった状況を見る限り、視聴している人数もそれなりに居るはずだ。

 (ここで対応をミスしてしまうと、私たちの評価が大きく下がる……。それは何としても避けなければ)

 マーセルは被害を最小限に抑えるべく頭を悩ませながら、指示通り自分の元へと集まってくるソロプレイヤー達に対して、護送集団を包囲するように迫ってくるモンスターの群れと戦ってくれないかと、協力を要請し始めていた。
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