第九十六話 同居-1
「お願い、機嫌なおして? 美花」
俺はあっというまに不機嫌になった美花に謝っていた。
だが、彼女は満面の笑みでこちらを振り向きこう言った。
こいつ、拗ねたフリだったな!
「ふふふふふ、そうだわ、有夢……いいえ、アリムちゃん」
「え、有夢じゃないの?」
「男の時のあんたは有夢って呼んで、女の子の時のあんたはアリムって呼ぶわ!」
「そ……そうなの? 俺……いやボクも美花をミカって呼ぶね?」
「それ、かわってなくない? まぁ、いいわ。一人称も、アリムの時はボクのままでいいよ」
「え? 本当?」
「ええ。だって、それでずっとこの世界で人間関係築いてきたんでしょう? 今更変えられないものね」
「助かるよ! ありがとう! ミカ!」
俺は女の子に戻って、必殺、エンジェルスマイルをした。
「なにそれ! 私にもできる?」
「できるよ、こうして、こうやれば」
「………アリム、あざといね」
「でしょ」
「でもアリム、女の子になったばかりでしょ? それに、女の子になったら男に興味もって、男になったら今までの有夢とおなじ、エッチになる……」
「え? ボクはエッチじゃないよ? 説明的には大体あってるけど」
ミカは不敵にわらった。
嫌な予感がする。
「女の子のこと、教えてあげるね! なったばっかりだもんね!」
そういうやいなや、俺を抱きしめたミカはこう言った。
「ふむふむ、なかなかいい体つきね」
「え……ちょ、ミカさん?」
「ここをこうして……えいっ!」
_______キャーーー
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「うぅ…もうお嫁にいけない!」
「お婿にはなれるよ?」
少しイタズラされたけど、特に問題はなかった。
そうだ、こんな遊んでる場合じゃない。
「ねぇ、ミカ。突然だけど、すこし真面目な話をするけどいい?」
「…いいよ」
「ミカ……どうしてこの世界に居るの?」
「…………。トラックに轢かれたの」
「そうなんだ、皆んな、どうしてるだろうね?」
「わかんない。お父さんもお母さんも、桜も悲しんでる……」
「俺の親はどうだった? カナタは?」
「すごく悲しんでた」
「そう……」
俺は今まであまり考えなかったことが頭によぎる。
元の世界に戻ることだ。できるならば戻った方がいいのかもしれない。
そんなこと考えていると、ミカがこう言った。
「私も有夢も、確かに死んじゃった。皆んな悲しんでる。でも、でも……私にとって、1番大切なのは、有夢だから……ね?」
「もしかして、俺の考えてることわかった?」
「何年一緒に居ると思ってるのよ!」
「今日一日」
「………うっ……グスッ……ひどい……」
「15年です」
「でしょ?」
成る程、俺と一緒にいれるなら戻らなくてもいいと、そういう解釈でいいかな。
俺もミカと一緒にいれるならそれでいいや。
ミカが話を続ける。
「それはそうと、もうお昼過ぎちゃったからなにか食べないと」
「そうだね! ボクが作るよ」
「アリム…有夢、そこそこ料理できたものね」
「でも、いまは次元が違うんだよ?」
「そうなの?」
「うん!」
「じゃ、期待する」
俺は台所でご飯を作る。その様子を見ていたミカは相当驚いていたようだ。
俺は一瞬でオムライスを作りあげ、テーブルに並べた。
「え、なにそれ。早すぎ。………美味しそう」
「ふふん。すごいでしょ? ボクのスキルとか、ステータスとか、アナズムに来てからの活動とか、ご飯食べながら教えるね!」
ミカは一口食べてこう言った。
「……こんなに美味しいオムライス、人生ではじめて食べた…………。これ、本当にアリムが作ったの?」
「そうだよ、ボクのスキルの一つにアイテムマスターってのがあってね___________」
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「ふぅ、美味しすぎよ。また作ってよね! 楽しみにしてるね。えっと……じゃあ、今言った内容だと、アリムはすでにこの世界じゃ、相当の人物なのね?」
「うん、そうみたい」
「私、玉の輿?」
「………そうなるね」
「で、今日はどうするの? また、忙しいんでしょう?」
今日することは、ほとんどもうない。
だから……
「今日はそんなに忙しくないから、ミカのためにお洋服や生活用品を沢山つくるよ! 服は全季節分、2週間ごとにローテーションできるような感じで」
「え…いいの?」
「うん! ミカのためだもの」
「嬉しい! 私の趣味わかる?」
「何年一緒に居ると思ってるのさ!」
「今日一日」
「………うっ……グスッ……ひどい……」
「15年よ」
「でしょ?」
「あ、そうだ。なら一つお願いがあるの」
「なに?」
また少しモジモジしだした。
なんだろうか?
「去年の誕生日に有夢からもらったクマさん……その……同じの作ってくれないかな?」
「いいよ!」
「ありがと…。いつも一緒にアレと寝てたから…癖になっちゃって」
そんなに大切にしてくれてたんだね。
嬉しい。
「じゃ、いろいろ買ってくるから、少しまっててね! その間、これ、貸してあげるから」
俺はミカに[トズマホ]を貸した。
「え? スマホ?」
「ううん。ボクが作ったの[トズマホ]。本とかが読めるよ!」
「何冊くらい?」
「1000万冊。昨日図書館行って、データ取り込んできたの」
「なにそれすごい。……じゃ、いってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」
俺は色んなものの材料を買いに、街へと出た。