Chapter5 Forever Love
それから、二人は今まで以上に強い絆で結ばれた。
幾度となく季節が巡り、時が流れても、二人の絆は揺れる事はなく、むしろさらに強く結ばれていた。
そして、ついにエンタープライズに最後の時が来た・・・
ドックの中に鎮座する『エンタープライズ』の艦体はもうほとんど解体され、当初の勇ましい面影はもうほとんど残っていなかった。
かつて勇ましく艦載機を蒼穹の空へ舞い上げていた飛行甲板はすでに全て取り払われ、二人は飛行甲板の下の艦首にあるポールの下で見詰め合っていた。
「エンター・・・」
今にも泣きそうなクーゴの目の前にいるエンタープライズはすでに向こう側が見えるほど透けていた。
――最期の時が近い事を、物語っていた。
透けた手を、そっと愛する彼の頬に当て、エンタープライズは小さく微笑んだ。
「クーゴ・・・今まで世話になった。現世では、いい夢を見せてもらった。貴様との絆は、絶対に忘れないから・・・」
エンタープライズの優しげな笑みに、クーゴは小さくうなずく。
「あぁ、僕も忘れない。《エンタープライズ》という女の子を愛した事を、絶対に忘れない」
クーゴの言葉に、エンタープライズは「はあ・・・」とため息を吐いて苦笑する。
「どうせ・・・今さら、忘れろと言っても無駄なのだろう?」
「もちろん。さすがに僕の事、もうわかるんだ」
「一体何年の付き合いだと思ってるのよ」
そう言って口元を吊り上げて笑う。その笑みにクーゴも微笑んだ。
――これで最後になる。
そんな悲しい思いに、クーゴは胸が押し潰されそうになる。
本当は、ずっと傍にいてほしい。
ずっと彼女を抱き締めていたい。
そう願うが、それは叶わぬ願いであると同時に、彼女も望んでいない。
クーゴは静かに目を閉じた。
――僕は、エンターを愛している――
――誰よりも幸せになってほしいと思うし、いつまでも一緒に居続けたいと願っている――
――けれど・・・それも叶わない夢でしかない――
――現実は、受け止めるしかない――
――でも、それ以上に、辛いけど、してはならない事がある――
――本当に彼女を愛しているなら、それは違う――
――過酷な戦いを生き抜き、戦い抜き、それでも普通の少女のように笑えるエンターを・・・愛した・・・――
――彼女の騎士としての誇りを、汚す事だけは・・・――
――絶対にしてはならない――
再び目を開いた時、その瞳には決意が宿っていた。
「エンター」
不思議そうに首を傾げるエンタープライズに、クーゴはそっと聞く。
「何?」
「君は、僕の事を愛しているかい?」
彼の言葉に、エンタープライズは頬を赤く染めながら小さく笑った。
「何を今さら、答えなどわかっているくせに」
エンタープライズは外見の年相応の少女のように恥ずかしそうに顔を赤らめたまま微笑み、静かに宣言した。
「クーゴ・・・あなたを、愛している」
その言葉に、クーゴは微笑んだ。
――その瞬間、柔らかな光が、エンタープライズの小さな体を包んだ。
「エンター・・・ッ!」
「どうやら、もう・・・お別れのようだな」
最期だというのに、エンタープライズは優しげな笑みを崩さない。そんな彼女の笑みに、クーゴは涙を流す。
「何泣いているんだ。情けないな」
光る手で涙を拭おうとしたが――その手は彼の頬をすり抜けてしまった。一瞬だけ、エンタープライズの顔がゆがんだ。
「・・・もう、触れる事は、できないのか」
「エンター・・・」
「そんな顔するな。お前はこれからも、国の為に奉仕しなさい。私は、そんな貴様を、いつまでも《監視》してるからな」
その言葉に、クーゴは苦笑した。
「ここは普通《見守っててあげる》じゃないの?」
クーゴの言葉にエンタープライズは呆れたように首をすくめる。
「《監視》だ。見守るなんてそんなひ弱なものではない」
「ふっ、お前らしいよ、本当に」
「それはほめているのか? それともバカにしているのか?」
「ほめてるさ。本当にお前らしい」
「そうか・・・」
徐々に消えるエンタープライズの小さな体を、クーゴはそっと抱き締めた。
もう感触は感じられないが、心にはそっと、優しく、暖かなものが流れ込んでくる。
「エンター・・・愛してる」
「あぁ、私も、愛している」
その言葉の後、二人は互いに目をつむってキスをした。
――再び目を開けた時、そこに彼女の姿はなかった。
光の粒子がゆっくりと空に昇っていくのを見て、クーゴは優しげな笑みを空に向けた。
「エンター。僕は君の事を、絶対に忘れない。だから、君も僕の事を忘れないで、《監視》しててね」
どこまでも澄み切った蒼い空を、クーゴはいつまも見上げ続けた。
―― 一九六〇年五月、日本機動部隊の宿敵にして日本海軍を滅ぼし、アメリカ合衆国を勝利に導いた歴戦の英雄空母『エンタープライズ』は完全に解体され、永遠の眠りについた―― |