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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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81話 従順

 資金を稼ぐために零が向かったのは、闘技場のある第2の港町へと続く南側の草原ではなく、まだ足を踏み入れたことの無い北側の草原だった。

 (北側の草原には舗装された道があるんだな……)

 第2の港町から馬の名産地である第2の村までは、道という道は存在せず、モンスターたちが彼方此方(あちこち)に点在していたが、草木が引き抜かれ、土の地面へと舗装された北側の道は、暫く歩いていてもモンスターが襲ってくるどころか、草原にその姿さえ見えてこない状態だった。

 (確認できるのは鷹らしきモンスターだけか)

 零は上空を飛ぶ鷹を警戒しつつ、モンスターが襲ってこない現状について仮説を立て始める。

 (おそらくこの道は人間の縄張りだと、モンスターたちは認識している。人間はモンスターにとって天敵の一種だ。リスクを犯して縄張りに侵入して来ないのかもしれないな)

 このまま歩き続ければ何時(いつ)か新しい町か村に辿り着くかもしれない。
 しかし今回の目的は資金を稼ぐことだ。
 向こうから来ないなら自ら敵地に飛び込むしかない。

 (行くか)

 決めれば即行動。
 零は舗装された比較的安全な土の道から、モンスターの縄張りになっているであろう草原の中へと足を踏み入れた。


◆◇◆◇


 草原の中は、生えている雑草の長さが足首を覆われる程度で、視野は充分に確保できる状態だった。
 南の方角を見ると、第2の村まで続く川が流れているため、もし来た道が分からなくなっても川沿いに歩いていれば帰れそうだ。

 視界に映る景色の中には、短い雑草たちと相反したそれなりの高さの木が生えているが、数は疎らな為よく目立っている。
 飛んでいる鷹たちが羽を休めるべく、所々にある木を拠点に活動しているのだろう。

 (漸くか)

 周囲の状況を把握しながら歩いていた零の視線の先に、遂にモンスターの姿が映りだす。
 それは茶色い毛並みをした馬たちが、リカオンの群れから必死に逃げている光景だった。

 リカオン――別名ハイエナイヌと呼ばれる彼らは、黄色がかったオレンジと黒の斑模様(まだらもよう)をした短く粗い体毛で覆われた食肉類で、全長は76~112センチメートルとそれほど大きくはない。
 しかしリカオンは、骨を噛み砕くほどの頑丈な歯と、顎の力強さで獲物を絶命させる能力を持っている。

 (20頭以上はいるな)

 集団で狩りをするリカオンは、馬と同程度の速度で走行するため、逃げている5頭の馬たちも中々振り切れていないようだ。
 人間では到底追いつけない速さであるため、零はリカオンと戦うのは諦めて他の獲物を探そうかと思案していると、彼の存在に気付いた馬たちが方向転換し、零に向かって突っ込んできた。

 (俺に擦り付ける気か……)

 リカオンたちの標的を零に変えるために突撃してきた3頭の馬を視界に収めながら、零は他人事のように「頭が良いな」と小さく呟き、背負っている真紅の大剣に手を掛ける。

 馬たちがこのまま突っ込んで来れば零は踏み殺されてしまう。
 それを防ぐために、大剣の切っ先を馬たちに向け恐怖心を与える事で、馬たちが左右に分かれるように誘導する。
 案の定、大剣の切っ先に突き刺さる前に、左右に分かれた馬たちが通り過ぎて行くのを見送りながら、その後に間髪入れず突っ込んできたリカオンに向かって大剣を横払いした。

 前に居た5頭の馬の影響で、直前まで零の姿が見えていなかったリカオンたちは、急に目の前で振り払われた大剣に対応することができず、正面に居た6頭が斬り裂かれ絶命する。

 仲間が殺されたことで零に狙いを移したリカオンたちが足を止め、零を囲むように展開し始める。
 その間に逃げていた馬たちの姿は見えなくなってしまった。

 (大剣だと厳しいか……)

