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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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19話 装備

 時刻は23時。

 ログアウトしてから4時間経ち、零は約束通り装備を取りに行くために、鍛冶屋ダインの扉の前まで来ていた。
 零が扉を開けて中に入ると、既にリアと沙織が部屋の中に入っていた。

 「いらっしゃい。待ってたよ」

 リアと沙織、ダインの3人でカウンターを挟んで談笑していたようだが、零が店に入って来たのを見て、会話を中断する。

 「待ったか?」

 「いや、彼女たちと楽しくお話が出来たからね。むしろもっと遅れて欲しかったかな?」

 「それは気が利かなくて悪かった」

 ダインの半分は本心であろう言葉に、肩を竦めて返事をする。

 「今取って来るから待っててね」

 「ああ」

 残りの半分の本心である、早く完成品を見せたいという欲求を満たすべく、ダインは小走りで店の奥の扉の中に消えて行った。

 「2人とも早いな」

 「私たちも10分前に来たところだから、そんなに待ってないわ」

 沙織が頷いてリアの返事を肯定する。

 「そんなに新しい装備に興味があったのか?」

 零は特に深い意味はなく言ったつもりだったが、2人は何故か慌てたように言葉を捲し立てる。

 「エリアボスで作った装備がどんな物になるのか興味があっただけよ!」

 「ダインさんの腕が良ければ私も依頼しようと思っていますので、完成品を見てみたかっただけです!」

 リアも沙織も本心ではあるが、零に再会できる喜びも多少はあったので、ついつい悟られまいと勢いよくしゃべってしまった。

 「分かった、分かった。俺も早く見てみたいのは同じ気持ちだ。このゲームで初めて自分の力で手に入れた素材で作られる装備だからな」

 零が期待のこもった眼差しで、ダインの入って行った開けっ放しの扉を見つめると、その視線を待っていたかのように、ダインが二つの木箱を持って戻って来た。

 「お待たせ」

 ダインがカウンターの上に「よっこいしょ」と言いながら二つの木箱を置く。
 零たち3人も直ぐさまカウンターの周りに集まった。

 「じゃあ先ずは防具からだ。正直武器よりも防具の方がよく出来た自信がある。確認してくれ」

 ダインが一つ目の木箱をゆっくりと開けると、中には暗い紺色のジャケットと、ズボン、そして注文してはいないはず長袖のTシャツが入っていた。

 「Tシャツを注文した記憶はないが?」

 「それは私が独断で作っちゃったんだ。そのジャケットだと胸元のV字のところが開いてしまっているからね。そのVネックTシャツは、今着ているカッターシャツの下に着てくれればと思って作ってみたんだ。もちろん独断で作ったからお金はいらないし、勝手に素材を使っちゃった分、500ディナール負けておくよ」

 ダインが申し訳なさそうに説明しているが、零としては予想外ではあったが、むしろ有り難い物だったので、その謝罪をそのまま受け入れた。

 「その防具にはスキルが付いているんだ。良かったら試着室がそこにあるから、着替えてみてくれ」

 ダインが指差した先に、カーテンで区切られた試着室があったので、素直に着替えることにした。

 「スキルってどんな効果なんですか?」

 零が試着室に入ったところで、沙織が気になって仕方がないと言わんばかりにダインをジッと見つめる。

 「夜目の効果だよ」

 「夜目?」

 「そう。暗闇の中でも物が見えるようになる効果だ。どの程度まで見えるかは、着てみた本人しか分からないけどね」

 「少なくともベータテストの時は武器や防具にスキルなんて付いて無かったと思うんだけれど、新しく正式サービスで新装されたの?」

 「みたいだね。他の装備を作っていても、上手く作れたらスキルが付くんだ。でも夜目なんて有用性が物凄いスキルの装備は初めて作ったな」

 今まで作った物を思い出しながら、今回作った装備を比較して、納得の出来だと言わんばかりにうんうんと頷く。

 「待たせたな」

 着替え終わった零が試着室の黒いカーテンを開けて出てくると、そこにはビジネススーツを着たような姿をした零が立っていた。

 「ネクタイが無いから、まさにクールビズって感じね」

 「とても似合ってますよ」

 零をマジマジと見るリアと沙織に、満足そうに微笑むダイン。

 「着心地はどうだい?」

 「悪くない。サイズもピッタリだ。いい仕事をしてくれた。感謝する」

 零に褒められたダインは照れたように笑う。

 「折角(せっかく)だからその服のスキルも実感してごらん。今から部屋の明かりを消すから」

 ダインの鍛冶屋には窓が存在しないため、光源はランプの明かりだけしかない。
 その明かりたちを、ダインは1つ1つ消していく。
 すると暗くなるにつれて、零の視界が緑色に変わっていった。

