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今日から成りすまし始めました。

『みなさん、おはようございます。今日も暑い日になりそうですね!』

 私がSNSツイッタラーにそう書き込むこと、一瞬にして数十件の返信がある。フォロア数が多いのはもちろん、熱狂的なファンがここぞとばかりに書き込んでくるためだ。

“人気WEBラノベ作家:奏多かなた じん

――――それが私のSNS上で成りすましている別の顔であった。

 この成りすましの最初は些細なものであった。悪意や承認欲などはなく、どちらかといえば好意から始めたのである。



 話は少し前にさかのぼる。

「この作品凄いな……面白いな。いや、ヤバイくらいに面白いな!」

 今から一年ほど前、私は奏多かなたじんの作品に出会った。一話目を読み終えた後、口から出た言葉は最大の称賛の叫びであった。

・【幻想の異世界ハルグ】
・作者:奏多かなたじん
 WEB小説サイトに投稿されている長編ファンタジー小説。それは最高に面白く心躍る物語であった。

「でも、こんなに面白いに、何で埋もれているんだ?」

 一年程読み続けている内に、そんな疑問が浮かんできた。
 【幻想の異世界ハルグ】が連載されていたのは流行りのWEB小説サイト。面白い作品にはブックマークが付き、読者が評価をポイントで入れてシステムである。
 ポイントはランキングに反映され、人気作品は更に多くの目に触れる。そんなよくあるシステムのサイトであった。

「ブックマーク数は相変わらず一人。つまり読者はオレだけしかいないのか……」

 一年ほど愛読していたが、【幻想の異世界ハルグ】には全くポイントが入らなかった。いつ確認しても読者数は自分が一人だけである。

「この作者は活動報告も宣伝も全然していない。だからか」

 奏多かなたじんは全く宣伝をしていない人物であった。これは今の時代のWEBサイトでは致命的である。
 何しろ投稿されている作品は数十万を越えて、更に毎日のように新作も投稿されている。どんな名作であろうが、アピールしなければ埋もれてしまう厳しい世界だった。

「しかも更新が空く不定期型か。これでタイミングを逃していたのか」

 こう見えて私はこの小説サイトの古株であった。
 最近では多くの作品を読んで、勝ち残るための分析もしている。時にはこうして埋もれている名作品を掘り起こす、“スコップ”という行為を日々の楽しみにしていた。

「投稿してから一年も経っているし、文字数も数十万文字もある。しかも最近は投稿の感覚が空いていく一方……このままでは、この作品はダメになるパターンだな」

 私が分析した結果はそれであった。
 【幻想の異世界ハルグ】は確かに最高に面白い作品である。だがこのままで誰の目に触れることもなく、埋もれて消え去っていくであろう。

「このままでは勿体ないな……よしっ!」

 心の奥底の何かに火が着いた私は、パソコンの別の画面でSNSを開く。キーボードとマウスを操作して作業していく。

「アカウントの名前は……奏多かなたじんでいいか。プロフィールはミステリアスに短めにして……【幻想の異世界ハルグ】のURLのリンクをコピペ……よし、これでOKだ」

 作業は数分で完了した。
 小説サイトの作品URLをコピー貼り付けして、登録をしていくだけの簡単な作業。その気になれば今のご時世、その辺の小学生にだってできる。

「さて、【幻想の異世界ハルグ】の作者として、ドンドンPRしていかないとな。さて、どうしたものかな……」

 これが私の“成りすましの人生”が始まった瞬間だった。
 最初に説明した通り、何の悪意や欲などはない。一年間愛読していた【幻想の異世界ハルグ】という最高に面白い作品。
それを多くの人に読んでもらいたい……そんな好意から始まった些細な行動であった。



「うーん、奏多かなたじん。こうして調べていると謎の人物だな」

 成りすましを始めてから数日が経つ。
 この数日間、僕は奏多かなたじんの人物像を改めて分析していた。

「活動報告は0件……後書きや前書きも無し。他のSNSや掲示板での宣伝も皆無。これはひたすら書いて投稿してタイプの作者か」

 奏多かなたじんは全くプライベートが見えない作家であった。成り済ましの相手としてやり易い。だが作者に成りきるには人物情報が少なすぎる。

「でも、得られる情報は他にもある。さて、投稿している曜日と時間……その関係の分析が出ているな」

 別のアプリで分析作業が終わっていたことを確認する。アプリに解析させていたのは【幻想の異世界ハルグ】の投稿されていた曜日と時間の配列。今の時代、この程度の分析なら無料アプリで簡単に出来てしまう。

「投稿は平日が多いな。時間は午後の一時過ぎがほとんどか。奏多かなたじんはフリーターとかかな?」

 分析をからそんな推測を編み出す。手動で投稿されている時間帯から、その人のある程度の職業や行動パターンが分析できる。
 これが学生や社会人なら、別の分析パターンになっていただろう。授業時間や曜日や夏休みなど、生活パターンによって読み取れるものは多い。

