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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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63話 熱き心

 零が転校の準備を進めている間に時刻は15時になり、スキル・メイク・オンラインの世界では最強プレイヤー決定戦の決勝トーナメントが始まろうとしていた。

 『皆様お待たせいたしました。最強プレイヤー決定戦、決勝トーナメント1回戦第1試合、1人目の選手入場です!』

 予選と同じ実況担当の声が闘技場内に響き渡ると、客席に座っている観客たちから歓声が上がった。

 『予選キル数1位で突破。その刀で相手の厚い装甲を斬り裂くことが出来るのか?鉄次選手!』

 僅か1時間ほど前に零と戦い終えた鉄次が、闘技場の鉄製の門が開かれた先から姿を現す。

 (――ほう。予選とは違い闘技場が狭くなっている。さらに客席まで設置されているとは……)

 鉄次は闘技場の中心に向かって歩きながら周囲を見渡し、現実では考えられない出来事に驚嘆していた。
 ゲームだからこそ会場の広さや内装まで一瞬で変えられることは理解できるが、その光景を見て驚きと共に若干の気持ち悪さも覚えていた。

 現実にある生身とほぼ変わらない感覚を得られる身体で今この場に立っているのに、こんな事が可能ならばプレイヤーの心まで変えてしまうことが出来るのではないか。
 そんな疑問が頭の中に浮かんできたのだ。

 (幾ら考えても仕方のないことか……)

 自分に専門的な知識は無い。
 結局分からないことは幾ら考えても分からないのだと割り切ることにして、取りあえず心を落ち着かせる。

 それに例えこのネットゲームに居ることで心を変えられる可能性があったとしても、自分はもうスキル・メイク・オンラインを止めるつもりも無い。
 70歳を過ぎ老い先短いこの人生に置いて、最高の生き甲斐を見つけることが出来た。
 止めてしまえば後悔して死ぬことになるだろうことは分かりきっているのだ。

 (兎に角この戦いを楽しませてもらうとしよう)

 視線の先。
 これから相対するプレイヤーが出てくる鉄製の門に意識を傾け、鉄次は戦闘に向けて精神を集中させていく。

 『続いて対戦相手の入場です。予選キル数16位。名前と正反対と言っていい動く要塞。紙装甲選手!』

 実況の言葉と共に鉄次の正面にある門が開き、金属音を鳴らしながら全身フルアーマーの装甲兵である紙装甲が、闘技場の中心に向かって歩いていく。
 鉄次と少し距離をあけて立ち止まると、全身を隠してしまうほどの盾を持ち上げて、地面にめり込ませるかのように振り下ろす。

 闘技場のフィールドは土の地面になっているため、砂埃を上げてちょっとした煙幕のようになった。
 その砂埃を起こした本人は一切口を開くことは無いが、その佇む姿と行動から、鉄次を威嚇しているかのようであった。

 『さあ両者が揃いました。闘技場に鳴り響く鐘の音が試合開始の合図です!』

 実況が説明した後、静寂に包まれ少しの間が空く。
 そして次の瞬間闘技場全体に響き渡るほどの鐘の音が鳴り始めた。

 鐘の音を聞いて真っ先に動き出したのは鉄次。
 一直線に紙装甲に向かっていく。

 その姿を見た紙装甲は斧槍――ハルバートを地面と水平に構えて迎え撃つ。
 鉄次がハルバートの届く範囲に入った瞬間、ハルバートを突き出し鉄次の身体を貫こうとした。
 しかし身体を横にずらして避けた鉄次の足は止まらない。

 刀の届く範囲まで懐に侵入すると、ハルバートを持っている右腕側。
 つまり紙装甲の右横腹に刀を薙ぎ払った。

 紙装甲の鎧と刀の刃がぶつかり金属音が鳴り響く。

 (硬いな……)

 僅かに切れ込みが入っただけで鎧を斬り裂くこと出来ず、鉄次が一瞬苦い表情を作る。
 だがこれは紙装甲の装甲を斬り裂けるかどうかの言わば試し斬り。
 斬り裂けない場合も勿論想定はしていた。

 だからこそ紙装甲の反撃にも即座に対応することが出来る。
 既に腕を勢いよく引き始めている紙装甲は、ハルバートの斧の部分を鉄次に向け、死神の鎌のように鉄次を斬り裂かんとしている。

