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勇者遭遇(

https://twitter.com/2nbZJdWhppmPoy3

作者ツイッターです~

ちょい情報やイラストっぽいのも載っています。

 

 昼食の、少し高めの肉ジャガ定食を食べ終える。


 もう少しゆっくりとしたいが、あまり長居をすると迷惑になると思い、気を利かせて席と立とうとしていたら、空気を読まないルードが話し掛けてきた。


「あのぅ、ラティさんは、どのくらいこの城下町に滞在する予定なんですか?」

「あの、ご主人様、ご予定はどうなっているのでしょうか?」


 唐突にそう訊ねてくるルード。

 何となく答えたくない気持ちがあるが、答えないのも小さい奴な気がするので、今後の簡単な予定を伝える。


「取り敢えずは一ヶ月くらいはこの城下町にいる予定かな。……トラブルでも無い限りは」

「ラティさん! 宿泊一ヶ月プランだとお安くなりますよ、宿泊費がなんと四割引きです!」


 何故か即座に喰い付いて来るルード。

 彼は目を輝かせながら、前のめりでラティに話しかけてくる。


「あの、ご主人様これはかなりお安くなるのでは?」

「一ヶ月の宿泊費が二人で銀貨九十枚か、確かに得だな」

「サラっと五割引にしてるんじゃ無いよ。全く……でもキリが良いから銀貨百枚でいいわ。部屋も二人部屋のままでいいわよね」


 俺とルードのやりとりに、女将さんであるオバサンのツッコミが入った。

 だが一ヶ月泊まるのであれば、真剣に検討した方が良い値段だった。

 

 問題は銀貨百枚を用意すること。

 だが、ギルドは使えないので、金策は【大地の欠片】頼りとなる。

 狩りの効率を上げて、【大地の欠片】を集めするべきかとか思い、一度ラティに相談をしてみることにした。


「ラティ、魔物狩りで銀貨百枚いけるかな? もちろん【大地の欠片】狙いだけど」

「あの、普通ですと無理かと。――ですが、今日ぐらい【大地の欠片】が獲れるのでしたら十分いけるかと思います」


 ラティはいけると判断した。


 現状を考えると、ギルドが使えない状況なので、やれる事は経験値稼ぎと欠片狙いの金策くらい。

 まずは銀貨百枚を目標に動くのも悪く無かった。


 もしかすると、もっと安い宿屋もあるかも知れないが、ラティの事を考えると、この宿屋を離れたくなかった。


 狼人に厳しいこの世界で、少なくともこの宿屋はまだマシだと思えた。


「よし、【大地の欠片】狩りだ。ラティ狩りに行こう」

「はい、ご主人様」


 目的が決まり、少し慌ただしくなってきた食堂を出ようとすると、再び空気の読まないルードが話しかけてくる。


「待ってまって。ラティさんもう結構遅い時間ですよ? ラティさんのお強さは知ってますが、さすがに夜の戦闘は危険ですよ。今日はお風呂にでも入って、明日に備えた方がいいですよ」


 ラティも時間を忘れていたらしく、はっとした表情でこちらを見る。


「あの、時間を失念しておりました。もう暗くなるので慣れていない夜間の戦闘は危険かと思いますご主人様」

「そうですよ! それに今なら入浴代金を無料でイイデスヨ」


 何故かルードから、とても良くない(・・・・)必死さを感じた。

 だが無料の風呂はありがたいので、俺はその提案に乗る事にした。


「よし! 今日はもう休む方向でいこう。ラティ、今日はもう休もう。取り敢えずは、一度部屋に戻ってから風呂に行くかな」


 ( 異世界に風呂を浸透させた歴代勇者達に感謝だな )


 その後、ラティと二人で二階の部屋に移動する途中に、轟く打撃音と、『給料から引いとくからね』という声が聞こえたが、俺は気付かなかったことにした。


 部屋に戻り、風呂に行く用意をして浴場へと向かう。


「あの、ご主人様。今日もお風呂を頂いても宜しいのでしょうか? 普通ですと、一週間に一度でも贅沢ですのに」

「折角のタダなんだし、なによりルードの犠牲を無駄にしちゃ悪いでしょ」

「あの、犠牲ですか? よく分かりませんが、折角の厚意ですので、甘えさせて頂きますねぇ」


 ラティは少し困惑の表情をしていたが、風呂に入ると決めると、嬉しそうにして浴場へと向かって行った。


 なんだかんだ言いつつも嬉しそうにしているラティ。

 俺はそれを見て、これからもお風呂にはしっかりと入れてやろうと誓った。

 

