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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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31話 痛み

 まだ零が港町に到着していなかった頃、善茶村で食事を摂り終えたシンの元に、エリアボス討伐メールが届いていた。

 【※重要 全プレイヤーの皆様へ】

 『この度はスキル・メイク・オンラインをご利用頂きまして、誠にありがとうございます。
 今回初めてのエリアボス討伐者が現れましたので、ご報告いたします。
 名前はプレイヤーの希望により非公開にさせて頂きますが、グレートクレイフィッシュを討伐されました。
 そのため賞金35万円が授与されます。
 また、武器、防具製作プレイヤーも非公開を希望されました。
 武器、防具製作プレイヤーには17万5千円が授与されます。
 なお、エリアボス討伐は最初の1000名様まで賞金、または1カ月のゲーム無料券と引き換えにさせて頂きます。
 討伐が早いほど賞金は高いです。
 討伐者以外も、プレイヤーが鍛冶で作った武器や防具で討伐された場合は、武器、防具の製作者プレイヤー全員に5割の賞金が入ります。
 討伐者の賞金から差し引かれるわけではなく、別に支払われるので、ご安心ください。
 無料券だった場合は、無料券が手に入ります。
 パーティーでの討伐の場合は、例えば1番最初に4人パーティーがエリアボスを倒した場合は、1~4番目までの賞金を足して、4で割って平等に支払われます。
 ボスによって賞金が違います。
 エリアボスは、1つのエリアに複数いることも多々あります。
 ご注意ください。
 以上でお知らせを終わります。
 分からないことがございましたら、お問い合わせボックスにメールをお願い致します』

 エリアボス討伐報告メールを読み終えた、腹がどっぷりと出ている下半身太りのオッサンプレイヤーであるダメ男が、顎を手で撫でながら真剣に考え込んでいる。

 「たった1人でエリアボスを討伐し続けるこのソロプレイヤーは、一体何者なんでしょうね?」

 一度会ってみたいなと呟くダメ男に、頭から足の先まで鉄製の鎧で隠れている全身フルアーマーのプレイヤーである紙装甲が、同感だと言わんばかりに大きく頷いた。

 「僕も会ってみたいです。どんなに強くても他人に見せびらかさないなんて、凄くカッコイイですよね!」

 憧れの存在を語るように、目をキラキラと輝かせながら力説するシン。
 その姿をダメ男と紙装甲の2人は微笑ましく見守っている。
 ――とは言っても紙装甲は表情が伺えないので、何となくそんな雰囲気を出しているのではないかという推察でしかないが……。

 「私たちも遅れを取らないようにそろそろ出発しましょうか」

 「分かりました」

 現在善茶村に居るプレイヤー達は、大まかに分けて3つの行動を取っている。
 1つ目はシン達のように先に進もうとするプレイヤー達。
 2つ目は善茶村で様子を伺っているプレイヤー達。
 3つ目は始まりの街に戻って装備を整えようとする者達だ。

 ――いや、更にもう1つ。
 第4の選択肢を選んだプレイヤー達も、確かに存在した。



 「すいません。俺もパーティーに入れて貰えませんか?」

 村から出るため、入り口に向かって歩き出そうとしていたシン達に声を掛けて来たのは、白い髪をショートヘアにした青年だった。
 人は老いると白髪(しらが)が生えてくるため、自然と白い髪は老けているという印象を与えがちだが、彼の場合はそれを感じさせない。

 第一印象は真っ白で爽やかな好青年。
 微笑む顔は中性的で、その笑顔だけで相手の心を暖めてしまうような力があった。

 「私は構いませんが、何故私たちのパーティーに?」

 3人を代表してダメ男が問い掛ける。

 「俺はソロでここまで来たんですが、PKシステムが開始されたので1人では心細くて……。パーティーに入れてくれる人達を探しているんです」

 困ったように微笑む彼は、儚く消え去ってしまいそうな印象を3人に与える。
 彼の微笑みは天使のように美しく、見入ってしまった3人に、断るという選択肢を取ることは出来なかった。


 自己紹介を終え村を出たシン達が向かったのは、零と同じ港町だった。
 港町に続く舗装された土の道を、縦並びで4人は歩いている。
 それは敵が出てきても直ぐに戦うことが出来るようにするためのフォーメーションだった。

