秘密の国のアリス(40/95)縦書き表示RDF


†時計編†
秘密の国のアリス
作:恋華 咲



第40話:招かざる客





歪みが、消せない。

私の力でさえ、限界がきた。

もう放置してしまってもいいだろうか。きっと、大きな事件にはならないだろう。

行方不明の少女がでるだけだ。

此方の世界も彼方の世界も、そのせいで壊れはしない。むしろこのままでは、私が危うい。っていうか面倒臭い。

しかし、それでも。

帰るべき場所をなくしてはならない。帰国後、この世界の存在を知られても困る。

「……まぁ、彼女のことはまだいい。鏡池を見つけ次第、帰還させれば」

問題は、もうひとつ。

取り返さねば。
世界一、正確な時計を。

この世界を動かすのは、限られた者しか許されないのだから。


それこそが、私『タイム』の使命だ────。



  ◇

白うさぎくんが、城に帰ってきた。ナイフを買いに行って以来である。
たった数日、されど数日だ。

「お久しぶりです、お姉さん」
「白うさぎくんおかえりー!」

感動の再会に抱擁を。白うさぎくんはわたしの頬に自分のを軽くタッチする。
視界にちらつく真っ白な耳が気になる、今日この頃……。

「相変わらず仲良しね」

わたしの手が少年の耳に触れる正にコンマ1秒前。鈴を転がしたようなかわいらしい声が、わたし達にふってきた。
後ろめたさからか、異常な程はねた心臓を押さえつつ、声のした方向に振り向く。

「じょ、女王さま…」

ふわりと笑う、幼き権力者。

「おかえりなさい、白うさぎ。お目当ての物は手に入った?」
「はい、陛下。とても鋭利な刃で……切味を確かめたくなります」
「ふふ、そう言うと思ったの。受刑者なら試しても構わないわよ?」

あああああ。出た、出たよ。この危ない会話。
当の二人はお花飛ばして話してるけど、その中身はお花どころか血みどろ。
とてもじゃないが、ついていけない……。

白うさぎくんと女王様が処刑法の話で花を咲かせているのを、わたしは一歩下がって耳を傾ける。
――あんなに綺麗な顔してるのに、平気で人を殺せるなんて……。

だけどわたしは、白うさぎくんが殺してるところを実際に見たことはない。…見たいとは思わないけど。
アンの話だと、とても楽しそうに傷つけるらしい。殺し方は、残酷そのもの。ナイフでひたすら切りつける。
むごたらしいそれが、快楽となる白うさぎくん。殺害後は、いつも返り血を浴びていて。

――いつ、そんな嗜好に目覚めたんだろう。
見た目はまだまだ幼く、そしてかなりの美少年。純白の耳、赤い瞳、銀髪はひとつに結われている。そして、肩にさがっている、少し大きな懐中時計。

――そう言えば、いつも身につけてるよね。
腕時計とかのほうが楽じゃない? それとも、手放せない理由でもあるのかな。例えば、形見とか。


「それじゃ、私はこのへんで失礼するわ」
「はい。生きのいい人をお願いします」

任せて、と女王様は言い、廊下の奥に歩いていく。
会話が終わったのを見て、わたしはさっきまで考えていた疑問を少年に尋ねた。

「ねぇ白うさぎくん。その懐中時計いつも持ってるよね。なんか理由あったりする?」
「………これは、特別ですから。時間ぴったりの時計なんです」
「へぇー。触ってみてもいい?」
「はい。あっ」

許可を得たわたしは、その懐中時計を白うさぎくんの肩からはずそうする。
しかし、それを彼はとめた。

「白うさぎくん?」
「やめた方がいいですよ、お姉さん」

にっこりと微笑みながら、そんなことを言う。意味が分からなくて首を傾げれば、白うさぎくんはわたしの手を優しくどかし。

「庭に出ましょう。そこで触らせてあげます」

と。
なぜ庭?と思いつつも、わたしは黙ってついていった。



  ◇

着いた先は、城の庭園。と言っても、庭園とは名ばかりの城裏だけど。
華やかな表と違って、あまり日が当たらず花も植えられていない。全体的に寂しい印象がある。

「では、お姉さん。持ちます?」

肩からはずした時計を、わたしに差し出す白うさぎくん。どうしてわざわざ外に来たんだろう。
そう思いつつも、わたしは彼から時計を受けとった。
───その瞬間

「んぎゃッ!」

レディにあるまじき声を出し、わたしの顔は地面にのめりこむ。
少しの間、何がおこったか理解できなかった。ハッとしたのは、白うさぎくんがわたしを救出してからで。

「大丈夫ですか?」

少年はそう言いながら、顔についた土やら草やらを拭ってくれる。
わたしは呆然としたまま、必死に状況を理解しようとした。

「い、今の…え、何?」
「この時計、すごく重いんです。一度、誤って部屋の中で落としたときは、床に亀裂が出来てしまいました」
「……だから外へ来たわけね」

白うさぎくんは頷く。
ってか、そんな重いと分かっててわたしに持たせるってどうなのさ。

時計を見ると、地面に深くめりこんでいる。先程のわたしの顔よりも。だけど、時計本体はまったくもって無事らしい。
それを白うさぎくんは軽々と拾いあげ、再び肩にさげた。

「……ちょっと待て。なんでそんな重いもの身につけていて、君は大丈夫なんだ。もしかして、かなりの力持ち?」
「そんなことありません。女性にはちょっと重いだけです」
「いやいや、性別の問題じゃないって。かなりの重量だったぞ」

「───それだけ価値があるという意味だ、アリス」

…え?
違う声に振り返れば、そこにはいつしか森で出会った人が立っていた。
相変わらず、フードを深く被っていて、鼻から上が見えない。

「タイム……?」

思わずこぼせば、彼はゆっくりとフードをはずす。久しぶりに見る、琥珀色の瞳。

「居るべき場所を自覚しない、愚かな少女よ」


なにかが動く、予感がした。

















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう