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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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39話 ハーヴェスト

 最強プレイヤー決定戦に向けての準備を開始したリアと沙織は、まずは新しい防具を作ることに決め、零から堅い背甲を持っていると教えて貰ったグレートクレイフィッシュを倒すために、第1の港町を目指していた。

 その目的を果たすために、2人は武器を作成してくれた女の子と一緒に、チケットを購入してガレオン船に乗船したところだった。

 「あの木の板渡るのめっちゃ怖かったんだけど……」

 リアと沙織に愚痴っているのは金髪ロングの女の子。
 背は2人より低く、156cmといったところだろうか?
 もともと可愛らしい顔立ちの彼女が金髪にすることで、ちょっと背伸びした女の子といった印象を周りに与えている。 

 「板の幅もそれなりに広かったし、私は怖くなかったけど?」

 リアが言った通り、横一列に屈強な海の男が6人並んでも問題ないほどの横幅があったのだが、彼女にはそんなことは関係無いらしく、ムッとした表情は変化しない。

 「ギシギシ言って折れそうだったじゃん。全然安心できなかったもん」

 まるで子供が駄々をこねるような言い方で文句を言う彼女に、リアと沙織は苦笑する。

 「真希(まき)。そんな事より夜の海に(うつ)る月が綺麗ですよ」

 このままでは埒が明かないと思った沙織が話題を移すと、金髪ロングの女の子――真希は船の側面にある手すりを手で掴んで、身体を乗り出しながら目を輝かせる。

 「あんまり身体を乗り出すと落ちちゃいますよ。それにスカートの中が見えちゃうでしょう?」

 沙織に言われてハッとなった真希は、背伸びのような状態を止めて、(かかと)までしっかりと足を地に着ける。
 そんな真希を見たリアが「まったくもう……」と呟いて、やれやれと疲れた表情を浮かべる。
 真希はそこで何を思ったのか、()ねた子供のようにソッポを向いてしまった。

 「言っておくけど、あたしの方が2人より一つ年上なんだからね!」

 真希は自分が子供っぽいと自覚しているからこそ恥ずかしくなったのか、怒ったような口調で2人を捲し立てた。

 「そうでしたね。じゃあもう少し頑張って落ち着きを持ちましょう?」

 普段の自分に落ち着きが足りないと分かっている真希は、沙織の嗜める言葉に反論できず黙り込んでしまう。
 しかし素直な性格をしている彼女は、顔を背けつつも声を絞り出した。

 「分かった。頑張る……」

 「はい。頑張りましょうね」

 見た目も性格も含めて、1つ年下なのに自分よりも大人なリアと沙織に対して、対抗心から今のようにツンツンしてしまう事も多いが、真希は自分が間違っていると思えば、形はどうであれ謝ることのできる素直で真面目な性格の女の子だった。
 そんな彼女が落ち着きを取り戻したところで、船を出発させる合図の(かね)が鳴り響く。

 船の乗組員が(いかり)を上げたり帆を張ったりと慌ただしく動き出し、準備が整うとガレオン船が動き始めた。
 低音の鐘を鳴らしながら動く船は、段々と港を離れていく。

 リアと沙織と真希の3人は、今回人生で初めて船に乗ったため、初めて見る光景や船の揺れる感覚に感動して浮足立っていた。
 そんな3人に、船は自らの勇姿を見せつけるように海の波を切り裂きながら突き進む。

 多くの乗船していたプレイヤー達が、船から見える景色に魅入られ、はしゃいでいる中航海が開始されたのだが、そんな空気をある1人のプレイヤーが直ぐにぶち壊してしまった。

 「漸く進み始めたか……」

 小さく呟かれた言葉を皮切りに、船首に立っていた男が薄気味悪い笑みを浮かべ、2本のロングソードを鞘から抜き出し、左右の手で構え出す。
 そして近くに居た他のプレイヤーをいきなり斬りつけ始めたのだ。

 その行為によって、船上は悲鳴と怒号が入り乱れる殺し合いの場に移り変わる。
 船の側面に居たリアと沙織と真希の3人も、勿論声が聞こえてきていたため、そちらに目を向ける。

