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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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32話 白と黒

 シンが青い粒子になり空へと消え去り、後には彼の武器や防具、所持品などが所有権をフリーな状態にして地面にドロップしている。

 そしてシンが消え去るとほぼ同時に、先ほどまで何故か静観していた無精髭の男が、再びロングボウを構えてダメ男と紙装甲を攻撃し始めた。

 紙装甲が自慢の盾で防ぎ、地面に落ちた矢を視界に収めると、見た目が先ほどまでと少し違っている事に気が付く。

 「ダメ男。矢に黄色い花が付けられている」

 「黄色い花ですか?」

 周囲を警戒していたダメ男が矢を見てみると、確かに黄色い花が矢に(くく)り付けられていた。

 (一体何の意図が?)

 相手の思惑が分からず混乱していると、森側からも矢が飛んでくる。

 「くっ!」

 ダメ男が矢を丸盾で弾き、地面に落ちた矢を確認すると、それにも黄色い花が括り付けられていた。
 連射される矢を何度か2人で弾き返していると、相対的に花の量も増えていく。

 このまま一方的にやられ続ける訳にもいかないので、紙装甲が無精髭の男に向かって突進しようと前傾姿勢になったところで、攻撃が突然()んだ。

 (何だ?)

 2人が訝しげに辺りを警戒していると、(うるさ)い羽音が森から響いてくる。

 (もしかすると……)

 何かに気が付いたダメ男が慌てて紙装甲に指示を出す。

 「直ぐにここから離脱します。紙はあの男に向かって突っ込んでください。背中は私が守ります」

 紙装甲はダメ男が何故慌て出したのかは分からなかったが、兎に角ダメ男を信じて無精髭の男に向かって走り出す。
 ダメ男も背中を守るように後ろ走りをしながら紙装甲に続く。

 するとすれ違う形で大量のニードルホーネットが、矢に括り付けられた黄色い花に向かって飛んで来ていた。

 「危なかった……」

 流石に30匹は居るニードルホーネットを同時に相手をするのは、自殺行為としか言えない。
 あと一歩遅ければ死んでしまっていただろう。

 「ダメ男。あの男が森の中に消えていったぞ」

 「そうですか。ならこのまま善茶村に帰ります。どんなトラップが仕掛けてあるか分かりません。警戒を怠らずに」

 「分かった」

 走る速度は緩めずに、兎に角ここから脱出することを最優先にする。
 ダメ男は森に入って行った聖のことを気に掛けていたが、今回は助けに行く余裕が無いので、彼の無事を心の中で祈るのだった。


◆◇◆◇


 ダメ男と紙装甲の姿が見えなくなったところで、森から一人の青年が現れる。
 その青年は黒いズボンに白いカッターシャツを着用し、両手に持っているロングソードは切っ先が地面に向いている。

 彼はニードルホーネットの群れに向かって歩いているはずなのだが、その姿に気負いは一切感じられない。
 あまりにも自然体なのだ。

 自分たちに近づいてくる青年に気が付いたニードルホーネット達が、花粉と蜜の採取を邪魔するなと彼に襲い掛かる。   
 すると両手に持った剣を構えて、舞を踊るように飛び掛かって来るニードルホーネットを、彼は片っ端から真っ二つに斬り裂いていった。

 その光景は圧倒的でありながら美しい。
 それは彼の中性的で端正な顔立ちと真っ白な髪が、何処(どこ)かに(えが)かれる天使のように映るからかもしれない。

 (ほど)なくして30匹は居たニードルホーネットが5匹を残して殲滅され、生き残った5匹は森の中に逃げ帰っていった。

 「相変わらず恐ろしいほど強いな」

 森の中で彼が戦う姿を見ていた男が、舗装された土の道へと姿を現す。
 その男は無精髭を生やし、茶色がかった黒髪のサイドを刈り上げ、頭部の中心となるラインの髪はオールバックになっている。
 彼はシンをキルした張本人であり、ロングボウを構えていた時は相手を射抜かんとするほどの鋭い目をしていたが、今は白い髪の青年を呆れ顔で見ていた。

 「このくらいは出来て貰わないと困るよ。(じん)

 白い髪の青年から(じん)と呼ばれた無精髭の男は、深々と溜め息を吐く。

 「聖。確かに倒すことは俺にも可能だったかもしれねえが、遠距離から奇襲攻撃を仕掛けられたらの話だ。お前みたいに突っ込んで行ったら死んでたよ」

 肩を(すく)める仁に、森から出てきた少女が声を掛ける。

 「当たり前じゃん!聖とあんたを一緒にしないでよね!」

 プンプンと可愛らしく怒りながら出てきた少女は、肩に掛かる程度に伸ばされた栗色の髪を風で揺らしながら、聖の元に走っていく。

 シン達に向かって最初の一矢を森から放ったのは、他ならぬ彼女だ。
 見た目はまだ幼く女子高生といったところだろう。
 とてもまともに戦えるようには見えないが、このゲームではどんな外見でも身体能力は変わらない。 