「さて、それならツイッタラーに宣伝投稿する時間も、気を付けないとな」

 今回の成りすましに関して、私は徹底するつもりであった。
 自分自身が作者“奏多かなたじん”に成りきって宣伝をしていく。やり過ぎても不自然になるし、少ないと宣伝とはならない。

 創作者の成りすましは違法行為である。だが【幻想の異世界ハルグ】に関して私は妥協したくなかった。危険を覚悟で宣伝して、多くの人の目に触れて欲しいのだ。

「さて、では早速ツイッタラーに投稿していくか……『はじめまして、WEB小説を書いています。よろしくお願いいたします』……うん、最初はこんなものかな」

 SNS上でやり過ぎは反感を生みよくない。あくまでも【幻想の異世界ハルグ】の作者として初心に還って宣伝を投稿する。

「あとは定期的にURL流して……有名ラノベブロガーや作者と繋がったり……しかも何気なく繋がるようにしないとな。自然だいじ」

 私は自分用のツイッタラーのアカウントも持っている。それほどフォロア数は多くはない。だが年数は経っているので人脈はあるつもりだ。
 その人脈を最大限に活用する計画である。

「ゼロからのスタートか……」

 SNSの世界ではあからさま宣伝行為は嫌われ傾向にある。戦略を立て、時間をかけて宣伝をしていく。

「これは忙しくなるな」

 こうして私の成りすましは本格的にスタートするのであった。



「おお、凄いな……」

 変化が起きたのは二週間ほど経った日である。
 例の小説WEBサイトのランキングを確認して、私は歓喜の声をあげる。

「【幻想の異世界ハルグ】がランキングに初めて載っている」

 今まで数十万の作品の最下層で埋もれていた【幻想の異世界ハルグ】。それが日間ランキングとはいえ三百位の圏内に載っていたのだ。

「ほほう。PVや感想も増えてきているな」

 このサイトでは全ての作品情報が誰でも閲覧できるシステムである。ポイントはもちろんPV解析や感想の内容など、オープンさがサイトのウリであった。

「しかも好意的な感想が多いな」

 感想の一つ一つに目を通していく。

『【幻想の異世界ハルグ】面白かったです!』
『今までない斬新なストーリーです。テスト前でしたが一晩で読んじゃいました!』
『続きが楽しみです!』

「やっぱり、そうだよな。面白いよな!」

 そして好意的な感想を見つけては、自分のことにように喜ぶ。
 同じ作品を好きな読者同士の共感ともいえる感情。そしてスコッパーとして掘り起こした当人としての満足感であった。

「よし。これなら、まだまだ上に行きそうだな。目指すは日間ランキング百位以内だな!」

 感想に一通り目を通し、気合の息を吐き出す。それは自分自身にかつを入れるため。
 何しろここから先は数十万の作品がしのぎを削りあう激戦区なのだ。

「今やプロ作家や書籍化作家たちも、投稿しているからな……」

 このWEBサイトには誰でも自由に投稿ができる。それがプロ作家であろうが作品を公開できるのだ。
 読者としてはプロの未発表の作品が読めるのは最高のご褒美である。

「でも敵に回すと厳しい相手だな……」

 普通に考えたらプロ作家に素人が勝てるはずはない。相手は実績がある多くのファンを抱えているのだ。

「でも、大丈夫だ」

 だが、この投稿サイトでは様々な奇跡が起きてきた。何故なら経歴も肩書も何もいらない。読者の心を打つ者がランキングを駆け上がっていたのである。

「よし、これまで以上に緻密な宣伝をしていかないとな」

 自分にできることはSNSでの宣伝だけある。しかも成り済ましであるために、大手を振って宣伝はできない。
 だが今のネット社会で、いかようにも作戦は立てられる。

「宣伝か。あと、もう少ししたら、この成り済ましも止めよう……だな」

 私は小さく覚悟をつぶやく。
 自分の中で最初から決めていた三つルールがあった。
・成りすましは【幻想の異世界ハルグ】が多くの人の目に止まるまでの限定
・その期間が終わったらSNSのアカウントはキレイに消す
・作者本人に迷惑はかけない
 それが私の決めた絶対的なルールであった。



「マジか……こんなことってあるのか……」

 それから更に二週間が経った朝。
 今朝のランキングの画面を見つめながら絶句する。

「一位……本当に一位か」

 なんと【幻想の異世界ハルグ】が日間ランキングの一位に昇りつめていたのだ。
 瞬間的ではあるが、“現時点の日本で一番読まれている作品”と同義である。

「全数十万作品の中で……一番か」

 驚きと感動から覚め、少しだけ冷静になる。
 たしかにここ数日のPVの上昇とポイントの増加率は異常であった。そしてポイントが反映されたランキングの上昇するスピードも。

「そういえばツイッタラーのフォロア数も、半端なく増えていたからな」

 私が成りすますSNSでの“奏多かなたじん”のフォロア数も、急激に伸びていた。
 おそらくは【幻想の異世界ハルグ】を読んだ人が検索をしていたのであろう。
 好きな作品の作者のことは知りたい……私も同じに検索していた。

