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深淵少女シマモモコ 作者:雨宮ヤスミ

[終]ルビーの進む道

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6-12

「最後には前、向けたらいいよな。進む道の方をさ」
 

 アキナは、背後でへたりこむ生き残りの「ディストキーパー」の気配を感じながら、油断なく七体の闘士型を見据えた。

 地面に転がる、切り刻まれた「ディストキーパー」たちの死体が痛ましい。もう、この背にかばっている彼女しか生き残っていないのだろう。

 これを間に合ったと考えていいのか。もっと早く来れたらよかったんじゃないか。こんなことだから、あたしは――。

 いや、今は。アキナは頭を振って考えを追い出して、警戒するようにじりじりと動く七体に、改めて構えを取った。

 助けられなかった八人よりも、救えそうな一人のために拳を振るうのだ。

 先ほどアキナが殴り飛ばした、一番近い位置にいた闘士型が斬りかかってくる。並みの「ディストキーパー」ならば一撃で両断される威力の剣を、アキナは片手で受け止めた。

「破ァッ!」

 気合一声、刀身を握りつぶす。言葉を持たない怪物どもに動揺の色が走ったようだった。

 武器を砕かれた闘士型は、左手の盾で殴りかかる。その一撃をアキナは右の掌で止める。

 どんな攻撃をも阻んできたその盾を、アキナは握りつぶした。その瞬間、闘士型の口から発せられた「ディスト」特有の声は、悲鳴のように響いたが、それで容赦する義理はない。

「邪ッッ!」

 剣も盾も失った闘士型の、人間で言えば鳩尾付近を、甲冑ごとアキナの抜き手が貫いた。

「燃え落ちろ……!」

 体に開いた穴から炎が灯り、闘士型を舐めつくした。

 名状しがたい叫びを上げながら、二体が左右から斬りかかってくる。

 アキナは燃える闘士型から右手を引き抜くが、回避は到底間に合いそうにない。剣がアキナの体を斬り裂いたかに見えた。

「!?」

 剣は空振りし、「インガの裏側」の灰色の地面を叩いた。アキナの姿がゆらめき、かき消えたのだ。

「こっちだ」

 アキナは右から斬りかかってきた方の闘士型の背後に立っている。

 その手には、二丁の拳銃が握られていた。その銃口はどちらも闘士型の背中に突きつけられている。

「『トータル・エクリプス』!」

 拳銃「エクリプス」から放たれた光の奔流が、二体の闘士型を消し飛ばした。

 感じる。アキナは残る四体に向き直った。

 この拳銃だけじゃない。闘士型二体の挟撃をかわしたのも、光の「ディストキーパー」のワープ能力だ。体の奥から沸き上がるトウコの「インガ」を、力を感じていた。

 十字型と戦った時以来の感覚だ。あいつも、あたしの背中を押してくれてるんだ。

 慎重に盾を持ち上げ、間合いをとる残りの闘士型に、アキナは銃口を向けた。

 力を貸してくれるのはありがたいけど。アキナは考える。これはあたしの流儀じゃない。

 なら、変えればいい。

 シイナの言葉がよみがえる。「ディストキーパー」の力は、心の力なのだから。

「行くぞ!」

 言葉と同時に、アキナの体が赤い炎に包まれる。それは丸く広がって輝き、光球となった。


 少し離れたところでアキナと闘士型が戦うのを見ていた、川向市の生き残りの彼女は、その圧倒的な力に目を見張る。

 彼女は、アキナの体の奥からまだ力が沸き上がってきているのを感じていた。今でもあんなに強いのに、と彼女はナイフを握りしめる。

 太陽だ。

 川向市の生き残りはつぶやく。

 あの人は、炎と光――太陽の「ディストキーパー」だ。


 光球はアキナの体に収束し、その姿を新たなものに変える。
 黒地に赤と白のラインのボディースーツ、その上に載るのは翼持つ近未来的な鎧、赤い髪に混じった光沢のある銀髪、そして二丁拳銃はアキナのグローブを強化する装甲に姿を変えた。

 十字型を倒した、あの時の姿だ。

「あたしは進む!」

 自分の傲慢も独善も後悔も、怒りも悲しみも無力さも。

 誰かの嫉妬も恨みも憎しみも、夢も希望も優しさも。

 全部飲み込んで、燃やして力に変えて。

「だから……」

 アキナは拳を腰だめに構えて、後足に力を込める。背中の機械の翼が展開し、輝きを放つ。

「そこを、退けぇ!」

 正に光の速さであった。闘士型との距離を詰めると、構えた盾ごと拳で貫き、一撃の下に打ち倒す。

 あと三体! 振り返ると剣を抜いてこちらに向かってきている。

 全部射程圏内だ。アキナは両手を祈るように組み合わせ、闘士型に突き出す。背中に大きな光の翼が広がり、手の中に熱い力が溢れてくる。

 右足を踏み出し、腕を伸ばしきって、叫びと同時に力を解き放った。

「『レディアント・ルビー・ノヴァ』!」

 星々の輝きがグローブから溢れて輝き、発せられた赤い光が、三体の「ディスト」を消し飛ばした。



「……無事か?」

 アキナは「最終深点」を解いて、へたりこんでいる生き残りに向き直る。

 呆けたような様子だった彼女は、声をかけられて飛び上がるように立ち上がった。

 彼女の衣装をまじまじと見て、アキナはふっと笑った。

「あんたも、『エメラルド』か?」

 え、と少し驚いた顔をして緑のラインの入ったボディスーツの彼女は、川向市の「エメラルド」はうなずいた。

「そうか……」

 同じ「エメラルド」でもこの彼女とミリカは、当たり前だが容姿も雰囲気も、きっと性格や「最初の改変」も違う。置かれてる状況もだ。彼女はもう仲間が全滅してひとりきりになってしまった。

 だけど、ミリカと初めて会った時も、こうやって背中にかばって助けたんだったか。それで、あの後トウコが……。

「深淵を……」

 言いかけて、いや違うなとアキナは首を横に振った。それもあたしの流儀じゃない。きょとんとする彼女に、アキナは言い直した。

「厳しいこと、これからもたくさんあるよ。だけど、その時どこ向いてたってさ、最後には前、向けたらいいよな」

 進む道の方をさ。微笑んで、アキナはきびすを返す。

「あ、ありがとう……ございました!」

 背中にかかる声に振り返らず、アキナは行く。

 戻ることなどできないと、知っているかのように。
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