Chapter3 ホワイトクリスマスの想い
それから二人は親友のような関係になった。
ずっと戦争を生きて来たエンタープライズにとって、クーゴとのひと時は平和を体で感じられる貴重な時間となっていた。
しかし二人が初めて出会ってから一年後、空母『エンタープライズ』は退役し、兵達はそれぞれ別の艦に異動となり、クーゴも空母『ホーネット』に配属された。
別れを惜しむクーゴに対し、エンタープライズは「私のもう一人の妹をよろしくな」と言い、敬礼して見送った。
根っからの合衆国海軍軍人であるエンタープライズらしい別れであった。
エセックス級空母四番艦にしてエンタープライズがもう一人の妹と言った空母『ホーネット』の艦魂はエンタープライズの知り合いであるクーゴにすぐに懐いた。
クーゴもホーネットには優しく接し、それに暇さえあればエンタープライズに会いに行ったりもした。
そうして二人は遠距離ながらも次第に心を通わせていった。
そして――
「エンター。僕は君が好きだ」
「・・・は?」
突然言われた言葉にエンタープライズは唖然とした。
時は九一五二年の終わりのある雪の日。世間ではクリスマスイヴを楽しんでいる頃、ドックに入っている退役空母『エンタープライズ』の甲板で大尉に昇級したクーゴとエンタープライズが二人して降り積もる雪を見詰めていた。
まじめな顔で言うクーゴにエンタープライズは顔を真っ赤に染める。
「ば、バカを言うな」
「僕は本気だ」
真剣な瞳を向けるクーゴはいつしか少年から青年に成長していた。
昔よりもずっとかっこ良くなったクーゴを見てほとんど昔のままのエンタープライズは頬を赤らめながら不機嫌そうに吐き捨てる。
「ば、バカも休み休み言え。恋愛感情など戦場では役に立たんどころか足手まといだ」
「ここは戦場じゃない」
「わ、私は軍人だ!」
「僕はそうだけど、君はもう退役軍人でしょ?」
『ホーネット』に異動してから五年、クーゴはエンタープライズの言葉に反撃できるほどたくましくなっていた。今ではもうエンタープライズの蹴りだって簡単にかわせてしまう。
エンタープライズは「ば、バカバカしいッ!」と言って視線を逸らす。
「エンターは、僕の事が嫌いか?」
「そ、そういう問題ではない!」
そう言うがエンタープライズの顔は赤い。
――嫌いなはずがあるか。嫌いなもんか・・・私は――
心に秘めた感情に、エンタープライズは胸倉を掴む。
自分の中にいつの間にかできた感情を、エンタープライズは認めなかった。
胸を焦がすこの想いは、きっと違う。そう思っていた。だが、
好きと言われた時、なぜか嬉しくて仕方がなかった。
自分の中で沸き起こる感情に、エンタープライズは戸惑い続けた。
太平洋戦争を生き抜き、合衆国海軍最強の艦魂と謳われたエンタープライズも、今はもう昔の研ぎ澄まされた雰囲気はなく、一人の少女のものになっていた。
しかし、それを認めないのはプライド。
合衆国海軍最強と謳われ、根っからの合衆国海軍軍人であるエンタープライズは艦魂である前に軍人である。
ずっと戦いしか自分の居場所がなかった彼女にとって、新たにできた自分の居場所はとても心地よい所だ。
しかし、自分は英雄空母『エンタープライズ』の艦魂。英雄なら英雄らしく国の為にその命を捧げ、国を守る為に命を投げ出さなければならない。
なのに、今の自分は国以上に彼を想っている。それが彼女を苦しめた。
軍人としての自分と、少女としての自分が、彼女を苦しませている。
そんな彼女を心配げに見詰めるクーゴの視線に、エンタープライズは決して避けられない現実を言い放った。
「そ、そもそも私は艦魂で貴様は人間だ。決して交わる事はない」
エンタープライズにもっともな意見に対し、クーゴは首を振った。
「愛があれば、人間と艦魂は一緒になれる」
「う、うそを言うな」
