なぜ核兵器を持とうとするの?
北朝鮮が核実験を再び実施しようという雲行きで、イランがサルを乗せたロケットを飛ばし、「生きて」地上に帰還させた、とするニュース(2013.2月)が流れていますね。
北朝鮮はついこの間、光明星三号二号機と呼ばれる「人工衛星」を銀河3号という「ロケット」に載せて発射、衛星軌道に乗せることに「成功」した、とされています。今回は「自画自賛」ではなく、アメリカのNORAD(ノーラッド、と呼びます)のお墨付きを得た「立派な」成果です。ちなみにNORADとは「北アメリカ航空宇宙防衛司令部」のことで、およそ宇宙を「飛ぶ」ものに関してはゴミ(スペースデブリ)まで含めて知らないことがない組織です。
また、イランは80年代から積極的に核開発を行い、ここ数年で核兵器製造が「出来る」状況になったと見られ、ひょっとするともう「数年」で、いや、「既に持っている」んじゃないかと疑われています。
なんだか「」ばかりですがお察し下さい。
核兵器と言う代物は非常にやっかいなものです。隣国が持てば、持たざる国はその脅威を真剣に受け止めなくてはならないし、持った国もそれなりの勇気、というより覚悟を持たなくてはなりません。インドとパキスタン、イスラエルと旧イラク、イランの関係のように、片方が持つのならこちらも、と言う図式もあります。
核「兵器」と呼びますが、核は「兵器」と片付けるには大きな代物です。
兵器とは軍事目的を遂行するための「道具」、武器のことですが、核は道具としては大掛かりで、一軍隊が管理するものではなく、大概がその管理の頂点に一国の「首長」が座るものです。つまり「核」は一国の運命を左右しかねない代物であり、その国が持つ最大の「力」となるものです。
そして「核」と、その「運搬手段」である「ミサイル」は切っても切れない関係で、その一方の開発が滞ればもう片方は宝の持ち腐れとなってしまう可能性が高いのです。
また、この「核」と「ミサイル」は、平和目的にも利用可能なところが非常に厄介なもので、「核」はご存じの通り発電や推進機関(エンジン)として、また、医療(レントゲンや放射線治療)として利用出来ますし、ミサイルはそのまま「宇宙ロケット」と名を変えて利用可能です。
その開発が「兵器」か「平和目的」かの判断は困難で、ちょっとした細工や隠ぺいでごまかしが可能ですから、実際に「それ」が現れる(=爆発する)までは「疑惑」と呼ぶしかない状況となるのが常なのです。
2013年2月現在、核兵器を保有する国は以下の通り。
○保有を公表し、確かに持っている国(8ヵ国)
アメリカ・ロシア・イギリス・フランス・中国・インド・パキスタン・北朝鮮
○保有を公表していないが、持っている国
イスラエル
○NATO参加国でアメリカの核を国内に備蓄し共有している国(4ヵ国)
ベルギー・ドイツ・イタリア・オランダ
○保有を公表していないが、持っていると「疑われる」国
イラン
○核兵器開発が「疑われる」国(2ヵ国)
シリア・ミャンマー
○現在は保有していないが、過去持っていた「らしい」国
南アフリカ
○現在は共有していないが、過去ロシアと共有又は譲渡されていた国(3ヵ国)
ベラルーシ・カザフスタン・ウクライナ
○過去核兵器開発を行っていた又は行っていたと疑われる国(10ヵ国)
日本(戦中)・ドイツ(ナチス)・台湾・韓国・イラク・スイス・スウェーデン・ブラジル・アルゼンチン・リビア
核兵器の数は大小含めて約2万発と言われます。その内、ロシアが半分の1万、アメリカが9千で、この2ヵ国で9割強と言われています。
人工衛星を軌道に乗せることが出来るロケットを持っている国は以下の通り10ヵ国と1団体。
ロシア・アメリカ・欧州宇宙機関ESA(フランス、ドイツ、イタリア、イギリスなど19ヵ国)・日本・中国・インド・イスラエル・ウクライナ・イラン・北朝鮮・韓国
(この他に5つの国際企業が人工衛星打ち上げの請負をやっています)
欧州宇宙機関のうち、フランスとイギリスとイタリアは独自に打ち上げる技術を持っています。
「核」と「人工衛星打ち上げロケット(ローンチ・ヴィークル)」、開発国が一致しているのがお分かりかと思います。
「核」保有国でローンチ・ヴィークルを保有していないのはパキスタンですが、この国は隣の国インドに対抗して核兵器を開発した経緯があり、海を越えての「運搬」は必要がなく、中距離弾道ミサイル(射程五千キロ程度)を持っていればいいし、実際に持っているので「核」は有効と言えます。
逆に北朝鮮は日本や韓国に届けば良いはずなのに、アメリカまで届かせようと必死になっているのが分かりますね。
ついでに言えば、北朝鮮がいつも弾道ミサイル実験(と言ってしまいますが)の直後に核実験を行おうとするのも「ミエミエ」の魂胆と言えそうです。彼らは彼らなりに「メッセージ」を発しているのです。
さて、ざっと核とミサイルについて現状を見てみましたが、その開発には膨大な費用が掛かる事はご存じだと思います。核兵器のユニット(爆発体)自体の値段は案外安く、高級外車一台分と揶揄される事がある位ですが、その開発までの経費と、保管維持・運搬・爆発手段がベラボーな価格になるのです。
北朝鮮が核兵器を開発製造するまで7億ドル掛かった、との話もあります。これは当然運搬手段を含みません。日本のローンチ・ヴィークル、H-2Bロケットが開発費270億円、発射価格147億と言いますから、例の銀河3号開発と発射費用、維持費用も含めれば最低でも一千億円は掛かっているはずです。
ICBM(大陸間弾道弾)一発でどの位の兵器が調達出来るか、この北朝鮮の例をとって一千億円として見てみましょう。手っ取り早いのは自衛隊の装備なので、それで計算してみると……
一千億円で買える自衛隊の最新兵器
護衛艦 最新DDあきづき級1隻新調と、旧式DD5隻の艦齢延伸(修理改修)
潜水艦 ほぼ2隻
哨戒艇 5隻
新型戦闘機(F-35A) 3機
哨戒機(P-1) 2機
戦闘ヘリコプター 18機
練習機(T-5) 416機
パトリオットミサイル 400発
10式戦車や99式自走155mm榴弾砲 100台
120mm迫撃砲 2,500門
12.7mm重機関銃 19,000丁
5.56mm軽機関銃(MINIMI)46,940丁
89式小銃 365,000丁
ものすごい量ですが、これは比較的調達費の高い日本の武器で揃えた場合。途上国が使用する安価な武器、RPG-7ロケットランチャーは100万丁、AK-47小銃なら230万丁は購入出来る金額……
それでも核を持とうとする北朝鮮やイラン、価格だけでなく世界から「嫌われ者」になってまで持とうとする理由、それは何か?
