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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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44話 我が儘

 7月31日21時00分。

 ダインから零の元に武器が完成したことを伝えるメールが届いたこの時間に、短い黒髪を短髪にした優しい顔つきの少年シンが、下っ腹がどっぷりと出ている下半身太りのオッサンであるダメ男と、全身フルアーマーの装甲兵である紙装甲と、始まりの街で再会を果たしていた。

 始まりの街は現在夕焼けに染まり、街全体がオレンジ色に輝いている。
 海運システムが開始されたこともあり活気づいている人々の中、シンは浮かない表情をして(うつむ)いていたが、意を決したように顔を上げてダメ男と紙装甲を見ると、勢いよく頭を下げた。

 「足手まといになってごめんなさい!」

 シンは善茶村から第1の港町に行くまでの道中でキルされてしまい、始まりの街に戻されたことを思い出しながら頭を下げる。

 「気にしないでください。完全な奇襲でしたし、あの時は他の誰がキルされていても可笑(おか)しくは無かった。運が悪かっただけですよ」

 「でも2人に迷惑を掛けたのは事実なので……」

 優しい口調でダメ男が慰めてくれているが、実際に迷惑を掛けてしまった本人たちを目の前にして落ち込んでしまったシンは、中々立ち直れないようだった。

 「納得できないなら、もしも私や紙装甲が死んでしまった時に、今度はシンさんが迎えに来てください。難しいゲームですから、これからそういうこともあると思います。お互い持ちつ持たれつで行きましょう」

 「はい!必ず!」

 ダメ男が笑顔でシンに提案すると、何とか自分の中で折り合いが付いたのか、勢いよく頷いた。

 (ようや)くどんよりした空気が解消されたところでダメ男がシンに質問を投げかける。

 「もう21時ですが、シンさんは何時までゲームを続けますか?」

 「22時までにはログアウトしたいです」

 「そうですか。私と紙装甲は最強プレイヤー決定戦に出ようと思っているので、船で第2の港町に行こうと思うんですが、シンさんは参加するつもりは有りますか?」

 最強プレイヤー決定戦。
 キャラクターネームの公開、スキル・メイク・オンライン公式ホームページに動画が公開されることに同意したプレイヤーなら誰でも参加できるイベント。
 シンの目的である賞金の獲得も目指せる大会だ。

 自分が決勝トーナメントに勝ち残るほどの実力があるとは思っていないが、ダメ男と紙装甲も参加すると言っているし、参加するだけなら無料。
 自分の今の実力が他のプレイヤーと比べてどの程度なのかも確認することも出来る。

 シンは特に出場しない選択をする理由も無いので、参加の意思を大きく頷くことでダメ男と紙装甲に伝えた。

 「了解しました。なら一緒に船に乗って第2の港町に行って、参加受け付けを済ませてしまいましょう。そうすれば22時ピッタリくらいの時間になるはずです」

 「分かりました!」

 初めて乗ることになる船はどんな感じなのかとワクワクしながらシンは返事をする。
 意気揚々と歩き出したシンを後ろから微笑ましく眺めながら、ダメ男と紙装甲は彼の後に続くのだった。


◆◇◆◇


 第2の港町に着き、最強プレイヤー決定戦への参加受け付けを済ませたシンは、丁度22時になったこともありその場で解散し、ゲームの中からログアウトした。

 カプセル状になっているゲーム機の扉が開いていく音が、シンの耳に届いてくる。
 そしてゆっくりと(まぶた)()けると、シンの顔を心配そうに覗き込んでくる1人の少女の姿があった。

 「お兄ちゃん大丈夫?」

 「彩矢(あや)?大丈夫だよ」

 自分の1つ年下の妹である彩矢は、肩に掛かるくらいに伸ばされた黒髪に、大きな瞳をした可愛らしい女の子だ。
 そんな妹が何故か不安そうに顔を覗き込んでいるのを見て、疑問に思いながらも笑顔で大丈夫だとアピールする。

 「お兄ちゃんの入ってるカプセルがずっと開かないから、怖くなっちゃって……」

 お気に入りのぬいぐるみをギュッと抱きしめながら心配した理由を語る妹を見て、シンは彼女の頭をゆっくりと撫でる。

 「大丈夫だよ。ちゃんと戻ってくるから」

 安心させるように出来るだけ優しい口調で話すが、彩矢はぬいぐるみを少し持ち上げて、顔を(うず)めてしまった。

 「我が儘言っても良い?」

 ぬいぐるみに顔を押し付けているためくぐもった声色になっているが、確かに彩矢の声が聞き取れたシンは「うん」と肯定の答えを返す。

 「彩矢ね。お母さんは入院してるし、お父さんはお母さんのために忙しくて家に帰って来るの遅いから、お兄ちゃんも居なくなっちゃうと1人で不安に押しつぶされそうになっちゃうの……。お母さんは大丈夫かなとか、お父さんは無理して倒れないかなとか考えちゃうの」