「うそじゃない」
「じゃあ、具体例を挙げてみろ。そんなものは存在しないだろ」
エンタープライズは勝ったと思った。
十四年生きてきたが、いまだかつて合衆国海軍でそのような戯言を聞いた記憶は一切なかった。
具体例を挙げろと言われてもそんなものは存在しない。
結局人間と艦魂が交われる訳はないのだ。
だが、エンタープライズの言葉に対し、クーゴはそっと月を見上げた。
「僕がこうして告白したのは、ある理由があるからなんだ」
「理由・・・だと?」
「君にはただ出張って言ってたけど、本当は僕、先月まで日本にいたんだ」
「な、何だとッ!?」
エンタープライズは驚愕する。
クーゴは先月までの三ヶ月間出張に出ていた。行き先は明かしてくれなかったが、まさか・・・
「に、日本だとッ!?」
「うん」
クーゴの言葉に対し、エンタープライズは顔を凶悪にゆがめ、牙を向ける。
日本はかつての敵。彼女は今でも敵と思っている。それに、日本は姉や妹や多くの仲間達の仇である。
エンタープライズはクーゴが今まで見た事がないようなすさまじい激怒でクーゴの胸倉を掴んだ。
「貴様ッ! 日本などに行っていたのかッ!」
エンタープライズのすさまじい怒号にも、クーゴは動じずにうなずく。
「日本の防衛機関である警備隊との交流の為にね」
「日本人はみんな敵だッ! あんな奴ら、皆殺しにしてしまえばいいのに、トルーマン(アメリカ合衆国第33代大統領――ハリー・S・トルーマン)はそれをしなかったッ! そんな外道どもの国に、貴様は行ったのかクーゴッ!」
「日本人はいい人ばかりだった」
「愚か者ッ!」
エンタープライズの放った平手がクーゴの頬を叩いた。だが、クーゴは何も返してこない。ただ言葉で、
「日本が戦ったのは軍部の暴走だ。日本国民全てがアメリカと戦う事を望んだ訳じゃない。それに日本はアメリカの圧力に対して戦争を起こした。悪いのは僕達アメリカだ」
その言葉に、エンタープライズの中のある記憶がよみがえった。
それは一九四五年九月二日、東京湾に浮かぶ戦艦『ミズーリ』艦上で行われた日本国降伏文書調印式での事、唯一稼動可能状態であった日本戦艦・戦艦『ナガト』の艦魂が言った言葉と、クーゴの言葉が重なった。
――悪いのはアメリカの方――
エンタープライズは過去の忌まわしい記憶と、今目の前で起きている事に憤りを感じる。
「悪いのはジャップだッ! 私達アメリカ合衆国は世界を守る正義の国だッ! そんな私達の祖国が過ちなど犯すものかッ!」
必死になって叫ぶエンタープライズを、クーゴは悲しげに見詰める。
「君は祖国を愛している。愛しているからこそ、祖国を信じたい。だけど、国はいつも正しい事をしている訳じゃない。間違った行いもしてきた。それがあの戦争なんだ」
「違うッ! 悪いのは日本だッ! 日本が悪いんだッ!」
「確かに、日本も悪い。でもアメリカも悪い。戦争というのは、どちらが正義で、どちらが悪だと決まってはない。どちらも正義を信じて戦う。戦争とは、正義と正義がぶつかる国同士の争い。戦争をした国は、どちらも被害者であると同時に、加害者でもあるんだ」
クーゴの言葉を、エンタープライズはいつの間にか涙を流しながら首を大きく振って否定する。
「世界の正義であるアメリカが絶対なんだッ! あんなクズ島国の正義など悪でしかないッ! 日本はドイツと同じ世界の悪だッ!」
「エンター。話を聞け」
「日本なんて、日本なんて、殲滅すれば良かったんだッ! もう騎士道なんて無視して、二発だけじゃなくて、ありったけのアトミックボムを日本中にバラ撒けば良かったんだッ!」
「エンターッ!」
鋭い音と共に、エンタープライズの頬に痛みが走った。
呆然と手を当てると、じんわりと熱を放っている。
「く、クーゴ・・・お前・・・」
エンタープライズはクーゴにビンタされた事に驚愕する。
