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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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68話 周知される事実

 闘技場の中心で仁王立ちして待っていたリヒトの前に、決勝戦の対戦相手である鉄次が鉄門から姿を現し近寄ってくる。

 「よう。やっぱりアンタと俺が決勝で戦うことになったな」

 「そのようだな」

 「さて、以前宣言させて貰った通り、アンタは俺が倒させてもらうぜ」

 「それはワシとて同じこと。勝たせてもらうぞ」

 挑発的に投げ掛けられたリヒトの言葉を鉄次は軽く受け流しながらも、刀を構えて戦闘態勢を整える。
 その姿を見たリヒトがファイティングポーズを取った事で、いつ試合が始まっても問題ない状態になっていた。
 周囲の喧騒の中、2人の目は座っていき、相手の存在だけに意識を集中させていく。
 どちらが勝つのか(ざわ)つく観客の声も届かない。
 ただ試合開始の合図だけが、彼らを動かすことの出来る唯一の音になっていた。

 お互いが武器を構えて緊迫感が高まっていく中、とうとう試合開始の鐘の音が鳴り始める。
 その合図と共に2人は同時に動き出し、ジリジリとお互いの距離を詰め寄り始めた。

 リーチは刀が武器である鉄次の方が有利。
 そのため2人の距離が刀の届く範囲に入った瞬間、先手を取ったのは鉄次だった。

 刀を振り下ろすと見せかけて胴を薙ぎ払い、リヒトの身体を真っ二つにしようとする鉄次。
 それをリヒトは見切って盾でガードし、踏み込んで距離を詰めて左と右でワンツーを繰り出した。

 それを鉄次に避けられると、今度は巧みな足捌きで側面を取ろうと動き出す。
 しかし鉄次も負けてはいない。
 リヒトの動きについて行き、隙を見せない。

 最初のゆったりとした動きが何処に行ったのかと思うほどに、お互いが動き回る高速の戦いになっていた。
 一進一退の攻防は、お互いに決定打を与える事が出来ずに膠着する。

 しかしそれを、リヒトが打ち壊した。
 彼が戦っている最中に足を入れ替えてサウスポーに変えたため、リヒトの右のジャブを距離感の違いから避けることが出来ず、鉄次は咄嗟(とっさ)に刀を顔の高さまで上げて無理な形で防いでしまったのだ。

 その綻びをリヒトは見逃さない。

 がら空きになった腹に向かって、斜め下から突き上げる強打――スマッシュを放ったのだ。
 避けることも防ぐことも出来ないと判断した鉄次は、右足を軸に身体を回転させ始める。

 鉄次の身体が動いたことでリヒトの放ったスマッシュは腹を貫通することは無く、深く斬り裂くまでに(とど)まる。
 そのため鉄次は腹から大量の血を流してしまうが、構うことなく刀を返すと、身体を回転させながら思いっきり左足を踏み込み、リヒトの背中から心臓を貫いた。

 「クソッたれが」

 心臓を貫かれたことで口から吐血しながら、リヒトは自身の敗北を悟り断末魔を口にする。
 そして次の瞬間、鉄次の前に勝利の2文字が現れた。

 『試合終了~。最強プレイヤー決定戦の優勝プレイヤーは、鉄次選手!』

 実況の宣言と共に、観客席から歓声が沸き起こる。
 大音量の歓声を聞きながら鉄次は刀をリヒトから引き抜くと、段々と治っていく深く斬り裂かれた腹を見ながら苦い顔をしていた。

 「まさか俺が負けるとはな」

 いつの間にか意識を取り戻していたリヒトが、悔しそうに顔を歪めながら小さく呟くと、鉄次が彼に向き直り口を開く。

 「いや、先に死んだのは君だったが、ワシもこのまま血が足りなくなって死んでいただろう。死ぬのが遅いか早いかの差でしかなかった。引き分けだ」

 「負けは負けでしかない。俺が先に死んだ。それが全てだ」

 鉄次の慰めに近い言葉を、首を横に振りながら否定したリヒトは、闘技場の外に出るために歩き出す。
 そして闘技場を後にするリヒトと入れ替わるように、実況をしていた男が鉄次の元に歩み寄ってくる。

 『優勝おめでとうございます。名実ともにスキル・メイク・オンライン最強プレイヤーとなった今のお気持ちを聞かせて戴いても構いませんか?』

 マイクを鉄次に向けて質問をしてくる実況の男に、鉄次は試合が終わったばかりなのに節操がないなと苦笑いを浮かべながらも、ある事実を今見ている全ての人々に伝えるために口を開く。

 「確かにワシが優勝したが、ワシは既につい先ほど真剣勝負をして負けている。なので最強プレイヤーはワシを倒したそのプレイヤーが名乗るべきだろう」

 それはまだ数時間前に起こった出来事、実際にその場にいた野次馬たちと、騒動を知った一部の人間しか知らない事実。
 だからこそ、その事実を知らない大勢のプレイヤー達を驚愕させるのに充分な爆弾発言であった。

 『貴方が既に負けているですって?いったい誰が貴方を倒したのでしょうか?』

 「相手の本当の名前は知らないが、多くのプレイヤーから謎のソロプレイヤーと呼ばれているらしい」

 謎のソロプレイヤー。
 その名前を知っている観客たちが更に騒めき立ち、中にはその場でネットに接続し検索を始めるプレイヤーも出てきている。

 「ワシはそのプレイヤーと戦う際、負けたらこの大会の賞金を受け取らないと約束をした。システム上受け取れなくなっているはずだ」

 『少々お待ちください。上に確認を取らせていただきます』

 実況者はそう言うと鉄次から少し距離を取り、マイクを切って誰かと通話しているようだった。
 そして確認し終わったのか再び鉄次に近づくと、神妙な面持ちになりながら口を開く。

 『確かにそのような契約がなされているそうです。1位の賞金は無しで2位以下のみ賞金が授与されることになるそうです』

 実況者が強張った表情をしてしまうのも無理はない。
 最強プレイヤー決定戦などという大層な大会名であるにも関わらず、肝心の最強プレイヤーがいないと言っていることに等しいからだ。
 鉄次は実況者の複雑そうな表情を見つつ、向けられたマイクに声を吹き込む。

 「今度もし同じような大会を開くことがあれば、是非名前を公開しなくても参加できるようにして欲しい。そうすれば彼も出てくるかもしれない」

 鉄次の発した【彼】と言うのは、言うまでもなく謎のソロプレイヤー【零】のことを指している。
 そしてもし運営が同じような名前の大会を今後開くなら、鉄次の提案を受け入れるしかないだろう。
 今現実にこうして名前に恥じた大会になってしまったのだ。
 観客からしてみれば興冷め以外の何者でもない。

 『興味深いご提案ありがとうございます。ご提案された内容がそのまま採用されるかは分かりませんが、検討はされるはずですので乞うご期待を。以上、優勝した鉄次選手へのインタビューでした』

 これ以上色々と提案されては堪らないと言いたげに早々にインタビューを終わらせた実況者は、表面上ニコニコしながら去っていく。
 それでも謎のソロプレイヤーに面子を潰されて恥ずかしい思いをしているのは、隠しようの無い事実だった。

 そのまま実況席に戻った実況者の男は、解説の男と短く会話を交わすと、大会の終了を宣言をする。

 長かったのか短かったのか、半日を費やした最強プレイヤー決定戦はここに終わりを告げ、またスキル・メイク・オンラインはいつもの日常に戻っていく事となった。
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