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光が、空から降ってくる
貫く力は絶大で、人間なんか簡単に消滅させてしまう

そんな、剣のオーロラ
〔七十九話〕 ある夏の、戦い ~終編~
 粉塵が巻き起こる中、愛美はただその光景を眺めることしかできなかった。

 光の雨が降り注ぎ、おそらく空は反応することすらできなかっただろう。反応できていたとしても一人の人間に防ぎきれる攻撃ではなかったし、逃げ出すことすら出来はしない。

 粉塵が少しずつ、風に流されて消えていく。

 その先に見えた空の姿に、愛美はただ息を飲んだ。

「……そ、ら……」

 空は、立っていた。

 両足に突き刺さった白刃は彼に倒れることを許さず、右肩から垂れた腕は皮一枚で繋がっているだけで骨すら完全に切断していた。かろうじて心臓は外しているのか、両胸に刺さった白刃には赤黒い血液が滴り落ち、光の剣を血液の道が伝っていた。

 俯いた表情は、生気を感じない。

 死んでいるといわれてもおかしくないその姿に、思わず涙がこぼれた。

「だから……言っただろ」

 同じように俯いた天一は、まるで悲しみを搾り出すような声で呟いた。

「どうなっても、知らないって、さぁ」

 愛美の耳に届いたはずの呟きは、しかし理解できるものではなく、ただ目の前の事実を否定しようとする自分がいた。

 今にも悲鳴を上げたくなる。泣き叫びたくなる。幼馴染の元へと駆け寄ってしまいそうになる。

 けれどそれすら、両足の震えで押さえつけられた。

「……うそ、だよね……空」

 考えたことが無いといえば、嘘になる。仲間の誰かが死んでしまう可能性、誰かが大きな負傷をしたとき自分は冷静でいられるのか。

 答えはいつも、否だった。

 誰だってそうだ。真紅や空はもちろん、天一や康、恵理が同じ状況になったとしても愛美は立っていられないだろう。誰かを失う悲しみなど父を失ったときに乗り越えたはずだった。でも結局は、自分の弱さを痛感させられる。

 膝から崩れ落ちた愛美を、脇にいた天一がそっと受け止める。感謝の言葉を述べることすらできなくて、愛美はただ呆然と立ったままの空へと視線を向け続けた。

「うそだよ……うそ……」
「……愛美」

 悔しそうに歯噛みしながら天一は酷く弱々しい声で語りかける。天一だって仲間を傷つけた痛みがあるはずなのに、愛美はそれにも気づけない。


 このまま空が死んでしまえば――


 壊れそうな愛美の眼前で、一つ、奇妙な光景が広がった。


――――――


 光の剣を全身に浴びれば、今の空でもただではすまない。

 康だってそんなこと百も承知していたし、何より天一の本気を一番理解しているのは付き合いの長い康本人だった。

 彼が本気で力を放つ、その行為にトラウマを持っていることだって知っている。無意識のうちに出力を半分以下に抑え、それでも康たちと対等に戦えていたことも重々理解している。力の蛇口が閉じている今でも――


 ――力を使える状況で、天一に勝てる人間がいないことを知っていた。


 全身から血を流している空の姿を少しだけ離れた場所で睨みながら、康は自らの性格を呪った。

 この戦いの最中、康はある妙案を思いついていた。

 空の暴走を利用して少しでも早く天一の力を取り戻させることができないだろうか、と。

 天一の能力喪失は敵のナイトメア、烏丸 聡司と戦った際に力を吸い取られたのが原因だと天一は言っていた。彼の師匠である老人も、おそらく同じ見解を崩さないだろう。だが康には、それこそが不自然で仕方なく思えていた。

 能力は扱う人間の精神力を利用して発動している。生命力を放出しているといっても過言ではない。その容量や出力は人それぞれであり、扱える力の質も千差万別である。その中で共通しているのが大部分の能力者は十六の自然属性に帰属していることと、一度使い方を覚えた人間がそれを失ったとき、それは死ぬときだという真実だった。

 本当に力を使えなくなった人間とは生命力が枯渇した状態、すなわち死に際の人間に他ならない。他の能力者なんて数えるほどしかあったことはないものの、理論が間違っていなければそうなるはずだ。