「こりゃ、ツイッタラーの返信の方も忙しくなるな……」

 フォロア数と同時に奏多かなたじんのつぶやきに対して、コメントが増えてきていた。アプリを起動しながら確認していく。

奏多かなたじん先生、ツイッタラーもやっていたのですね。よろしくお願いいたします!』
『【幻想の異世界ハルグ】凄く面白いです! 次回の更新楽しみにしています!』
『三章のラストシーンで感動して泣いてしまいました。最終章も楽しみです!』

 フォロアたちは私のことを作者本人だと思ってコメントしてくる。
 何しろこれは【幻想の異世界ハルグ】が埋もれていた時からの作者名のアカウント。普通に考えたら本人以外にはあり得ないであろう……と。

「よし、返事は細心の注意を払わないとな」

 ツイッタラーの返信に細心の注意を払っていた。
 一切が謎に包まれたミステリアスな作家“奏多かなたじん”を演出するために。不要な返信や口調でボロがでないように気を付けていた。

「オレは奏多かなたじん……奏多かなたじん……」

 自己催眠をかけるように何度もつぶやく。本人に成りきることで整合性をだしていくためだ。

「さて、もう一度読み直すとするか」

 大好きすぎてもう何十回と読みこんだ【幻想の異世界ハルグ】。それをまた最初から読み直す。
 これは各話やエピソードに秘められた作者の意図を読み取るためである。

「こうして読み直すと主人ハルグは、作者の言葉を代弁しているんだろうな……」

 【幻想の異世界ハルグ】を読み解いていくうちに、一つ気がついたことがある。それは作品に対して作者本人の想いや人生が込められていることだった。

「苦しい境遇や、突然の逆境……ハルグは苦難の連続だな」

 【幻想の異世界ハルグ】の主人公は厳しい境遇に生まれている。更に数々の辛い境遇が襲いかかる辛い人生を歩んでいた。
 それは今の流行りとは真逆の作風。それもあり一年もの間、この作品は埋もれていたのだ。

「でも、決して諦めない不屈の魂……だな」

 だがハルグは決して諦めなかった。
 家族を皆殺しにされ、仲間に裏切られて絶望のどん底に何度も落ちる。
 だが決して諦めなかったのだ。自分の運命を受け入れて、何度でも立ち上がっていくのであった。

「これはオレたちが忘れていた気持ち……かもしれないな」

 SNSやネットで便利になったこのご時世。自分をはじめ多くの人が流れて生きている。悪く言えば今は流行やランキングに躍らされて、自分を持てない時代であった。

「古臭い泥臭い英雄ハルグか……」

 流行りとは真逆の古臭い主人の活躍する【幻想の異世界ハルグ】。その物語に多くの読者が惹かれている。
 それは誰もが心に持っていた熱い願望であり、想いだったのかもしれない。

「よし、感傷に浸るのもここまでだ。あと少しだ。頑張るとするか!」

 【幻想の異世界ハルグ】は現在日間ランキングの一位である。
 だが本当の勝負はここから。この人気を継続的に維持していき、次は週間ランキング戦と月間ランキング戦となる。
 それを乗り越えてから、初めて人気作として世間で認知されるのだ。

「そのためにはPRとネット口コミの宣伝戦略を……」

 自分の頭の中には既に戦略があった。
 小説家“奏多かなたじん”としての考え。自分自身を【幻想の異世界ハルグ】の主人公ハルグとなり、困難に立ち向かう想いであった。



「マ、マジか……こんなことってあるのか……」

 それから更に一ヶ月が経った朝。朝のランキングの画面を見つめながら私は絶句する。

「月間一位……総合月間ランキング一位か……」

 【幻想の異世界ハルグ】が月間ランキングの一位に昇りつめていたのだ。
 瞬間的ではなく一ヶ月の集計を通して、日本で一番読まれている作品。プロ作家でも狙って取れないような栄光を手にしていたのだ。

「ツイッタラーのフォロア数も凄いな……ケタ違いに伸びているな」

 SNSツイッタラーのフォロアの数は作家としての人気にも比例している。
 奏多かなたじんのファンは今や、サイトでも有数の数に膨れ上がっていた。
 アプリを操作しながらコメントを確認していく。

『【幻想の異世界ハルグ】最高です!』
『最新話も面白かったです! 次回の更新楽しみにしています!』
『忙しくなり更新が大変だと思いますが、無理をなさらずに頑張ってください!』

 ファンからのコメントはほとんどが好意的であった。
 流行りに流されない【幻想の異世界ハルグ】の熱い作風。それに魅せられた本当のファンである。

「やっぱり【幻想の異世界ハルグ】は最高だよな。分かる人には分かるんだな」

 そんなコメントに丁寧に返信しつつ、心の中で深く共感する。
 ハルグの愚直だが熱い想いを。仲間を信じて何度でも立ち上がる勇姿を。
 僕たちが忘れていた“何か”をこの作品は思い出させてくれ、こうして多くの読者の琴線に触れているのだ。