 ( キレイ好きって良いことだしなっ )

 

 俺は一人納得して風呂に入る。入浴時間は短い方なので、十分ほどで風呂を上がり、部屋に戻りベッドに横になってある事を考えた。


 その考えた事は、ラティに訊ねられた一言。

 彼女は今後の予定を俺に訊ねてきた。俺はそれに対し普通に答えたが、いま冷静になって考えて見ると、色々と思うところがあった。


 それは――今のこの状況。

 召喚などと言う、非現実的(ファンタジー)なことに巻き込まれて、受け止め切れていなかった為か、俺の行動は迂闊すぎたと自覚した。


 最初に権力者側から放り出されて、少々捨て鉢になってはいたが、いきなり外に出て魔物と戦うなどアホだと思えた。あれは死んでもおかしくなかったのだから。


 そして生命線ともいえる貰った金貨も、RPG(ゲーム)感覚で使い切り、本当に正気の沙汰ではない。


 だが、ラティを得られたのは幸運だった。彼女がいればやっていける気がする。


――いや、絶対にやっていけるな。

 うん、この選択だけは間違っていなかったな、



 こうして俺は、自分のいままでの行動を振り返り、そして反省していると、一階が妙に騒がしくなっていた。


 『何かあったのかな?』と思っていると、一階の風呂からラティが戻って来た。


「ラティお帰り、なんか下が騒がしかったけど、何かあったの?」

「あの、特に何も……ただよくある事なのですので……えっと……」


 下で何かあったのかと訊ねると、ラティが歯切れ悪く言い淀み、そして困った様子で口を開いた。


「あの、ルードさんがその……覗きをされていたので、少々目潰しを致しまして」


――あ~、なるほどなるほど、

 つまりラティさんが風呂を覗かれて、それでラティが目潰しを、

 そんでルードが……ふむ、



「ラティ、ちょっと一階に大地の欠片を獲りに行ってくる。一人で行けるからラティはここで待ってて」

「あの、大地の欠片は一階では獲れないかと……?」


「じゃあ、ちょっとコンビニに行ってくる」

「あの、あの何故木刀をお持ちに? それとコンビニとは何ですか?」


「むう、コンビニってこっちに無かったか。なら仕方ない、ちょっとルードに呼ばれていたのを思い出したから、俺は征くよ」

「あの、待ってください! 呼ばれて無かったですよねぇ? あと木刀は置いてください、それと――」


 ラティが何やら必死に俺を止めようとした。

 彼女は扉の前で両手を伸ばし、俺の行く手を遮っていた。


――ラティちゃんどいて! 

 ルードが殺せない! いや殺しちゃまずいか、



「あの、わたしは【索敵】があるので、すぐに察知して覗かれる前に潰しましたので……あの、直接は覗かれてはいません」


 流石はラティさんだった。

 色々と察して俺を止めてきた、ならば俺もそれに応えないといけない。

 だから――。


「そうか、ラティの言いたいことは分かったよ。ラティが目玉を潰したのならば、俺は別の玉を潰しに行ってくるよ」

「全然分かってないですよねぇ!? あの、ご主人様、どうか落ち着いてください」



 その後、俺はラティに説得され、今はお互いに自分のベッドに腰を下ろし、向かい合って彼女の話を聞いていた。


「あの、昔からノゾキなどはよくあった事ですので、そんなには気にはしておりません……」


――そうか……気にはしていないのか、

 でもっ、【索敵】で見張っていたって事は、やっぱ嫌なんだよな、

 ただそれを我慢をしているだけで……



 俺は自分なりにラティの心情を考え、どこか申し訳なさそうにしている彼女を励ますことにした。


「うん、わかったよラティ。ラティが気にしないと言うのならいいよ。……でも、結構厳しいんだなラティも。覗きに目潰しするなんて、普通に『きゃー!』とか乙女っぽく行けばイイのに」


 ( 何言ってんだ俺!! 何が『きゃー!』だよ…… )


「むう、失礼ですねぇ! わたしは正真正銘の乙女です…………まだですし」


――ッ!?

