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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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61話 目的

 茶髪の少年を始まりの町の港付近にあるレンガ造りの家の一室に招いた聖は、木製の椅子に腰を下ろして少年に話しかけた。

 「取りあえず君も腰かけるといい」

 「分かった!」

 元気の良い返事をした少年は、同じ部屋に居るクルミの事を気にしながらも席に着く。

 「彼女は俺と同じパーティーのプレイヤーだ。君の事は伝えているから気にしなくていいよ」

 落ち着かない少年を見て、聖が先にクルミの事を軽く紹介する。
 紹介された彼女が少年に小さくお辞儀をすると、慌てて少年もお辞儀を返した。

 「君にはパーティーメンバーは居ないのかい?」

 「俺はソロプレイヤーだから居ないよ。いつもは困っている人を手伝ったりしてたから」

 「そうかい。じゃあ装備は君1人の分で問題ないね。じゃあお互い自己紹介しようか。俺は聖。君の名前は?」

 「俺は(ひかる)。宜しく!」

 ニコッと満面の笑みを浮かべる少年は、無垢で(かがや)いて見える。
 そんな少年の姿をクルミは少し複雑そうに見ていたが、口は出さずに黙っていた。

 「じゃあこれから装備が出来るまで輝に幾つか質問するよ?上手く答えることが出来たら強い装備を本当にあげるから」

 「分かった!」

 真剣な表情になった輝を見て、満足そうに笑みを浮かべた聖が口を開く。

 「輝はヒーローになりたいって事だったけど、ヒーローが倒すべき悪人ってどんな奴だい?」

 「えっと……。人に迷惑を掛ける奴!」

 一瞬考えたが、納得のいく答えが見つかったのか、輝は勢いよく答えを返す。
 そんな輝を見て、聖は新たな質問を投げ掛ける。

 「極端な例えかもしれないけど、もしも人に迷惑を掛けている奴が、その迷惑行為をしないと生きていけないってなったらどうする?例えばこのゲームなら、他のプレイヤーをキルしてお金を稼がないと生活できない人とか」

 正しく極端すぎて穴だらけの例え話を出した聖に、輝は固まってしまう。
 輝は小学6年生。
 今年で12歳だ。
 そこまで深く善悪について考えたことは無い。

 「えっと……。えっと……」

 頭を回転させて一生懸命考え込んでいる輝に追い打ちを掛けるように、聖は更に質問を増やす。

 「じゃあ例えばキルされそうになっているプレイヤーが居るとして、君は助太刀に入った。でも話を聞いてみると、キルされそうになっているプレイヤーは、昔キルしようとしているプレイヤーの事をイジメていたとしたらどうする?君はどっちを助ける?」 

 「えっ?う~ん……。キルしようとした人も悪いし、でも昔イジメていた人も悪いし……」

 頭がパンクしてクワンクワンしている輝を、聖はニコニコと観察している。
 しばらく時が経ち、とうとう輝は聖に向かって返答した。

 「分かりません。答えを教えてください!」

 ペコリと頭を下げた輝を見て、聖は笑みを崩さずに口を開いた。

 「答えはね。無数にあるんだよ。今の2つの例えも、皆助けられるかもしれないし、助けられないかもしれないんだ。でもね。この2つの例えとは違って、100%片方しか助けられない状況っていうのは存在するんだよ。その時、君はどっちを選ぶのか、これから考えてみて。そしてもしも答えが出たら俺に教えて欲しい。それが君に強い装備を与える条件だよ」

 「……分かりました。答えが出たら教えます」

 聖の言った言葉を必死で理解しようと目を白黒させながらも聞き入っていた輝は、聖の問いかけを神妙な面持ちで了承した。
 そのタイミングで、部屋の扉が開いて仁が顔を出す。

 「終わったぞ」

 「早かったね」

 「余ってた奴のサイズを少し変更しただけだからな」

 肩を揉みながら仁が理由を説明し、聖たちは立ち上がって鍛冶場に歩いていく。
 そして深紅のグレートクレイフィッシュの防具とロングソードの置かれている前まで辿り着くと、聖が口を開いた。

 「これを君にあげよう。現時点で最強レベルの装備だ。君の答えを楽しみにしているよ」

 「はい!」

 勢いよく返事をした輝は、武器と防具をアイテムボックスに仕舞って、聖たちにお礼を言って立ち去っていく。
 輝が家から出たところで、クルミが閉じていた口を開いた。

 「答えなんてあるの?」

 どこか彼女自身も答えを知りたがっているような声色で発せられた問いかけに、聖は笑みを浮かべるだけで答えなかった。  


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 (ひかる)とのやり取りを終えた聖は『運営の目的の一端が分かった』と送られてきたメールの真意を確かめるべく、ゲームからログアウトしリアルの世界に戻っていた。

 スキル・メイク・オンラインにログインするためのカプセル型のゲーム機の扉が開き、意識を覚醒させた聖がヘルメットを外しながら上半身を起こす。
 そのまま彼が左右に目を向けると、両隣に設置してあるカプセル型のゲーム機の扉も開き、仁とクルミが姿を現した。

