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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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21話 シン

 時刻は午前8時。

 スマートフォンから鳴る機械音で起床した零は、スマートフォンのアラームを止めると、メールが来ていることを知らせる青いランプが点滅しているのを見てメールを開く。
 そこには少数のメールマガジンと、スキル・メイク・オンラインからのお知らせメールが何通か届いていた。
 早速零は、スキル・メイク・オンラインの運営から来たメールを下から開く。

 【メールマガジン登録者の皆様へ】

 『この度新たなエリアボス討伐者が現れました。
 エリアボスはレッドゼブラです。
 3人パーティーでの討伐となっています。

 【福音】
 【ショー】
 【トール】

 以上の3名です。
 彼らには1~3位賞金の合計である8万円を3分の1にした、2万6667円が支払われます(小数点以下は四捨五入です)

 エリアボス討伐者報告でした。
 今後もスキル・メイク・オンラインをお楽しみください。』

 (レッドゼブラ。賞金から考えて始まりの草原のシマウマみたいな奴のエリアボスか)

 零は特に強くはなさそうだと判断し、気にすることはなく次のメールに進む。

 『この度新たなエリアボス討伐者が現れました。
 エリアボスはレッドベアです。
 4人パーティーでの討伐となっています。

 【バラン】
 【トレイン】
 【宵月(よいづき)

 以上の3名です。
 彼らには1~3位賞金の合計である52万5千円を4分の1にした、17万円5千円それぞれ支払われます。

 エリアボス討伐者報告でした。
 今後もスキル・メイク・オンラインをお楽しみください。

 (こっちは中々強そうだな。しかしまだ始まったばかりだ。ある程度進んでもトッププレイヤーでいる奴が本当の強者。それまでは大人しくしておくか)

 『※お知らせ※
 既に討伐されているエリアボスを討伐したプレイヤーが出てきました。
 これにともない討伐ランキングをホームページにて掲載します。
 それぞれのエリアボスごとにランキングを乗せる形になります。
 非公開プレイヤーは非公開のまま、パーティーの場合は同一順位としてランキングされ、1000位まで集計されることになります。
 ご了承ください』

 (これで強いやつが誰か分かりやすくなったな。確認するのはまだ先でいいだろう)

 一通りメールに目を通し終えた零は、朝のトレーニングを開始するために部屋を出ていった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 午前10;30 始まりの森

 リアルだと太陽がアスファルトを照らしているが、ゲーム内だと今は夜中。
 特に始まりの森は月明かりも中々入ってこないため、暗闇が森を支配している。
 しかしそんな森で、激しく動き回っている光源があった。

 (逃げないと!逃げないと!)

 左手に持っているランプを激しく揺らしながら、一心不乱に走る少年プレイヤー。
 ランプに照らされたその姿は、背中に傷を負い何かから逃げているようだ。

 (夜の森に入るんじゃなかった!)

 少年は自らの選択に激しく後悔を覚えながら、必死で走る。
 しかし普段リアルでは滅多に走ることなんて無い森の道。
 しかも夜でランプの光があるとはいえ視界が悪い。
 案の定と言うべきか、木の根に足を引っ掛けて転倒してしまった。

 (ヤバイ!)

 慌てて立ち上がるが時既に遅し。
 3匹のブルーウルフが少年の周りを囲んでしまった。

 「来るな!来るな!」

 少年は叫びながら右手に持っていたロングソードを振り回しているが、軽い牽制にしかなっていない。
 そうしているとブルーウルフの内の1匹が少年に向かって遠吠えを上げた。

 「何だ!来るのか!?」

 少年がそのブルーウルフに気を取られた瞬間、残りの2匹のブルーウルフが少年に飛びかかっていく。
 本能的に少年は振り返ったが、既にブルーウルフは目の前に迫っていた。

 (殺られた!)

 少年は自分が死に戻りすることを確信した。その瞬間、2匹のブルーウルフが上から斬りつけられる。
 2匹のブルーウルフはそのまま絶命し、少年の体にぶつかり地面に力無く倒れ伏した。

 「大丈夫か?」

 2匹のブルーウルフがぶつかった事で尻餅をついてしまった少年は、目の前のいる、上から落ちてきた青年に目を奪われていた。
 切れ長の二重の目、少しパーマの掛かった黒髪、ランプで照らされた暗い紺色のスーツが、彼のかっこよさを際立たせている。
 まるで何処かのダークヒーローの様に現れた彼が残りの1匹を一瞥すると、ブルーウルフは此方を警戒しながら去っていった。

 「立てるか?」

 呆然としていた少年が、スーツを着た青年から問い掛けられ、ハッと意識を取り戻す。

 「大丈夫です」

 「そうか。なら良いんだ」

 彼の手を取り立ち上がった少年は、そのまま青年に頭を下げる。

 「助けて下さってありがとうございました」

 「いや、勝手に戦闘に介入したのは俺だ。悪かったな」

 「いえ、あのままだと殺されていたので、気にしないで下さい」

 自分が助けて貰ったのに何故か謝られるという状況に少し困惑してしまう。

 「あの……、お兄さんもソロなんですか?」

 「そうだ」

 (出来ればパーティーになりたいけど、僕じゃあ足手まといだ……。でも、僕は強くなってお金を稼がないといけない……)