 そうか、そうなのか! ラティさんは乙女さんでしたかっ!

 ん~~なんとなくだけど、何となく何でも出来そうな気分だな、よし!



「ちょっくらドラゴンを倒しに行ってくるや」

「あの、何故今の会話からドラゴンを倒しに? 無理ですよ、ドラゴンは強い種族なんですから危険です」


 ( そうか、危険か……それなら )


「じゃあ魔王でいいや、ちょっと倒しに行ってくる」

「もっと無理です! そもそも魔王はまだ発生していませんよ。当然どうしたのですかご主人様」


(あ、呆れた顔も可愛い)


「……あの、今度は何か別の事を考えてませんか?」


( あ、バレてら…… )


 少しテンションがおかしくなってはいたが、その後は落ち着いてラティと雑談を交わし、明日に備えて早めに寝ることにする。


 今日は昨日と違いベッドが二つ。

 俺たちは硬い床ではなく、柔らかいベッドで就寝したのだった。 





      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





「おはようございます、ご主人様」


 ラティから朝の挨拶を受ける。

 今日はラティの方が先に起きており、彼女はすでに革の鎧を装備して準備は完了していた。


「おはよラティ、じゃあ狩りに行くか。すぐに準備をするから下で待ってて」

「はい、宿の外でお待ちしておりますねぇ」


 今は早朝の5時であるために、まだ店などは営業をしておらず、そのまま城下町の外に出ることにした。


「ラティ、また案内お願い」

「はい、ご主人様。今日案内する場所は魔物が少し強くなるかもしれませんが、数が多くいますので、今日はそちらに行きましょう。【大地の欠片】集めにも都合の良い場所ですし」


「了解」


 俺達は、昨日とは別の方向へと向かった。

 約三十分程かけて辿り着いた場所は、低いながらも丘の起伏があって、岩場の目立つ場所だった。


「ご主人様! いました、あちらにミドリブタ、レベル4です」

「おk! 行こうか」


「あの、おけ、とは?」

「了解とかそんな感じの意味かな」


「ああ、歴代勇者様達のお言葉ですねぇ?」


 そんな雑談を交わしつつ、俺とラティは狩りを開始した。

 昨日の戦いの流れは同じで、まずラティが先行して囮となり、彼女の作り出した(チャンス)に俺が槍を捻じ込んだ。

 

 狩りは順調に進み、魔物を十一匹倒したところで一度休憩を取ることにした。


「ん~十一匹で【大地の欠片】が八個か、かなり順調だよね?」

「あの、こう言っては何ですが、ちょっと出すぎな気がしますねぇ。順調過ぎて少々怖いぐらいです」


「でもこれなら、目標の銀貨百枚まですぐいきそうだね」

「はい、わたしもそう思います。おや?」


「うん? どうしたのラティ?」

「あの、あちらの方に……」


 ラティと会話をしながら休憩をしていると、他の冒険者パーティが少し遠くで戦闘をしている事に気がついた。

 俺は自分達以外の戦闘を見たことが無かったので、少し興味が湧いてそれを見学することにした。



「うおおお!」

「勇者キタハラ様、今です!」

「まかせろ! パワースラ!」


 俺が見学に向かった先で戦闘をしていたのは、同じクラスの北原だった。


 パーティの人数は四人で全員が男。その北原パーティは魔物を取り囲んで牽制しつつ、北原が光り輝く大剣の一撃で魔物を倒していた。


「ああ、そうか、勇者達も近くでレベル上げをしていたのか。昨日出会わなかったのは偶然かな?」

「あの、ご主人様。あの方は勇者様なのですか?」


 ラティも今の戦闘を見学しており、興味でも持ったのか勇者について聞いてきた。


「うん、あの小さい黒髪の奴が勇者だね。あとの三人は冒険者かな? やたらと綺麗な装備をしてるけど……」

「冒険者にしては格式ばった装備ばかりですねぇ。もしかすると貴族の方なのかも知れません」


 その後も、勇者北原パーティは魔物を倒して回っていた。

 俺はそれを眺めながら、ふと気になったことがあり、それをラティに尋ねる。


「ラティ、ちょっと気になったんだけど。あの連中ってみんな攻撃の時になんか武器が光っているんだけど、あれって魔法なの?」

「えっ?」


 俺が気になったのは、北原達が攻撃をする時に声を上げ、武器の刀身を光らせていることだった。


「あ、あの、あれは魔法ではなくて、ウェポンスキルですねぇ」

「ああ~~、あれがWS(ウエポンスキル)か! ん? そう言えばラティは使っていないよね?」


「あの、わたしは囮役ですのでWSを放つのは控えております。確かに威力は高いのですが、勢いが凄く少々振り回され気味になるのと、囮役の時には隙が出来やすく向いていないのです」

