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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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43話 仁

 月明かりを(さえぎ)っていた雲が流れ、月の光が夜の闇に降り注ぐと、薄汚れてコケの生えてしまっている漆喰壁(しっくいかべ)の家々や、半壊した家々が(まば)らに存在する廃墟の町が姿を現した。 
 そんな幽霊でも出そうな町に、今はオーク――大きさは人間とほぼ同じで、醜く汚らわしい存在である彼らの死体があちこちに散乱している。

 オークの死体で埋め尽くされたその場所に、3人のプレイヤーが武器を手に持ちながら(たたず)んでいた。

 「疲れた~」

 脱力したような声を出したのは、肩に掛かる程度に伸ばされた栗色の髪をした少女だった。
 彼女は栗色の髪を小さく揺らしながらその場にしゃがみ込み、もう嫌だと言わんばかりに天を仰ぐ。

 「こればっかりは同感だ」

 彼女に同意しながらドカッと石畳の地面に腰を下ろしたのは、無精髭を生やし茶色がかった黒髪のサイドを刈り上げ、頭部の中心となるラインの髪をオールバックにしている男だった。
 彼もまた、疲れているのか肩を軽く上下させて汗を(したた)らせている。

 「クルミ、(じん)。2人とも無駄な動きが多すぎる。だから体力を消耗するんだ」

 栗色の髪をした少女――クルミと、無精髭の男――仁の2人を(たしな)めたのは、中性的で端正な顔立ちをした真っ白な髪の青年。
 クルミと仁の2人と違い、彼は特に疲れた様子は無く、座り込んでいる2人を見下ろしている。

 そんな彼の目の前には、他の緑色の皮膚のオークとは違い、赤色の皮膚をしたオークが仰向けに倒れていた。

 「(せい)。お前の言うことは(もっと)もだが、俺たちにはまだきつ過ぎる」

 「そうだよ~。あんなに一杯の敵に囲まれたら立ち回りも何も無いよ」

 無理を言うなと首を振る仁に、困った顔で白い髪の青年――聖を見るクルミ。
 2人の言う通り、聖の目の前で倒れているエリアボス――レッドオークとの一戦は、敵の数の多さに苦労させられる戦いだった。


 今から50分ほど前、3人がバラバラに闊歩(かっぽ)しているオークを倒しながら進んでいると、遠目に今まで倒してきた緑色の皮膚をしたオークとは違う、赤い皮膚をしたオークの姿が見えてきた。
 当初クルミと仁は、相手が気づく前に弓の狙撃で奇襲を仕掛けて終わらせようと考えていたのだが、レッドオークの周りを固めるように護衛していた取り巻きたちが3人に気づいたことで、状況が大きく変わった。
 取り巻きの内の1体が、ほら貝を取り出して独特の音色を奏でると、今までバラバラに行動していたオークたちが次から次へとレッドオークの元に集まっていく。

 町から出る前に、仁とクルミの2人にエリアボスの討伐を任せると言っていた聖は、感心したようにその様子を眺めていたが、当事者の2人はそうは言っていられない。
 数が増え過ぎる前に決着をつけようと、周囲に建物の無い開けた場所にいたレッドオークに向かって矢を放つ。
 しかしその矢は取り巻きたちの持っていた丸盾によって難なく(ふせ)がれてしまった。

 通常のオークは身長が大体160cm~180cmといったところで、防具は何も()けておらず、剣や槍などの武器を持っているだけ。
 しかしレッドオークの取り巻きたちは武器以外に盾を持っていて、バラバラに動く通常のオークたちと違い、連携をとることも出来るようだった。

 結局遠目から弓で狙っているだけでは決定打を与えられず、その間に数の(そろ)ったオークたちを見て、レッドオークが咆哮を上げる。
 その咆哮に応えるように、オークたちが聖たち3人に向かって進行を始めた。

 狂ったように走ってくるオークたちの群れに、矢を放って近づけさせないように試みるが、数が多すぎるため効果が薄い。
 クルミと仁が後退しながら矢を放っているのを見て聖は溜め息を吐くと、腰に下げていた2本の剣を引き抜いた。

 「仕方がないね」

 そう呟いた聖が駆け出し、一直線に仁とクルミの元に向かっていたオークたちの側面を通り、レッドオークの取り巻きたちに肉薄する。
 そのままあっという間に取り巻きたちを斬り伏せると、エリアボスであるレッドオークまで倒してしまった。

