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 少年たちの安らぎ。
 それは何人たりとも犯せないもの。
〔四十話〕 安らぎの時を
 無事鬼ごっこを終わらせた真紅たちは、勝者の景品を決めるため科学準備室に集まっていた。学科が違う天一、康、恵理の三人と真紅、空。そしてなぜか愛美を交えた六人。教師である叶を含めると七人が狭い科学準備室に収まっているのだ、暑苦しくてたまらない。

「さて、と。真紅と空の景品は決まっていたわね。真紅には新しい刀を、空には銃を。元々勝ち残る生徒が極端に少ないゲームだから、学園側もかなりの資金を提供してくれてる。いやぁ、金持ちの学校はいいわねぇ」

 しみじみと言われてもどう反応していいのかわからず、六人がそろって口をつぐんでしまう。それに気づいているのかいないのか、叶は実験台の上にノートパソコンを置いて、画面にページを表示した。

 表示されたページの頭に描かれていたのは”武器屋”とかいうなんとも気が抜ける文字。

 真紅はただ、その文字を見て脱力するだけだった。

「……かなり胡散臭いんだが」
「大丈夫よ。ここは一見するとただの個人サイトだけど、ちょっとした作業をすることで本物の武器屋として使用することができるの。もっとも店舗が隣町にあるから、実物はそこで買うのが一番なんだけどね。今回はただ写真を見て、これだ! と思う品をピックアップしてくれればいいわ」

 叶はパソコンを真紅と空の前に押しやり、康と話し始めた。

 ナイトメアが襲ってきた場合の防衛策はこの二人に一任することになった。いざとなれば空間すら操ることができる康はこういった守りの戦いに向いているし、叶は自身がナイトメアだということもあって相手の作戦を予測することに長けている。この二人が防衛策を思案するのは至極当然の人選だった。

 叶がナイトメアの一人であることは、ここにいる全員に伝えていた。その際、空と愛美は驚愕の表情を、天一と康は最初からわかっていたように平然とした表情を浮かべていた。唯一、恵理はそのナイトメアというものが何か理解していなかったため、呆けたような表情を浮かべていたものだ。

 ナイトメアの実態についても叶から説明をしてもらった。言いたくないこともあるだろうからと口をつぐんでいたが、やはり叶は自らが誰かのクローンであるという事実だけ伏せていた。

 その他諸々の話をしていた結果、放課後も遅い時間まで科学準備室に引きこもることになってしまっていた。

 ああだこうだと話し合う二人を横目に、真紅はパソコンの画面へ目を落とす。今は空が銃の写真を見ているが、確かに品揃えはいい。もっともここには”観賞用”という注意書きが書かれている。本当に売っているという事実が警察などに知られたら、一発で家宅捜索されてしまうなぁとどうでもいいことを考えつつ、真紅は深く息を吐いた。

「どうしたの、真紅? 疲れた?」

 空とは反対側、真紅の右隣に座っていた愛美が心配そうにそんな声をかけてくれる。変に勘ぐらせるのもかわいそうだと思い、真紅は勤めて笑顔を浮かべた。

「いや、学園の景品で武器って、ばれたらどうなるのかなぁと」
「あ、それは言えてるね」

 あっけらかんと言ってのける愛美は楽観視しているのではなく、単純に物を考えていないのだろう。難しいことは考えないのが彼女の信条だ。

 何となく羨ましいと思う。そんなふうに難しく考えず生きられたら、どれだけ人生が充実することだろう。

「どうしたの? じっと見つめちゃって、惚れた?」
「……馬鹿か」

 不満そうに下唇を突き出す愛美を一蹴すると、空の驚いたような声が狭い室内を木霊した。

 その場にいた全員が空へと視線を向けた。

「……どうしたの?」
「え、いや。もの凄く珍しいもの見つけちまって……叶ちゃん、これ決定」

 画面の写真を指差し、空いた手で叶を呼び寄せる。叶も話を切り上げ画面を覗き込んだが、小さく眉を歪めていた。

「ほんとにこれでいいの?」
「うん。いや、むしろこれでなくちゃ意味がないね」

 真紅も画面を覗き込むが、一見すると空が使っていたものと変わりない。

 しかし空はそれがたいそう気に入ったらしく、叶が何を言おうがその意志を変えることはなかった。

 空の得物が決まったところで、今度は真紅にパソコンが渡っていた。

 パソコンなどほとんど使ったことがなかったが、空と愛美に協力してもらうことで何とか使えていた。

 だが、どうにもこれと言える代物が存在しない。

「なぁ、叶。いつ実物を買いに行くんだ?」
「明日の放課後だよ。何か問題ある?」
「いや、ない。ただ、店に行くまで選ぶのは保留にしておいてもいいか? どうにも、これと言えるものが見当たらない」