「なるほど……ねぇ、ちょっとWSを見せてよ。ラティのWSを見てみたい」


「はいご主人様。では行きます! WS”シルファン”!」


 ラティが見せてくれたWSは、左手のダガーを逆手に持ち下から上へと振りあげ、即座に右手に持ったショードソードを振り下ろす連撃だった。


「おお⁉ 剣を振る時に刀身が白く光るんだね。いいなこれカッコイイ……」

「はい、WS時は必ず刃が光ります」


( カッコイイのに……俺はこれが一切使えないのか )


「あの、WSが無くても、ご主人様は魔物を相手に十分戦えているかと……」

「ありがとうラティ……」


( はは、気を使われてしまったな……優しいなぁ )



 その後はすぐに気を取り直し、俺は狩りを再開した。

 そして九時ぐらいになったので、俺たちは食事を取る為に城下町へと戻った。


「ラティ、ホットドッグどうぞ」

「あの、ありがとうございますご主人様。また朝食を頂けるなんて贅沢の極みですねぇ」


「朝食にしては少し遅いけどね。ちょっと頑張り過ぎたかな」


 今日は朝早過ぎたので、どこの店もやっておらず、食事の時間がズレていた。

 だがおかげで、空腹感が心地良いスパイスとなった。


「本当にありがとう御座います、ご主人様。とても美味しいです」


 ラティがいつもの無表情を少しほころばせ、眩しいぐらいの笑顔を向けて御礼を言ってくる。


――少しは打ち解けてきたのかな?

 ……しかし、笑顔がホントに可愛いなラティは、マジで可愛い……



 食後の休憩後、俺たちは再び城下町を出て、【大地の欠片】を獲りに向かう。

 狩場までに向かう途中、一応ステータスプレートをチェックしておく。


名前 陣内 陽一 

職業 ゆうしゃ

【力のつよさ】9 

【すばやさ】11 

【身の固さ】8

【固有能力】 加速(未開放)

【パーティ】ラティ10

 

名前 ラティ

【職業】奴隷(赤)(陣内陽一) 

【レベル】10

【SP】121/121 

【MP】132/132

【STR】24 

【DEX】31 

【VIT】24 

【AGI】43

【INT】17 

【MND】28 

【CHR】38

【固有能力】【鑑定】【体術】【駆技】【索敵】【天翔】【蒼狼】

【魔法】雷系 風系 火系

【パーティ】陣内陽一



 ――――――――――――――――――――――――


 

「うむ、上がった実感が全く無いステータスだな」

「あの……わたしの方は怖いぐらいの伸びなのですが……。それにレベルの上がり方も速すぎます」

 

 俺たちはステータスについて話しながら、再び先程の狩場に戻って来た。

 のだが――。


「――――ッ」

「―――――ッガ!」

「―――――――ッ」

「――ワパスラ! ―――」


 丘が視界を遮り、少し見通しが悪くなっている先から、慌ただしい戦闘音が聞こえてきた。

 俺が咄嗟にラティを見ると、彼女は険しい表情を見せていた。


「ラティ!」

「はい、結構な数の魔物を感じ取れます」


 俺達は駆け出し、取り敢えず丘を登ってその先の状況の確認を急いだ。

 丘を登り、そこから確認出来た状況は、『間に合ったけど来るのが遅かった』という状況だった。


「既に二人が倒されています」

「あのパーティは――さっきの北原のパーティか? なにやってんだアイツは」


 魔物の数は七~八匹。黒い靄のようなモノを纏った一メートル程の黒いサル達が、北原達を取り囲んでいた。


 生き残っているのは北原ともう一人の大剣持ちの男。彼らは闇雲にWSを放って戦っていた。


「あの黒いヤツ、妙に避けるのが上手いな。攻撃を下がって避けながら北原を囲んで追い詰めてんのか?」

「あの魔物は、【ヤミザル】レベル5~7くらいです。落ち着いて対処すれば問題無いはずです」


――あの馬鹿、

 焦って魔物に良いようにされてんのか?

