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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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66話 ダメ男

 30分間の休憩時間も終わりを告げ、準々決勝が開始されようとしていた。

 『お待たせいたしました。最強プレイヤー決定戦の決勝トーナメント、準々決勝第1試合を始めたい所なのですが、第1試合の出場選手である恵麻選手が棄権したため、鉄次選手の不戦勝となりました!』

 実況から発せられたいきなりの衝撃的な結末に、観客席が(ざわ)めき立つ。 
 先ほどの試合では相手から一撃も攻撃を受けていないのだから、観客が驚くのも当然と言えるだろう。
 一体どんな理由で棄権したのかと誰もが疑問に思いながら、次の試合までの間、もしも黒髪をツインテールにした少女が鉄次と戦っていたら、どちらが勝っていただろうかと、始まることのない試合について観客は想像しながら話し合っているのだった。


 そんな騒ぎを起こした張本人である恵麻は、闘技場の外をキョロキョロしながら誰かを探しているかのように歩いていた。
 そして目的の人物を見つけたのか急に走り出すと、短い黒髪を短髪にした優しい顔つきの男の子の前で、仁王立ちして立ち止まる。

 「見つけた!」

 「えっ!?」

 恵麻に急に声を掛けられて驚いた声を発したのはシン。
 彼は決勝トーナメントには進めなかった為、パーティーメンバーであるダメ男と紙装甲を応援するべくゲーム内から公式サイトにアクセスし生放送を見ていたのだが、今騒ぎを起こしている張本人が目の前に現れたことで目を白黒させていた。

 「お兄ちゃんの知り合いなの?」

 シンの右隣でベンチに座り、彼と共に生放送を見ていたシンの妹である彩矢が2人を交互に見ながら尋ねると、まだ状況が呑み込めていないシンに代わり、恵麻が答えるために口を開く。 

 「知り合いよ。ちょっと貴女の兄に用事があるんだけど良いかしら?」

 「えっ!?はい。あたしは大丈夫ですけど……」

 彩矢は急に尋ねられたことで尻込みしながらも肯定の答えを返す。
 するとその答えを聞いた恵麻はチラッとシンの左隣を見て、再び彩矢に問いかける。

 「フルアーマーの人は貴女たちのパーティーメンバー?」

 「はい。パーティーメンバーです」

 シンの左隣で生放送を見ている紙装甲が、顔を上げて頷くことで彩矢の言葉が真実だと肯定する。

 「なるほどね。これで貴方に私の攻撃が全て避けられたのも少しは納得出来たわ……」

 最強プレイヤー決定戦の予選でシンと戦った時、一度も攻撃を当てられなかったことに納得出来ていなかった恵麻だったが、紙装甲という彼女が認める実力者とパーティーを組んでいたことで、納得出来ていなかった心に折り合いが付き始めていた。

 「えっと、何で君がここに居るの?何で試合を棄権してるの?」

 漸く言葉を発したシンは、まだまだ事態が呑み込めていないようで混乱した口調になっていた。

 「私がここに居るのは貴方に決闘を申し込もうと思って探していたから。試合を棄権したのは鉄次って人には勝てないと分かり切っていたからよ」

 アタフタしているシンとは対照的に冷静に受け答えをした恵麻に対して、ますます意味が分からなくなったシンは、更に問い掛け続ける。

 「決闘?試合を棄権して?勝てないって言っても君の実力ならやってみないと分からないんじゃないの?」

 「私は相手の実力が分からないほど馬鹿じゃないわ。圧倒的に向こうが格上だもの。決闘は貴方と予選で戦った時に結果に納得できなかったからだけど、今は少し納得したからもういいわ。それより私を貴方のパーティーに入れてくれない?」

 恵麻の口から最後に発せられた急な申し入れに、シンと彩矢は目を見開いて驚く。

 「自分のパーティーに許可を取らなくて良いの?」

 「私は今までソロでやって来たの。弱い人と組むつもりは無かったから。でも貴方たちなら入ってもいいと思ったから聞いたのよ」

 「理由は分かったけど、僕もパーティーに入れて貰った側の人間だから、ダメ男さんに確認を取らないと……」

 「ダメ男さんって、もしかして決勝トーナメントに出てるあの?」

 「うん」

 「ますます入りたくなったわ。じゃあ試合が終わって戻ってくるまでここで待つわね」

 有無を言わさずに恵麻は彩矢の隣に腰を下ろし、自分も公式サイトにアクセスし生放送を見始める。
 その姿を見てシンは軽い頭痛を覚えながら溜め息吐き、ダメ男さんに全て任せようと頭の中で割り切って試合に意識を移していった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 恵麻が棄権して1回戦が不戦勝になった闘技場では、第2試合に移行していた。

