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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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70話 地図

 8月3日午前5時。

 いつもよりも意図的に早く起きた零は日課のトレーニングを済ませ、スキル・メイク・オンラインに接続するためのカプセル型ゲーム機に入り、中のベッドに横たわっていた。

 何故零が早めに起きる必要性があったのか、それはスキル・メイク・オンラインにログインする時に零のアバターが降り立つ場所に問題がある為だった。
 ログイン時に降り立つ場所は幾つかの例外を除いて、基本的にログアウト時の場所に再び降り立つ仕組みになっている。
 つまり零が今からログインして降り立つ場所は、町の中とはいえ鉄次と決闘をした場所のすぐ近くになる。

 しかも町の外に出る為の外門のすぐ近くだ。
 時間帯によっては大勢のプレイヤーが居ることが予想される場所で、幾らログイン時に服装を変更できるとは言っても、謎のソロプレイヤーではないかと疑いの目を掛けられる可能性を否定できなかったのだ。
 そういう理由から、零は日中に予定があることも考慮して、結局人が少ないであろう早朝にログインすることを決めたのだった。


 ゲームを起動し零がロングフードと武器を外した状態でログインすると、確かにプレイヤーの数はそれなりに居たが、元々入れ替わりの激しい外門の前という事もあってか、特に怪しまれることはなかった。

 (取りあえず一安心だな)

 用心し過ぎたかとも思ったが、危機管理を疎かにして痛い目を見るよりもマシだと結論付けて(かぶり)を振る。
 すると一安心したことで余裕が出てきたのか、お腹が空いていることに気が付いた零は、食事をする為に歩き出すのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 適当な店で食事を終わらせた零は、前々から必要だと思っていた物を買いに行くために町を散策していた。
 零がゆっくりと歩きながら左右を見渡して歩いていると、一軒の雑貨屋が目に入ってくる。
 欲しい物があるかどうかの確認をするためにも、零は取りあえずその店に入ることにした。

 「いらっしゃい」

 零が扉を開けて店の中に入ると、薬品と思われる商品が置かれている棚と相対していた店主と思われる男が、零に振り返って声を掛けて来る。
 その姿を視認した零は、せっかく店員が近くに居るのだからと目当ての商品が有るかを尋ねることにした。

 「1つ聞きたいんだが、地図は置いてるだろうか?」

 「あるよ。こっちだ」

 短く肯定の答えを返した店主に誘導されながら店の中を歩いていくと、紙の地図が広げられた状態で置かれていた。

 「最近地図を探しているお客さんが多くてね。売れ筋商品なんだ」

 嬉しそうに語る店主の言葉通り、実際に地図は多くのプレイヤーが買いに来る人気商品の1つだった。

 何故多くのプレイヤーが地図を買おうとするのか。
 それはメニューで見る事の出来る地図は、あくまでも町中のみというゲームの仕様の為だ。
 町の外まではメニューの地図では描かれていないからこそ、これから進む場所を決める上でもこの世界の地理を知ることの出来る地図を零は必要としていた。

 「この世界地図の右半分は何故情報量が少ないんだ?」

 幾つか置いてある地図の中でも、一際(ひときわ)大きな世界地図を零は指さして店長に問いかける。
 すると店長の表情は先ほどのニコニコ顔から険しい物へと移り変わった。

 「大陸の右半分は敵の領土だからな。交流が無いから情報量が少ないんだ」

 「敵?モンスターの領土なのか?」

 「いや、人間の領土だよ。ブレン帝国っていう国だ。最近まで休戦していたんだが、また戦が始まってね」

 店主から聞かされた情報に、零は一瞬顔を顰める。
 このゲームのクリア条件は、何処かに存在する魔王の撃破だったはずだ。
 古典的で分かりやすいクリア条件だが、目の前に居る店主を含めたNPC達の人工知能の高さがこのゲームをより複雑にしている。

 NPC同士の争いがゲームの製作者の意図的な物ではなく、高度な人工知能を持ったNPCをこの世界で生活させていった結果として、現実世界の人類の歴史と同じように国が生まれ戦争が起きていると言うのなら、これからはNPCも敵になる可能性が高いと考えるべきだからだ。

 そこまで想像したところで、零は町の外の風景を思い出して口を開く。

 「それにしては平和だな」

 町の外にモンスターが徘徊しているとはいえ、戦争をしているとは思えないほど町の中は落ち着いている。
 そんな状況で戦争をしていると言われてもピンと来ないものがあった。

 「前線からは遠いからな。ここは安全なんだ」

 「しかしこの地図が正しいなら海から侵入してくるんじゃないか?」

 目の前にあるゲームの中の世界地図は、現実世界の世界地図とかなり酷似していた。
 アフリカ大陸、ユーラシア大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸の4つが繋がったような形の世界地図は、現実世界で言う太平洋や大西洋から海を渡って来れるように思えたのだ。

 「それは無理だな。海には危険なモンスターが生息している。陸沿いには比較的安全な航路が幾つか存在するが、海を渡ってここまで攻めて来るのは自殺行為だ」

 陸にモンスターが存在するのに海にはモンスターが存在しないと考えるのは余りに楽観的だ。
 そこまで頭が回らなかった自分自身を恥じながら、零は再び店主に問い掛ける。

 「なるほど。じゃあ何故最近まで休戦していたんだ?何か理由があるのか?」

 「ああ。当時の文献では2百年くらい前に突如としてモンスターが現れたらしいんだ。それによってお互いに戦争どころでは無くなってしまったんだよ。だから最近まで休戦状態だったんだ。
 この町も昔はもっと大きかったらしい。覆われている壁の外に出れば分かるが、隙間から雑草が生えてはいるが舗装された石畳になっているはずだ。カビが生えてボロボロになっている家も疎らに存在する。
 それらは昔モンスターが現れて壁を作るまでオレたち人間が生活していた跡なんだそうだ」

 人工知能を持ったNPCと動植物だけだったこのゲームの世界に、なぜ製作者はモンスターが現れるようにしたのか。
 零が頭の中で考察して行き付いた結論は、ゲームとして世に売り出すための措置という物だった。

 しかし何故最初からモンスターとNPCを共存させなかったのかという疑問が頭に浮かんでくる。
 初めからゲームとして売り出すつもりならば、そうする方が自然なはずだ。

 そう考えると製作者は、始めはゲームとして売り出すつもりが無かったと想像することも出来た。

 では何故ゲームとして売り出す気になったのかという疑問が新たに生まれて来る。
 しかしその疑問は幾ら考えても製作者本人に()いてみなければ分からない領域だった。

 「安全に生活する為に町の一部を放棄して壁を建てたのか。休戦した理由も分かった。最前線はどこらへんか分かるか?」

 「だいたいこの世界地図の真ん中あたりだな。今君の居るこの町が左下の大陸の先端あたりだ」

 店主は最前線の場所を現実世界で言うロシアとアメリカの国境辺りを指さし、零の現在位置を南アフリカ共和国がある辺りを指さした。

 「ここから最も近い町は?」

 「ここだな。第2の村だ。放牧を主に収入源にしている村で、特に馬の名産地になっている。あんた冒険者だろう?なら馬や馬車は必要になってくるはずだ。ここを目指すと良い」

 「色々と為になる情報を貰って助かった。取りあえずこの地図は買わせてもらう」

 「毎度あり。良かったら他にも欲しい物があるか見て行ってくれ。オレはカウンターで仕事してるからよ」

 カウンターへと戻って行く店主を見送った後、零は有益な情報を教えて貰った対価も兼ねて、傷薬なども数点購入して店を後にするのだった。
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