彼は自分から手を上げるような人間ではないからだ。
クーゴはやっと冷静になったエンタープライズを諭すように、口を開く。
「エンター。まずは僕の話を聞いて」
クーゴの声に、エンタープライズは小さくうなずく。
「日本に行った僕は、ある日本人と出会った。警備隊士官のショウキハセガワっていう人でね、元日本海軍軍人で少佐だった人なんだ。その人が開戦からずっと乗っていた艦は、大戦の終わりに君が沈めたんだ」
「わ、私が?」
「うん。もっとも、君だけじゃない。ヨークタウンやホーネット、エセックスだって参加したんだけどね。その沈んだ艦は、日本海軍が世界最強を目指して極秘に建造した、日本海軍の象徴である超大型戦艦――」
「――戦艦『ヤマト』」
「うん」
エンタープライズは拳を握った。
かつて自分が沈めた日本海軍の誇る超大型戦艦――戦艦『ヤマト』。
日本や日本人、そして日本艦艇を嫌った彼女が唯一同情した日本の戦艦。
艦載機の搭乗員達が「美しい戦艦だった」と言っていた、本当は沈めたくはなかった日本戦艦。
うつむくエンタープライズに、クーゴはそっと口を開く。
「その『ヤマト』に乗っていたショウキは、『ヤマト』の艦魂と両想いだったそうだ」
その言葉に、エンタープライズの胸がズキリと痛んだ。
「お互いを愛し合い、ずっと一緒にいたいと願った二人。そんな二人のまわりには大勢の艦魂がいた。そんな艦魂達も戦争で次々に消え、最後は愛するヤマトさえも失ってしまった。彼は後悔した。ずっと一緒にいようって思ったのに、自分一人だけが生き残ってしまった事を、すごく悩んでいたそうだ」
「なら、残ればよかったのに、なぜ生き残った」
エンタープライズの震える声に、クーゴはそっと言った。
「――『生きてほしい』。そう言って、ヤマトは彼を別の艦に転送して生き残らせたそうだ」
クーゴの言葉に、エンタープライズは沈黙した。
日本人は敵だと、そう思っていたが、こうして目の前に日本人の一つの悲惨な物語を持ち出されると、自分がやって来た行為に疑問が生まれる。
――本当に、自分が今までしてきた事は正しかったのか――
そんな疑問と、自分がした攻撃で一つの儚い愛の物語が壊れてしまったという現実が、彼女の胸を痛めた。
「わ、私は・・・」
「もちろん君を責めている訳じゃない。でも、今でも彼は彼女の事を想い続けている。一緒にいられる事はできなくなってしまったが、それでも、いつでも彼女が傍にいる。それを励みに今まで生きてきたそうだ」
クーゴはうつむくエンタープライズの肩の上にそっと叩いた。その手にエンタープライズは顔を上げると、そこには優しげな彼の笑顔が、
「ショウキとヤマトの物語があるように、僕と君の物語があってもおかしくはないだろ?」
「クーゴ・・・」
クーゴの諭すような言葉に、もはやエンタープライズは牙を向ける力も失ってしまっていた。
うつむいて沈黙するエンタープライズの肩を、クーゴはそっと抱いた。
艦魂なので雪の積もらぬエンタープライズと違い、クーゴの肩には白い雪が積もっていた。
寒いだろうに。
エンタープライズは寒空の下で自分を温めるクーゴを見て、頬を赤らめた。
本当は自分の方が寒いだろうに、それでも彼は自分を抱き締める。
クーゴは上目遣いに自分を見上げるエンタープライズに、クーゴはそっと微笑む。
「僕は真剣に君を愛してる。それは変わらない事実だから。ずっと一緒にいたいって思うし、ずっと守ってあげたいとも思ってる」
月明かりの下、幻想的な雪景色に包まれた甲板の上で、クーゴは自分の想いを打ち明けた。
エンタープライズはそんな彼の腕の中で何も答えずにうつむく。そんな彼女を見てクーゴは苦笑い。
「まあ、君が嫌だって言うなら俺は無理に強要はしないよ。嫌だったら、僕を突き飛ばせばいいだけだし」