 「聖は最強だもん。誰にも負けないし!」

 彼女は白い髪の青年――聖の前に辿り着き、彼の顔を上目づかいで覗き込む。
 そしてニコッと幸せそうに笑いかけて、聖に抱き付いた。

 ふわッとしたセミロングの髪からは、シャンプーなのかコンディショナーなのか、トリートメントなのか分からないが、甘い香りを漂わせている。
 大きくはないが決して小さくもない胸を聖に押し付け、彼の胸板に顔をうずめ、彼女は幸せそうに顔を(ほころ)ばせていた。

 「クルミ。先にドロップしたアイテムを拾って来てくれるかい?」

 「分かった……」

 クルミと呼ばれた少女は名残惜しそうに抱き付いていた腕を離し、落ちているアイテムを拾いに行く。
 クルミを見送って聖は視線を元に戻すと、そこには不満顔の仁が立っていた。

 「聖。残りの2人も殺せたんじゃないか?何故俺に撤退しろと命令したんだ?」

 ダメ男と紙装甲が突撃してきていた時に、戦うなとハンドシグナルで命令したのは聖だった。
 仁は眉間に皺を寄せて聖を見て、そのことを自分が納得していないと暗に伝える。

 「僕の目的は達成したしね。それにあの2人と戦っていたら、最悪仁とクルミが死んでいた可能性があった。彼らはああ見えて強いよ」

 「お前の趣味に付き合わなければ倒せていただろうがな」

 シンを彼らが庇っている間に攻撃していればと、仁は小さく舌打ちをする。
 しかし仁があの時攻撃しなかったのも、聖の命令だった。
 それは聖の欲求を満たすために必要なことだったので、彼について行くと決めた仁は攻撃できなかったのだ。 

 「お蔭で楽しかったよ。シンの心が折れるか試したんだけど、思ったよりも彼の心は強かったみたいだ。――いや、心が強いのではなく、何かに支えられてるという言い方が正しかったかな?」

 クスクスと笑う聖の顔は無邪気でありながら、悪魔のような恐ろしさを放っている。
 真っ白でありながら真っ黒。

 見た目は爽やかな天使であり、内面は妖しい魅力を放つ悪魔。
 それこそが彼の正体だった。

 聖の目的は、シンという少年がキルされたらどんな反応をするのかを観察することだった。
 キルするだけならわざわざパーティーに入らなくても構わないはずだが、彼は実際に直接ターゲットと会話し、人となりを知ることを好む。
 単純にその方が彼が楽しめるから、無駄とも思える手間を掛けるのだ。

 そして彼はそうやって楽しむために自分の手は決して汚さない。
 犯罪者プレイヤーになってしまえば、普通のプレイヤーに近づくのが難しくなるからだ。
 だからこそ自分の代わりに犯罪者プレイヤーになってくれる仁とクルミを連れて歩く。

 そもそもシンが聖に目を付けられたのは、唯の偶然だった。

 善茶村でPKシステムが解禁された後、面白そうなプレイヤーを探していた聖に、偶々(たまたま)シンの姿が映りこんだ。
 弱々しく自信も無さそうに見えるのに、遠目から見た彼の瞳は真っ直ぐで、何かを秘めているように感じられた。
 だからこそ、聖はシンがキルされればどんな反応をするのかを知りたくなり、試してみたのだ。 

 そして仁にキルされた彼は、結果としてダメ男と紙装甲に支えられ、心を折ることはなかった。

 絶望し挫折する姿を見るのも面白いが、これもまた一興。

 これから彼がどう成長していくのか想像し、そして次にまたキルすればどんな反応を示すのかを思い浮かべながら、口元を緩めた。

 願わくば、再び相まみえた時は、自分の想像を超えた姿を見せてくれる事を期待して。

 「終わったよ~」

 クルミが疲れた声を上げながら、聖の隣にトコトコと歩いて並ぶ。

 「そうかい。ならこのまま先に進もうか」

 「は~い」

 手を上げて返事をするクルミと、小さく頷いて先に港町へと歩き出す仁。

 聖はまた面白いプレイヤーが現れてくれることを期待しながら、まずは港町に辿り着くべく動き出すのだった。  
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