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取り替えられたお姫様

取り替えられたお姫様ーその後の2人ー

作者: みぃ

 リーナは王宮での生活に戸惑っていた。今までは森深い小屋に住み、触れ合うものといえば、森の動物達だけだったリーナには、家族だけではなく多くの人が住まう王宮での生活は、戸惑いの連続であったのだ。


 リーナが今まで触れ合ってきた“人”と言えば、森の魔女だけであった。しかも、森の魔女はリーナに多くのことを語らず、愛情をかけることもなく、ただ生活に必要なものを補充しにくるだけだったから、人との触れ合いは無いにも等しかったのだ。


 そんな中でも、リーナは森の動物達や精霊達に囲まれて、幸せに暮らしていた。直接言葉を交わすことはできないけれど、子どもの頃からずっと一緒の彼らとは、意思の疎通も思いのままであったのだ。


 王宮に来るまでは、日の出とともに目覚め、一日の大半を森の中で過ごしてきた。その日の予定は、気の向くままに決めた。時には湖畔の畔で涼をとったり、時には野いちごを採りにいったりして、充実した時間を過ごしていた。



 それが、王宮ではまったく違ったのだった。王宮では“姫”として、多くのことを学ぶことになった。まず、その日の予定は細かく決められていた。朝食の後は、王国の歴史を学んだ。昼食の後は、姫としてのマナーを学ぶ時間だ。そして、夕食を両親と食べた後は、寝るまで刺繍などをして過ごすことになっていた。そう、両親に会うことさえも、予定で決められた時間にしか叶わないのだ。


 突然の生活の変化に、リーナはついていくだけで精一杯で、日増しに疲れが見られるようになっていた。リーナの両親は、ようやく我が手に戻ってきた娘と一緒に過ごす時間を、もっと取りたかったのだが、通常の政務に加え森の魔女への対応にも時間を割かれ、夜のひと時を過ごすだけで精一杯だったのだ。そんな彼らは、リーナが疲れ始めていることにも気付けていなかった。


 リーナは誰にも不満を漏らさなかった。王宮での生活は、どう考えても恵まれたものだ。その生活に不満を漏らすだなんてことは、私の我儘でしかないのだと。



 リーナは森の動物達を懐かしんだ。精霊達の気配は今も感じるけれど、森の中で生活していた時よりも、その気配は弱くなっている。実はそれはリーナの感情の浮き沈みの変化によるものなのだが…。


 リーナはまだ侍女たちが起き出す前、時折庭園に出て過ごすようになっていた。そんな日が多くなっていた頃、魔女の住む森から一羽の鳥が王宮の庭園へとやって来た。その鳥は、リーナもよく見知った鳥で、暫し再会を喜んでいたのだが、鳥から『森が大変』といった感情が流れ込んできて、ハッとする。『この子は私に森の危機を伝える為に、やって来てくれたのだ』そう思ったリーナは、『ありがとう』と伝えると、一旦部屋へと戻るのだった。


 今日はもう侍女たちが起き出してしまう。今日、王宮を抜け出すのは無理だろう。でも、森の危機に何もしないではいられない。今夜にはきっと向かおう。そう決意したのだった。


 夜中、そっと部屋を抜け出したリーナは、警備の目をくぐり抜けて、王宮の外へと降り立った。森の動物達とほどではないが、王宮内に住まう小動物達とも触れ合いを持っていたリーナは、彼らに道案内を頼んだのだ。おかげで、なんとか王宮の外へ出て来ることができたリーナは、暗い夜道をひたすら森へと駆けて行くのだった。


 森の入り口からは、動物達が案内にたってくれた。動物達の先導で小屋へとやって来たリーナが見たものは、魔女へと変貌したレイナが、森を破壊しようとする姿だった。



「待って!森を破壊するなんて止めて!」


「あんた!何しに来たのよ!私は…あんたが私と同じ時間に生まれたせいで…!」



 そう、魔女が娘とリーナを取り替えることを決めたきっかけが、『同時刻に生まれた姫には多くの祝福が与えられたというのに、我が娘には何も与えられなかった』ことだということは、魔女の小屋を調べたことによって、皆が知るところになっていた。王宮の皆だけでなく、取り替えられたレイナ自身も。


 レイナも分かっていた。それは、母の身勝手な考えだったということが。それでも、思うのだ。少しでも生まれる時間が違っていたら、母の考え方も違っていたのではないかと。いつか失う幸せなら、要らなかった。本当の母と慎ましくも幸せに暮らしたかったと。


 王宮を離れてから溜め込んでいたものをリーナにぶつけるレイナ。リーナはそれをひたすら受け止め続けた。いつしか泣き崩れてしまったレイナを、リーナは抱きしめた。レイナが泣き止むまでずっと。


 レイナの涙が止まった頃、2人の周りには動物達が集まっていた。その様子は2人を気遣うようであった。



「動物達がこんなに…」


「皆、あなたを心配して来てくれたのよ」


「私は…この森を破壊しようとしていたのに…」


「もう止めてくれたのでしょう?」



 それから2人は、時間の許す限り語り合ったが、朝を迎える前にリーナは王宮へと戻らなければならなかった。でも、必ずまた森に来ることを、レイナと動物達に約束したのだった。


 レイナは森の動物達の優しさを知り、リーナという友人を得て、これからは人を恨むことなく森で静かに生きていこうと心に決めた。この森で、いつか帰るかもしれない母を待つのだ。


 リーナは王宮での日々に戻ることになった。やはり王宮での日々には疲れることも多かったのだが、時折森を訪れることが良い気分転換になっていた。自然と笑顔が増え、精霊達の気配も前のように強く感じることができるようになっていた。


 2人はそれぞれの道を、前へと歩み始めたのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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