そう言ってクーゴはエンタープライズを見詰めるが、彼女は何も言わずに腕の中に納まっている。
「エンター?」
「・・・いつまでも、一緒にいられる訳ないだろ」
「え?」
顔をもたげたエンタープライズは真剣な表情で彼を見詰めていた。
「エンター・・・お前・・・」
エンタープライズはそっとクーゴの腕から離れると、そっと月を見上げた。その瞳は悲しそうに濡れていた。
「私の命は、そう長くはない。戦いの中でしか己の輝きを放てない私は、戦いが終われば何もできない。英雄王と謳われた私も、今は近い将来必ず来る死期を受け入れ、ただ待つしかできない身だ」
変えられぬ運命を受け入れるしかできない戦姫を、クーゴは悲しげに見詰める。
「いずれ解体されるのを待つしかできない私は、現世に留まり続ける事はできない。だから――」
月明かりの下、流れる星の川のような金髪を輝かすエンタープライズは、悲しげな笑みでクーゴを見詰めた。
「私のような無力な女に恋するのはやめろ。もう私の事は忘れて、立派に生きてくれ」
エンタープライズの言葉に、クーゴは小さく首を振る。
「君を忘れる事なんかできないし、君への想いを消す事なんてできない」
自分の願いを聞かないクーゴにエンタープライズは叫ぶ。
「私はクーゴの為に言っているのだッ! クーゴは私と違って自由の身なのだぞッ! それなのに、なぜ自由なく死ぬしかない私を選ぶッ! 貴様には貴様の未来があるのだろうがッ!」
必死になって叫ぶエンタープライズの瞳からは、一筋の雫が流れていた。
拭く事もせずに泣き叫ぶエンタープライズ。
「こんな女らしくない私など放っとけば――」
それ以上の言葉は彼女の口からは出なかった。
目の前に広がるのは桜色に染まった彼の顔。その近すぎる距離と自分の唇に押し付けられた優しい感触に、エンタープライズの顔は真っ赤に染まった。
クーゴの唇で自分の唇を塞がれたエンタープライズは必死になって彼の胸を押して彼を離そうとするが、なぜか徐々に力が抜ける。まるで唇から力を吸い取られているかのように。
いつしか必死になって彼の胸を叩いたりして動いていたその手は、ただしなだれるだけになっていた。
エンタープライズの力が抜け、ほとんど立っていられなくなった頃、ようやくクーゴは唇を放した。
キスが終わると、そこにはぐったりと自分にしなだれ掛かる彼女の姿が、
「エンター? どうしたの?」
「き、貴様という奴は・・・」
自分のした事に自覚のないクーゴを睨み付けるが、すでにその口から出た声は力なく、どこか色っぽい。
もはや反撃する力もないエンタープライズを、クーゴはそっと抱き締める。
「僕はお前が好きだ。できる事なら、君にも僕を好いていてほしい。君の気持ちを聞かせてくれ」
そう言うクーゴを、エンタープライズは残った力を振り絞って睨み付ける。
「それが人の唇を奪ってから言うセリフかッ!」
「まあ、順番はおかしいけど、いいじゃない」
「良くないッ! 返せッ! 私の初めてを返せッ!」
「あれ? もしかしてファーストキスだった?」
「う、うるさいッ!」
力が入らないエンタープライズの放った弱々しい拳は簡単にかわされてしまう。
顔を真っ赤にして怒る彼女を見て、クーゴは嬉しそうに小さく微笑む。
「男らしいお前もいいけど、やっぱりこうして女の子らしい反応をするお前が一番だよな」
「う、ううううるさいッ!」
もうかつて英雄王などと呼ばれていたあの勇ましさはどこにも残っていなかった。あるのは不器用な恋しかできない少女だけ。
そんな可愛らしいエンタープライズに、クーゴはそっと微笑むが、真剣な瞳を彼女に向ける。
「言っておくけど、僕は君の事を愛してる。それはこれからだって変わる事はない。例えハッピーエンドのない物語になるかもしれなくても、僕はそれでもこの物語をバットエンドでは終わらせたくない。君と一緒にいた時間は、僕の中で大切な宝物になってるんだから」
