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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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20話 切っ掛け

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 まだ朝早い、時刻は6時50分。

 太陽が昇り始めてまだ間もないころ、夏休みのラジオ体操を終え、スタンプを押してもらった帰り道を、まだ身長が125cmほどしかない黒髪の少年が歩いていた。
 少年が朝日に照らされ、一定の間隔で歩道に植えられている木々を視界の端に収めながら、真っ直ぐに前を向いて歩いていると、後方から一人の男が少年の横を通り過ぎ、走り去っていく。

 何となく少年は、彼に追いつこうと走り出したのだが、そこは大人と子供。
 どんどん男の背中は遠ざかって行き、結局その背中が交差点を曲がって見えなくなったところで諦めた。

 それからと言うもの、ラジオ体操が終わった帰り道に、必ず男が走っているので、少年は自分の横に男が並ぶと同時に走るようになっていた。
 毎朝トレーニングかダイエットのためか、健康のためか、どんな理由かは分からないが、同じ時間に走っているので、少年は彼に少しでも追いつくことを目標にして、毎朝それを楽しみにラジオ体操に向かって行った。

 それから1週間経ち、ラジオ体操も終わったため、もう男との競争は無くなるはずだったのだが、少年はまた同じ時間に家を出て行く。
 そして男が走って来るのを待ち、隣に並ぶとまた走り始めた。

 (前はアイツが曲がるまでに、あそこの木まで行けたから、次はあの木だ!)

 少しずつだが近づいて行っていることが楽しかったし、負け続けることへの悔しさもあった。
 心の中で一方的なライバル心を男に持っていた少年は、いつか負かせてやると闘志を燃やし、息をハアハアと荒げながら必死に走っていた。

 しかし今日はいつもと違う、イレギュラーが発生する。
 何と男が途中で走るのを止めてしまったのだ。

 (これじゃあ新記録に挑戦できない……)

 楽しみの一つを奪われたことでガックリと肩を落とし、少年も走るのを止める。
 少年がトボトボと歩いていると、何と前で止まっていた男が後ろを向いて、こちらに向かって歩き出した。
 少年は何となく怖くなって、こちらに向かって来る男に対して身構える。
 男は少年の前で立ち止まると、低く、そして少年の身体に響く声で話し掛けて来た。

 「ラジオ体操は終わったんじゃないのかね?」

 威圧的では無かったが、少年は自分よりも遥かに身長の高い男に、上から尋ねられたため、より一層恐怖心が増す。

 「はい」

 何とか喉から短い返事を絞り出すと、男は眉間に皺を寄せた。

 「なら何故今日も待っていたのかね?」

 「勝つためです」

 今までビクビクしていたことが嘘のように、間を置くことなく返答してきた少年に、男は目を見開く。

 「私にか?」

 「はい!」

 真っ直ぐに目を逸らすこともなく言い切った少年を見て、男はその場で腹を抱えて笑い始めた。

 「何故笑うんですか?」

 「いや、若いと言うのはいいなあと思ってね」

 「今は笑っていられるかもしれませんが、俺が大きくなれば勝ちますよ!」

 「それは無理だな。今のままでは坊主に勝ち目はない」

 男の言葉にムッとなった少年は、悔しそうに男を睨みつける。

 「オジサンはスポーツ選手か何かですか?」

 1週間という短い間だったが、少年はこの目の前に立っている男の身体つきや、今まで見てきた大人達の誰よりも早いスピードから、何となく職業を想像していた。

 「いや、違うよ。私は元傭兵だ」

 傭兵。

 少年は父親と見た映画の中の登場人物を思い出し、目の前の男と重ね合わせる。
 確かに筋肉質な体をしているし、雰囲気もそれっぽい。
 本物に会ったことがないため判断は付かないが、男の目を見ても嘘を言っているようには見えない。

 「ていうことはオジサンは強いの?」

 「いや、弱いよ」

 まさかの返答に、少年は頭の回転が止まる。

 「傭兵なのに弱いの?」

 「ああ」

 「弱い傭兵なの?」

 「いいや、傭兵の中では強かったと思うよ」

 少年は男の矛盾する言葉に余計に混乱する。

 「よく分かんない」

 「それはそうだろう」

 ハッハッハッと笑う男に、少年はからかわれたのかと思い唇を尖らせる。

 「俺決めた」

 「何をだい?」

 「オジサンに勝つ」

 少年は男を指差し、高らかに宣言した。

 「だからオジサンは俺に色々教えて?」

 腕を組んで図々しく頼んでくる少年に、男はキョトンとする。

 「私に勝ちたいと言っている者に、勝ち方を教えるのかい?」

 「そうだよ」

 「面白い子だね……」

 今まで何でも一番だった少年は、初めて勝ちたいと思った目標が出来た。
 そしてその目標である男は、困ったように笑っていた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「それから俺は、その男の家に行って訓練を始めた。戦い方を教わった。そしてその男と戦うのが楽しくて仕方がなかった。初めて俺のパンチがあの人に当たったときは嬉しくて、ついついガッツポーズしたよ」

 「戦いが好きになった切っ掛けは分かったけれど、傭兵なんて日本に存在するの?」

 「いや、存在しないよ」

 「えっ?」

 「と言うより傭兵は国際的に認められてないからな。ジュネーブ条約に傭兵の定義が載ってるけど、それに該当する人間は基本犯罪者だ」

 「じゃあその人は犯罪者なの?」

 険しい表情を浮かべる3人に対して、零は乾いた笑い声を上げた。

 「いや、あの人は軍隊に所属していたから、傭兵じゃない。たぶん自分自身への皮肉を込めて傭兵だって名乗ったんだと思うよ」

 「難しい話ですね」

 「傭兵に関しては色々グレーゾーンだし、今でも様々な問題が起こり続けてるからな。この話を始めると終わらないから、もう止めにしよう」

 3人が頷いたのを見て、話を元に戻す。

 「つまり俺は、強い奴と戦って、自分がどれだけ強いか確かめたい、そんな風に思ってる自己中な奴だってことだ」

 「なるほどね」

 リアも沙織も、完全には納得していないようだったが、取り敢えず妥協したようだ。

 「何だか眠くなってきたな。今何時だ?」

 零は両手を組んで身体を大きく伸ばして、眠気を覚まそうとする。
 零に言われて2人も時間が夜中に差し掛かろうとしていることを思い出す。

 「もう深夜0時になりそうね」

 「そろそろ解散しましょうか」

 ゲーム内では朝になったばかりだが、リアルは夜中。
 もういい加減眠くなってきたので、3人は鍛冶屋ダインを後にし、それぞれログアウトして解散した。


 
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