挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

73/134

65話 挫折

 仰向けに倒れていた一華も闘技場から去り、次の試合が始まろうとしていた。

 『お待たせいたしました。準備が整いましたので1回戦第6試合に移ります。まず登場するのは予選キル数6位。堅実な防御と的確な攻撃で危なげなく敵を駆逐する男。ダメ男選手!』

 どっぷりと出ている腹に合わせて作られた鎧を身に纏った、下半身太りのオッサンプレイヤーであるダメ男が、緊張からか恐縮した様子でペコペコと闘技場内に居る観客に向かって頭を下げながらフィールドを歩いて行く。

 『続いて登場するのは予選キル数11位。美しい槍捌きで今日も敵を薙ぎ払うのか。リア選手!』

 対するリアは特に観客の歓声を気にすることもなく、堂々とフィールドの中央へと歩いて行った。

 「よろしくお願いします」

 フィールドの中央で2人が対面すると、すぐさまダメ男が丁寧に頭を下げて挨拶をしてきた。
 その姿を見たリアも失礼の無いように頭を下げる。

 「よろしくお願いします」

 リアが下げた頭を上げて再びダメ男に視線を向けると、彼の表情は先ほどのオドオドしていた物とは打って変わり、凛々しい表情に変わっていた。

 (あがり症なのかと思ったけれど、そういう訳では無さそうね)

 武器を構えるダメ男の姿には、緊張も動揺も感じられない。
 どっしりと構えているという表現が、最もしっくり来る物だった。

 リアも彼に続くように槍を構えて戦闘態勢に入り2人の準備が整うと、試合開始の鐘の音が鳴り始める。

 まず動いたのはリア。
 槍の届く範囲まで間合いを詰めると、リーチを生かしてダメ男の剣が届かない位置から槍を振る。
 その攻撃をダメ男は丸盾で上手く弾き、反撃することなく所定の位置に盾を戻した。

 (このままリーチを生かして倒させてもらうわ)

 リスクを最小限に抑えるため、相手の攻撃の届かない位置から怒涛の攻撃を仕掛けるリア。
 しかしフェイントを織り交ぜても背後や側面を取ろうとしても上手く行かず、全てダメ男に弾き返されてしまう。

 (はた)から見ればリアが押しているようにしか見えないが、彼女は攻撃すれば攻撃するほどに焦りが出てきていた。

 (まだ一撃も与えられて無い……)

 かすり傷一つ与える事が出来ない状況を前に、打開策を練るが上手くいかない。
 幸いな事を1つ上げるなら、相手が反撃を一切してこない事。 
 自らの織りなす連続攻撃によって、ダメ男は防御に徹さざるを得ないように見える事だった。

 「えっ?」

 そう思ってしまったからこそ――いや、そう思わされていたからこそリアに隙が生まれた。
 ダメ男に向かって槍を横払いしようとした瞬間、彼が間合いを詰めてきたのだ。

 今の今まで距離を詰めて来なかったダメ男が急に動いたことで、意識が完全に攻撃一辺倒になっていたリアの不意を衝く形になる。

 横払いする槍の先端ではなく、間合いを詰めたことで棒状の部分をダメ男は盾でガードする。
 更に次の瞬間、ダメ男が右手に持っていた剣をリアの首に突き付けたことで、2人は静止した。

 「降参してくれますか?」

 剣を首筋に突き付けながら勧告してくるダメ男に対して、リアは甘い人だと少し呆れる。
 だからと言ってこれ以上抵抗するつもりも無かった。
 本来なら今突き付けられている剣で首を斬り裂かれ完敗していたのだから。

 「降参よ……」

 リアから力なく呟かれた一言により、ダメ男の前には勝利の2文字が表示される。

 『試合終了~!リア選手が一方的に攻めているように見えた戦いでしたが、何と一瞬で形勢が逆転!見事ダメ男選手が勝利を収めました』

 結局お互いに傷一つ付くことなく決着した一戦は、何とも呆気なく終わったのだった。

 (こんなにもあっさり終わるなんて……)

 もっと自分は出来ると思っていたからこそ、リアは自分自身への失望が大きかった。
 1つ前の試合で、彼女の親友でありライバルでもある沙織が1回戦を突破していたことも、彼女の失望に拍車を掛ける要因になっている。

 「納得できていないようですね」

 歯を食いしばり落ち込んでその場から動かないでいるリアに向かって、ダメ男が話しかけて来た。
 その言葉に反応したリアは、俯いていた頭を上げてダメ男に視線を向ける。

 「貴女の方が技術的には優れていました。しかし貴女は私が攻撃して来ないと油断していた。貴女の最後の攻撃である槍での横払いですが、大振りになっていたことに気づいていますか?」

 ダメ男からの指摘を受けてハッとした表情になるリア。
 その顔を見て、ダメ男は彼女が気づいていなかった事を察する。

 「攻撃が段々と雑になっていました。最初はそんなことが無かった事を考えると、原因は精神的にムラがあったからだと思います。技術を磨くことも大切ですが、精神力を鍛えることも大切です。――私も今、その壁に当たっています……」