 腕の動きからそのことを察知した鉄次が、上体を下げ紙装甲の引き戻している右腕を(くぐ)ることで難を逃れる。
 そして身体の向きを紙装甲に向けようと片足を半歩下げると、右脇腹に痛みが生じた。

 「ぐっ!?」

 小さく呻き声を上げて驚愕に目を見開きながらも、自身の脇腹に目線を移す。
 脇腹が斬り裂かれ血が流れている光景が目に入り少し混乱状態になったが、脇腹の横に見える鉄製の棒を見て納得する。

 「柄の先端を槍のように尖らせているのか……」

 ハルバートの両先端を武器にしているから出来た芸当を前に、傷を負ってしまった鉄次は、紙装甲から離れるべくバックステップで後方に移動しながら小さく呟く。
 避け切ったと思った瞬間の予期せぬ一撃は、痛みを覚悟した上での物より何倍も利く。
 だからこそ鉄次は一度動揺した頭を冷やす必要があった。

 (追ってくるか)

 バックステップで後退している鉄次を追撃すべく、金属音を鳴らしながら走る紙装甲。
 しかし重量の差でバックステップでも鉄次の方が速いため、追いつくことができない。

 (剣道なら今の胴で一本を取り、ワシの勝ちになるはずなのだが……。いや――そう考えてしまう時点でスポーツ感覚から抜け出せていないことになる。これでは何時まで経ってもあの黒フードに勝つことは出来んか)

 ゲームとはいえ、これは殺し合い。
 スポーツでは無いのだと頭に言い聞かせる。
 自らの甘さを捨て、更なる強さを得るために。

 (関節部分か(かぶと)の隙間を上手く狙う必要がある)

 冷静になった頭で何処を狙うか組み立てて行く。
 そしてイメージが出来上がった瞬間、鉄次はバックステップで距離を取る事を止め、試合開始時と同じように紙装甲に突っ込んで行った。

 しかしながら試合開始時とは1つ違うことがある。
 それは紙装甲も鉄次に向かって走って来ているということ。
 お互いが接近するスピードは先ほどの比ではない。

 そんな中、先に武器のリーチが長い紙装甲のハルバートが先手を取る。
 突き出されたハルバートの斧とは逆にある尖った出っ張り部分が、懐ではなく外側に避けた鉄次の腕を掠め、鮮血を噴き出させる。

 けれども不意打ちを食らった前回とは違い、今回は痛みを覚悟していた状態だ。
 だからこそ鉄次は走るスピードを落とさない。
 肉を斬らせて骨を絶つ。
 そう言わんばかりに刀を突き出した。

 「くっ!」

 珍しく声を上げたのは紙装甲。
 鉄次の刃が紙装甲の肉体に届いたのだ。

 その場所は指の関節。
 どうしても隙間が出来やすく薄い装甲になり易い箇所を的確に突いたことで、紙装甲は痛みで少しの間ではあったが、突き出したハルバートを無理やり引き戻すような握力を失うことになった。
 それを好機と言わんばかりに、鉄次は視界を得るために開いている兜の隙間に狙いを合わせ、刀の切っ先を無理やり向ける。

