第十七話 何が罪なのか
ハセヲが消え、未だに意気消沈したアトリとクーン、アリエッタを連れた元親善隊はむせかえるような濃い瘴気に顔をしかめる。
魔界
その名の通り凄惨な紫の光景が広がっている。
崩落し、魔界の瘴気の海にも呑み込まれ始めたアグゼリュスの破片。
人の死体が所々に横たわり崩落の結果をまざまざと見せ付けていた。
ルークは奇跡的に無事であったタルタロスの甲板から酷い瘴気の漂う海を見下ろしていた。今でもハセヲを貫いた剣の感覚を鮮明に思い出す。師匠が嘘を言うわけがないと思う心にハセヲの姿が突き刺さる。
イオンを守る無愛想で怪しく強い、師匠の部下。
それだけの感想しかもたなかった。
師匠が俺の窓、俺の扉、俺の夢だったんだ。
何も知らなかった。
何も知れなかった。
俺は自由がほしかった。記憶喪失の前と今の俺を比べないでほしかった。家族との違和感が苦しかった。檻の中で勉強に縛られるのが嫌だった。師匠だけがそんな世界で優しかった。それにすがって何が悪いんだ。
俺は悪くない
俺は悪くない!
失望され、比べられ、見捨てられていく。
でも、一人だけ残っていた。
アトリだった。
「何だよ…お前も俺を責めるのか?あっち行けよ!」
そんな赤毛の少年にアトリは自分を重ねる。
自分の弱さが他人を傷つけてしまう。きっとハセヲさんがいなければ自分は…。
榊の事を思い出したアトリは頭をふる。
ルークさんは昔の自分なのだ。全ての責任を人に押し付け逃げていた頃の自分。
ハセヲさんだったら…と考えたアトリだったが、それでは駄目だと自分を奮い起たせる。自分にしか出来ないこと、それは何なのか。
アトリは何も言わず、ルークを抱きしめ頭を撫でる。ルークは驚いたがいつの間にか肩を震わせ泣いていた。
アトリはただルークの頭を撫で続けた。
アトリにはそれしか出来なかった。
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