 「何が起きてるの!?」

 「誰かが暴れ出したみたいね」

 状況を把握できずに目を白黒させている真希と、冷静に状況を分析するリアと沙織。
 普段スキル・メイク・オンラインでモンスター相手とはいえ、戦場で戦っているのかどうかの差が、ここで顕著に表れていた。

 それは他のプレイヤー達も同じようで、普段前線で戦っているプレイヤー達はある程度落ち着いている。
 逆に生産プレイヤー達は慌てて騒いでいた。

 「とにかく非戦闘プレイヤーは船内に避難させて、戦闘プレイヤーで対処しましょう。真希、貴女(あなた)も船内に避難して」

 「うん」

 真希はリアの指示に素直に頷いて了承し、船内に入るための扉に向かって走り出した。
 本来なら慌てず走らずに避難するべきなのだが、そこまで頭が回っていないようだ。

 他の船上に居たプレイヤー達も、真希に続くように避難し始める。  

 そんな中、二刀流の男はあっと言う間に船首に居たプレイヤー達をキルし(つく)して、船首から階段を使ってリアたちの居る船上の中央部分に降り立とうとしていた。

 「俺を楽しませてくれる奴は居ないのか?」

 歩きながら呟いた男の姿が、月に照らされ映し出される。
 ツンツンと逆立てたオレンジ色の髪に鋭い目つきをしている男は、今は舌なめずりをして、獲物を探す獣のような雰囲気を醸し出している。

 そんな男の姿を警戒しながら見ていたリアと沙織の2人が、戦いに備えて真希に新しく作って貰った武器を取り出す。

 リアはエリアボスであるレッドベアの爪と骨で作られた白い槍。
 槍頭は三角形になっており、それなりに大きく斬撃も出来るようになっている。
 更に装飾が施されており、黒の線で模様が描かれているため、モノトーンでスタイリッシュな槍になっていた。

 沙織もリアと同じくレッドベアの骨から作られた白い弓を構える。
 こちらも弓全体に黒の線で模様が描かれており、モノトーンカラーがスタイリッシュで美しい。

 「沙織。援護して」

 「分かりました」

 武器を構え準備の終わった2人が、役割分担を短い一言で終わらせ、まずリアがオレンジ色の頭をした男に突っ込んで行く。

 リアは男が射程範囲に入った瞬間槍を横に薙ぎ払うが、簡単に剣で止められてしまった。

 「お前が俺を楽しませてくれるのか?」

 ニヤッと笑みを浮かべる男に悪寒を感じながらも、リアは冷静にバックステップし距離を取る。
 するとそこに入れ替わるように沙織が放った矢が飛んで来ていた。
 しかし男は軽く右手に持っていた剣で(はじ)いて軌道を変えてしまったため、攻撃が当たらない。

 どうやって攻めるかリアと沙織が試案している中、2人に触発された他のプレイヤー達が一斉にオレンジ頭の男に襲い掛かっていた。

 総勢10人による大攻勢。

 流石に勝ったかと2人は思ったのだが、その希望的観測は見事に外れてしまう。
 なんとオレンジ頭の男は見事にそれぞれの手に持った剣で攻撃を(さば)ききり、反撃して次々と倒しに来たプレイヤーを斬り伏せてしまったのだ。   

 両手で剣を別々に使用することは難しく、二刀流と呼ばれる技術を使うプレイヤーには弱いプレイヤーが多い中、彼は他を圧倒するほどの実力を持っていた。
 その事実を眼前で見せつけられた2人は、驚きと実力差から来る恐怖から戦慄が走っていた。

 「弱い!弱い!!弱い!!!もっと強い奴は居ねえのか!!!!」

 男から発せられる段々と大きくなる声は、飢えた獣の叫び声のようなイメージを与えてくる。  

 (私たちがやるしかない!じゃないと全員ここでキルされて最初からになる!)