 少年は自分が何故ゲームを始めたのかを思い出し、勇気を出して目の前の青年に問い掛ける。

 「あの……。どうやったら貴方の様に強くなれますか?」

 問い掛けられた青年は一瞬考え込むように左手を口元に持っていって黙り込んだが、直ぐに少年に質問をし返す。

 「君はソロなのか?」 

 「はい」

 「ならパーティーに入ったらいい。モンスターを倒したいなら、それが1番の近道だ」

 「いえ、僕は確かにモンスターを倒したいんですが、ただ倒すんじゃなくて、討伐ランキングの上位に入って、お金を稼ぎたいんです!」

 青年は少年の言葉に怪訝な顔になり、少年の顔をしっかりと見据える。

 少年は短い黒髪を短髪にした優しい顔つきの男の子だったが、今はその瞳を一切逸らすことなく、青年を見返していた。
 青年は軽く溜め息をつき、眉間を親指と人差し指で押さえながら問い掛ける。

 「名前は?」

 「シンです」

 「シンか。俺は零。簡単な自己紹介も終わったし2つ聞く。金の欲しい理由と、何でリアルで稼ごうと思わないのか」

 シンは真剣な表情のまま、零の疑問に答える。

 「僕はまだ中学2年生なんですけど、お母さんが病気で倒れちゃってて、入院費や手術代が必要なんです。お父さんは僕と1つ下の妹の面倒を見ながら仕事を頑張ってるんですけど、お金が足りなくて……。この前ネットで中学生でも大金が稼げる方法をネットで調べたら、プロゲーマーになることだって書いてあって……。それでお父さんに初めて我が儘言って、貯めてあったお年玉を使ってこのゲームを買って貰ったんです」

 「なるほど。じゃあ尚更パーティーを組め。1人だと相当上手くないとトッププレイヤーにはなれないぞ」

 「でも強いパーティーに入るには、強くならないと入らせて貰えないので……」

 「なら始まりの草原のエリアボスを探して倒せ。今ならまだランキングに入れる筈だ。ランキングに入ればその実績で、強いパーティーとやらから話くらいは聞いて貰えるはずだ」

 「僕に倒せるでしょうか?」

 自信なさげにシュンとするシンの頭に零は左手を乗せる。

 「お前が本気で家族を助けたいと思ってるなら努力しろ。やってみろ。最初から他力本願になるな。俺も短い人生しか生きてないが、楽して大金を稼げるなんてことはほとんど無い。お前みたいに金に困っている人間は大勢いる。その中から伸し上がりたいなら、努力するしかない。簡単なアドバイスなら今から少しだけしてやる」

 零がシンの頭から手を離すと、シンも顔を上げた。

 「よろしくお願いします」

 意気消沈していたシンが再び真剣な顔に戻る。

 「お前は剣を振ったのはこのゲームに入ってからが初めてだよな?」

 「はい」

 「ならリアルに居るときも、時間があるときは学校にある竹刀か、最悪バットか何かでも良いから、とにかく素振りをしろ。ただし、ただ素振りをするんじゃないぞ。姿見はあるか?」

 「全身を映して見ることのできる鏡ですよね?あります」

 「そうか。ならそれで自分の素振りをしている姿を見ながら振るんだ。ネットがあるなら剣道の有段者の素振りを見本にして、自分と何が違うのか考えながら、修正しながらやってみろ」

 「はい」

 「それと、パーティーを組むまでソロでやるなら、必ず一対多数になる場面があるはずだ。今日みたいにな。だから必ず自分の視界に敵が全員見える様に立ち回るんだ。立ち回りはかなり重要な技術だ。これが出来るか出来ないかで、生存率も敵を倒す力も相当変わる」

 「敵を全て視界に入れ続ける……」

 「そうだ。まずはこの二つをしっかりやってみろ。そして始まりの草原のエリアボスを倒すのが目標だ」

 「はい」

 「そこに倒れてるブルーウルフ2匹はお前が剥ぎ取って持ち帰ったらいい」

 零の言葉に目を丸くするシン。

 「でもこれは貴方が倒したブルーウルフですよ?」

 「餞別だ。受けとれ」

 「ありがとうございます」

 深く頭を下げたシンを一瞥すると、零はクルリと体を反転させる。

 「俺はこのまま森の奥に行く。頑張れよ」

 「はい。ありがとうございました」

 シンは零が歩き去って行くのを、その姿が完全に見えなくなるまで見送った。

 (いつか、零さんみたいに強くなる。そしてお金を稼いで、母さんを元気にするんだ!)

 シンは尊敬と、憧れと、感謝の気持ちを胸に抱き、そして家族を助ける為の決意を新たにしたのだった。
 
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