 2回戦の出場選手である沙織と闘技場の真ん中で相対するのは、190cmある長身に、短髪の茶髪、更に無精髭(ぶしょうひげ)を生やしたダンディーな男――ガッザだった。

 彼は斧を肩に担ぐように武器を構えながら、沙織の目に自分の視線を合わせる。

 「お嬢ちゃん。棄権する気は無いか?」

 「ありません」

 いきなり負けろと言ってくるガッザに驚きながらも、冷静に否定の言葉を返す。

 「そうか。あんまり女の子を痛めつけたくは無いんだが、仕方ないな」

 瞼を閉じて悲しい口調で言葉を発したガッザが、ゆっくりと目を開いた瞬間、そこには獲物を狙う肉食獣のような威圧感が漂っていた。

 (怖い……)

 沙織が本能的に恐怖心を感じてしまったのも無理はない。
 現実で本気の殺意を受けることなどまず有り得ない。
 しかし今こうしてガッザからゲームとはいえ本物の殺意を間近で受けている。

 こうして沙織が完全に委縮してしまっている中、試合開始の鐘の音が鳴り始める。

 恐怖心から一瞬反応が鈍った沙織が弓を構えて弦を引くが、ガッザの動きには躊躇が無い。
 直線上に沙織へ詰め寄るのではなく、右に左にジグザグに動き、フェイントを織り交ぜることで沙織に的を絞らせないでいる。

 2射ほどガッザに向かって矢を射るが、どちらも当たることは無く避けられてしまった。

 「悪いねお嬢ちゃん」

 完全に斧の届く範囲まで接近したガッザが、謝りながら斧を斜めに振り下ろした。

 「っ!!」

 首と肩の間を深く斬り裂かれた沙織は、片手で傷口を抑えてしゃがみ込んでしまう。

 「負けを認めるかい?」

 ガッザから見下ろされて勧告された沙織は、自分が手加減されていたことを悟った。
 本当なら頭から真っ二つにされていても可笑しくは無かったのだ。

 「降参します……」

 これ以上やっても勝つことは出来ないと判断した沙織が降伏したことで、ガッザと沙織の戦いは短時間で決着がつく事となった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 沙織とガッザの2人が闘技場から退場したことで、準々決勝第3試合ダメ男対マーセルの試合が行われようとしていた。

 「その盾、1回戦の時とは違いますね」

 ダメ男の対戦相手であるマーセルが、全身を覆い隠せるほどの大きさの盾を装備しているのは1回戦の時と変わってはいない。
 しかし盾の面の部分が決定的に違っていた。
 盾の面が棘になるように加工してあったのだ。

 「貴方は強いですからね。本気の装備にさせてもらいました」

 マーセルから自身の実力を認める発言が口にされたことで、ダメ男は内心とても喜んでいた。

 ダメ男はマーセルの事をスキル・メイク・オンラインを始める前から知っている。
 マーセルは元プロゲーマー。
 現実の世界で大会に出たりネット上の番組に出演することも多々あったことから、スキル・メイク・オンラインと変わらない容姿をしていることも知っていた。

 マーセルは自分よりも年下であったが、ダメ男は彼の事を尊敬している。
 それは自分に無い物を持っているから。

 ダメ男は昔からネット上では力を発揮できる人間だった。

 電話越しやメールやチャットではスムーズに会話できるが、実際にリアルで会ったら口下手になって喋れない。
 ダメ男はそんな人間だ。

 ゲームは上手い。
 実際に大会には出ないが、ネット対戦では常に上位に居るほど強かった。
 対戦動画を投稿すればそれなりの数の人間が見てくれるほどには有名でもあった。