 前衛で盾になり敵を引き付ける役目の紙装甲が先頭。
 まだパーティーに入りたてで連携の取れない、(せい)と名乗った白い髪の青年は2番目に。
 一撃離脱を繰り返し、敵の注意を散漫させる役目のシンが3番目。
 攻守どちらにも優れ、臨機応変に対応できるダメ男が一番後ろになっている。

 4人はゆっくりと歩きながら、薄暗くて中を確認し辛い左側の森を重点的に警戒していた。
 すると突然森の中から、1本の弓矢がシンに向かって飛んでくる。

 (くう)を切りながら向かってくる弓矢に最初に気づいたダメ男が、シンと弓矢の間に入り込み、左手に装備している鉄製の丸盾を構えて(はじ)く。

 「下がってください」

 「はい」

 ダメ男に指示されてシンは彼の後ろまで下がる。
 これによって防御に向いていないシンを、ダメ男が庇う形になった。

 4人の意識が左の森に集中したところで、1人の男がシン達の通り過ぎた後方の森の中から姿を現す。
 その男は無精髭を生やし、茶色がかった黒髪のサイドを刈り上げ、頭部の中心となるラインの髪はオールバックになっている。
 男らしい外見をしている彼は、木製のロングボウを縦に構え、シンに狙いを定めた。

 刻一刻とシンに危機が迫っている状況で、弓矢が飛んで来た場所以外の警戒を(おろそ)かにしている事に気付いたダメ男と紙装甲が、周りに意識を向けようとした瞬間、聖が声を上げる。  

 「俺が森の中に突っ込みます。皆さんは待機していてください!」

 聖が無謀な発言をし、すぐさま森に向かって走り出してしまった。

 「待ってください!」

 シンが手を伸ばして聖を止めようとするが、聖に届くことはなく伸ばされた手は空を切る。
 そして聖が森の中に消えると同時に、シンの横腹を弓矢が貫いた。

 「っ!」

 シンが言葉にならないうめき声を発したので、ダメ男と紙装甲は何事かと振り返る。
 そこには横腹を矢じりによって(えぐ)られ、血を流しながら地面に横たわるシンの姿が映し出されていた。

 絶句して言葉が出ない彼らが矢の放たれた方向に目を向けると、無精髭を生やした男が第二射を放とうとしていた。

 「紙っ!」

 紙装甲のことを紙と略してダメ男が呼ぶと、紙装甲が無精髭の男とシンの間に向かって動き出す。
 ダメ男がシンを治療する間、弓矢を全て防ごうとしているのだ。

 直ぐに自分の役割を理解して行動に移すのは、流石の一言。
 彼の能力の高さを窺う事ができる。

 「シン。直ぐに治療します。余り動かないで」

 ダメ男が片膝を地面につけてシンに声を掛けるが、まだ中学2年生のシンは痛みに対してそこまで耐性はない。
 今のシンの頭の中は、軽度の火傷を負った時のような痛みがジンジンと頭に響き、周りの声を冷静に聞き取る余裕が無かった。

 (痛い!痛い!痛い!)

 今シンが味わっている痛みは、このゲームにおいて最も痛覚に響くものになっている。
 流石に死ぬような痛みをゲームで与える訳にはいかないので、勿論ある程度抑制はしてある。
 このような仕様になっているのは、痛みが無ければ肉を切らせて骨を断つという捨て身の戦法が容易に出来てしまうためだ。

 なのでこのゲームに()ける戦いは、痛みを乗り越えてもやり続ける意思が無ければならない。
 このレベルの痛みに耐えられないなら、安全な場所で戦闘とは関係の無いことをやって楽しむしかないのだ。

 武器や防具を作成したプレイヤーにエリアボスの賞金が半分しか与えられない理由は、戦場で痛みと隣り合わせで戦っているプレイヤーと、比較的安全な場所でプレイできる生産職プレイヤーとの環境の違いから来る物でもある。
 勿論一部例外は存在するが、大多数は戦闘プレイヤーよりも安全であることに間違いはない。 