「それにしても不定期な投稿でも、本当の読者は付いてきてくれるんだな」

 最近の【幻想の異世界ハルグ】の投稿ペースは何故か遅くなっていた。それでも感想欄は荒れることなく好感触である。これほど清々しい作品は今まで見たことはない。

「でも、そろそろ潮時か……」

 そんな最高潮の気分の中、僕は重い息を吐き出す。それは成りすましを始める前から決意して想いであった。

「よし“奏多かなたじん”のツイッタラーのアカウントは、明後日で消そう」

 これは自分の中での決定事項であった。
 【幻想の異世界ハルグ】を宣伝するために作った、成り済ましのアカウント。それを削除するのだ。

「このフォロア数に勢い……本当に勿体ないな。でも」

 少し前までは読者が自分しかいなかった作品。それを少しでも多くの読者に届けたい。
 月間ランキング一位という偉業を成し遂げた今、その目標は大幅に達成されていた。

「それに、これはオレのケジメだ」

 自分の胸に手を当て決意を固める。成り済ましを始めてからの激動の日々。本当に熱く夢中になった毎日であった。

「そして、いち読者としての誇りだ」

 自分はあくまでも成り済ましの違法者。
 だから【幻想の異世界ハルグ】を決して汚してはならない。これはどんな欲よりも強い、断固とした誇りの想いであった。

「よし、明後日はキレイに閉じよう」

 SNSツイッタラーの奏多かなたじんのアカウントを消す日。
 その去り際の作戦もすでに準備していた。作者と【幻想の異世界ハルグ】を汚さないように、円満な去り方を。

 こうして私の成り済ましの日々は終わりを迎えようとしていた。



 だが事件は次の日の朝に起きた。

「な、なんだこれは……?」

 SNSツイッタラーのダイレクトメッセージに目を通して言葉を失う。

『はじめまして、お忙しいところ恐れ入ります。私、●▲ノベルスという版元で書籍編集をしております●●と申します。このたびは、奏多 仁さまの作品【幻想の異世界ハルグ】の書籍化についてご依頼したく、連絡させていただきました。よろしければ――――』

 メッセージは長々と書かれていたが、ないようはそんな感じであった。

「これが噂に聞く“書籍化打診”というやつか……」

 WEB小説サイトで人気がある作品は、出版社から打診があり紙の本になる場合がある。
 商業出版とも書籍化とも言われる栄誉。数十万の作者たちの多くが目指す頂きだと言っても過言ではない。

「でも、何で……ツイッタラーのメッセージで?」

 何故ならWEB小説サイトの書籍化打診の連絡は、普通はSNSでは来ない。
 WEB小説サイトの運営を通した連絡が行くのが本当だ。詐欺や成り済ましに対する絶対的な打診方法とも言える。

「ふむふむ……なるほど。そういうことか……」

 メッセージを読みながら私は、その原因について納得する。

「小説サイトの返事が無いから、こっちのツイッタラーに来たのか……」

 この出版社の編集者は正式に書籍化の打診もしていたという。
 だが本当の作者である奏多かなたじんからは一向に返事がなし。そこで毎日にように更新している、僕のツイッタラーの方に打診をしてきたのだ。

「【幻想の異世界ハルグ】が書籍化か……凄い展開だな!」

 メッセージを読み終えて興奮状態となる。
 あの熱い物語が本となり全国で発売。そしてイラストがついて、更に多くの読者の手に渡るのである。

「いや、【幻想の異世界ハルグ】ぐらい面白い作品なら、コミカライズやアニメ化も夢じゃないかも!」

 興奮妄想は更に広がる。
 今のご時世、書籍で人気が出ると漫画化であるコミカライズ化もする。そして更に人気が出た作品は、最高峰の一つである“アニメ化”の神の頂きに到達するのであった。

「【幻想の異世界ハルグ】はアニメ向きだから、絶対に人気が出そうだよな!」

 妄想はまだまだ止まらなかった。
 何十回も読み直している好きな作品。そのキャラたちが絵となり、声が付き動き出す。これほど興奮するシュチエーションが他にあるだろうか?
 いやWEB小説を愛する自分にとって、これ以上の感度は無かった。

「でも、待てよ……」

 興奮のるつぼと化した私は、ふと冷静なる。

「この書籍化打診に対して……どう返事をすればいいんだ……」

 興奮した頭から血の気が引き、言葉を失う。
 先ほどまでの夢の世界から、一気に重いプレッシャーがのしかかってくる。

「スルー作戦か……いや、それはマズイな……」

 ●▲ノベルスのアカウントを確認しにいったが、これは正式なものであった。
 公式HPからのリンクもあり間違い。しかも業界でも最大手の出版社のレーベルであった。

「じゃあ、適当に濁す作戦を……いや、それもマズイな……」

 担当者からのメッセージの内容は本気であった。長文で【幻想の異世界ハルグ】の感想文まで添付している。
 人気やランキングに流されただけではない。本気で面白いと思い打診をしてきていた。
 その想いは同じ愛読者である自分にとって痛いほどよく分かる打診メッセージである。