 ったく、



「ラティ助けに行くぞ! さすがに同級生を見殺しには出来ない」

「あの、ご主人様。あの数は少々危険です。わたしが先行して奇襲を仕掛けます!」


「了解、任せた!」


 俺はラティと共に、黒い魔物の集団に突撃する。

 先行したラティは、走る速度をそのまま維持して魔物の群れに斬り込み、青白い光を纏わせた刃を舞うように振るった。


「はぁぁああ!」

「――ギギ⁉」


 切り込んで来たラティに魔物達が反応する、すぐさま彼女の背後を取る動きを見せるが、そこは俺が後ろから突き刺し妨害する。

 突然包囲網が崩され、それに狼狽える魔物と――。


「おお、誰か助けに! って、陣内⁉」

「援軍か! 早くこいつ等をなんとかしろお前達。勇者キタハラ様をお助けするのだっ!」


 俺達に気が付いた北原が声を掛けてきた。そして貴族の方は、助けろと偉そうに命令をしてくる。


 ラティが素早さを生かして、一人戦場を駆け巡る。

 すでに3匹の魔物の首を刎ねており、今も対峙していたカゲザルの喉笛を、光を纏わせた一閃にて切り裂いた。


――攻撃が全部首刎ねって……ラティさん恐ろしい子、

 これから心の中で、ボーパル(首狩り)ラティと呼ぼう、



 戦いに余裕が出てきた俺は、そんな下らない事を考えていた。

 そしてその後、北原達もなんとか立て直し、八匹の魔物を全て倒すことが出来た。


 結果的には、ほとんどラティが魔物を青白い光を纏ったWSで仕留めていた。

 生き残った北原ともう一人の男が、フラフラになりながらも、どこか上から目線な感じでこちらに声をかけてきた。


「ボクは勇者北原堅二だ。助けてくれてありがとう、キミは女の子なのに強いね、ホントに驚いたよ。まぁ、ちょっと油断をしただけなんだけどね」

「ッチ、【狼人】の娘か。まぁ役には立ったかな。……これをくれてやるから今回の件は誰にも話すな。良いな? 他言無用だぞ、そっちの男もだ!」


 北原は、俺からしたら違和感しかない爽やかな口調だった。

 学校でのコイツを知っている俺にとっては、完全に違和感しかなかった。

 そしてもう一人の男は、絵に描いたような暴言を吐いて、そしてこれまた絵に描いたような悪態と共に、銀貨を一枚だけ投げつけてきた。


 助けてもらった後に、これだけ悪態をつける男に苛立つが。


「ロインさん! 彼女はボク達を助けてくれた子ですよ? それに強いし、是非うちで雇いたいぐらいだ」

「何を言っているのですキタハラ様! 相手は【狼人】ですぞ? 貴族の私としては、コレと一緒に居るところを見られるだけでも格が下がるのに――ましてや助けられたなどと知られた日には……」


 二人はそのまま何かを言い合っていた。

 俺とラティはそれを放っておき、無視する形で歩き出す。


 あれ以上あの場に居たとしても、絶対に不愉快な思いしかしない。そう感じたのだ。

 当然、投げつけられた銀貨は拾わなかった。


 それから場所を移し、俺たちは魔物狩りを再開する。

 去っていく途中に、北原が俺達に何か言っていたが、俺は聞こえなかったことにして、それを無視した。

 