 2人が意識を覚醒させたことを確認した聖は、先にカプセルから外に出て、部屋の外に向かって歩き出す。
 カプセル型のゲーム機が置かれている一室は、ゲーム機以外はパソコンなどの機械類だけでまるで生活感が感じられないものだったが、その部屋から出るためにドアを開けた先には、モノトーンを基調としたシックな内装の一室が現れた。

 「待たせたね。拍摩(はくま)

 聖がいつもの調子で声を掛けた先には、1人の男の姿があった。

 「いや、余り待ってはいない」

 すぐさま聖から掛けられた一言を否定した拍摩と呼ばれた男は、座っていた椅子をグルッと回転させて聖に身体を向けた。
 拍摩は長身だが線が細い。
 しかし精悍な顔をしているため弱弱しくは見えない。
 40歳を超えている彼の顔には、所々に年相応の皺もあった。

 「全員集まったし、詳しい話を聞こうか。運営の目的の一端が分かったんだろう?」

 聖は自身に続くようにドアから部屋の中に仁とクルミが入って来たことを気配で感じ取ると、拍摩に本題を始めるように促す。
 すると拍摩は「ああ」と短く返事をしてまたグルリと椅子を一回転させてパソコンに向き直る。

 「早速この音声データを聞いてくれ」

 拍摩がそう言ってマウスをクリックすると、スピーカーから2人の男の会話が流れ始めた。

 『もしもし。私だ』

 『どうなさいました?』

 『どうしたもこうしたも今回の最強プレイヤー決定戦の開催期間に起こっている騒動についてだよ。君のゲームのスポンサーになって村のネーミングライセンスを買ったからね。私の善茶株式会社にも問い合わせのメールと電話が来ているんだよ』

 『そうでしたか。ご迷惑をお掛けします』

 『謝罪はいい。それよりも今回の騒動の首謀者は分かっているんだろう?何か罰則はしないのか?このまま放置して我が社にまで被害が出たら困るぞ。もう既に電話対応がスキル・メイク・オンラインの問い合わせで一杯になってしまってな。本来の客から電話が繋がらないとクレームが来始めているんだ』

 『首謀者は分かっていますが、このまま何も罰則は与えずに放置します』

 『何故だ?』

 『不死の研究の為です。もっと脳について研究する必要があります。それには喜怒哀楽の感情がそれぞれ発生した時にどう脳に影響を与えるのか細部まで調べる必要があります。今回の件で通常よりも強い喜怒哀楽の感情表現が発生し、膨大なデータが取れました。首謀者のプレイヤー達にはまだまだこうやって他のプレイヤーに様々な影響を与えて欲しいのです』

 『そういうことか。なら何の問題もない。私以外のスポンサーも納得するだろう。君にはこれからも資金を出来るだけ提供する。必ず不死の研究を完成させてくれ。吉報を待っている』

 『お任せください』

 ここで2人の男の会話は終わり、一瞬部屋が静寂で包まれる。
 そんな中で1人聖はニヤリと笑みを浮かべた。

 「どこから資金が湧いてくるのかと思っていたけれど、不死になりたい老人の資産家たちが表と裏で金を出していたみたいだね」

 「ああ。今回の会話はスキル・メイク・オンラインに深くかかわっている可能性の高い善茶株式会社の人間に網を張っていたから盗聴出来たんだが、善茶株式会社の社長と会話していた男の居場所は突き止められていない」

 「そうか。まあ仕方がない。このまま関係者に網を張って情報収集を続けてくれ。まだ色々と目的が有りそうだ」

 最後に聖が呟いた一言に仁が反応する。

 「まだ他に目的が有るって言うのか?」

 「勘だけどね。社長の方には他に目的は無さそうだったけれど、もう1人の彼には有りそうだ。電話越しとはいえ、声色に変化が無さすぎる。まるで興味が無さそうだった」

 「不死に興味が無いのに不死の研究をしているって事?」

 クルミが興味深そうに問い掛けると、聖は頷いて肯定する。

 「まあ兎に角。彼がオレたちの存在を認識していることは分かった。これからも何かしら起こし続ければ、向こうからアプローチがあるかもしれない。今の会話に嘘が無いなら、スキル・メイク・オンラインは大きな人体実験場だ。なかなか関わっている人間の規模も大きそうだし、このままもっともっと彼が俺を楽しませてくれることを期待しよう」

 「お前を放置したことを後悔することになりそうだな。その男は」

 ボソッと呟いた仁の言葉を聞いて、聖は不敵な笑みを浮かべる。

 「後悔することになるかどうかは彼次第さ。俺は只、自分が楽しめればそれで良いんだよ」

 聖はまだ顔も名前も知らない男に期待を(つの)らせる。
 まるでまだ公開されていない映画やドラマの事前情報を見て、公開されるのを待ち望む人々のように。
 発売されていないゲームの事前情報で一喜一憂するゲーマーのように。
 彼は胸を躍らせていた。
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