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孤高の青年は飽くなき強さを追い求める ~unconventional【スキル・メイク・オンライン】~ 作者:紺藤シグル
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92話 特別

 零の姿が完全に見えなくなったのを確認した後に、廃墟の外で周囲を警戒していた聖の仲間たちが、扉を開けて廃れた家の中へと入っていく。

 「何だか貴方と同じようなオーラを発している方でしたね」

 家の中に入って早々(そうそう)に、被っていた白のフードを脱ぎながら聖へと声を掛けたのは、30代半ばほどの男性だった。
 彼は良く言えば普通、悪く言えば何の特徴も無い平凡な顔付きをしている。

 「そうだね。同じ種類の人間なのは間違いない」

 男の言葉を聖が呆気なく認めると、彼は驚きを露わにした。

 「(しげる)は何をそんなに驚いているんだい?」

 「いえ、貴方と同じような人間が本当に存在したのだなと思いまして」

 聖に茂と呼ばれた男性は、瞳に強い嫉妬の念を浮かべ始める。
 その瞳を目にした(じん)やクルミは、またかと呆れと諦めが混ざった表情になっていた。

 「聖さんと彼は一体どんな会話を交わしていたのでしょう?」

 「普通の問答だよ。ただ零は俺の目的に気付いてしまったみたいだね」

 聖が発した後半の一文を聞いて、それまで黙っていた仁が「はあ?」と声を上げて聖に食って掛かる。

 「お前……。まさか自分からしゃべったのか!?」

 「いや、彼が会話の内容から俺の目的を読み取ったんだよ」

 「読み取ったって……。お前は俺にあれだけ注意しろと言ってた癖に……」

 悪びれもせずに語る聖に対して絶句しながら、仁は頭を抱えてしまう。
 そんな仁を気にした様子もなく、モニター越しに会話を聞いていた拍摩(はくま)が聖に対して気になっていたことを尋ねて来る。

 『お前が零って奴と話している時に出てきた面白い変化ってのは、さっき観察してた少年か?』

 「そうだよ。草原を馬で駆けている最中もずっと観察していたんだ」

 零を護衛集団から離脱させ廃墟に連れてくるまでの道のりで、ずっと正義と悪とは何かを考えていた少年――(ひかる)をスキルで見聞きし続けていた聖は、少年の変化を思い出して笑みを浮かべる。

 「あの子はモンスターの群れから逃れる為に木に登っていたんだけど、そこから零の姿を追っていたみたいだ。
 零が少年の思い描く正義の味方のように、敵モンスターを打ち倒して行き、襲撃していた犯罪者プレイヤー達が散り散りに逃げる光景を目の当たりにして、羨望の眼差しを向けながら呟いていたよ。『僕にも力があれば、迷わずにいられるのかな……』とね」

 『考えるのをやめてしまったってことか?』

 「まだ分からないな。あの少年は零と違って絶対的な力を手に入れてないからね。これからも苦悩するだろう。
 しかし1つ切っ掛けができた。変化する切っ掛けが。
 ただ問題なのは、思考を停止して力だけを振るってしまえば、あの少年が求めるものとは真逆の方向へと進んでしまうかもしれない――という事だね」

 誰彼無しに力を振るえば、それは暴力になっていまう可能性が高い。
 本能的にその時々の善悪を嗅ぎ分けられるような力があれば別だが、それは余りにも都合が良すぎる考えだろう。
 そんな聖の言葉を聞いていた茂が、苦笑を浮かべながら疑問を呟く。

 「私も貴方と出会う前は思考停止していたんですかね?」

 「いや、君の場合は出した結論が間違っていた。努力の方向が間違っていた。とでも言うべきかな?」

 自分の歩んできた道を否定されたにも関わらず、茂は怒りもせずに「そうですね」と肯定する。
 そして聖と初めて出会った時の事を思い出していた。


◆◇◆◇


 夜でありながら、建ち並ぶ高層ビルによって照らされ賑わう街中で、1台のシルバーのボディーカラーをした自動車が走っていた。

 現代では、緊急車両を除いた公道を走る全ての車が、全自動運転車のみと法律で義務付けられている。
 また、車が全自動運転車のみになったことで、道路運送車両法が改憲され、全ての窓ガラスにスモークフィルムを設置できるようになった。
 その為、車内は外側からは見ることが出来ない状態になっている。