 万事休すかと思われたその瞬間、咄嗟に紙装甲は左手の盾を刀に向けて薙ぎ払った。
 その行動により、盾の側面で刀を弾く事に成功し軌道をずらす。

 2人はそのまま交差し背を向け合う形になったが、反転するのが早いのは勿論軽装備の鉄次。
 刀を水平にし低空飛行させ、装甲の薄い膝裏を薙ぎ払うことに成功する。

 そして膝裏を斬り裂かれた紙装甲はバランスを崩し、アーマーの重さに絶えられず砂埃を上げながら仰向けに転倒した。

 「ワシの勝ちだな」

 脇腹と腕から血を流しながらも、刀の切っ先を仰向けに倒れている紙装甲の兜の隙間に入れている。
 勝負あったと言える状態だった。

 「降参する……」

 紙装甲から呟かれた一言により鉄次の前に勝利の2文字が浮かび上がってきた。

 『紙装甲選手が降参したことで、鉄次選手が勝利しました~!』

 実況の言葉と闘技場に浮かぶ鉄次と勝利の文字に、それまで見入っていた観客が歓声を上げる。
 そんな拍手と歓声の中で、決闘の終わった2人の身体は見る見る治っていく。

 「いい勝負だった。ワシを1つ成長させてくれた。感謝する」

 刀を鞘に仕舞い紙装甲に鉄次が手を差し伸べる。
 紙装甲は声を発さなかったが、頷いて鉄次の言葉を肯定し、差し伸べられた手を握り引っ張られながら身体を起こす。

 「また戦おう」

 起き上がった紙装甲が頷いたのを確認し、鉄次は入場したときと同じ門に向かって踵を返した。

 鉄次は開いていた門から闘技場の建物部分に入り、廊下のような道を歩く。
 すると選手控え室の横を通り過ぎ外に出ようとした所で急に声を掛けられた。

 「お疲れ様」

 鉄次が(ねぎら)いの言葉を投げ掛けて来た声の方へと顔を向けると、選手控室から1人の男が姿を現した。
 175センチメートル前後の身長に、短髪の青い髪をした30歳くらいの男は、ゆっくりと鉄次に歩み寄っていく。

 「君は?」

 「俺はリヒト。予選であんたに続いて2位だった男だよ」

 2位だったことが悔しかったのか、自身を知られていなかったのが悔しかったのか、少し棘のある声色で返答するリヒトだったが、鉄次は特に気を悪くした様子を見せずに落ち着いて口を開く。

 「そうだったか。知らなくてすまんな。予選を見返す時間がワシには無かったのだ」

 「知ってるよ。あの騒動の中謎のソロプレイヤーと戦っていたのを、動画でだが見させて貰ったからな」

 リヒトの発言に鉄次は少なからず驚く。
 黒フードと戦ったのは僅か1時間と少し前だ。
 それなのにもうネットに動画が上がっているというのは予想外だったのだ。

 「初対面でいきなり質問して悪いが、あんたは謎のソロプレイヤーと知り合いか?」

 「いや、彼の事は知らんよ」

 獰猛な獣のような目で尋ねて来るリヒトに、事実を簡潔に伝える鉄次。
 しかし鉄次の放った言葉の一部で気になった箇所があったリヒトが再び尋ねて来る。

 「彼?謎のソロプレイヤーは男なのか?」

 「勘だがな。戦ったワシの感覚では男のように感じた」

 「そうか……。まあ性別はどっちでもいい。俺はただ、そいつと戦ってみたいだけなんだ。本当に奴について何も知らないのか?」

 「知らんな」

 鉄次に断言され、興が削がれたのか鋭かった目を一度閉じる。
 しかし再び瞼を開いた目には、闘争心と言う名の炎が浮かび上がっていた。

 「どちらにしてもアンタは俺が倒させてもらう。そうすれば奴の実力を少しはこの身で測ることも出来るだろう」

 「ワシを倒したところで実力を推し測ることなど出来はしないぞ」

 「だが少なくともアンタに勝てないようじゃあ奴にも勝てない。それだけは明白だ」

 お前は謎のソロプレイヤーと戦う前の踏み台だと、そんな風にも感じられる発言に目を鋭くさせる鉄次。

 「やるからには最強を目指すのが男ってもんだろう。アンタは違うのか?」

 リヒトから挑発気味に問いかけられ、鉄次は若かりし頃の自分を思い出す。
 確かにこのゲームを始めて、今日謎のソロプレイヤーと戦って、段々と当時のギラギラした頃に戻りつつあると感じていたが、まだまだだったようだ。

 「そうだな。ワシも同じだ。剣の道も極める事を目標にしてきた。だがいつしか熱く燃え上がっていた感情が鎮火していたのかもしれん。お前には感謝せねばならんな」

 勝負の世界でメンタルは途轍もなく重要だ。
 にもかかわらず精神的な部分から他の者に負けているようでは話にならない。

 「ワシも君と戦うことを楽しみにしておこう。無論勝つのはワシだがな」

 今までずっと落ち着いていた鉄次の瞳に、熱い何かが宿り始める。
 その目を見たリヒトは満足そうに笑って、闘技場のフィールドに出るための門に向かって歩き始めた。

 「決勝で会おうぜ。爺さん」

 そう呟いたリヒトは鉄次の返事を聞くことなく遠ざかって行く。
 その後ろ姿を鉄次は一瞥し、彼もまた反対方向に歩み始めるのだった。
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