 例外は、能力者本人が力を使えないと思い込んでいる場合。

 天一が聡司に奪い取られたのは魔力の素、精神力の一部だったのだろうと康は考えている。彼らのような人外の存在、それを創り上げたものたちならそんな凶悪な理論を創り上げている可能性がある。戦いから数日の間、天一が力を使えなかったのはそこに原因がある。さらに言えば、天一の能力に蓋をしたのは彼の師匠が放った言葉だ。何を意図して天一の能力を封じたのか知らないが、あの老人ならありえなくは無い。

 彼の言葉には、言霊が乗っているから。

 天一に本気を出させれば”蓋”も少しは開くかと思った。けれどその代償は、大きすぎる。

「ここまでダメージを受けたら……」

 康がこの空間にあらかじめ設定していたルール。そのうちの一つは致命傷を負わないこと。どんな魔力でも物理的な攻撃でも、致命傷を受けることはない。空間内に隔離されたもの全てを支配するルールはしかし、天一の力の前に屈してしまった。

 出血量や無数の傷を見れば、これが致命傷にならないなんて楽観は出来ない。

 康たちが持っている力がいくら常軌を逸しているといえど、死んでしまった人間を復活させることは絶対にできない。それを知っている康だから、この光景に歯を食いしばることしかできない。

「康……待て」

 下を向いていた康の頭上に、冷静な声が響き渡る。それを発したはずの男は未だ片手に刀を握り締め、倒れる前の空を睨み続けている。

「……真紅?」
「アレ、お前の力か?」

 刀の切っ先を光の山へと向ける真紅に、思わず視線がそちらへとずれる。

 そこには康の予想とはまるで違う光景が広がっていた。

 光の刃が全て抜け落ち、前のめりになって静止している空の姿。そのまま倒れるわけでもなく、かといって意識して立っているわけでもない。単純に、その場で静止しているだけ。両足の力なんて残っているはずが無いのに、倒れることを拒絶する彼の姿は、血まみれの人間が取れる姿勢では決してなかった。

 その全身を薄い光が包んでいる。

 空自身が発光しているわけではなく、光の粒子が隙間無く包み込んでいるような光景は自身が使っているその力よりも神秘的で、康は思わず目を見張っていた。

 光の粒子が少しずつ、解けるように空へと呑み込まれていく。呑み込まれる先は全身のいたるところに存在する傷。光はまるで塗り薬のように傷へと染み込み、その傷を最初から無かったかのごとく消滅させていく。

 光が全て収まったとき、空の身体は宙に放り出され、地面へとうつぶせに落ちていった。

「……なんだったんだ、今の?」

 呆けた声を漏らす康とは対照的に、真紅の動きは実に素早く、的確なものだった。

 倒れた空へといち早く駆け寄り、何事も無かったかのように担ぎ上げて、呆けて動けない三人を気にすることなく脈を取ったり、呼吸を確認したりしている。

 一通りの確認を終えて、真紅は立ち上がっていた。

「……康、空間を解除しろ」
「え?」
「外傷なし、呼吸正常。単純に寝てるだけだ、こいつ」

 軽めに、横たわるその身体を蹴ってから真紅はやれやれと溜め息をついた。

 康にとってその答えは完全な予想外であり、おそらくは天一にとっても予想外の言葉だっただろう。光の剣を全身に浴びて生きていること自体がありえないことなのに、無傷だという。肩透かし、というものとは意味が変わってくるものの、呆けるには十分すぎる理由になるだろう。

「とりあえず保健室にでも運んでおこう。叶に見てもらえば理由くらいはわかるんじゃないか?」

 唯一冷静にそんな指示を送る真紅に感心と畏怖の念を抱きながら、康は言われたとおりこの空間を解除すべく力を使うのだった。
はい、お久しぶりです。
広瀬でございます。

まさかまさかの更新期間……あら、三ヶ月近く更新してない!?
忙しいとか関係なくこれはどうなんだと自分で思ってしまう今日この頃。
いやぁ、激動の三ヶ月だった(言い訳)

兎にも角にもここから先、もっと積極的に書いていこうと思います。

ではでは~~。


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