 「どうだい?感想は?」

 「まるで暗視スコープだな。視界が緑の明かりで照らされてるって感じだ。3人とも確かにハッキリと見えてるよ」

 零が興味深そうにキョロキョロと視線を動かしていると、ダインが明かりを再び点けたので、検証を一旦止める。

 「これなら夜の戦闘がだいぶ楽になる。かなりのアドバンテージだ」

 「満足してくれたみたいで嬉しいよ。さて、次は武器だ」

 ダインはカウンターに置いてある、もう一つの木箱を開ける。
 そこには全長70cm~80cmくらいのブロードソードと、サバイバルナイフが横たわっていた。

 「注文通りだな」

 「柄と鞘はグレートブルーウルフの皮で出来ているんだ。持ちやすいか確認してくれ」

 ブロードソードを鞘を持って持ち上げると、ずっしりとした重さが伝わってくる。
 柄を持つと、柔らかく滑らかな肌触りだが、包帯を巻いたようになっているため、段々状になっていて、滑りにくいように加工してある。
 刀身を鞘から抜き取ると、両刃剣が姿を現し、刀身がランプの光に反射して、鈍く光った。

 「試し切りは出来ないよな?」

 「残念ながら」

 「軽く振るのは構わないか?」

 「商品に当てないように気を付けてね」

 ダインの許可を得て柄を両手で持ち、構える。
 零がブロードソードを、足を踏みこんで振り下ろす姿を見ていた3人は、その姿が何故だか美しく見えて感激すると同時に、身震いした。
 振り終えた零が、刀身を鞘に戻してカウンターの上に置きなおす。

 「悪くないな」

 「それは良かった」

 ダインはホッと胸を撫で下ろして、安心したように笑顔を浮かべた。

 「じゃあ4500ディールだ」

 カウンターに設置してある、四角い箱型の形をした機械に手を乗せる。
 すると零の眼前に金額が表示され、支払いをするかの確認画面が表示された。
 零が『はい』をタッチすると、お金が4500ディール引かれる。

 「確かに」

 零のお金を受け取った相手であるダインは、画面を表示してお金が振り込まれたかを確認した。

 「残った素材を返すね。ちょっと待っててくれ」

 そう言ってカウンターの裏にある扉に消えて行ったダインを見送ると、リアが話し掛けてきた。

 「ダインは良い腕をしているみたいね」

 「みたいだな」

 「みたいじゃないですよ。まだ正式サービスが始まって1日も経ってないですが、あの口ぶりだと他にもスキルが付いている装備を作っているみたいですし、まだスキルが付くなんて情報はネットに上がってないので、現時点で何人かしかいないであろう、スキル付き装備を作れる数少ない鍛冶師ですよ」

 沙織が少し興奮した口調で語ってくる。

 「鍛冶師の中のトッププレイヤーてことね」

 「そういうことです」

 「何だい?私のことを褒めてくれていたのかな?」

 3人の会話が聞こえていたのか、ダインはニコニコしながらカウンター裏の扉から戻ってきた。
 カウンターの上に余った素材を置いて行く。

 「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、まだ始まったばかりだからね。もう少ししてから本当に腕が良い人たちが判明していくと思うよ。ネットで必ず、おすすめの鍛冶屋は?って感じで話題になるだろうしね」

 照れ隠しなのか、ダインは謙遜の言葉を述べる。

 「確かにそうね。鍛冶師も攻略プレイヤーも、一週間くらいしたら、本当の意味での実力者が分かってくるかも」

 「安定して結果を出すプレイヤーってことですね」

 2人が真剣に話し合っている横で、零は素材を回収していた。

 「貴方は余裕でトッププレイヤーに入りそうね」

 「さあな」

 「(とぼ)ける気?」

 ジト目で見つめてくるリアを特に気にした様子もなく、零は回収を続ける。

 「惚けたわけじゃない。ただトッププレイヤーになることが俺の目的じゃあないだけだ」

 「目的ではない――ですか」

 零の返答に、リアと沙織が頭に疑問符を浮かべていた。

 「俺の目的は、自分の強さを試すことだ。そのためには、強いモンスター、強いプレイヤーと戦うことになる。結果としてトッププレイヤーになるなら、それはそれだ」

 「何故そんなに強い人と戦いたいの?」

 リアの口から漏れた当然の疑問に、零はフッと笑った。

 「楽しかったんだ」

 「楽しかった?」

 「そうだ。戦うことが楽しかった。強くなることが楽しかった。サッカー選手や野球選手、音楽家とかも、上手くなると楽しいし、試合や大会で勝つと嬉しいはずだろう?それと一緒さ。ただ俺はそれが、戦いだったってだけだ」

 零の言葉を聞いても、まだ2人とも納得していないようで、眉を(ひそ)めている。

 「戦うことが好きになったっていうことは、何か格闘技でもしてたの?」

 「格闘技ももちろんしてたけど、それが切っ掛けじゃない。飽くまでもそれは、戦うために、強くなるために必要だったから、技術として身に着けただけだ」

 「じゃあ切っ掛けは何?」

 「切っ掛けは、一人の人と出会ったのが、全ての始まりだった」 

 
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