 だからこそ早急に的確に返事をする必要がある。

「『連絡ありがとうございます。検討いたします。返事にかなり時間がかかるかもしれません……』……よし、こんな感じでいいのか?」

 悩んだ末にそんな感じでメッセージに返事をする。
 ビジネス用のメールメッセージを参考にしたテンプレート的な内容。正式な答えはWEBサイトのメッセージから返事をすると書いておく。

「これで時間は稼げるだろう……後はツイッタラーの退会の方も……」

 僕は急ぐことにした。
 成り済ましである自分のために大好きな作品を汚す訳にはいかない。早急にSNSの成り済ましのアカウントを削除することにした。

「よし……“削除します”……と。これで完了か……」

 最後に削除ボタンを押して、僕の成り済ましは終了した。
 削除を惜しんでくれるフォロアも多数いる。だがそれに変身している時間は今の自分にはなかった。

「感想もWEB小説の方に誘導しておいたし、後は僕がいなくても、もう【幻想の異世界ハルグ】は大丈夫だろうな……」

 今や【幻想の異世界ハルグ】はWEB小説サイトでも有数の人気作品となっていた。
 ランキングに鎮座して新規の読者の目に留まるようになっていた。ラノベブロガーたちはこぞって特集を組んで、口コミが爆発的に広がり始めていた。

「オレの役目は終わったんだ……少し寂しい気もするけど」

 ここまで来たら一介の読者である自分ができることは無い。
 更新がある限り、この作品は成功のレースの上を走り続けていくであろう。

「オレは今日から一人の読者に戻ります……なんてね」

 そんな自虐的なことをつぶやきながらSNSのアプリを閉じる。
 こうして気分を新たにした私は【幻想の異世界ハルグ】のいち読者に戻るのであった。



 それから何ヶ月が経ち、その大事件は起きていた。

「やっぱり更新が止まっている……」

 何と最終回を前にして【幻想の異世界ハルグ】の更新が中断されてしまったのだ。
 私は毎日確認しているが、案の定、今日も更新されていない。そんな悲痛な【幻想の異世界ハルグ】のページを見つめながら言葉を失う。
 これまでも連載は不定期ではあった。だが今では全く更新が途絶えてしまったのだ。

「特にこの二ヶ月は感覚的にヤバかったもんな……」

 前兆は二ヶ月ほど前からあった。
 その前までは一週間か二週間に一度のペースで一話が更新されていた【幻想の異世界ハルグ】。
それが最近では三週間に一度、月に一度のペースまで落ち込んでいたのである。

「特に最新話の最後の文章……はヤバイよな」

 そして大事件は一ヶ月前に起きた。その原因である最新話の最後の一文を、勇気を出してもう一度見直す。

『――――こうしてハルグたちの最後の戦いがhajiまri3か』

「やっぱり、これ……事故投稿だよな?」

 【幻想の異世界ハルグ】の最新話はそんな文字化けで終わっていた。話も途中まで書き書け。得ない事故投稿である。まさに大事件であった。

「普通じゃあり得ないよな。感想欄も荒れてまくっているし」

 もちろん多くの読者たちの間でも、この事件は話題になっていた。

『【幻想の異世界ハルグ】がヤバイ⁉』
『最終回を前にして作者が発狂した?』
『とりあえず運営に通報しといたわ!』

 心配のする声も多かったが、確信犯たちは面白可笑しく事件をあおっていた。
 大人気作の突然の中段。有名ラノベブログでも特集が組まれるほど大事件であった。

「期待人気作だったから、落胆した人も多いのか」

 期待して作品に裏切られた時ほど、怒りが裏返る時はない。
 更にストーリーも最終章の最終回まであと一話という最大の山場。その直前での中段に多くの読者がアンチと化してしまったのだ。

「くそっ……オレは無力だ……」

 この一カ月間、私は心を痛めていた。大好きな作品が地獄に堕ちていく光景を見ていられなかった。
 数か月前にアニメ化まで夢見ていた最高の作品。だが今は読者を裏切った悪者としてやり玉に挙げられていた。