 重さによって速さが犠牲になる分、15頭はいるリカオンたちに対応しきれないと判断した零は、大剣を目の前の地面に突き刺し簡易的な盾にすると、深紅のブロードソードを取り出しながら勢い良く振り返る。

 振り返った先には、左右から両足と両腕、更には首を噛み砕こうと突撃して来た5頭のリカオンを確認することが出来た。
 後ろは大剣によって防がれている為、現状逃げ場が無い。

 (正面だな)

 そこで零は、飛び掛かって首を狙って来た真ん中のリカオンに活路を見い出した。

 空中に居るリカオンを、ブロードソードの腹の部分を上から斜め下に叩き付けて、進路を無理やり変更させる。
 その行為によって作り出された逃げ道に向かって走り出すことで、左右から迫るリカオンたちの攻撃も回避した。

 前方に走って噛みついて来たリカオンをかわした零は、後ろに控えていた2頭を斬り裂いて絶命させると、再び地面に突き刺した大剣のある位置に向かって動き出す。
 そして約20~30kgほどの体重であるリカオンを、突き刺さっている大剣の刃に向かって蹴り付けて斬り裂くことで、息の根を止める。

 更に地面に突き刺した大剣を上手く盾代わりにし、時には攻撃に使うことでリカオンを掃討していくと、ついにリカオンは残り5頭となった。
 すると零を倒すことは不可能と認識したリカオンたちが、そそくさと彼の前から逃げ出して行く。

 その姿を一瞥した零は、そのまま視線を上空へと向けた。

 (またか)

 零が呆れた様に目を細めて見つめる先には、空を飛んでいた鷹2頭が、漁夫の利を得ようと自身に向かって急降下している光景だった。
 以前にも同じことがあったと、その光景を思い出しながらブロードソードを構える。
 すると今度は、前回と違い急旋回し零から遠ざかって行った。

 (俺が迎え撃とうとしたからか?)

 今回は前回と違う種類の鷹型モンスターだったのか、それとも自分が傷一つ負っていないからなのか、正確な理由は結局のところ分からなかったが、一様に猪突猛進してくるわけではないことを頭に入れて、零は倒したリカオンの剥ぎ取りを開始した。

 剥ぎ取りを終えるまでの間、零は再び鷹が襲い掛かって来ないか警戒していたが、最後まで向かってくることは無かったので、次の獲物を探すことに意識を切り替えて再び歩き出す。

 すると探索を再開して直ぐに、先ほどと同じ状況に直面する。
 逃げる馬と追いかけるリカオン。
 違いがあるとすれば頭数が少ないことだろうか。

 馬3頭に対してリカオンは12頭、前と比べれば半分程度だった。

 (1頭1頭は強くない。連携を取られる前に先手を取って全滅させるか)

 リカオンのスピードは脅威だが、攻撃のタイミングを合わせればカウンターにもなる。
 それが実行できれば相手がスピードに乗っている分、通常よりも大きなダメージを期待することができる。
 そして自分にはそれができる力があると、零は自負していた。

 (まずはこちらに注意を向ける)

 アイテムボックスから投擲用の真っ白な槍を取り出した零は、走っているリカオンの群れの中の先頭に居る個体に狙いを定めて、進路を予測し槍を投げつけた。
 低い弾道で飛んで行った槍は、先頭を走っていたリカオンの横っ腹に突き刺さり絶命させる。
 先頭のリカオンは時速60km近いスピードで走っていた影響で勢い良く転がってしまい、後続の3頭ほどを巻き込んでしまった。

 巻き込まれず難を逃れたリカオンたちが、槍が投げ付けられた方向に頭を向けて零の存在を視認する。
 追い掛けられていた3頭の馬たちも零の存在に気づき、リカオンたちを擦り付けようと零に向かって進路を変更し始めた。

