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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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96話 写真

 護衛集団襲撃事件が起こったその日の夜。
 一華の祖父である鉄次は、自宅の和室で座布団の上に足を崩し腕を組んで座りながら、大きな溜め息を吐いていた。

 彼は本来年齢を感じさせない若々しい老人だったが、今は歳相応にぐったりと疲れ切っている。
 その原因は、襲撃事件後に生き残ったプレイヤーに対しての保証問題の対応に、自身も巻き込まれてしまったからだった。

 (しかしまだ楽だった方ではあるか……)

 商業プレイヤー達を護衛して次の町まで連れていくという案を出し、実際にプレイヤーを集めて主催したプロゲーマーであるマーセル達が、(はた)から見ていても最も大変な目にあっていた。
 だからこそ彼らを思えば自分はまだマシな方だと考え直したのだ。

 今日は流石に疲れたからもう寝てしまおうかと鉄次が考えていると、彼のスマートフォンに電話が掛かってくる。

 「一華からか……」

 着信の相手を確認し鉄次が電話に出ると、一華が何処か緊張した声色を発していた。

 「どうした?何かあったのか?」

 『はい。今日はお爺様にお願いがあって電話をしました』

 「お願い?」

 孫娘から自分へのお願いと聞いて想像するのは、まず真っ先に来るのが剣道の稽古を付けて欲しいという物だったが、それならもう随分昔に了承しているし、こんなに(かしこ)まって緊張しながら話すような事ではない。
 本当に危険な事でも起きたのかと鉄次が訝しんでいると、一華が戦々恐々といった声色でお願いの内容を話し始めた。

 『お願いと言うのは、お爺様の連絡先を私の知人にお教えしたいのです』

 「連絡先を?その者から(わし)に何か用でもあるのか?」

 『はい。かなり重要な話になります』

 重苦しい言葉を口にした一華に対して、やはり何かあったのだと疑惑が確信に変わった鉄次は、取り敢えず詳しい話を一華から聞こうと疑問を口にする。

 「一華の知人というのは一体誰だ?」

 『お爺様が以前ゲーム内で戦われた、謎のソロプレイヤーと周囲からは呼ばれている黒フードのプレイヤーです』

 「何だとっ!?」

 驚きから思わず声を出し立ち上がってしまった鉄次は、孫娘が相手ということもあり、電話越しとはいえ模範的に振る舞わなくてはと心を落ち着かせ、再び座布団の上に頭を冷やしつつ腰を下ろし、問い掛けを口にする。

 「その者は本当に謎のソロプレイヤーと呼ばれる者で間違いないのか?」

 『間違いありません。実際に戦ってその強さを実体験しています』

 「そうか。なら間違いないな」

 孫娘の一華は鉄次自身の手で鍛え上げているので、実力は折り紙付きだ。
 そして何よりもプライドの高い一華が強さを認めたのだから、それこそ間違いないのだろう。 

 「分かった。連絡先を教えてしまって構わない」

 『ありがとうございます。お爺様に詳しい話をする為に何時(いつ)電話をするのかは、明日聞いて置きます』

 「ああ頼んだ」

 電話が切れたのを確認し、スマートフォンを目の前のちゃぶ台にそっと置く。

 (一華がどうやってあの者と知り合ったのか興味があるが、まあそれは些細なことか)

 結果的に謎のソロプレイヤーと知り合いになれるならば、経緯に関しては目を(つむ)る。
 重要なのは、謎のソロプレイヤーと再び戦える可能性が高まったという事実だ。

 (この歳で更に強くなりたいという欲求が増してくるとは……。何とも不思議なものだ)

 若いころの情熱を取り戻した鉄次は、良きライバルになりつつあるリヒトと、目標となるプレイヤーである謎のソロプレイヤーに心の中で感謝する。

 (とにかく連絡が来るのを待つとしよう)

 一華の声色を(かんが)みると、何やら重大な案件に感じたが、まずは話を聞いてみなければ何とも言えない。
 鉄次は取りあえず当初の予定通り今日は休むことに決め、ゆっくりと立ち上がり、寝る為の支度を始め出した。