「よし……感想を書こう。オレに出来ることといえば、これしかないけど……」

 意を決した【幻想の異世界ハルグ】に対して感想を書き始める。
 これまでも定期的に書いていた作者へ向けた感想。誰も読者がいなかった時から、書き続けていた。

「初心に帰って、もう一度書こう。オレの本当の想いを……第一話から……」

 【幻想の異世界ハルグ】を読んでいたこの一年間。読み直しの回数は既に百回を越えていた。その想いを全て筆に乗せ書き紡ぐ。

「そして成り済ましをしていたことも、ダイレクトメッセージ謝ろう……」

 感想とは別に作者に向けて謝罪のメッセージを送ることにした。
 本人がSNSツイッタラーの存在を知らない可能性もある。でも僕は謝罪することにした。

「よし、送信。これでオレの創作アカウントの人生は終わりだな」

 成り済ましは重大なマナー違反である。
 それをWEB小説サイトのアカウントから謝罪。作者が通報したなら、私の創作者としての終わりを告げていた。

「でも最後の最後に【幻想の異世界ハルグ】に出会えて、夢を見られてよかった……」

 後悔はなかった。
 これまでの創作人生が走馬灯のように甦る。
 そして自然と涙が込み上げてきた。

 友だちが少なく唯一の趣味であるWEB小説の世界。その世界との別れに。そして大好きだった【幻想の異世界ハルグ】との永遠の別れに感情が震えていた。

「よし、次はオレのWEB小説サイトのアカウントも消さないとな。これはケジメだ……んっ?」

 そんな最後の決意をした私は、サイトの画面に釘点けになる。

「これは奏多かなたじんからの返信……か」

 何と【幻想の異世界ハルグ】の作者“奏多かなたじん”から、まさかのメッセージが届いていたのである。
 これまで一切謎に包まれていた作者からの返事に、私の心臓の音が鳴り響く。

「よし……見よう」

 罪悪感から恐る恐るメッセージを開封する。
 成り済ましに対して、どんな罵詈雑言が書かれているか想像もできない。それは私にとって何よりも痛い言葉である。
 でも全ての言葉を真摯に受け止める覚悟を決めていた。

「えっ……これは……?」

 開封した先の本文はたったの一行であった。

『【幻想の異世界ハルグ】の最後を何卒よろしくお願いいたします。奏多仁ID:●●●●。パスワード:○○●●』

「えっ……これって、……」

 状況が理解できす画面の前で固まる。
 言葉を失い、何度も凝視する。

 そして何もできないまま呆然としていた。その二時間後。

――――奏多かなたじんから追加のメッセージが。最後となる想いの言葉が届くのであった。



 奏多かなたじんからの二通目のメッセージを開封して、ゆっくりと目を通す。

『先ほどは突然のメッセージですみませんでした。診察の時間でした。僕の名前は奏多かなたじんといいます。もちろんペンネームですが』

 メッセージの中の奏多かなたじんは随分と若い印象であった。
 重厚なファンタジー作品である【幻想の異世界ハルグ】からはかけ離れていたイメージである。
 私は背筋を伸ばしながら読み続ける。

『いつも僕の【幻想の異世界ハルグ】を読んで、そして感想をくれてありがとうございます。二年前に書き始めて時から、毎回感想を書いてくれてありがとうございます。初めて書いた小説だったので本当に感想、嬉しかったです』

 なんと奏多かなたじんは私のことを覚えていてくれた。
 【幻想の異世界ハルグ】は投稿された初期から登録していた読者として。そして毎回のように長文の感想を書いていた自分のことを、認識していたのだ。

『昔から僕の唯一の楽しみは、WEB小説を読むことでした。病院の先生からゲームは禁止されていたので、WEB小説を読む時が僕の幸せな時間でした』

 奏多かなたじんは私と同じ趣味をもった人物であった。そんな中で病院という単語が気になる。

『三年くらい前かな。僕はとある作品を見つけて、そしてファンになりました。本当に面白いんです。大好きな作品なので百回以上は読み直しました。へへへ……おかしいですよね。こんなに読み直すなんて』

 奏多かなたじんは赤裸々に自分のことを語っていた。
 これまでプライベートを一切見せないミステリアスな作家。同じ人物だとは思えないほど雄弁に語り続ける。
 そして私と同じように好きな作品を何回も読み直すタイプだった。

『でもその作品は最終回を待たずして、途中で終わってしまいました。いつの間に作品も消されて、読み直すこともできません。その後です。僕が自分でも書き始めたのは。“その作品の続きみたい!”“その作品みたいに楽しめる作品を書きたい!”。それが【幻想の異世界ハルグ】なんです』

 奏多かなたじんは誇らしげに大好きな作品のことを語る。
 そして続きが読めなくなった悲しさも。【幻想の異世界ハルグ】を書き始めた動機を語り続けた。

『検査や診察の間に時間を見つけて、二年間コツコツ書き続けることができました。本当に楽しい夢中になれた二年間でした。そして、ある日から感想が増えてきたことに気が付きました。感想はドンドン増えていきました。本当にびっくりしました。とある読者の感想から、“ツイッタラー”というSNSで宣伝してくれる方がいることを知りました』

 奏多かなたじんは私のツイッタラーの成り済ましの件を知っていた。一年前に私がアカウントを開設した時から、気がつていたのだ。

『その宣伝してくれる親切な方のお蔭で、感想が多くなりました。その嬉しい感想のお蔭で僕は【幻想の異世界ハルグ】を書き続けることができました。最終章の時は薬の副作用で辛かったです。でも多くの人の感想のお蔭で何とか書くことができました。お母さんとお父さんとお医者さまにお願いして、何とか続けられました』