 そんな車の運転席に乗っているのは、端正な顔立ちをした20代の男性。
 そしてもう1人、男性と同じく美しい容姿をした女性が助手席に座っている。
 これだけの状況で判断すれば、恋人同士が車で何処かに向かっていると思えるかもしれない。

 けれども良く観察してみると、女性は心臓をナイフで刺され、血を流しながら絶命していた。

 「これでまた大騒ぎになりますかね?」

 運転席に座る男性が端正な顔を歪ませて笑みを作り、誰に聞かれることも無く独り言を呟く。
 すると見る見る車は速度を落とし、路肩に寄せて止まってしまった。

 しかしその場所は本来止まる予定では無い場所。
 男性が目的地として設定していた場所とは大きく異なっている位置だった。

 男性は一体どうなっているのかと困惑してしまっていると、鍵が閉まっているはずの後部座席のドアが開けられて、1人の青年が乗り込んで来る。

 そして混乱から声が出せないでいる男性を他所に、車は再び何事も無かったように走り出した。

 「こんばんわ。良い夜だね」

 困惑から回復する間もなく後部座席の青年に声を掛けられ、ミラー越しに恐る恐る姿を見ると、白髪の美しい青年が座っていた。
 何処か神秘的で、犯しがたい空気を放つ青年のオーラに飲まれそうになりつつあると、再び白髪の青年が言葉を紡ぐ。

 「素晴らしい特殊メイクだね。だからこそ警察の手から逃れ殺人を続けられているのかな?」

 ニコリと微笑んで問い掛けて来た白髪の青年に、男性は狼狽(うろた)える。
 恐らくまだ警察すら分かっていない特殊メイクを見破り、殺人犯と同じ車に乗っているにも関わらず、何食わぬ顔で話しかけて来る青年が、その神秘的な容姿と合わさってこの世ならざる者のように思えて来てしまったのだ。

 「名前は田中茂(たなかしげる)。年齢は31歳。身長172cm65kg。特にこれといって特筆すべきところが無い平凡な容姿、性格、運動能力、学力、友人関係。
 そんな貴方が何故連続殺人犯に?」

 自らの個人情報を完璧に言い当てられ、田中茂は驚愕から目を見開く。
 動揺を抑えるまでの(しばら)くの間、白髪の青年の問い掛けに答える事が出来なかったが、何とか平静を取り戻し口を開く。

 「私は昔から普通(、、)の人間でした。これと言った特徴も無く、平平凡凡な人間。
 しかし私はずっと憧れていたんです。特別な人間に。
 ずっと特別な人間になりたかった。普通(、、)から脱したかった。普通(、、)では無い人間になりたかった。そして私は、世間を震撼させる連続殺人犯になったんです」

 興奮気味に語る田中茂を見て、聖は可笑(おか)しそうにクスクスと笑い声をあげる。

 「何が可笑しいんですか?」

 「何が可笑しい――か。君は何に()りたかったんだい?」

 田中茂は質問に質問で返され、不快感から眉を顰めるが、青年の意図が気になってしまい素直に答える。

 「特別な人間です」

 「特別な人間を目指しているのに、何故人を殺して喜んでいるんだい?殺人なんて、普通(、、)の人間でも()ぐに出来る」

 青年の放った言葉は、田中茂に大きすぎる衝撃を与えた。
 確かに人殺しは普通(、、)の人間が殺意を持てば、今すぐにでも包丁か何かを使えば可能な(おこな)いだ。

 「誰にでも直ぐに出来る事をやっても、それは特別な人間になった事にはならない。幾つかある内の特別な人間としての定義を1つ上げるならば、大多数の人間がやろうとしても出来ない行為が出来る事だ」

