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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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73話 ギブ&テイク

 ゲームからログアウトした零は、東京駅出発~名古屋駅到着のリニアモーターカーに乗車しているところだった。
 既に大都市間でリニアモーターカーが開通した事により、現代では東京駅から名古屋駅まで僅か40分で行けるようになっている。

 だからこそ零はギリギリまでスキル・メイク・オンラインをプレイすることが出来ていたのだ。

 そんな零は現在リニアモーターカーの座席でスマートフォンを操作し、スキル・メイク・オンラインの公式サイトを開き、見ていなかった最強プレイヤー決定戦の決勝トーナメントの映像を見ていた。
 面白そうな相手は居ないかと(くつろ)ぎながら探していると、左手に持っていたスマートフォンがバイブレーションし出す。
 それはメールの着信を知らせる為の物だった。

 (ダインからか)

 受信画面を開いて確認すると、確かにダインからメールが来ている。

 そもそも何故スマートフォンにゲーム内から直接メールを送ることが出来るのか、それはカプセル型ゲーム機の外側についているパソコン、またはゲーム内のメニューから設定を変更することで現実世界にあるパソコンや携帯電話にメールを送受信することが可能になっている為だった。

 (出来るかどうか試したいから時間が欲しい……か)

 ダインから来た内容を心の中で復唱した零は、予想していた通りの内容に小さく頷く。
 そして(あらかじ)め考えておいた内容を打ち込んでいく。

 『もし作れそうなら、最終的には俺がモンスターの素材を持って行くから、それを使って作ってくれ』

 簡潔にまとめた内容をダインに送信すると、零のスマートフォンの画面を操作し切り替えて、再びトーナメント戦の映像を見始めた。


◆◇◆◇


 零から馬車を作ってくれというメールを受け取ったダインは、早速馬車をどうやって作ればいいのかメニューからインターネットに接続して調べていた。

 便利なことに、ゲーム内でもメニュー画面からネットで調べたいことを検索できるからこそ可能なことだった。
 そもそもとして、ほとんどのプレイヤーは鍛冶経験など無いのだ。
 それなのにいきなり何の知識も無く始めても無理なことは自明の理。

 もちろんチュートリアルで簡単なやり方は教えて貰えるが、それだけでは全くと言っていいほどに知識も経験も足りない。
 だからこそ多くのプレイヤーがネットで調べるのだが、その中には間違った情報も載っている。

 そんな情報の海の中から自分に必要な物を見つけなければならない。
 情報を自己の目的に適合するように使用できる能力、つまり情報リテラシー能力も生産職プレイヤーは大きく試されていると言えるだろう。

 (取り合えず今あるもので何とかなりそうだ)

 調べ終えたダインは参考になりそうなネットのページを閲覧しつつ、馬車を作ることに決める。

 (まずは小さい試作品から……)

 いきなり実用性を考えた大きさの物を作ると、時間も金も掛かるため失敗した時のリスクが大きい。
 その為ダインはまず動作が確認でき、尚且(なおか)つ小さすぎて作業が難しくならない程度の大きさの馬車を作ることに決める。

 (固定具はボルトの方がいいね)

 釘ではなくボルトを固定具として主に作成することにしたのは、耐久性を考えてのことだ。
 馬車で町の外を移動すれば間違いなくモンスターに遭遇することになる。
 その時に簡単に馬車が壊れてしまうと、運んでいたアイテムの多くをその場で捨て去ることになるのは容易に予想できる。

 ならば多少の手間が掛かっても耐久性を重視した物を作るべきだと考えたのだ。

 そして実際に馬車の作成に入っていく過程で最も困ったのが、ボルトを作成することだった。
 手作業で均等な大きさのボルトを鉄から作り出すのは、まだ難しい。

 今回は試作品の馬車の大きさが小さかった為、ボルト自体も小さくなってしまい余計に難しくしてしまった側面があったが、大きい馬車を作ることで生じる時間的なロスを考えれば充分許容範囲だった。

 (スキルで多少楽になっている状態でこれじゃあ駄目だね……)

 ダインの言っているスキルとは、彼が装備しているスキルの1つである、鉄を削りやすくする【鉄削り】のスキルのことだ。
 戦闘時には効果が出ない制約の付いた生産職向けのスキルではあったが、その恩恵は計り知れない。
 しかしだからこそ自分の技量が足りていないことを痛感させられる出来事と言えた。

 (何としても完成させないと)

 急に作ったことも無い物を作れと言われても文句を言うことなくダインが取り組む理由は、まず大前提として物作りが好きということが1つ目にある。

 2つ目はお互いの関係がギブ&テイクな関係だと理解しているからだった。

 零は彼の正体を隠すと言う約束を守り、尚且つ腕の良い鍛冶師を探していた。
 そしてダインは彼の武器や防具の性能を最大限に発揮させ、賞金を獲得できるような力のあるプレイヤーを待っていた。

 この内の1つでも相手に欠けていれば、お互いに違う相手を探していたと断言できる。
 零なら違う鍛冶プレイヤーを、ダインなら零を特別な存在として扱わず1人の客として扱っていただろう。

 (私の腕が彼の力に見合わない物と思われては困る)

 ダインは20歳の大学2年生。
 政府の少子化対策によって高校までは学費を含め無料で進学することが出来たが、大学からはお金が掛かる。
 その学費を稼ぐためにも、生活費を稼ぐためにも、零に離れて行かれるのは困るのだ。

 (大学も学費が無料になれば良かったんだけどね……)

 実際に大学の学費が無料になりそうな出来事もあった為、ダインが溜め息を吐いてしまうのも無理はないことだった。

 新しい少子化対策という政策を掲げた当時の政府が、大学を含めた全ての学費を税金で負担し子供を育て(やす)くするという物を提案していたからだ。
 しかし結局のところ多くの反対意見があり、高校の無償化までで手を打つことになる。

 具体的な反対意見は『高校を卒業してそのまま就職する子供に対してはどうするのか』『専門学校や短大に行く子供はどうなるのか』『大学は学部によって金額が大きく変わるし、更に元々の学費が高い。子供を産んでいない国民からも税金が出ているのに、子供を産んでいる国民との差が余りにも大きすぎる』といった物だった。

 実際約9割ほどの人間が進学する(なか)ば義務教育と化している高校に対して、大学の進学率は5~6割程度だ。
 どうしても公平にすることは難しく、無償化が無くなってしまったのも無理もない事だった。

 最後にダインが文句を言うことなく取り組む理由の3つ目は、単純に力ある者に褒められること、認められることが嬉しいという純粋な気持ちがあるからだった。

 零の戦闘をする姿を実際に見たのは、船の上でハーヴェストと名乗るプレイヤーと戦っている場面だけだが、それだけでも充分に彼が強い男だと認識するのに事欠かなかった。
 実際に何度も1番でエリアボスを零が倒している事実を、エリアボス討伐報酬の賞金を受け取っているダインが1番良く知っているという面もある。

 更に彼はあの年齢で落ち着きもあり、カリスマ性も感じさせている。
 だからこそ彼に認められたいという承認欲求が湧いてくるのだ。

 (期待に応えないとね)

 ダインは以上の様々な理由から、零の希望に応えるべく作業を続けて行くのだった。
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