 【幻想の異世界ハルグ】が常に不定期更新だった理由。そして最終章が更に不安定な投稿になっていた原因が、メッセージでは語られていた。

『今から一ヶ月前。最新話を書いている途中で、僕は意識不明になってしまいました。延命のための薬の副作用でした。次に目を覚ました時は、三週間も経っていたました。びっくりしました。そして僕の全身は麻痺していました。言葉は発せられますが、もう文字を打つことも出来なくなってしまいました。あっ、この文章は看病しているお母さんにお願いして、僕の言葉を最後に書いてもらっています。だから僕の本当の言葉です』

 そこには【幻想の異世界ハルグ】が最終話の前で突然止まってしまった事件の真相が明かされた。その後も更新がピタリと止まってしまった原因が。
 そして今後再開も絶望的であると。奏多かなたじんの過酷な状況がそこにはあった。

『僕はこれから緊急手術を受けに行きます。成功の確率は数%ということでした。そして成功しても僕の全身には麻痺が残るそうです。もう小説を書くことは出来ないです』

 メッセージによると奏多かなたじんは特殊な病にかかっていた。
 幼いころから入退院を繰り返し、ここ数年は病床に伏していた。薬の副作用でかなり激痛の毎日だという。
 それでも不屈の魂で【幻想の異世界ハルグ】を書き続けていたのだ。どんな困難にも負けずに。

「そうか……だからこんなに若いのに、あんなにも重く濃い話を書けていたのか……」

 【幻想の異世界ハルグ】の主人公は厳しい境遇に生まれている。そして数々の辛い境遇が襲われて辛い人生を歩んでいた。
 だが主人公は決して諦めなかった。家族を皆殺しにされて、仲間に裏切られて絶望のどん底に堕ちようが諦めなかった。自分の運命を受け入れて、何度でも立ち上がっていくのであった。

 それはまさに奏多かなたじんの人生のそのものだったのだ。

『僕はもう書くことはできません。だからハルグの最終回は託したいと思います。僕が大好きだった作品の作者さまに。僕が百回以上も読み直して、小説を書き始めてきっかけを与えてくれた作者さまに。【雲高き異世界ミスリル】の作者さまに……』

 心臓が止まるかと思った。
忘れもしない。
 【雲高き異世界ミスリル】の作者…………それは私のことである。
 数年前まで夢中になって書いていた作品【雲高き異世界ミスリル】。そして思うように人気が出ずに、自暴自棄になり消してしまった自作の名であった。

『二年前、ハルグを投降した初日に、【雲高き異世界ミスリル】の作者さまから感想がきて、本当にビックリしました。今はもう消えてしまった作品だけど、僕は一語一句の内容を全部覚えています。そのくらい好きな作品と作者さまです。だから僕は断定できます。この作者さまなら……そしてハルグを、あんなにも愛して宣伝して、毎回熱い感想をくれた方。この二人が同じ人だったとい奇跡。その奇跡に続きがあるなら、きっとハルグの最終回を書いてくれると信じています。だから一方的にですが僕の投稿用のIDとパスワードを送りました……奇跡を信じて』

 メッセージを読みながら、全ての謎が解けた。
 作者の存在意義である大事なIDとパスワード。それを見ず知らずの私に渡した理由が。

 奏多かなたじんは昔の私の数少ないファンであったのだ。
 そう言われてみれば作風や文体も似ている。
そして私が【幻想の異世界ハルグ】にハマった理由も判明した。昔の自分の届かなかった夢を、私はハルグに感じていたのかもしれない。

「でも代筆だって? そんなの無理だ……今のこんなオレには……」

 執筆から逃げ出した私は、書くことから数年間離れていた。そんな臆病者の私に書けるはずはない。
 大人気作となり多くのファンから期待されていたハルグの最終回を。あの絶望的な最後の展開から、どうやって書けばいいのか想像もできない。

『迷惑だったらIDとパスワード捨ててしまって構いません。でも、僕は読んでみたいんです。また一読者として。もしも数%の手術を乗り越えて生きていた後に……もしもリハビリを乗り越えて、お医者さまの許可が出たら……可能性は絶望的だけど、それから読むんです。僕の大好きだった方が書いてくれた、ハルグの本当の最終回を。最後まで諦めないハルグの姿を見たいんです!』

 そんな私の言い逃れを無視するように、奏多かなたじんはメッセージで語り続けていた。
 今はなき【雲高き異世界ミスリル】のシーンに例えながら語っていた。作者本人である私ですら忘れていた物語。それを熱く熱弁していた。

 私が忘却したくても忘れられない……小説と冒険への想いを熱く強く語っていた。

「でも、オレには……もう……小説を……ハルグたちの最後を……書くことは……」

 そんなメッセージを読みながら、私は嗚咽を漏らしながら頭を抱える。
 もはや奏多かなたじんからのメッセージ、その最後の方を直視することができなかった。

 涙で目の前がにじみ、直視することができない。
 数年前に逃げ出した罪悪感、小説に対する想いに押しつぶされそうになっていた。

 だが奏多かなたじんからのメッセージは熱く続いている。

『“残念ながら、オレは世界一諦めの悪い男だ。何度、失敗しても必ず前に突き進む!”……これ大好きだったミスリルの決め台詞です。だから僕も諦めずにここまで病気と戦ってきました。そして、これから手術にも挑戦します。大好きだったミスリルやハルグに負けたくないから! だから……』