 聖はその場に(とど)まり、向かってくるオークたちを倒しながら仁とクルミが来るのを待つ。
 結局それから30分以上の時間を掛けて2人はオークを倒しきり、現在の状況に落ち着いていた。 

 「クルミ。ほとんどのオークは一直線に突進してくるだけだったんだから、立ち回りの仕方は(いく)らでもあったよ。もう一度あの時の状況を思い出して考えてみるといい」

 「は~い」

 聖はしょんぼりした表情で返事したクルミを一瞥(いちべつ)し、仁に視線を移す。 

 「仁はそろそろ接近戦の特訓をしようか」

 「はっ?」

 仁は何を言っているんだと言わんばかりに眉間(みけん)(しわ)を寄せて聖を見返すが、彼は特に気にした様子もなく言葉を続けた。  

 「奇襲用に2人には弓を練習してもらっていたけど、やっぱりバランスが悪いからね」

 「無理を言うな!鍛冶だってやっているんだぞ」

 「仁なら器用だからできるさ」

 その中世的で現実離れした端正な顔で笑みを浮かべる聖に断言されて、仁は言葉が()まる。

 そもそも彼の方が自分よりも能力が上であり、あらゆることを高い次元でこなすことが出来るのだ。
 彼が鍛冶も遠距離戦闘も近距離戦闘もやった方が効果的なことも明白。
 しかし自分は聖に雇われた身。
 報酬を貰っている以上、これ以上の文句(もんく)は言えず、口をつぐむ。

 そして彼と初めて出会い、雇われた日にも同じようなことを言われたことを思い出して、再び顔を(しか)めるのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ――今から約6年前。

 大学を卒業し、特にやりたい事もなかった仁は、何でも屋を開業し仕事を始めた。
 家事全般やペットや子供の世話(せわ)などが初めは多かったが、不倫(ふりん)の調査依頼を成功させてからは、口コミで噂が広がっていったのか、不倫の調査依頼が(おも)な仕事になり、探偵や興信所とやっていることが変わらない状態になっていた。

 4年の月日が()ち、ドロドロした人間関係に関わる仕事ばかりしていたせいか疲れていた仁の(もと)に、1人の母子家庭の少女が訪れる。

 それが当時16歳で高校に入ったばかりのクルミだった。

 彼女の依頼は、悪徳宗教に(はま)った母親を助けたいという内容だった。
 警察に頼ったが宗教を辞めさせることが出来なかったという彼女は、(わら)にも(すが)る思いでこの何でも屋を訪ねて来たようだった。

 結果としては証拠を集めて警察の元に持って行き何人かは逮捕できたが、元凶である悪徳宗教のトップを証拠不十分で捕まえることが出来ず、完全に盲目な信者となっていた彼女の母親を辞めさせることは出来なかった。

 そして一ヶ月の時が()ち、仁が他の仕事をこなしていると、またクルミが自分の事務所にやって来た。
 今度は1人ではなく、同じ高校の制服を着た青年を連れて……。 

 真っ白な髪をショートカットにした青年は、クルミに紹介されて一礼し、簡単に自己紹介をしてくる。
 彼女と同じ高校の制服に身を包みんでいるが、彼の所作が落ち着いていて綺麗だったこともあり、第一印象は大人びた青年だった。

 聖と名乗った青年は、クルミの母親が入っている宗教団体の情報が欲しいと頼んできた。
 本来なら部外者に情報を教えることなど有り得ないのだが、彼の巧みな言葉使いでいつの間にか情報を提供してしまっていた。

 何をやっているんだと自分を(いまし)めていると、宗教団体の情報に目を通していた聖の目付きが一瞬鋭い物に変化する。
 それを見逃さなかったのは、日頃から不倫調査などで人間観察を怠らなかったからこそだろう。

「これを全て1人で調べたんですか?」

 「ああ」

 試すような視線を送って質問をしてきた聖に短く肯定の答えを返すと、彼は嬉しそうに笑った。
 その顔はまるで新しい玩具(おもちゃ)を見つけた子供のようだったが、聖の瞳に射抜かれた仁は、蛇に睨まれた蛙のような恐怖心を抱いていた。

 第三者から見れば、聖がそんな恐ろしい存在には思えないだろう。
 むしろその中性的でありながら爽やかな外見。
 純粋で純潔で無垢(むく)にも見える微笑みは、見る者の心を清らかに洗い流すに違いない。

