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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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95話 恵麻

 零がログアウトした後のゲーム内では、護衛集団襲撃の際、真紅の鎧を装備したプレイヤーに奇襲を受け殺されてしまったゴシックロリータの衣装を纏った少女――恵麻が、始まりの街の噴水広場のベンチに落ち込んだ様子で腰掛けていた。

 恵麻は現在、パーティーメンバーであったシンから、始まりの街まで迎えに行くというメールを受け取っている。
 だからこそ今もこうして始まりの街で動かずに待っているのだ。
 しかし彼女は、シンたちが自分の元へと本当に迎えに来る事を信じ切れずにいた。

 (迎えに来るなんて有り得ない!)

 何故彼女は(かたく)なにシンたちが迎えに来るのを信じないのか。
 それには彼女の生まれ育った環境が一因していた。

 恵麻は捨て子として、現在も施設で育っている。
 ただ現在の社会では、施設で育っていること事態は珍しくない。

 過度な少子化からの脱却の一環として、子供を産むだけでも補助金が一定額貰える制度を悪用し、子供を産んだら直ぐに施設へと預けてしまう親が出てきた影響で、珍しくないという表現方法を使わざるを得ないのが現状だ。
 そしてそんな社会問題にもなっている親による育成放棄の被害者の1人が、恵麻だった。

 彼女は生まれて()ぐに施設へと預けられた為、両親の顔も名前も何も知らない。
 しかし自分が施設で育ったことを悲観しているわけでもない。

 同じ境遇の子供たちが大勢いる事を恵麻は知っていたし、施設で親代わりに育ててくれている職員たちは良心的だ。
 ただそれでも恵麻は、本当の両親に一度で良いから会ってみたいという願望があった。

 何度か恵麻は両親に会わせてくれないかと施設の職員に直訴したことがある。
 しかし施設の職員たちは皆一様に首を横に振るばかりで、決して会わせてくれようとはしない。

 両親が行方不明という訳ではない。
 出産した病院や、補助金を得るために役所へと提出した書類を調べれば、直ぐにでも見つけることはできる。
 それでも職員たちが恵麻を両親と会わせないようにしている裏には、明確な理由が存在していた。

 一言で表現すると、恵麻を両親と会わせるのは危険なのだ。

 具体的に言うと、元々恵麻の両親は金を手に入れるために恵麻を産んだ。
 そして今現在、美少女として成長した恵麻を両親に会わせた場合、彼女を引き取ると言い出す可能性が高い。

 もちろん引き取ると言い出すであろう根拠は、金の為にだ。

 恵麻を引き取らせてしまえば、恵麻の両親が彼女に対して何をさせようとするのか、想像に(かた)くない。
 だからこそ施設の職員たちは、恵麻を守る為に両親と会わせないように努力してきたのだ。

 しかしその事実を知った恵麻は、それでも諦められなかった。

 ()(まで)も職員たちが言っている事は憶測に過ぎない。
 実際に会ってみなければどうなるかは分からない。

 もしかしたら両親は自分の事を受け入れ、普通の家族に為れるかもしれない。

 そう願ったからこそ、恵麻はまず初めにモデルやアイドルになろうとした。
 自分の容姿を生かし雑誌やテレビに出ることが出来れば、両親の目にも留まるはず。
 かなり悲観的な考えであったが、金銭を目当てに自分を産んだ両親なら、自分が金になると分かれば会いに来てくれると考えたのだ。

 しかし恵麻の計画は、直ぐに破綻する。

 保護者代わりである施設の職員たちが反対したことで、まだ14歳の未成年である恵麻は、アイドルとして働くことを許されなかったのだ。

 そして成年するまで働くことが出来ない事が判明した恵麻は悩んだ末、ある1つのゲームと出会う事になる。
 それがスキル・メイク・オンラインだった。

 ゲームの中でお金を稼ぐことが出来ると知った恵麻は、16歳の成年に成長するまでこのゲームで稼ぎ、自分で使える自由なお金を手にして、両親に会いに行くことを決意することとなる。
 できるならば大金を稼ぎ、本当の両親が自分に興味を持つようにすることが、彼女の中での最高の目標設定だった。

 自身のお小遣いを使用し、問題なくスキル・メイク・オンラインを手に入れた恵麻は、こうして今に至った。

 けれども恵麻の『普通の家族を経験してみたい』という願望は、現在も両親の方から引き取りに来ようとしていない時点で破綻している。
 そのことに本人も内心は気づいている。
 だからこそ彼女の考えは悲観的な物となり、今もこうして利害関係を無視して迎えに来ようとするシン達を信じられずにいたのだ。

 (本当に迎えに来るのかな?)

 ベンチで顔を(うつむ)かせながらも、シン達が来ないと断定して1人で動き出そうとしないのは、信じ切れないけど信じたいという彼女の思いがあったからだった。

 「ごめん遅れて。待たせちゃったよね」

 だからこそ俯いていた恵麻は、聞き覚えのある男の子の声が耳に入って来た瞬間、驚きの余り顔を勢いよく上げる事になる。

 「本当に来たの?」

 信じられないという表情で、声を掛けて来た少年――シンと、周りに居るダメ男や紙装甲、彩矢の姿を視界に収める。
 しかし問い掛けられたシンは、恵麻が何をそんなに驚いてるのか理解できずに首を傾げる。

 「うん」

 取りあえず返事をしなくてはと、シンが短く返答すると、何故か再び恵麻は顔を俯かせ、周りに表情が見えない様に隠してしまった。
 その姿を見たダメ男は、彼女が安心感から泣いているのかと思ったが、泣き声が聞こえるわけでもなかった為、どうしたのかと心配になってくる。
 しかし次の瞬間には、彼女が何事も無かったかのような表情で顔を上げたので、敢えてそのことに触れず、恵麻の現在のゲーム上の状態を尋ねる事にした。

 「恵麻さん。素材はアイテム倉庫に預けたりしていましたか?」

 「預けてない」

 「そうですか……。では恵麻さんの装備を整える事から始めましょうか。ただもうお昼ですし、一度ログアウトして、昼食を取ってからまた再開しましょう」

 ダメ男の指示を聞いたシン達は、全員反論が無いのか頷いて了承する。
 今後の方針も決まったので、彩矢が大丈夫だったかと恵麻に話しかけようと口を開けるが、指示を聞いた恵麻が直ぐにログアウトしてしまった為、それは叶わなかった。

 「恵麻さんは大丈夫でしょうか?」

 そんな恵麻を見送った彩矢が心配そうにダメ男に尋ねると、ダメ男は困った顔で首を振る。

 「分かりません。取りあえず今は様子を見ましょう」

 ダメ男の視点からすると、恵麻はプライドが高い傾向が見えたので、自分だけが殺されてしまった事で、プライドが傷ついてしまったというのが最も有力な説だったが、飽く迄も憶測でしかない為、口には出さなかった。
 実際のところ恵麻は、本当に迎えに来たシン達を見て困惑し、自分の中の価値観を正当化させ心を落ち着かせようと直ぐにログアウトしたのだが、恵麻の事情を知らないダメ男たちは、彼女が自分から話さない限り、恵麻が何を思っているのかを察することは難しい。

 「とにかく私たちもログアウトしましょうか。恵麻さんを待たせてしまうかもしれませんから」

 「「はい」」

 こうして恵麻という少女の心に、価値観を変える一石が投じられることとなった。
 そしてその投じられた一石が彼女をどう変えていくのかは、今はまだ誰も知らない。
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