 「えっ?」

 精神的に成熟しているようにすら見えるダメ男から呟かれた最後の一言に、ついリアは反応してしまう。

 「貴女はその見た目通りならまだ若い。これから幾らでも変わる事が出来ます。月並みなことしか言えませんが、頑張ってください」

 彼女から発せられた驚きの呟きをダメ男は意図的に無視し、激励の言葉を送って闘技場を後にした。


◆◇◆◇


 『1回戦も残り2試合。そろそろベスト8が出揃います。その座を賭けた1回戦第7試合が始まります。まず予選キル数7位で突破。身軽な動きで敵を翻弄し鮮血に染め上げる。大和(やまと)選手!』

 門が開くと、真っ赤な髪をツンツンに立てて、皮製の防具に身を包んだ青年の姿が映し出される。

 「すげ~!マジで観客で埋まってるよ!」

 予選とは違い観客に見守られながら闘技場のフィールドに入場したことで、大和は興奮した様子で、辺りを見渡しながら歩いていく。

 『続いて出てくるのは、予選キル数10位!その可憐な容姿とは裏腹に容赦なく敵を粉砕する。恵麻(えま)選手!』

 黒髪をツインテールにし、黒を基調としたレース、フリル、リボンに飾られた華美な洋服、俗に言うゴスロリと呼ばれるファッションに身を包んだ可愛らしい少女は、一見闘技場の真ん中に向かって優雅に歩いているように見えるが、両手に持っている武器が全てを台無しにしていた。

 メイスと呼ばれる、打撃部分の頭部と柄を組み合わせた合成棍棒の一種である殴打用の武器が、手の動きに合わせて揺れていたのだ。

 右手に持っているメイスは、球型柄頭(つかがしら)(とげ)が放射状に取り付けられた形になっており、俗に言うモーニングスターと分類される武器になっている。
 一方、左手に持っているのは出縁型柄頭のメイス。
 横から見れば菱型(ひしがた)をしているこのメイスは、軽量化と衝撃の集中の両方を狙った構造になっている。

 「あぶねえ武器を使うんだな……」

 闘技場の真ん中で向かい合った2人の内、大和がおっかなびっくりといった様子で恵麻に呟いた。
 恵麻はその呟きに対して意味ありげに微笑み返して武器を構える。
 大和もその姿を見て臨戦態勢に入ると、試合開始の鐘の音が鳴り始めた。

 大和の戦闘スタイルは、とにかくその軽装備を生かして素早く動き相手を翻弄すること。
 相手の攻撃を避けることを前提にした物になっている。

 そのため攻撃はヒット・アンド・アウェイに徹している。
 接近して一撃を与えたら素早く後退する事を信条としているため、今回も例外なく一撃を与えるために恵麻へと接近して行く。

 動かずに待っている恵麻に剣を横払いにして一撃を加えようとした所で、予想外のことが起きた。
 大和が横払いした剣を、恵麻がテニスのバックハンドのような形で、左手に持っていたメイスを叩き付けて弾き返したのだ。

 「うおっ!?」

 驚愕から声を上げ、剣を弾かれたことでバランスを崩している大和に対し、今度はテニスのフォアハンドのように、恵麻は右手に掴んでいるモーニングスターで相手の横腹を(えぐ)る様に薙ぎ払う。

 「ガッ!!」

 モーニングスターの棘が突き刺さるだけでなく、元々の殴打力で骨に(ひび)まで入り、内臓を抉られたことで口から吐血しながら大和は(うめ)き声を上げる。
 その状態でも彼は諦めることなく、弾かれた剣を引き戻し、全力で恵麻を叩き斬ろうとしたが、左手に持っているメイスでガードされてしまう。

 そのまま恵麻はモーニングスターを引き抜くと、後ろに後退し追撃しようとはせずにその場に留まった。

 「何で止めを刺しに来ないんだ?」

 大和が荒い息を発しながら呟いた疑問に、恵麻は目線を彼の横腹に向けて答えを口にする。

 「さっき私がガードした攻撃……。正直もう貴方にはあんな攻撃をする余裕は無いと思っていたから驚いたわ。だから念のため待つことにしたのよ。そのまま出血多量で貴方が死ぬのを」

 恵麻の指摘通り、大和の横腹からはまるで蛇口から水が出てくるように血が溢れ出している。
 片手で抑えてはいるが、このまま待っていれば死ぬのは明白だ。

 実際、大和は段々と視界がぼやけて来ていた。
 焦点が定まらなくなり、身体を動かそうとしても思うように動かない。

 「こんな簡単に……」

 大和は意識が無くなる寸前に、自分自身の不甲斐無さからそう一言呟いて、うつ伏せに倒れていった。

 『試合終了~。勝者、恵麻選手!』

 実況の勝利宣言と共に、恵麻の眼前に勝者の2文字が映し出される。
 しかし彼女は興味無さげに踵を返し、闘技場から出て行くのだった。


◆◇◆◇


 倒れていた大和が闘技場から退場し終えると、実況がアナウンスを始める。

 『え~、1回戦最後の試合。キル数8位のゼオン選手と、キル数9位のハーヴェスト選手の試合ですが、ハーヴェスト選手が時間までに闘技場に現れなかったため、ゼオン選手の不戦勝になりました。これによりベスト8が出揃うことになりました!』