 しかし仁には、聖が得体の知れない恐ろしい何かに思えて仕方がなかったのだ。

聖に報酬と引き換えに雇われることになった仁は、彼に頼まれた通りに悪徳宗教のトップの居るマンションを調べ上げることになった。
 最初は無理だと断っていたのだが、彼に「貴方にならできるよ」という一言を言われ、了承してしまったのだ。

 結局何だかんだ言いながらも調べ上げた仁は、聖に場所を教えた。

 それから彼はどうやったのか、マンションの部屋に監視カメラを仕掛け、悪徳宗教のトップの男が信者の若い女を何人も(はべ)らせ、痴態を(さら)している所をクルミの母親に見せたようだ。
 しかし彼女の母親は、それを(かたく)なに信じることはなかった。

 そして聖はクルミの母親を信じさせるために、これまたどうやったのかマンションの中に白昼堂々とクルミの母親と共に入り込み、悪徳宗教のトップの男の部屋に入り、ベッドルームのクローゼットの中に彼女の母親を隠れさせ、小さな穴をあけて部屋の様子を見れるようにしたと言うのだ。
 クルミの母親は聖の口車に乗せられ、悪徳宗教のトップの男はそんなことをする男では無いことを証明するために、口車に乗りクローゼットの中に隠れたらしい。

 事の顛末(てんまつ)としては、結局クルミの母親はその目で悪徳宗教のトップの男の痴態を見ることになり、信じていたものに裏切られ、心の支えになっていた悪徳宗教を信じられなくなり、その場で発狂して心が壊れてしまった。

 マンションの近くに止めてある車の中で、ノートパソコンの画面に映し出された監視カメラの映像からその様子を眺めていた聖と仁とクルミの3人だったが、呆気(あっけ)に取られてしまっている仁と、放心状態になっているクルミをその場に残し、聖1人だけが楽しそうに微笑みながら修羅場になっているマンションの一室に向かって歩いて行く。

 マンションの一室に辿(たど)り着いた聖が、急にその場に現れたことで、無関係に見える第三者の青年に介入され余計に混乱するかと思われたが、聖がクルミの母親を何らかの薬で眠らせてしまい、そのお蔭かある程度の冷静さを取り戻した悪徳宗教のトップの男とその場で会話を始めてしまった。

 信者に隠し撮りした映像をばら撒かれたくない悪徳宗教のトップの男と、大きな騒ぎにしたくない聖の思惑が合致し、意外なほどにスムーズにクルミの母親を連れて聖がマンションから出てくる。

 聖はクルミの母親を車に乗せ終えると、母親の姿を呆然と眺めていたクルミの耳元に唇を寄せる。

 「君がもっと早く母親の変化に気づいていれば、こんな事にはならなかったかもね」

 クルミにとって一番言われたくない言葉。
 騙した悪徳宗教でも、騙された母親でもなく、彼女自身の落ち度に言及した言葉。
 その言葉はクルミの心に染み込み、放心状態だった彼女を現実に引き戻す。
 次から次へと涙が溢れ始めたクルミを面白そうに観察する聖を、仁はまるで悪魔が眼前にいるような目で見ながら絶句するのだった。

 それから更に2年の月日が経ち、クルミの母親は精神病棟に入院し、クルミは様々な事があり結局聖を妄信するようになった。
 そうすることで精神のバランスを保っている様に仁には感じられた。
 皮肉なことだ。
 助け出そうとした母親と同じ道をある意味で歩んでいるのだから……。

 一方仁自身は部下もでき、仕事も順調に進んでいるように客観的には見える。
 しかし実際は聖に気に入られ、彼に雇われて手伝いをさせられる毎日だ。

 そして現在、面白そうだと聖に連れられてスキル・メイク・オンラインの世界に飛び込んでいる。
 リアルの仕事は部下に任せているから問題は無いが、自分自身に疑問を感じることがある。

 聖に雇われているから、報酬を貰っているからこそ自分はこの仕事を()けている。
 しかし彼の行動の結果、ほとんどの場合が悪い結果に繋がっている。
 報酬を貰っているとはいえ、倫理的に間違っていることもしているのに、そうなると分かっていて手伝っている自分自身は、本当はこの状況を楽しんでいるのではないか?

 依頼は断ることも可能だというのに……。

 仁は自分がもしかしたら根本的な部分で聖と近い価値観を持っているのかもしれないと自分自身に恐れを感じながらも、今日も今日とて仕事を(まっと)うする。 
 いつか聖の依頼を断ってやろうと心に誓いながら……。
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