 しかし実際に会場に行って賞金の出るような大会には参加したことが無かった。
 4年前までは。

 4年前にたった一度だけ、大会に出たことがある。
 動画を見ているというファンの1人に煽てられ、SNSで大会に出ると告知し、実際に出た。
 しかし結果は惨敗だった。

 間違いなく本来の実力では勝っていたが、ネット越しではなく生の視線を観客が送ってくる環境で戦うと、緊張から本来の実力を発揮出来なかったのだ。
 その後ネット上で叩かれまくり、ダメ男のファンは居なくなってしまった。

 失意に落ちていた当時のダメ男は、プロゲーマーとして活躍する人たちが羨ましくて仕方がなかった。
 自分と違い彼らはネット越しでなくても自分自身に打ち勝ち、実力を発揮している。
 彼らが努力してその地位に居ることも分かっているし、緊張やプレッシャーに押しつぶされそうになることがあることも頭では理解している。

 しかしそれでも嫉妬してしまっていた。
 羨望していた。

 それからは大会に一切出ることはなく、結局サラリーマンをやりながら趣味でゲームをやっていた時、スキル・メイク・オンラインと出会う。
 スキル・メイク・オンラインを始めた時、ダメ男という名前にしたのも、自分がリアルではダメな男だという事を忘れないため、戒めの為に付けた名前だった。

 「光栄です。対戦よろしくお願いします」

 「よろしくお願いします」

 お互いに深く一礼し、武器を構える。
 すると戦闘態勢の整った2人を見て、試合開始の鐘の音が鳴り始めた。

 戦闘が開始されるが、今回は今までと違い静かな立ち上がりになった。
 2人ともジリジリと間合いを詰めていくため、中々武器が交わらない。

 そうしてゆっくりと間合いを詰める中、先手を取ったのはランスを装備するリーチの有利なマーセルだった。

 マーセルからの鋭い突きがダメ男を襲う。
 一直線に顔面へと向かってくるランスを、ダメ男は冷静に丸盾で弾いてガードした。
 そしてそのままマーセルの左手に持つ盾とは反対側に向かって走り出す。

 (回り込むつもりですか……)

 堅実に弱点を突いて来ようとするダメ男に対して、マーセルは何とランスをその場に投げ捨てて両手で盾を持ち身体を90度回転させると、そのまま逆にダメ男に向かって突っ込んで行った。

 このままぶつかれば盾の棘によってタダでは済まないダメ男は、丸盾で身体に接触しないようにガードして事なきを得る。
 しかし全身を覆うほどの盾が目の前に迫ったことで、マーセルの姿を見失ってしまった。

 すると次の瞬間押し合っていた盾が急に軽くなり、ダメ男は前のめりに倒れそうになる。
 こうしてバランスを崩してしまったダメ男を見逃さず、マーセルは盾の陰から姿を現して腰に差していたナイフを抜き取りダメ男の首を()っ斬った。

 『勝者マーセル選手!』

 実況の言葉と共に勝利の2文字がマーセルの前に表れ、ダメ男の傷が回復していく。
 時が経ち傷が治ったダメ男は、マーセルに対して向き直り、ずっと質問してみたかった問い掛けをするために口を開いた。

 「1つ聞いても良いですか?」

 「何でしょうか?」

 「貴方でも緊張はしますか?」

 首の傷が治ったダメ男からの問いかけに、マーセルは不思議そうに首を傾げ、答えを口にする。

 「緊張しますよ。人間ですから」

 極々当たり前で、誰だって持っている感情。
 しかしそれをコントロールできるマーセルと、出来なかったダメ男。
 出来なかったからこそ、本当に人前で堂々と話すことの出来る人は緊張するのかと疑ってしまうこともあった。
 しかし本人から直接答えを聞いたことで、少し安心する。
 緊張してしまう自分は間違っていないのだと。

 「そうですか。答えて戴き感謝します。対戦ありがとうございました」

 「納得して戴けたなら良かったです。こちらこそ対戦ありがとうございました」

 マーセルは腑に落ちないといった表情を見せるが、無理に詮索することは無く踵を返した。
 ダメ男も同じように踵を返し、歩き出す。

 戦いでは負けたダメ男だったが、ネット外での自分を克服するためのちょっとした勇気を手に入れたことで、その足取りは軽くなっているようだった。
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