第九十五話 一緒
ご心配おかけしました
ロビーで皆んなは話をしながら待ってくれていたようだ。
美花は今、俺の隣を歩いている。
ラハンドさんが俺らに気づき、声をかけてくる。
「おう、アリム、ミカ。話ってなんだったんだ?」
俺はゆっくりと気持ちを落ち着かせて、こう言った。
「ボク達は…実は幼馴染なんです」
その場にいた全員が…いや、ガバイナさん以外が驚いた表情…と同時に喜びの表情が見える。
ガバイナさんが先ず、口を開いた。
「やはりな。なにか深い関係ではないかと思っていたんだ」
それに対し、ラハンドさんは疑問を投げかける。
「あん? ガバイナ、そりゃどうゆうことだぁ?」
「アリムと仕事をしていた時だ。寝言でミカという名を何回もつぶやいていたからな。それに、記憶喪失という共通点もあるからな。姉妹かなにかとは思っていたんだ。幼馴染だということまではわからなかったがな」
そうか、カルアちゃんの前で呟いた寝言を、実はガバイナさんの前でも言ってたのか。
気を使わせて言わなかったんだろう。この人は。
マーゴさんが嬉しそうにいう。
「そ、それじゃあ、二人とも記憶が戻ったんだねっ!」
「いえ…記憶は戻ってません」
「ん? それってどういうこと?」
ゴッグさんの質問はもっともだ。それには美花が答えた。
「幼馴染だということは思い出したんですけど、記憶を完全に取り戻したわけじゃないんです…」
「そうなんだ……」
それを言うと、皆んなが残念そうな顔をしている。
そんな中、ラハンドさんが美花に問う。
「ミカ、お前どうするんだ? やっぱり、幼馴染のアリムと一緒に居るか?」
「はい! そうします」
「そうか」
そう言いながら、ラハンドさんは美花の頭を優しく撫でる。
さらに彼は、俺と美花にこう言った。
「お前ら、仲良くな。折角、再会できたんだからよ!」
「はい!……ラハンドさんありがとうございました…お世話になりました」
「ボクもミカを助けてくれて、ありがとうございました。ラハンドさん」
「いんや、いいってことよ」
そう、嬉しそうに笑う。
と、ガバイナさんはそろそろ帰る用意をし始めた。
「すまないな。俺もこれから軽く仕事がある。よかったな。アリム、幼馴染が見つかって」
「はい!」
「じゃあな」
そう言って、ガバイナさんは俺ら二人の頭を撫で、ラハンドさんには、あまり無茶をするなと、ウルトさんには、突然押しかけてすいませんと言葉を残して、帰っていった。
ラハンドさん一行もガバイナさんが帰ったからか、荷物をまとめる。
「じゃ、オレ達もそろそろ帰ろうぜ? ゴッグ、マーゴ。二人の邪魔しちゃあ悪いしよ」
「うん! そうだね! ミカちゃん、またね!」
「まぁ、また会いに来るかもね」
「はい! またいつか近いうちに」
「助けてくれて、本当にありがとうございました!」
「そんじゃあよ。アリム、薬ありがとよ」
ラハンドさんらも俺らの頭を撫で、ウルトさんに礼を言って帰っていった。
この場にいるのは、俺らは二人と、ウルトさんだけだ。
俺はウルトさんにこう言った。
「ウルトさん、宿の件なんですけど」
「うん? 二人相部屋だったら追加料金はいらないよ? 女の子同士だし、問題ないよね」
「あ、ありがとうございます」
言葉が読まれていたのか。俺の部屋はかなり広いし、二部屋ある。
その上、俺は部屋に物を一切置いてないから、場所の心配もないだろう。
美花がウルトさんにこう言った。
「えと…ウルトさん。ありがとうございます」
「いんや、いいんだよ。ともかく、アリムちゃんよかったな。ずうっとどこかで寂しそうにしてたから」
「え? そうですか?」
「あぁ、そうさ。ふふ、あまり俺を舐めるなよ?」
いや、SSSランカーだし、舐める気はないぞ。
ともかく、俺らは部屋に連れて行かれた。
「じゃ、ミカちゃん、ここが君達の部屋だよ。俺は仕事に戻るから。じゃあね」
そう言って、ウルトさんはロビーに戻っていった。
「わぁ……広い部屋ぁ……」
「どう? 美花。部屋はどうするの? 分ける?」
「ううん! 別に大丈夫だよ、有夢。 だってほら、アリムって…#女の子__・・・__#なんでしょ? ベットもう一つ置いて貰えばいいよ!」
う、女の子の部分をちょっと強めに言うあたり、気にしているな?
「そ…そうだよ。ボクは女の子だけどさ」
「そうだね。女の子だね」
「一緒にお風呂も入れるけどさ」
「エッチ」
「そんな気は起きないから大丈夫」
「そうなの? 気持ちまで女の子になっちゃったの? 有夢ぅ?」
う…可愛い! そんなつぶらな瞳で見つめないで! 前の美花も可愛いけど、今のミカも可愛いよ。
でも、男に成れること、言った方がいいよね。
「うーん、少し見てて?」
「? 何を?」
俺は目の前で男に戻った。
顔は変わらないが、確かに男の人の身体になっているのだ。肩幅や身長が。
「え、いきなり背が伸びた!?」
「うん、俺、男に戻れるんだよ。自由自在に」
「そうなの?」
「確認してみる?」
「バカ」
久しぶりにバカと言われてしまったぜ。
懐かしいな……。
「そう、じゃあ私の夢は叶えられるわね」
「ん? カフェのオーナーになること?」
「いや、そっちじゃなくてね? そのね?」
みょうにモジモジしてるのが可愛いんだこれが。
彼女はこう言った。
「私の昔っからの夢よ。あんたの………有夢のお嫁さんに………なるっ…てぇ……」
「お…………おう」
顔が真っ赤だね。
……え、もしかして昔から両思いだったの?
もっと早く告白すればよかった。
「でも、俺はもうしばらくアリムでいるぞ? アイドルみたいで楽しいんだ。もっと大人になったら結婚しようね」
「バカ! 有夢のバカ! ふーんだ!」
ありゃりゃ、そっぽ向いちゃった。