 最後は何とも拍子抜けなベスト8の決まり方であったが、会場はそれなりに盛り上がっている。
 それは何故ハーヴェストが闘技場に来なかったのかを話している(ざわ)つきの為だった。

 『準々決勝開始までの30分間は休息時間となります。試合開始まで今しばらくお待ちください』

 実況のアナウンスにより、闘技場で見ていた観客は一度ログアウトし始め、現実世界で生放送を見ていた人々もそれぞれ違う行動をし始めていた。

 そんな中、闘技場から出てきた大和の元にパーティーメンバーであるマーセル、ガッザ、ゼオンの3人が集まってきていた。

 「残念でしたね」

 マーセルが慰めの言葉を掛けると、大和は悔しそうに顔を強張らせて歯を食いしばる。

 「まあ仕方がありません。単純に実力差がありました」

 事実を淡々と述べるマーセルに、大和が噛み付く。

 「あれは油断してたからだ!相手を女の子だと思って侮ってた――だから負けたんだ!実力差はねえ!!」

 負けたことを素直に認めることが出来ない大和に対して、彼のライバルであるゼオンが呆れた表情をする。

 「何度やっても結果は同じでしょう。お互い初対戦の状況で、大和の初撃はメイスで合わされて弾き返されたんです。彼女は貴方の攻撃に自らの攻撃を合わせられるという自信が余程あったんでしょうね。」

 「……」

 「それに前から言っていたはずです。動きに無駄が多すぎると。今回は出す前に終わりましたが、大和本来のアクロバットなスタイルは、派手で見ている観客は楽しいかもしれません。しかし基礎が固まらない内に小手先の技に頼るのは良くないんです。今回の敗戦で少しは分かったでしょう」

 マーセルから諭すように言いつけられた大和は、先ほどまでの威勢が無くなり、黙って悔しそうに頷いていた。
 そして逃げるようにログアウトし、スキル・メイク・オンラインの世界から姿を消してしまった。

 「言い過ぎたんじゃないか?」

 ガッザが心配そうにマーセルに問い掛けると、彼は首を振ってその問い掛けを否定する。

 「良い機会です。同年代の子に大和が完敗したのはこれが初めてですからね。一度は挫折しておくべきでした」

 「このままゲームを辞めるかもしれないぞ」

 険しい表情で指摘したガッザの言葉に反応したのはゼオンだった。

 「大和の奴は辞めない。あいつの負けん気の強さは俺が1番よく知ってる」

 ゼオンは大和と小学生からの付き合いで、昔から何事に措いても争ってきた。
 今年で2人は16歳。
 つまりライバルになってから10年目。
 まだ短い人生ではあるが、ゼオンは大和と人生の半分以上を共にしてきた。

 「ゼオンもこう言っていますし、後は彼が立ち直るのを待ちましょう。どちらにしても彼には戻ってきて貰わないと困ります。これから更にゲームは難しくなっていくはずですから、信頼できるパーティーメンバーが必要不可欠です」

 マーセルとガッザはそれなりに長い付き合いだが、大和とゼオンの2人とはここ3年程とそれほど長い付き合いではない。
 マーセルとガッザの2人は元格闘ゲームのプロゲーマー。
 元になってしまったのは本人が弱くなったのではなく、新しく出た続編の格闘ゲームのゲーム性が悪く、人気が衰退してしまった為、自らの意思で辞めてゲーム関係の会社員になったためであった。

 その後趣味でFPS【ファーストパーソン・シューティングゲーム】をしている時、クラン【一定の目的を持つ者の集団】を作る上で仲間となったのが大和とゼオン。
 2人には若く才能があり、マーセルとガッザというプロゲーマーになったことのある2人に感化されたのか、2人ともプロゲーマーになりたいという夢を持つことになった。

 マーセルとガッザもプロに戻ろうと思っていたし、その上でプロになれるような人気と自分たちが楽しめるゲーム性のあるタイトルを探している内に、スキル・メイク・オンラインと出会った。
 初めてログインした瞬間からこのゲームに魅了され、今では強くスキル・メイク・オンラインでプロになりたいと思っている。

 「今はまだ町の中でしか撮影ができませんが、これから必ず安全地帯の外でも映像を残せるようになるはずです。その時までにとにかく結果を残しましょう」

 マーセルの中でのプロゲーマーの定義は、スポンサーと契約し生活基盤が保証された状態のことを指している。
 そのためにはスポンサーに契約する商品価値のあるゲーマーだと思われなければならない。

 脳裏に描く目標のため、3人は次の対戦相手との戦いに向けてそれぞれ集中し出すのだった。 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