ずばり「対費用効果」です。
考えてみて下さい。世界の中でも嫌われ者で(自分たちが思っている)敵性国家に囲まれている国が、1千億円で世界のどこにでも核弾頭を一発撃てる権利を手に入れられたら、どうなるか。
1千億で1個師団を持つより核搭載ICBMを一発持つ方がどれだけ「発言力」と「抑止力」を発揮出来るかを想像してみて下さい。核は飛び切りの切り札なのです。
ところで以前、前都知事が日本の「核武装」について触れた時、こんな話がネットに流れていました。
いわく「日本が核武装してもムダ。核兵器で守れるのは広大な国土がある国。日本みたいな狭い島国が核武装しても先制核攻撃でオシマイだから。それが分からない人はXX」というもの。アゴが外れました。
日本が核武装してもムダ。これは諸手を挙げて賛成しますが、理由は違います。そして「日本のような狭い国が核武装しても」の部分、これは大きくて危険な勘違いです。
逆に言えば、狭い北朝鮮がなぜ核武装するのか。同じくイスラエルはどうなのか?イギリスだって島国です。フランスだってそんなに大きくない。彼らはムダな事をしているのでしょうか?
核は国土の広さなど関係ありません。それは「刺し違える武器」だからです。敵からの核弾頭が着弾して撃ち返す兵器ではありません。敵が発射するかしないか、その瀬戸際で発射する、それが「大陸間弾道弾」です。
また、北朝鮮が「交渉」と「脅迫」の道具として核を配備しているのは、先程のように「ミサイル」発射と「核実験」を繰り返す事でも明らかです。いつでも撃てるぞ、と銃を構えている様なものだからです。イスラエルも五十歩百歩で、周辺がすべて敵性国家ですから持っていると公表しなくても確実に持っているのが分かれば、充分な「抑止力」になるのです。
最初に私が言った「核を持った国もそれなりの勇気、というより覚悟を持たなくては」という意味は、こういう風な使う「勇気」と相手と刺し違える「覚悟」のことで、この二つがなければ核など持ち腐れどころか危険なだけです。少なくともイスラエルという国家はそれがありそうですし、北朝鮮はああいう国だから……
もうひとつ。これはイギリスやフランスに言えますが、SLBMが国土の広さなど関係無くしてしまいます。SLBM(エスエルビーエムとそのまま呼びます)とは「潜水艦発射弾道ミサイル」のこと。普通はSSBと呼ばれる「弾道弾搭載潜水艦」に搭載し、国土から離れた深海で待機、「時」が来たら発射するという究極の核運搬方法です。
特に世界の五大核保有国、米、露、中、英、仏は全てSSBNと呼ばれる「SLBM搭載原子力潜水艦」を配備しています。このSSBNは静寂性と隠密性、そして長期航海の出来る大型の潜水艦で、これを発見、撃沈するのは至難の業、ですから国土が先制核攻撃されても生き残り「復讐」が可能なのです。
更に技術の進歩で核運搬は小型化する可能性もあります。スーツケースで持ち運べる核爆弾などSFの世界だけの代物でしたが、これも近い将来可能となるかもしれません。
このように、核武装は小国でも充分に脅威的です。侮ってはいけませんし、日本が核武装することは、現実的に不可能であっても、他国から見たら可能と思われているのです。
それでも日本が核武装するのはナンセンスだと思います。何故なら、日本には直ぐ近くにイスラエルとそっくりな考え方をする国があるからです。
「その国」(複数!)はもし日本が核武装をしようと動いたら、その情報網を駆使して情報を集め、日本の核兵器製造工場やプルトニウム製造工場を「先制攻撃」することでしょう。
イスラエルはそれを平然とやりました。「バビロン作戦」や「オペラ作戦」と呼ばれるものですが、興味のある方はお調べください。
また、核の脅威に対抗するためこちらも核を持ったら、向こうは本気で核搭載弾道弾を撃って来るでしょう。果たして日本には撃ち返す「勇気」があるのかないのか。
とにかく、タダでは済みません。
日本の場合、核を持つ位ならイージスをもう二、三隻持つ方がよっぽどマシなのです。
その後、情勢も変わり、イランは「核合意」で核開発を凍結の道へ進みましたが米トランプ政権による合意脱退によってその効果が風前の灯火となっています。北朝鮮はご存知の通り。但し核兵器の完全廃棄にまで至るかは非常に疑問な状況になっています。つまり核兵器を巡る状況は実質なにも変わりがない、と言っても良いかと思います。(2018.9)