 その3頭の馬たちを追うように、怒ったリカオンたちが零に襲い掛かって来る。

 零は真紅の大剣の切っ先を地面につけながら斜め横に構え、馬が通り過ぎた後に突撃して来たリカオンが間合いに入った瞬間、思いっきり振り抜く。
 前方に居た5頭を一度に切り裂くと、そのまま遠心力を利用しながら回転斬りを行う。
 1周と半分回転すると、後続から突っ込んで来たリカオンを含めて、全滅させてしまっていた。
 (はた)から見れば、まさしく一瞬の出来事と言えるだろう。

 (この剣の切れ味のお陰だな)

 最初にリカオンと戦闘した時に、彼らが斬りやすいことは確認済みだったが、何よりも武器の切れ味に助けられたのは言うまでもないことだった。
 大剣を背中に背負いなおしながら、心の中で良質な武器を作ってくれたダインに感謝していると、後方から馬の鳴き声が聞こえてくる。

 (何だ?)

 零が疑問符を浮かべたような表情で後ろを振り向くと、恐る恐るといった様子で先ほど逃げていた3頭の馬が近づいてくる。
 そして零との間合いを詰めると、頭を擦り付けるように零の身体に寄せてきた。

 (どういうことだ?)

 頭を差し出してくる3頭の馬を順番に撫でながら、何故前回と違い今回は懐かれているのかを思案し始める。

 前回と今回の大きな違いは、自発的にリカオンの注意を自身に向けたこと。
 そして馬たちが逃げて視界から消える前に、リカオンを殲滅しきったことだ。

 そこまで思い浮かべて、零は1つの結論に行き付く。

 (もしかするとこいつらは、俺の(そば)に居れば安全だと思っているのかもしれないな)

 天敵を排除し尚且つ自分たちには刃を向けなかった自身の姿を見て、守って貰えると考えたのならある程度の納得が出来た。

 (さて、こいつらをどうするかだが……)

 取りあえず倒したリカオンたちの剥ぎ取りを行いながら、後ろで控えている3頭の馬たちの今後について考え込む。
 このまま連れて行っても今までのリカオンの数を見れば多勢に無勢。
 自分自身は問題無くても、馬たちを完璧に守り切る事は零でも難しい。

 そして既に零は馬を2頭買ってしまっている。
 現状これ以上馬は必要が無かった。
 更に生きている生物はアイテムボックスに入れられない。
 正直ついて来られても困るのだ。

 そうこう考えていると、1つのアイデアが浮かんでくる。

 (馬を買う事が出来たなら、売る事も出来るのか?)

 今回の目的はゲーム内での資金集め。
 もしこの懐いた馬を売る事が出来るなら、資金の足しになる事は間違いない。

 (取りあえず行ってみなければ分からないか……)

 剥ぎ取りを終えた零が立ち上がって第2の村の方向へと歩き出すと、しっかりと彼の後ろを3頭の馬がついて来る。
 その光景に零が苦笑いを浮かべていると、上空を旋回しながらリカオンの死骸を横取りしようと狙っていた鷹たちが去って行く姿が見えた。
 すると周りに敵意を持つモンスターが居なくなったのか、零の元にメールの着信音が響き出す。

 (何だ?)

 零が素早く内容を確認すると、そこにはスキル【挑発】を入手したと書かれていた。
 そのまま詳しい効果を認識するために、零はスキル一覧を開いてその項目で目で止める。

 【挑発】
 《敵モンスターから狙われやすくなる》

 (相変わらず簡潔な説明だな……)

  入手条件は何だったのか、どの程度狙われやすくなるのか、どの程度の範囲で有効なのか、詳しい説明は一切ない不親切な説明文を見つめながら、軽く溜め息を吐く。

 (説明が完全に無いよりはマシか)

 不親切なゲームシステムに慣れて来たのか、毒されたのか、受け入れている自分を可笑しく思いながら、零は第2の村に向かって川沿いに歩いて行った。
+注意+
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