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unconventional【スキル・メイク・オンライン】 作者:紺藤シグル
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98話 旧知の人物

 8月7日金曜日、午前11時30分。
 零は東京都千代田区市ヶ谷にある高級レストランで、事前に連絡を取っていた旧知の人物と待ち合わせをしていた。
 既にレストランの一室で席に座って零が待っていると、扉が開いて案内役の店員と共に旧知の男性が入室して来る。

 「ご無沙汰しております。加城(かしろ)さん」

 零が席から立ち上がり一礼しながら挨拶すると、坊主頭をした厳格な雰囲気を醸し出す男性が、その外見と似つかわしいとも、似つかわしくないとも取れる、落ち着いた口調で零の挨拶を制止する。

 「堅苦しい挨拶などしなくて良い。それよりも君が私を呼ぶほどの事だ。余程の事があったのだろう?」

 「ええ。ですが俺のような子供相手に高級レストランはやり過ぎだと思いますが……」

 「ここなら機密性の高い話も出来る。それに今日は私の奢りだ。気にするな」

 店員に引かれた椅子に座りながら、加城が何て事ではないと首を振って零の言葉を否定する。
 店員が部屋から出て行き、予約していたコースメニューの前菜が来るのを待ちながら、加城から言葉を発する。

 「それにしても随分久しいな。約1年ぶりくらいか?」

 「そうですね。師の葬式以来だと思います」

 「教官にはかなり扱かれた。お蔭で我が隊が強くなったのは間違いないがね」

 零の言っている師と、加城の言っている教官は同一人物だ。
 零にとっては自分に戦いのノウハウを教え、亡くなってしまった現在も目標で有り続けている人物。

 そして加城にとって零の師は、自らの所属する隊の臨時教官として教えを受けた経験があったのだ。

 「隊の皆さんは元気ですか?」

 「ああ。情勢が安定しているとは言い難いが、それでも昔よりは落ち着いている。それに今は機械兵士が居るからな。私の出番はもう無いかもしれん」

 「そんな事は無いと思いますよ。相手との交渉時やスパイ工作などは、やはり人間の手が必要になりますから」

 日本が深刻な少子化問題に悩まされた際、自衛隊の縮小も余儀なくされると思われていた。
 しかし結果としては、ロボットの兵士化により足りない人員を補う以上の戦力を有する事に成功する。

 これにより人間の自衛官の数は縮小し、機械兵士を管理、運営することが主な仕事へと変化していく事となる。
 加城は機械兵士を管理する側の人間であったが、それと同時に人間の手が必要な任務を実行する隊の指揮官でもあった。

 「確かにそうだな。それで、君から私に頼みたい事とは何なのか。それそろ話を聞こうか」

 加城から本題に入るように促され、零が聖の計画についての概要を説明する。

 「つまり私に聖という青年の捜索と、桐嶋という人物の捜索を依頼したいという事か?」

 「はい」

 「君が言うからには、話の内容は本当なんだろう。となれば国の危機という事になる。無論引き受けよう」

 「ありがとうございます」

 加城は零の師と(かか)わったが故に、零という青年についても良く知っている。
 零が冗談でこんなことを言わないことも。
 零が子供にしては信じられないほどの戦闘力を持っていることも。
 彼の才能も、頭の良さも。

 だからこそ躊躇なく信じ協力することを約束したのだ。

 「それで手掛かりは何かあるのか?」

 「はい。桐嶋に関してはある程度存在しています。しかし聖に関しては、無いに等しいのが現状です」

 「そうか。取りあえず桐嶋という人物の手がかりから聞こう」

 零は加城に対し、桐嶋は警察関係者や知事、国会議員に何かしらの影響力を持っている可能性がある事。
 また第1の村のネーミングライセンスを買った善茶社が、何かしらの手がかりを持っている可能性がある事。
 他にも桐嶋に対して秘密裏に出資している企業、または個人が存在しているだろうという事。
 そして最後に、桐嶋という人物が零の知り合いの伯父である可能性についても言及した。

 「ふむ。これだけあれば資金の流れや関わった人間から見つけられるかもしれんな。特に最後の知り合いの伯父である可能性があると言うのは興味深い。桐嶋本人の顔は君しか見ていないのだろう?」