 本当に死ぬわけではないが、痛みは感じるし今までゲームに費やしてきた時間もほとんど無駄になる。
 さらに今持っているディールを換金できると考えた時の金銭的なダメージ、最前線から遅れを取ることによってこれから手に入ったであろう賞金が獲得できなくもなる。

 リアは別に金銭的な面はどうでもよかったが、今死んで最強プレイヤー決定戦で不利になることは、彼女の目的のために避けたかった。

 ――だからこそ負けられない。

 沙織と2人なら不可能ではないと自分に言い聞かせ、男に向かって走り出す。

 勢いよく薙ぎ払われたリアの槍が男の左の剣で受け止められる。
 受け止めたまま接近して右手の剣で攻撃しようとする男を、沙織が矢で牽制(けんせい)し近づけさせない。

 リーチなら槍のリアが勝っている。
 そのためこのまま上手く男との距離を保ち、隙を(うかが)って勝負を決める。
 この作戦が声を掛けあわずとも自然とリアと沙織の中で採用されていた。

 しかし現実はそうはいかない。

 「鬱陶(うっとう)しい弓だな……」

 男はイラついたように呟くと、リアを無視して沙織に向かって走り出す。

 (行かせない!)

 意表を突かれて出遅れたリアが急いで男を追いかけ始めた。
 そんな中オレンジ頭の男を沙織が矢で攻撃し、動きを止めようと(こころ)みるが、最小の動きで躱されてしまい、大した時間稼ぎになっていない。
 しかし男が行く手に居た他プレイヤーを倒すために一瞬とはいえ時間を使ったお蔭で、リアは何とか追いつくことが出来た。

 (これで終わりよ!)

 背後からの槍の振り下ろしで勝ったかに思われたが、気付いて振り向いた男の剣に止められる。

 「中々やるなあ。お前」

 嬉しそうに男が笑ったその時、船内に入るためのドアが何故か開いた。

 「零!」

 「零さん!」

 ドアから出てきたのは、ネクタイの無いスーツに身を包み、赤い鞘を腰に差した青年――零だった。
 少しパーマの掛かった黒髪を潮風になびかせながら、切れ長の二重の目でリアに対峙する男を見て剣を抜く。

 「あいつが暴れてる男か……」

 「何だてめえは?今楽しくなって来た所だったんだよ!!」

 オレンジ頭の男は、零に向かって振り向いて大声で怒鳴り散らす。
 リアとの楽しい戦いに水を差されたことが、男の怒りのスイッチを踏み抜いてしまったのだ。 

 「邪魔する奴はとっとと失せろ!」

 逆上した男が叫びながら零に向かって走り出す。
 その男の姿を見ても零は慌てずブロードソードを構え、落ち着いて待ち構えていた。

 零の元に辿り着いた男が、声を荒げながらロングソードを振り下ろすと、零はブロードソードを斜めに構えて受け止め、そのまま男の攻撃を受け流した。
 受け流されたことで多少バランスを崩した男の姿を見逃さず、零はブロードソードを斜めに振り下ろす。

 バランスを崩されたことでガード出来ないと悟ったオレンジ頭の男は、無理やり身体をバックステップさせて()けきろうとした。

 (避けきった!!)

 男はブロードソードの間合いから外れたと、眼前の剣先を見ながら確信したのだが、何とその剣が伸びたため、(どう)を斜めに斬られてしまった。

 「どういうことだ!?」

 うめき声を上げながら、男は膝から地面に崩れ落ちる。
 男の問いかけに答えることはなく、零は無言で崩れ落ちた男の心臓に剣を突き立てた。

 足元から段々と青い粒子になって消え去る中、オレンジ頭の男が零に向かって声を上げる。

 「貴様の名前……。覚えたぞ!(れい)!!必ず貴様を殺しに俺は舞い戻る!俺の名はハーヴェスト!お前を殺す男の名だ!覚えておけ!!」

 リアと沙織が零の名前を呼んだのを覚えていたのだろう。
 しっかりと零の名前を心に刻んだハーヴェストが、最後に高らかに笑いながら青い粒子になって消え去ったのを見て、零は鼻で笑い、月を見上げる。

 「もっと強くなってから出直してこい」

 零によって小さく呟かれた言葉は空に消え去り、残った物はアイテムボックスに入りきらなかったアイテムたちと、目を見開いて驚いている周りのプレイヤー達だけだった。
  
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