そう言って微笑むと、エンタープライズは頬を朱色に染めて視線を逸らす。
しばしの沈黙が流れ、やっとの思いで出た言葉は、
「バカ者・・・」
小さな小さな素直じゃない言葉だった。だが、クーゴはそれで十分だった。
クーゴはそっとエンタープライズを抱き締める。
一切の抵抗はなく、エンタープライズはされるがままになっている。そんなエンタープライズを抱き締めながら、クーゴは少し不安げに聞く。
「なあ、エンターは僕の事好き?」
その邪心なき純粋な気持ちでの質問に、エンタープライズは顔を真っ赤に染める。
「そんな訳ないでしょッ!? 私が貴様みたいなへらへらした奴に好意などという腐敗した感情を抱くわけないでしょッ!?」
素直じゃないエンタープライズの必要以上に力強い否定に、一瞬にしてクーゴの顔から笑みが消えた。
そっと、エンタープライズを抱き締めていた力が解かれる。その突然の状況変化にエンタープライズは戸惑う。
「え? クーゴ?」
「しゅみましぇん。調子に乗ってました」
そう言ってクーゴは座り込むと、雪の上に《の》の字を書き始めた。日本に行った際に覚えた行為である。
どんよりとした重苦しい雰囲気を出しながら永遠とひたすら《の》を書き続けるクーゴははっきり言ってキモイ。だが、普通ならここで元気付けるのだが、この少女は・・・
「何よ。そんなふざけた行動に何の意味があるというのだ? はっきり言ってキモイ」
はっきり言いすぎです。
あまりにもひどい言葉にさらに一・五倍速で《の》を書き続けるクーゴにエンタープライズは視線を逸らす。
「バカじゃないの? 私の気持ちくらい、わかってくるくせに・・・」
先程までの刺々しい雰囲気は一切なく、純粋にむすっとする女の子の表情をするエンタープライズは小さくつぶやいた。
「エンター・・・」
本当なら聞こえるはずもない小さな声も、クーゴはちゃんと聞き取った。
いまだ頬を赤らめながら視線を逸らすエンタープライズを、クーゴは再び抱き締める。
今度も、エンタープライズは一切抵抗しなかった。
小さく、折れてしまいそうな小さな体に、一体どれだけの想いを抱いて戦い続けて来たのか。それは誰にもわからない。
でも、今ここにいる彼女はもう昔の彼女ではない。
戦いに疲れ、誰かに支えてもらいたいと心の底で願う、どこにでもいる少女でしかない。
エンタープライズは自分を抱き締めるクーゴを、そっと抱き締め返した。
温かい・・・とても、優しい温度・・・
心の底にある氷をそっと溶かしてくれるような、そんな優しくも温かいぬくもりに、エンタープライズは自然と笑みを浮かべた。
何の障害もない、純粋な笑み。
今までの人生の中で、こんなにも心の底から笑みを浮かべた事はほとんどない。
姉や妹と初めて会った時、心の底から信頼できる仲間ができた時、それくらいしかなかった。
そんな自分の本当の笑みを引き出した彼に、何か温かい感情が湧き上がるのを感じた。
「クーゴ・・・本当に・・・私なんかでいいのか?」
そんな自信なさげな言葉に、クーゴは優しく微笑んだ。
「もちろん。君がいい。君じゃなきゃ、僕は嫌だ」
「クーゴ・・・」
心の底から嬉しくなり、今度はエンタープライズから目を閉じ、唇を彼に向けた。彼もそれに応えて口を近づけ、重なった。
彼から温かい何かが口を伝わって流れ込んでくるを感じながら、エンタープライズは心の中で思った。
――これからは、もう少し素直に生きてみよう・・・――
そんな小さくも彼女には大きな決意は、彼女を神々しく輝かせた。
時計の針が頂点からずれても、二人は互いに唇を合わせ続けた。
クリスマスイヴとクリスマスをまたがった二人の愛に応えるように、美しく白く輝く雪はいつまでも抱き締め続けた。 |