 元々寂しがり屋だった彩矢を、両親の力になりたいからとはいえ1人にして不安な気持ちにさせてしまったのは自分の落ち度だ。
 涙声になりながら訴えかけてくる妹を見て、スキル・メイク・オンラインをやめて家に居るようにしようかとも考えたが、父親が通帳を見て頭を抱えている姿を思い出して、やはりお金が稼げるかもしれないゲームをやめることは出来ないと思い直す。

 「どうしても寂しい?」

 「うん。それに彩矢もお父さんとお母さんの力になりたい」

 声が震えながらも、自分の意志を伝えて来た妹の力に自分がなれないかとシンは苦慮する。

 「お父さんが帰って来たら彩矢もこのゲームを買って貰えないか頼んでみる?」

 「でもお金が……」

 彩矢の核心をついた一言に、シンは言葉を詰まらせてしまった。

 そもそもシンの家は貧乏ではない。
 むしろ裕福と言っていいだけの年収を父は稼いでいる。
 しかし母が階段を踏み外して頭を強く打ってしまい、脳にダメージを受け意識不明の重体になったことで状況が大きく変わった。

 昔と比べて医療技術が発達したとはいえ、母の手術――脳の再生治療が出来る病院がアメリカにしかなかったためだ。
 アメリカの手術代、また入院費はバカ高く、しかも保険もきかない。
 更につい最近になって手術が可能になった脳の再生治療だ。
 その金額は顔を覆いたくなるほどに高い。

 父親は貯金を全て使い、更に借金をして手術代を工面し、アメリカの病院に母を入院させ手術を受けることに成功したが、継続的に手術が必要な状態なのだ。
 前払いでその分も払ってはいるが、もっと必要になるかもしれないし、借金も返さなければならない。

 父は今、身体の疲労と心の疲労で疲れ切っているため、これ以上の無理を2人は中々言い出せないのだ。

 「ただいま」

 良い案が出ずに2人が黙ってしまっていると、家の玄関から父親が帰ってきた声が聞こえてくる。
 2人は取り敢えず父の元に向かって歩いて行き「お帰りなさい」と父を出迎えた。

 「まだ起きてたのかい?」

 「うん」

 2人に似て優しい顔つきをした父は、今は目の下にクマを作りながらも2人を気遣うように声を掛ける。

 「ご飯は食べた?」

 「彩矢は食べたけど、お兄ちゃんはまだだよ」

 「そうか。じゃあ一緒に食べようか」

 「うん」

 シンは父に頭をぐりぐりと撫でられたあと、リビングに向かって歩いて行く。
 母に教わってある程度の料理が作れる中学1年生の妹が作ってくれたハンバーグを食べながら、シンは思い切って父にお願いすることにした。

 「お父さん。彩矢にも僕に買ってくれた物と同じゲームを買ってくれないかな?」

 「お兄ちゃん!?」

 両手を膝の上に置いて、拳を握りしめながら勇気を出してお願いすると、隣に座っていた妹が驚いて声を上げる。
 父も最初は驚いたように目を見開いたが、娘の顔を見て涙の(あと)を見つけ、寂しがっていることに感づいたのか、ゆっくりと目を閉じて暫く考えた後、目を開けて口を開いた。

 「いいよ」

 短く買う意思を告げた父に、2人は目を見開いて驚く。

 「本当に?」

 「うん。今からネットで注文するから、明日の午後には届くようにしておくよ」

 半信半疑なシンの問いかけに答えた父は、彩矢に視線を向ける。

 「ごめんな。寂しい思いをさせちゃって」

 父からの謝罪の言葉に彩矢は思いっきり頭を横に振って否定する。

 「大丈夫。寂しくないよ。だから無理して買わなくていいから!」

 「大丈夫。ゲームを買うくらいの余裕はあるよ。そんなに気にしないで彩矢」

 「でも……」

 「お父さんの働いてる会社の社長がね。今日闇金から借りてるお金を全部払ってくれるって言ってくれたんだ。その代わりに社長にお金を働いて返すことになったんだけど、利子を払わなくて良いって言ってくれているんだ。だからね、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 そんなに都合の良いことがあるのかとシンは一瞬疑問に感じたが、そう言われてみれば父の顔色が幾分かマシになった気もする。

 「まだまだお母さんも危険な状態だけど、悪いことが一杯起きた分、段々良いことが起き始めているから、そんなに心配しないで」

 痛々しい微笑みだったが、こうまで言ってくれている父の好意を彩矢は断ることが出来なかった。

 「我が儘言ってごめんね。お父さん」

 「良いんだよ。2人とも僕とお母さんの息子と娘なんだ。今までずっと良い子に育ってくれてるんだから、少しは我が儘を言ってもいいんだよ」

 慈しむような優しさに溢れた父の言葉を聞いて、シンは決意を新たにする。
 何としても賞金を手に入れて、両親を少しでも助けられるように頑張ろうと。     
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