 もともと父の残した刀があるからか、早急に決める必要もない。なにより明日ならば、七夜との戦いにもなんら影響はない。それらのことを鑑みても、実物を見て判断するのが一番手っ取り早いと判断できた。

「いいわよ。じゃあ、明日はホームルーム後に科学準備室に来て。鍵は先に開けておくわ」

 そういうと叶はパソコンを閉じ、小脇に抱えて立ち上がった。

「そういえば、朝倉くんは景品決めた? 君の分も担当教師からまかされているから、決まっているなら教えてくれると助かるん――」
「今日の夕飯代!」

 あまりにも切実な願いと救いの手を差し伸べられた幼子のような無垢な瞳に、その場にいた恵理以外の全員が言葉を失った。唯一、恵理は笑いを堪えるように必死で口を押さえていたが、すぐに勢いよく笑い出したのだった。


――――――


「本当によかったのか?」

 天一たちの家だと言う一軒家にお呼ばれした真紅たちは、手際よく料理の準備をする恵理、康、愛美の三人と、面倒くさいから手伝わない三人に分かれていた。

 天一と真紅、空の三人はさっきまで行われていた鬼ごっこの疲労からリビングのソファーに並んで腰掛け、康が持ってきてくれた冷たいお茶をすすっている。

 左から天一、真紅、空という順に座っていた。

 何が? と首をかしげる天一に、真紅は茶をすすって言葉を続ける。

「食費。俺たちの分までお前が負担して、確か絶望的な金銭事情って言ってたよな?」
「あぁ、そのことか。大丈夫だって。今日の夕食にかかる費用は全て学園持ち。というより、今日の買い物全て学園持ち! いやぁ、あの学園は太っ腹でいいね。これだけ買いだめしておけば当分は食費で苦労しなくてすみそうだ」

 真紅たちがここにいるのにはもう一つ理由があった。

 学園が今日の買い物代を全て払ってくれると聞いた直後、天一はすぐに買いだめするという選択をしていた。だがそのためには大量の少量を運ぶことができる人材が多く必要だったのだ。そのため真紅たちにも声がかかり、結局は六人で商店街やスーパーなどを梯子し、大量の食料をこの家へと持ち込んだ。

 愛美以外は全員、片手に三個ずつレジ袋を持っていたはずだ。愛美だけは両手に二つずつだったが、女の細腕でそれだけ持つことができればいいほうだっただろう。

「でもこれは流石に買いすぎじゃねぇの? 食いきれるのか?」
「まぁ大丈夫だろ。俺と康は結構食わないと戦えないし、恵理もあの細い体でなかなか食べる」

 空の問いに笑顔で答えた天一だったが、何かに気づいて即座に席を立つ。直後天一がいた場所を強風が襲い、真紅の頬をつめたい空気が撫でていく。

「恵理さぁん、室内で力を使うのやめてもらいませんか?」
「うっさい。黙って座ってなさいよ」

 さほど怒っているような声でもなかったが、天一はやれやれと肩をすくめ、もう一度ソファーへと腰を下ろした。

 考えてみれば不思議なものだ。天一たちとは出会ってまだ間もない。会話をして、共に行動するようになってまだ二日と経ってはいなかった。だというのに彼らといることに不自由を感じないし、むしろ心地よさすら覚えている。

 それは天一たちも同様なのか、キッチンにいる女二人からは時折笑い声も漏れていた。

「なぁ、真紅、空」

 天一の何気ない言葉に、真紅は黙って耳を傾ける。

「こういうのって、いいな。俺は今まで康と恵理以外の人間はさして信用していなかった。俺たちの持つ力ってやつを知られたら困るってのもあったけど、単純に他人と行動するのが好きじゃなかったってのもある。でも、お前らと一緒にいるときはなんかこう……落ち着くっていうか」
「心地いい、か?」
「そう、それだ。不思議だよな。お互いのことなんてほとんど知らないはずなのに、それでも気が許せちまう。うちの師匠に知られたら笑いものだ」

 自嘲的に笑って見せているが、その笑顔の中には喜びの色が混じっている。

「時間をかけて築く情もあれば、出会ってすぐ生まれる情もある、てことじゃないか?」
「お、空。お前いいこと言うな」
「……空はごく稀に、本当にたまぁにいいことを言うんだ」
「あ、こら真紅! その発言は俺を馬鹿にしてるぞ?」

 心地よい空気に包まれながらも、三人は料理ができるまで、そうして他愛ない言葉を交わすのだった。


 一週間くらい更新していないことに気づいて愕然とした今日この頃。

 いやぁ、面目ない。今回ばかりは完璧なサボりです。サボタージュです。



 べつに、ネタに詰まったわけじゃないですよ? 本当だよ?


 さて作者の苦悩など放っておいて、次話あたりからはまた非現実的な色が濃く出てくることでしょう。緩急のつけ方って未だに難しいです。

 さほど締まりませんが今回はこの辺で。
 ではでは〜


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