 「では今の私は何と呼ばれるのでしょう?」

 「今の君は、世間から見れば異常者だろうね」

 世間を震撼させる連続殺人を行う事で、自分は特別な人間になったと勘違いしていた田中茂だったが、白髪の青年の言葉を聞き終えた後には、今まで自らのやって来た事は何だったのだろうかと失望し、これからどうすればいいかと困惑してしまっていた。
 そんな田中を気にすることなく、車は再び速度を落とし路肩へと停車する。

 「俺は君に変わる切っ掛けを与えた。あとは君次第だ。君の変化に期待しているよ」

 車から降りようとする青年に対して、田中茂は慌てて声を上げる。

 「貴方は特別な人間なんでしょうか?」

 「さあ?特別かどうかは第3者が決める事だからね。だからこそ、君が俺を特別な人間だと思ったのなら、俺は特別な人間なんだろうね」

 自分自身が特別な人間かどうかには興味が無いのか、青年はあっさりとした口調で答えると、車を降りて颯爽(さっそう)と喧騒の中へと消えて行く。

 すると車は今度こそ、田中茂が目的地に設定した場所に向かって進み始めた。

 静寂に包まれる車内で、田中茂は今後について考えていた。
 今まで自分がやっていたことは、例えるならば、スポーツ選手になりたかったのに、芸術家を目指していた。
 そんな方向性の違いがあったのだ。

 ならばこれからどうやって特別な人間になればいいのか、努力の方向性を見つけ出す上で1番なのは、特別な人間を間近で観察することだと田中茂は結論付ける。

 それから暫くの時が経ち、田中茂は白髪の青年――聖の仲間に加わる事になった。
 彼の目指す普通(、、)からの脱却を目指す為に。


◆◇◆◇


 「クルミと茂はもうログアウトしても構わないよ。今日はもうやって貰う事も無いからね」

 聖が言葉を発したことで、田中茂の意識がゲーム内に戻る。
 その姿を見た聖が、再び言葉を紡ぐ。

 「おそらく零は現実世界でも何かしらの手を打って来るはずだ。だから俺も現実世界で色々手を回して来ないといけない。拍摩にはその手伝いをして貰うよ。それと仁には始まりの街に行って、護衛集団襲撃で死んでしまったこちら側のプレイヤーに、新しい装備を与えに行ってくれ」

 『分かった』

 「了解」

 拍摩と仁の返事を聞き終えると、聖は町に戻りログアウトする為に部屋の外へと出て行く。
 そして聖を追うように、田中茂もドアから外へと出て行った。

 残された仁とクルミの内、仁が聖からの指示を実行すべく廃墟から出て行こうとすると、クルミが不安気な声色で仁に問い掛ける。

 「ねえ仁。茂さんは聖と出会って殺人を止めたけど、それって良い変化だよね?」

 「……普通に考えれば良い変化だろうが、少なくとも茂に関してはどうとも言えないな。茂は聖と関わり続けちまっている。しかも聖という特別な存在を間近で見続けている影響で、昔より『普通ではなくなる』という目的への執着が強くなってる。
 だから零って奴の評価を聖から聞いて、憎しみにも近い嫉妬の感情を露わにしたんだろう」

 強い嫉妬の感情を溢れ出していた茂の姿を思い出しながら、クルミは更に仁へと質問する。

 「茂さんは特別な存在になるために何をしてしまうか分からないって事?」

 「いや、それは無いな。少なくとも目的に近づく為に何をしたらいいのか考えるようになってる。まあどちらにしても、茂は聖に魅了されている。特別な存在と共にいることで、自分も特別な人間の一員になったかのように錯覚して、気持ちが良いんだろう」

 「私たちもかな?」

 短く呟いたクルミの問いに、仁は自嘲気味に苦笑する。

 「お前はちょっと違うな。お前は聖を妄信してる。聖に依存してる。俺たちとは違う形でな。その理由も本当は分かってるんだろう?」

 言われたくない部分を仁に言い当てられ、クルミは顔を顰めて無言でソッポを向いてしまった。
 その姿を見た仁は、やれやれと肩を竦めると、今度こそ部屋の外へと出て行った。
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