 奏多かなたじんからのメッセージはそこで途切れていた。
 恐らくは手術の時間がきたのであろう。代筆していた母親も最後まで子の言葉を移すことができなかったのだ。

「オレは……」

 メッセージを読み終わり画面の前で固まる。何度もメッセージを読み直し、奏多かなたじんの想いを確認する。

「オレは……」

 そして自分の想いを確認する。
 自問自答をして答えを探そうとする。

「オレが……」

 筆を置いた、今自分の何が出来るのか。
 そして何をするべきなのか。何をしなければいけないのか。

「いやオレは……書かなくてはいけない……いや、書きたい! 小説を。ハルグの最後をオレが書くん!」

 心の奥底から何とも言えない想いが溢れてきた。
自分の中で答えは既に出ていたのだ。
 私は小さく、だが強く誓う。
 これは誰に向かって誓う訳ではない。

 たった一人、自分自身に向かって……そして体の底から込み上げてくれ熱い感情に向かって、宣言して決意したのだ

「くそっ。それにしても、数年ぶりの復帰戦が、いきなりハルグの最終回かよ……」

 覚悟を決めた私は自傷的に苦笑いする。
 大人気作であり問題作となってしまった【幻想の異世界ハルグ】。その最終話を自分のイメージだけで書き通すことでは並大抵のことではない。

 何しろプロットや何もない。自分の想像とイメージだけで、他人の作品を完結させないといけないのだ。
 これは地図とコンパスのない小さな船で、大海を横断するに等しい無謀さである。

「しかも、あのハルグたちの窮地からの最終回か。こりゃ、大仕事の中の大仕事。今日は徹夜だな……」

 だが私の心はかつていない程に高揚していた。
 全ての迷いは消え去り、頭は澄み渡っている。
 これまで百回以上は読み直してきたハルグの熱い物語。そんな主人公と仲間たちが、心の中で動きだそうとしていた。

奏多かなたじんが手術を終えて目を覚ましたら、度肝を抜くような最終回にしてやらないとな。あっ……でも、術後に強いショックはヤバイかもな」

 そんな冗談をつぶやきながら苦笑いする。この独り言をつぶやく癖は、昔の創作していた癖であった。好調であった若い頃の癖だ。

「さて……」

 不思議と全身の無駄な力が抜けて目の前が澄み渡る。
 現実では一度も会ったことが奏多かなたじん。そんな彼がブランクのある自分を、そっとサポートしてくれているような不思議な感覚であった。

「それでは書くとしますか……」

 こうして私は最終回を書き始めた。
 他の誰ためでもない。

 自分自身が書いて、読んでみたい物語のために、ひたすら筆を進めるのであった。




 そして、数日が経つ。 

 WEB小説業界では大きな話題が席巻する。
 人気作であり問題作であった【幻想の異世界ハルグ】が完結したのであった。

 これまでの展開と予想を大きく裏切る最終回であった。
 だが読んだ者たちの全てが期待していた通りに熱く、そして熱く感動した最終回だったという。











《エピローグ》






















 それから更に一ヶ月後。


『ねえ、師匠。何回も言うけど、やっぱりハルグのあの最終回はやり過ぎだったよ?』
「それはじんが最終回のプロットを作っていなかったのが原因だろう。でも熱かっただろ?」
『うーん、そうだね。流石、僕の信じた作者さまだね!』

 私には自称弟子と名乗る執筆仲間ができた。
 時々こうしてメッセージチャットで会話をしている。

『そういえば音声認識ソフトでチャットだけじゃなくて、執筆が出来るようになりそうなんだ。僕リハビリを頑張って、必ず新連載を書くから!』
「ああ、そうだな。オレも一からまたスタートだ。新連載を書き始める」
『じゃあ、師弟関係でライバル同士になるね』

 その自称弟子は不屈の魂で前に進もうとしていた。
 全身麻痺という後遺症を乗り越えて、貪欲に未来に進もうとしていた。
 それにしても、あの時の可愛げが全く無くなり、小生意気な弟子だ。あの時の感動と涙を返して欲しいものである。

「ライバル同士か……ああ、そうだな。ロートルの老獪ろうかいさしぶとさを見せてやるからな」
『えー、敵にしたらなんか面倒臭そうな相手だね』

 私は再び筆をとることにした。
 そしてライバルとなった自称弟子は今や大人気作の作者さま。だが相手にとって不足はなかった。

「“残念ながら、オレは世界一諦めの悪い男だ。何度、失敗しても必ず前に突き進む”……だからな」
『これだから男の人って面倒臭いんだよね』
「〝男の人って”?」
『あっ。言っておくけど僕は女の子だからね。花の女子高生だから』
「何だって……」

 現実とは小説よりも奇なものである。
 こうして私の第二の挑戦は始まったばかりであった。

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