◆◇◆◇


 8月6日木曜日、15時50分。

 愛知県名古屋市内に建設された新駅、名古屋学園都市駅に零が到着していた。
 零が改札を抜けると、既に改札の前にある柱にダインたちが集合している。

 「俺が最後か?」

 「そうだね。でも時間内だし、私たちが早すぎただけだから気にすることは無いよ」

 「そうか。なら良かった」

 まず最初に話しかけて来たダインの容姿は、ゲーム内とほとんど変化が無い。
 眼鏡を掛けた黒髪の痩せ型で、外見は少し頼りない印象そのままだ。

 沙織、一華、真希もゲーム内とほとんど変わらない容姿をしていたが、唯一リアだけが明確に変化している部分があった。

 「現実だと黒髪なんだな」

 「そうよ。学生だしね。ピンクの髪はゲーム内だけ」

 リアの発言通り、彼女の髪型がポニーテールである事に変わりは無かったが、ゲーム内と違い現実世界ではサラサラと絹のように流れる黒髪をしていた。

 「変かしら?」

 「いや、多少印象は変わるが、充分似合ってるから心配するな」

 何処か不安そうに尋ねて来るリアに対して、零はフッと笑みを浮かべて称賛する。

 「何で笑うのかしら?」

 「不安そうにしている姿が可笑しかったからだ」

 零の様子を見て何か気に入らなかったのか、リアがムッとした表情で問い掛けると、零が笑いを堪えながら理由を説明する。
 零から見れば、リアはどう見ても容姿で貶されたことは殆ど無さそうな外見をしているのに、本気で不安がっている姿についつい口元が緩くなってしまったのだ。

 零に指摘されたリアは悔しそうに眉を寄せたが、図星だったので何も言えずに黙り込んでしまう。

 そもそもリアが不安に感じていた訳は、ゲーム内でのピンクの髪しか見たことの無い零から見れば、違和感があるのではないかと憂慮してしまったが(ゆえ)の行動だったのだが、取り越し苦労だったようだ。

 「それで写真は持って来れたか?」

 「ええ。ただ大人になってからの写真が一枚もないの。データとしてパソコンに保存されていた写真は全て消されてて……。探し回ったんだけど、学生時代に家族で撮った写真一枚しか見つけられなかったわ」

 ポケットから取り出した写真は、リアが見つけた写真をコピーして持ってきた物だった。
 その写真に写る顔を見て、零が難しい顔になる。

 「高校卒業時の写真か?」

 「いいえ。中学の時のだって祖母が言っていたわ。伯父さんは高校に行かずに飛び入学で大学に行った天才児だったから、高校には1年生の時しか行ってないの」

 「そうか」

 まだ幼い頃の写真の為、身体的な成長も終わってはいない。
 しかしゲーム内で会った桐嶋の容姿と、今見ている写真を見比べた零から、呟きが漏れる。

 「似てるな……」

 零の言葉が聞こえたリアは、もしかしたらと思っていた懸念が当たってしまった事で、落ち込んだ表情へと変わる。

 「確信は持てないが、似ているのは確かだ。出来れば何処の大学に行っていたのか等も知りたい。あと卒業アルバムやリアの伯父に関する物を預かっても良いか?」

 「私が父の実家から写真は持って来たんだけど、他には何も見つからなかったから無理かもしれないわ。お爺ちゃんやお婆ちゃんに聞いても、伯父さんが昔実家に帰って来た時に色々と整理していたと言っていたから、その時に全部処分してしまったのかもしれない」

 困った表情で返答するリアを見て、零は考え込む素振りを見せる。

 「分かった。じゃあ本名と何処の大学に入っていたかだけで大丈夫だ。それだけでも充分調べられる」

 零の言葉を聞いて、リアがコクリと頷いて肯定の意思を示す。
 こうして最も重要だった話も終わったので、黙って待ってくれていた他の面々に顔を向ける。

 「取りあえず何処かの店にでも行こう。何時までも此処に居るわけにもいかないしな」

 他のメンバーを待たせてしまっていた事の申し訳なさから、零が苦笑して提案すると、待ってましたと言わんばかりに真希が手を上げる。

 「あたし行きたい所があるの」

 「何処ですか?」

 沈んでいた場の空気を変えるように元気よく声を上げた真希に対して、沙織がやんわりと答えを促す。

 「ここ!」

 真希は自分のスマートフォンを操作し、表示されたホームページを指さした。

 「新しく出来たショッピングモールですか」

 「そう。ここなら何でもあるし、丁度いいかなと思って」

 真希の行きたい場所とは、学園都市内に出来た複合商業施設だった。
 その施設にはショッピングセンター、飲食施設、映画館、娯楽施設など、様々な選択肢があるので、特に行く場所を決めてなかった今の状況にはぴったりだった。

 「良いんじゃないかな」

 「私も構わない」

 ダインや一華が了承したことで、自然と真希の行きたい場所に決定し、一同が歩き出す。
 零にとっては夏休みが終わればこちらの学校に行くことにもなっているので、街を事前に見ておくと言う意味でも、悪くない選択肢だった。
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