 「はい」

 「では通っていた大学から桐嶋と思われる人物の顔写真が入手できたら君に見せよう」

 「お願いします」

 会話が一段落したところで店員が前菜を運んでくる。
 テーブルに並べ終え店員が去るのを確認し、再び零が言葉を紡ぐ。

 「目標ですが、最高の目標は聖を殺すことです。聖を殺さない限りまた同じような事が繰り返されますから」

 「物騒な事を言う。人を殺すなど、私か私の隊の人間以外には言わない様にしないといかんぞ」

 「分かっています。捕まえるだけでは逃げられる可能性が高いですし、死刑を(まぬが)れ出所して来れば、再び危険な事を必ずします。更生の余地が無い以上殺すしかありません」

 断言する零の言葉に目を丸くした加城は、興味深そうな視線を零に向ける。

 「君がそこまで1人の人間の人物像を断定するとは……。その聖という青年がやろうとしている計画も壮大だが、君がそこまで危険視するほどの男なのか?」

 「はい。危険です。おそらく戦闘力も俺と同程度だと思われます。それ以外にも人脈やカリスマ性に関しては、俺よりも優れているかと」

 「君も充分人脈やカリスマ性とやらも有ると思うがね。少なくとも教官と共に居たことで、ある程度の人脈は持っているだろう?」

 今こうして師の人脈から得たコネで加城に会っているのだから、加城の言った言葉を否定すれば、目の前に座る加城本人も侮辱することになる。
 なので零は「ある程度は……」と言葉を濁す形で加城の問いに返答した。

 「あともう1つお願いしたい事があるんですが、加城さんからスキル・メイク・オンラインを停止させる圧力は掛けられませんか?」

 零の問い掛けに対して少し考える素振りを加城は見せたが、直ぐに首を横に振って否定の言葉を口にする。

 「君も駄目元で言ったんだと思うが、無理だろう。私には、表向き(、、、)には特に大きな問題も無く運営しているゲームのサービスを停止させる程の権力やコネを持っていない。それに既に一部の市民が実行し、無理だという結果が出ている以上、警察等に君から今の話をしても相手にされないだろう」

 「それは分かっています。俺が言いたいのは、もしも先ほど言った手がかりが全て空振りに終わった際の保険として、圧力を掛けられないかと聞いたんです」

 「内容について詳しく聞こうか」

 零の含みを持たせた言葉に反応した加城が、前菜を食べる為に動かしていた手を静止して零に顔を向ける。

 「圧力が掛かっても握りつぶしたという事は、必ず握りつぶすように指示した人間が内部、または外部に存在しているはずです。その人間を特定できれば、聖か桐嶋の居所を特定する上での手がかりになる可能性が高い」

 「なるほど。しかしそうなると我々からは圧力を掛けない方が良いだろう。国会議員や警察にも顔が利く相手だというなら、我々も上層部から睨まれて動きが取り辛くなるはずだ」

 「ならサービス停止や年齢対象を上げるように呼びかけている市民の訴えを握りつぶしている場所からは、特定が出来たりはしませんか?」

 「それなら出来るかもしれん。やってみよう」

 零の考えを正直に言うと、今の提案は桐嶋に関しての情報を集める上では、手がかりを確保できると思っているが、聖に関してはそんなボロは出さないだろうとも考えていた。

 「目標の続きですが、聖を殺すのが無理だった場合、聖がスキル・メイク・オンラインを手に入れる前に桐嶋を確保、ゲームを削除させ聖にAIを手に入れられない措置を取る。と言うのが第2の目標になります」

 「となれば競争だな。聖という青年が先にゲームを手に入れるか、我々が先に桐嶋を確保するのか」

 「ええ。そして最後に、そのどちらも達成が困難な場合、桐嶋の言っていたゲーム内に存在するNPCを探し出し、聖がゲームを手に入れる前――出来ればゲームを手に入れる直前にNPCを殺しゲームを削除する。そうすることで多少の時間稼ぎは出来るでしょう」

 零が時間稼ぎという消極的な言葉を使ったのは、ゲームを削除しても桐嶋を聖に確保された場合、桐嶋によってスキル・メイク・オンライン、またはAIが再現させられてしまう可能性が高いからだ。

 「ではゲーム内に関しては君に一任する形で良いか?」

 「はい」

 「よし。大方の目標とやるべき事は決まったな。では昔話でもしながら食事を堪能しよう。折角の料理だ」

 零は加城の切り替えの早さに感心しながら、彼に言われた通り料理を口に運ぶ。
 オンとオフの切り替えをしっかりすることも、最高のパフォーマンスを発揮する上で大事な要素だという事を、零自身も実体験しているからだ。

 そのまま2人は会話をしながら食事を終え、お互いの健闘を祈りながら帰路に着くのだった。
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