秘密の国のアリス(1/93)縦書き表示RDF


アリスシリーズ第2段!
原作『不思議の国のアリス』をベースにしたファンタジーコメディーです。
秘密の国のアリス
作:恋華 咲



第1話:昼下がりの事件




我が家ののどかな庭。
頬を撫でる風。
気持ちのいい陽気。
揺れる葉。
涼しげな木陰。

「まだ読んでるの?」

わたしは木の幹に背をあずけ、隣の姉に話しかけた。姉は膝の上に乗せた本のページを一枚めくる。

「もう少し」

視線は本に向けたままそう答えた姉。
わたしはそれにムッとして、頬を膨らませる。

「もう少しって、さっきから同じことばっか言ってるじゃない」
「そんなことないわ、まだ6那由他回しか言ってないもの」
「どんな単位!?」

わたしは大きなため息を盛大に吐き、姉の手元にある本を見つめた。分厚くて、文字ばっかで、つまらなそうな本。
タイトルは【炭酸飲料を飲むとなぜゲップが出るか】。

……え、ちょっ、マジでつまらなそうなんだけど。
そんなことを知ってどうするんだ、我が姉よ。第一、あんた炭酸飲めないでしょうが。


「暇だな〜」

小さく貧乏ゆすりしながら呟くと、姉は一瞬だけわたしに視線を向けて、

「そんなに退屈ならお昼寝とかしたらどう?」

そう言ってまたページをめくる。
昼寝って……、わたしもう16歳なんだけど。
そりゃあ、若草色の芝生の上、陰のもとで真っ白なワンピース着てお昼寝なんて優雅だけど。
そんなの柄じゃない。
そもそも真っ白なワンピースなんて着てないし。

わたしの今の服装、姉に無理矢理プレゼントされた、やけにフリルやらレースやらがついたエプロンドレス。
可愛いと思うよ? でも、そんな少女趣味に付き合ってられる程、寛大じゃないのさ。カジュアル系だし、わたし。
それを知って、わたしにこれをプレゼントした姉。嫌がらせなのか、天然なのか……。

「はぁ……」

無意識に零れるため息。

「どうしたの? 悩み事?」

あんたについてね。

「分かった、退屈すぎるのね!」

いやいや、ちょっと待て。

「そんなに悩むほど退屈なら、一緒にこの本──」
「絶対やだ」

直ぐ様拒否すると、姉は『えー』と不満気な声をだした。
だけどもまた本をガン見。そこまでして知りたいか。
わたしマジでこの人と血繋がってるのかな。嬉しくないんだけど。


再び出てきそうなため息を飲み込み、わたしはふいと視線を姉から剥がした。
視界に入るは、キラキラした風景にひとりの少年。
――え?
わたしは目をこする。そしてもう一度見るけど。
小川の岸辺でやたらうろうろとしてる。かなり挙動不審だ。背は低めで、顔も幼い。14歳くらいだろうか?

わたしは可愛い男の子だな、なんてぼんやりと見つめていた。
そう、少年の耳を見るまでは。

――!!!?

わたしは意識がカッと醒めるのを感じた。
だってあの男の子、本来人間の耳がついてるところには、真っ白で大きなうさぎの耳が……。
え、コスプレ? それとも本物?
いや、無いよね。本物なわけ無いよ。無い無い。うん、無い。あるわけない!
そう念じながらもジッと観察してると、耳がぴょこぴょこって動……。



有りかよチクショー!!


「あっ……!」


そうこうしてる内に、うさぎ少年は走りだす。
わたしはつられてつい、彼を追うように駆けだした。なんとなく、姿を見失うのが嫌だったから。
後先考えず、楽園の木陰を抜け出し、姉のもとを離れ、わたしは走った。
――何してるのわたし。お姉ちゃんが心配しちゃうよ。行っちゃダメ。

でも………

サラサラと揺れる少年の銀髪。軽快なタップ。小さな後ろ姿。うさぎの耳。

全てがわたしを魅了して止まない。



「アリス……?」

姉は隣にいない妹の名前を呼んだ。返事がなければ、姿も見えない。

「トイレにでも行ったのかしら?」

アリスの思い、届かず。





「待って、そこの男の子! ちょっと止まって!」

必死に叫ぶ。だけど聞こえているのかいないのか、少年は止まってくれない。
しばらく二人して走り続けていると、少年は唐突に足を止めた。それに合わせて、わたしも止まる。
気がつけば、ずいぶん遠くまで来てしまった。息切れもしてる。
止まったのは、池の手前。透き通っていて、鏡のような水面。吸い込まれそうなくらい、綺麗で。

「あの」

わたしはおそるおそる話しかけた。
だけど少年は振り返りもせず、目の前の池に飛込んだ。
広がる波紋。飛び散る雫。

……え?

目の前の池に?

飛込んだ?

飛込んだぁ!?

「う、うそ! 何それ何それ! え、なに? 水遊びにはまだ早いよ。風邪ひくよ」

池にむかい叫んでみるけど、うんともすんとも言わない(そりゃそうだ)。
ど、どうしよう。かなり気になるんだけど。
でもよーく考えてみて。わたしがこの中に飛込む?
ハッ! 有り得ないね。馬鹿馬鹿しい。わたしだって少しは利口よ? 生憎そこまではできないって。

「ってことで、グッバイうさぎ少年。いつまでもわたしの胸の中で、思い出として生きてね」

そしてわたしは池に背をむけ、踵をかえ───


ズルッ


「ぬぁぁぁぁぁ!」

女にあるまじき奇声を発し、見事にすべった。足がもつれたわたしはそのま後ろに重心がいき

「え、ちょっと、ストップ。止めてよ、そんな展開誰も望んじゃいないって。や、オイオイオイ……オイー!!」



池へとまっさかさま。






お母さん、お父さん、そしてお姉ちゃん。先立つ不幸をお許し下さい……。












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