23. そして、いつもは毎日
――ボス……ネット張りすぎ。ちゃんと加減して張って。
俺は新人 ( ニューマン ) の加悦さんに言われて、軽く逆噴射させてキャッチャーボートの位置を微妙に修正した。大きく広がったネット。三点で張るネットは、いつもの俺たちのスタイル。
――タカさ〜ん、暇になってからで良いんですけどさ、改良しましょうよ。これ。やっぱり、頭の方に飛びたい。柏木さん、アタマ方向に進むのは無茶気持ちいいって言ってました。足方向に進むのは気持ち悪すぎるですって。
「おいっ。パンピー柏木は人間だぞ。まさか、あんな防護服貸したんじゃなんだろうな」
――ちゃんと軍用品の最高級スペジャケも下に着込んでもらいました。
「高級品のスペジャケってウチの備品にあるか?」
――ありますよ。タカさんが、軍人臭くて嫌だって見向きもしなかっただけじゃない。何年前だった、あれ。
加悦さんはあっさり教えている。
「いい。官服がにあわないって、若い子に苛められたから」
いつものロスコン拾いのフィールドで、下らないおしゃべりに興じていると、マムから通信が入った。
――高柳三等宙曹。出頭命令です。ご確認ください。
「あれま。来ちゃったか……。プールの一件じゃぁ、頑張ったから、武士の情けで無かったことにしてくれると、思ってたんだけどナァ」
俺はちょっとだけがっかりした。呼び出される用件として、ざっと思いつく材料は、一番最初の帰還命令拒否。それから、ID端末のデータ改竄。他人のパーソナル・データの不正使用。
まさか、シャトルをお釈迦にしたって、そこまで酷い言いがかりはつけてこないだろう。プールは一応修繕できるみたいだし。いくら軍ってのが極悪な組織だったとしても。俺は、このスカベンジャー・フィールドで、残り少なくない一生を、ちまちまロスコン拾いで終えるのだ。ああ。神様。俺の獅子舞ダンス……見逃しましたね。
* * *
今日もフィットネス・ジムのスタジオにマッチョな柏木はやってきていた。ザキさんの声が響くここがやっぱり、物凄く楽しい。
「みんなぁっ、今日もナイスファイトでしたっ。お疲れ様〜〜っ」
「うぉーーっ」
雄叫びを思う存分あげるのは気持ちいい。拍手する奴もいれば、両手を振り上げている奴もいる。柏木はただザキさんにみとれていた。と、その時。
「柏木さーん」
マイクを通して、ザキさんが柏木を呼んだ。
(へ? オレ?)
というように、柏木が自分を指さして、ザキさんに目で確認する。
一呼吸吸い込んでから……、
「大好きっ」
未知香は思いっきりマイクに向かって、叫んだ。明日が今日の続きなんて幻想だし、いつおわるか分からないというのが事実なのだ。玉砕するならしてしまえ。好きという思いを抱えたままでいるなんて、私らしくない。
その場に居合わせた全員が一瞬で凍りつく。皆が大好きな、皆のザキさんが、よりによってデカイだけの柏木に告白?! しかも、こんなところで。
柏木も凍りついた。彼の内側では心臓が早鐘を打ったようにビートを刻みまくっていた。隣で汗を拭いていた飛竜が、この野郎というように、柏木の脇腹を小突いた。
「全く、女から告白されて、お前、情けなさ過ぎ」
「……で、でも。オレ、デカイだけだし。ザキさんみたいに可愛い人には……」
この後に及んで、まだマイナス材料を拾うのか。こいつは。飛竜は、思いっきりの力で柏木の背中をどやしつけて、ザキさんの方を押しやろうとする。と、彼女はまたしてもマイクを通してのガンガン鳴り響く声で叫んだ。
「でもぉ、タカさんも好みなのぉっ。二股かけていい〜?」
柏木と飛竜は重なるようにして倒れた。テラG、最低。思いっきり痛いんでやんの。
「イェーーッィ! 欲しいものは、ゲットするわよっ」
未知香は雄叫びをあげてから、声を立てて笑った。その声は、柏木の耳には鈴が振られているように聞こえた。
* * *
「イエローっ」
学校からの帰り道のことだった。遊星が呼ぶと、崇が振り返った。
「おぉ。グリーンか。今日は何する?」
ちょっと怖かったピクニックから生還し、ママたちにお尻をぶたれたり、泣き落とされたり、長時間の説教を喰らったりと、三者三様の叱り方をママたちから受けた三人だったが、これくらいでめげるものかとばかりに相変わらずつるんでいる。
「もちろん中央児童館行こうぜ」
遊星の答えには迷いが無い。
「またかよっ。また科学実験教室?」
「うんっ。ボク、タカさんみたいに、いろんなことを考えつく人になるんだ」
遊星の突飛な発想にはついていけない。どうして、あの一件だけで、将来をブルーからグリーンに乗り換えることができるんだろう。まぁ、オレだって、バナナ・イエローが一番だって、ちゃんと言えるようになったんだからエライだろ? 崇は一人ごちだ。
向うから、ショートカットになった美咲が走ってくる。美咲のお手伝い大作戦は、かなり効果を発揮しているようで、美咲ママはいつもウチのママに愚痴っている。
――お尻をぶったのが利きすぎたかしら?
って、なんだか嬉しそうに。
崇の方は、『貴方が死んだら、生きていけないの』と、人前も憚らず泣き崩れていたママを見て、ちょっと頼りないことは重々承知で、イエロー宣言を出した。二度とママを泣かせないというのがその趣旨らしいが、無鉄砲を思いつくのは相変わらずだ。
「昨日のミラーズ見た? ピンク可愛かった〜」
女の子っぽい見掛けを排除して、髪も切ったし、ジーンズばかり履く様になった美咲は、なんだか前より女っぽくて可愛い。崇と遊星は、そういう評価で一致していた。
「美咲。もう、カシスさまはやらないの?」
「とんでもない。キシュワード閣下にはカシスさまがついてなきゃ。でも、昨日のは断然ピンク。ホントに役に立たないことではピカいちだけど、ピンクが泣いてさ、ブルーが凄く燃えたじゃん。馬鹿ヂカラ5倍くらいだったかも」
どうも、あのタカさんの嫁さんになるってのが、美咲の目標らしい。これはママたちにはナイショ。俺たちは、美咲が大きくなるころには、おじちゃんはおじいちゃんになってるから、俺たちのどっちかで我慢させようとコッソリ話し合ってるが、今は燃えてる美咲にそんなことは切り出さないことで合意している。
もっとも、待つってのはイエローの本分だから、崇はこっそり遊星より有利だとおもっているし、逆に遊星は、タカのような男になれば、美咲がよろめくはずだと信じている。まぁ、可愛いものだ。
「渋いヒーローは、イエローだぜ。俺、バナナ・イエロー」
「ボクは緑がいいなぁ。発明と発見と発想。男はこれでなくちゃ」
* * *
出頭した幕僚本部で、何故か正装させられ、高柳三等宙曹は広報でしか見たことが無いお偉方がズラリと並ぶ場所に引きずり出されていた。どうにも、尻がもぞもぞする。ろくなことになりそうな気がしない。
高柳の数倍は飄々とした印象がある小男。これが有名なスキルズ・リスト、不動のトップランカー、情報部の万年二佐……岸? そう思うと、高柳ははっきり言って、意外の感に打たれた。わきに控えている長身の青年や、若いくせに恰幅が良いという表現が似合う、この年齢層の中では十分青年で通じる、堂々とした押し出しの「あゆみちゃん」とくらべても充分に控えめな風貌 ( ふうぼう ) 。
しかし、ここは幕僚本部で、上座に並べられた椅子にどっかりと腰掛けている連中は、佐官より遙かに上の将官位の制服 ( ぐんぷく ) をきて、ちゃらんちゃらんと音がしそうなくらい、勲章だのバッヂみたいなのだのをつけている。
正装の俺が、三十面下げて、どこか七五三になっているのとは、エライ違いだ。やっぱり、将官の連中にくらべれば随分しょぼそうな勲章をちゃんとつけた歩が、良く通る声でビシッと言った。
「高柳三等宙曹。起立せよ」
軍人長くやってると、友人の口からでた掛け声でも、とっさに体に芯が通るから不思議だ。高柳は直立不動になってから、心の中でだけ苦笑した。生涯、直接見ることも無いと思っていたお歴々が並んでいるのだ。そりゃ、ここでボケかませるほどの度胸はない。
ゆったりとした動作でおもむろに立ちあがった岸が、軽くお歴々に向かって姿勢を正してから、高柳に向き直った。頭が自動的に15度うつむく。実 ( げ ) に習慣とはおそろしい。で、一体何が始まるんだ?
「辞令。高柳三等宙曹」
……辞令って、俺、軍籍剥奪じゃぁないのね。
「辞令を代読する。本日を以て、貴官は、特殊能力者リストに記載されることとなった」
へっ……? 俺が、スキルズって冗談ですよね。
「技能区分は、微細重力下特殊作業。配備先は、居住地開発プロジェクトが着々と進行しつつある、開拓最前線のいずれかになる。詳しい配属地は、転属先の上官の指示に従うように。所属組織は、事故発生時・対策統轄本部、DFF(Disaster Fire Fighting)になる。また、現在の貴官の旧配属部署に所属する新人 ( ニューマン ) 二名は、貴官がその責務を遂行するために必要な要素であると判断し、引き続き貴官の下に配属を許可する。貴官の能力が必要とされる現場であることを、本官は確信して止まない」
岸の声は、特別大きくないのだが、よく通る。にっこりと微笑む岸二佐。俺の耳は今何を聞いたのでしょうか……。開拓最前線っつーと……。
――フ ロ ン テ……あーーーーっ?
俺の明るい家族計画は、神様っどうなるんですか?
俺の可愛い未来のお嫁さんは……、神様っ、そんなところに、いるんですか?
俺の獅子舞ダンス見たくないなら、罰を下す前にそー言ってくださいっ!
あゆみちゃんっ。お前、スカした面しやがって、絶対、笑ってるだろ。
俺が気が弱い常識人でなければ、この場で歩につかみかかっていただろう。気弱い俺は、ここでそんなことをする度胸はない。体はぼーっと突っ立ったまま、頭の中でだけ、ジタバタしている俺に頓着せず、冷たく、岸二佐の声が告げた。
「以上である。高柳三等宙曹、退室を許可する」
お気に召しましたらポチっと一発!
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。
ついったーで読了宣言!
― お薦めレビューを書く ―
※ は必須項目です。
⇒レビュー一覧を見る
※レビューを書く場合は
ログイン してください。
※ レビュータイトル
8文字以上、10文字以内で入力
※ レビュー本文
空白・改行含まない150文字以上、 空白・改行含む400文字以内で入力
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。