 何故、俺が罵られていたのか理解出来なかったから。

 俺を欠陥品だかなんだか言っていたが、本当に耳障りだった。それに、やたらと都合のいい事までも言っていた……。


――なんだあの面倒くせぇのは、

 死体を俺に運べだとか、ラティを寄越せだとか、

 アイツはなんか勘違いしてんじゃねえのか? ったくアホらしい、

 自分は優遇される存在だって、自分で言うかってんだ、





      ◇   ◇   ◇   ◇   ◇





 俺は再開した魔物狩りの途中で、戦闘を終えたラティを見詰めながら感想を口にした。


「それにしてもラティは強いね。単にステータスがとかじゃなくて、戦闘が巧いと言えばいいのか……なんというか」

「あの、わたしは十一才から囮役で前に出ていましたから、そのお陰で戦闘には慣れているのです」


「なるほど、それが巧さの理由か。さっきの戦闘も凄かったからな~。あ、それで思い出した」

「はい、何でしょうご主人様?」


 俺は先程の戦い、カゲザルの群れとの戦の時に、偶然だがある事に気が付き、それをラティに話した。

 それは【大地の欠片】が、俺が魔物を倒した時は残り、北原が倒した時には残らなかったのだ。


 そしてラティと貴族の男の時も、【大地の欠片】は残っておらず、俺はそれを見てある仮説を立てて、それもラティに話してみた。


「――WSですか?」

「うん、WSで仕留めた魔物は、大地の欠片が出ていないような気がしてね」

「あの、でしたら試してみましょうご主人様」


 ラティは力強くそう言ってくれた。

 そしてその結果、俺の仮説は正しかった。


 ラティに協力をしてもらい検証した結果、【大地の欠片】が残る差は歴然だった。

 その後も順調に狩りを続け、昼食の後も、一度休憩を入れてから魔物狩りを続け、握りこぶし三個分の【大地の欠片】を集められた。

 

 正直これは、とても嬉しい誤算だった。



 帰り道の途中、城下町の正門前で俺はラティに話し掛けた。


「ラティお疲れさん。今日はこのまま帰ろう、時間も遅いし、大地の欠片は明日売りに行こう」

「はい、ご主人様」


 俺達は今日、戦いと移動を一日中繰り返していた。

 さすがに疲れてクタクタであり、俺は真っ直ぐの帰宅を提案した――その時。


「おい! 陣内待っていたぜ」


 北原は城下町へ入る手前の、あまり人気の無い場所で俺たちを待っていた。

 つかつかと近寄って来た北原は、俺とラティに話し掛けてくる。


「なぁ陣内、勇者であるボクに協力しろよ。ボクはその子をパーティに迎え入れたいんだ」

「はぁ? なに勝手なことを――」


「だってその首輪……その子は奴隷なんだろ? だからボクが買い取るよ。さっき二人やられたから、次はもっと強い仲間が欲しいんだよ」

「なにを突然馬鹿なことを言ってんだお前はっ! それにさっき一緒にいた貴族野郎が、【狼人】は駄目だって言ってただろっ」


――たく、腹立つ野郎だぜ、

 狼人だからって差別して、その上あんな態度を取りやがって、

 ラティを何だと思ってんだよっ!



 俺はこう言えば北原が下がると思っていた。

 だがヤツは――


「それなら大丈夫だ。耳を隠す装備をすれば問題無いし、他にも耳を切り取る方法もあるってロインさんが言っていた。だからパーティに加入させる事もロインさんに了承を得ている」

「なに言ってんだお前!? 耳を切り取るって……まさか、そうすれば狼人だってバレないとでも!?」


「ふん、ハズレ勇者のお前にはその子は勿体無いだろ? その子は強いんだ、彼女の強さには価値があるって言ってんだよ。それなら勇者であるボクと一緒に居た方がこの異世界の為だろ?」


 北原は無茶な要求をしてきた。

 確かにラティの強さが評価されて、そしてその価値を認めてくれることは喜ばしい。だが、強さの価値は認めても、ラティ(狼人)の存在には価値を認めていなかった。


「……帰れ」

「ん? なんだよ陣内。金は払うって言ってんだろ、ハズレのお前といても彼女に――ッぐは!?」


「――ッお前にっ、ラティを渡せるか! ふざけんな! 行くぞラティ」


 俺は北原をぶん殴り、ラティと一緒に城下町への門を潜った。


 北原が何かを叫んでいたが、俺はそれを完全に無視した。

 『後悔するぞ』などと、北原は色々と吠えていたが、当然無視をした。


 ラティは何とも複雑そうな表情をしていが、俺は――。


――誰がラティを渡すかっ、

 第一ラティは物じゃないんだぞ、

 ラティは……いや、奴隷として縛っているのは俺か、

 でも俺はラティを……

 


 俺は自分の中で、ただただ葛藤した。


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[一言] 耳を切るとか平気で言えちゃうサイコ学生チッスチッス
[気になる点] 5年前の投稿作品にコメントするのもどうかと思いましたが、 「ですねぇ。」「ですねぇ?」「ですねぇ!?」「しますねぇ。」と 「~ねぇ」と言う話し方が多すぎて気になります。 間延びした喋…
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