 横腹を抑えてシンが(うずくま)っている横で、ダメ男が薬草を取り出して傷口に当てている。
 現在存在する回復系のアイテムは薬草のみで、それも傷口に当てて傷の治るスピードを上げる程度の力しかない。
 矢を下手に抜けば傷が開き血が溢れ出てしまうので矢を抜くことも出来ない。

 深々と刺さった矢は内臓まで届き、シンに致命傷を与えているため、正直に言って手詰まりであり、助かる見込みが既に無い。

 段々と痛みに慣れて意識が安定してきたシンが、自分がもう助からないことに感づく。

 「ダメ男さん。紙装甲さん。僕が死んだら僕のことは気にせず先に進んでください」

 2人を交互に見て、擦れた声で呟く。
 何故か攻撃が()み、無精髭の男がこちらを静観しているので、紙装甲もシンの言葉を聞き取る余裕があった。

 「シンさん。貴方はもう戦いたくないですか?」

 真剣な声色でダメ男から(つむ)がれた言葉に、痛々しい表情になるシン。

 「正直戦いたくないです。痛いのは嫌だし、怖いです。でも僕は、お金を稼がないといけないんです」

 正直に言って、シンの家は貧乏だ。
 生活も苦しいが、更に母が病気で入院しているため、治療費や入院費用も払っているので、お金が全く足りない。
 このゲームを買うために使ったお金も、本当は父に言って生活費に()てて貰おうと思っていた。

 しかし焼け石に水でしかなく、このまま父が無理をして身体を壊せば、母の治療費も払えなくなり、中学1年生の妹が高校すら行けなくなってしまうかもしれない。
 それを何とかするために、中学生でも大金が稼げる仕事を探して行きついたのがこのゲームだった。

 鍛冶屋などの生産職でお金を稼ぐことも可能かもしれないが、現時点では自分の実力のみで大金を稼ぐことが出来るほどの環境が整っていない。
 エリアボスを1番初めに倒すことのできるプレイヤーに運良く出会い、気に入って貰う必要がある。
 子供である自分が信用を売る商売で稼ぐことは難しく、エリアボス討伐で貰える賞金も戦闘プレイヤーならば半額になる事はない。

 換金システムもインフレ、デフレしないように換金レートが変動するので、やはり戦闘プレイヤーが一番現実的だ。

 「なら貴方を始まりの街まで迎えに行きます。私たちが居た方が最前線に戻りやすいでしょう?」  

 ダメ男の言葉に驚いて、シンは言葉が出なくなる。       

 「シンさん。私達2人と貴方は出会って日が浅い。貴方がお金を稼がないといけない理由も知りません。でも、この短い間に貴方の一生懸命で誠実な人となりは分かったつもりです。私は現実では(ただ)の小汚いオッサンです。うだつの上がらない心も汚いオッサンですが、せめてゲームの中でくらいカッコよくさせてくれませんか?」 

 ダメ男が困った顔で笑って、静かにシンの返事を待っていると、シンは涙を流し始めた。

 「ありがとうございます。正直心細かったんです。僕は何の力も無い唯のガキで、そんな奴が大金を稼ぐことなんて出来るのかって。無理して買って貰ったゲーム代は、お父さんに渡すべきだったんじゃないかって、ずっと考えてたんです」

 「なら一緒に頑張りましょう。私も、紙装甲も、貴方に力を貸しますよ」

 ダメ男の言葉に、無精髭の男を警戒しているため背を向けたままの紙装甲が、盾を宙に上げて地面に勢いよく下ろす動作をする。
 まるで俺に任せろと言わんばかりの迫力を出し、鉄の鎧で大きくなっている背中でシンに語りかける。

 「いつも守ってくださってありがとうございます」

 その背中を見ながら感謝の言葉を発し、静かに(まぶた)を閉じる。
 そして決心がついたのか、ゆっくりと目を開けて、ダメ男と紙装甲の2人を視界に(おさ)めた。

 「お願いします。僕に力を貸してください!」

 「勿論です」

 「任せろ」

 シンの言葉にダメ男は微笑み、紙装甲は軽く頷く。

 そしてとうとう出血量が致死量まで達し、シンの身体が青い光を放ち出す。

 「後でメールします。始まりの街で落ち合いましょう」

 「はい!」

 心強い仲間たちにシンの心は支えられ、折れることはなかった。
 そして彼の身体は青い粒子になって、空に消えていった。
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