廃村…?
鉈ではなく鋸でした。
「村の中にも爆破系の罠多数っ!」
「結界も複数確認‥いえ、かなりの数が展開されています」
「罠の撤去を最優先、安全を確保したのち結界の解除だ」
「解除部隊を編成しろ、他は警戒と罠の排除」
「後衛はこっちにきてくれー」
廃村へと雪崩れ込んだ、百名を超える兵士達が各自声を掛け合う。
「誰かMP回復魔法唱えられる奴を、あと解除出来る奴を――」
「くそ、これは想定していなかった、後衛役が足りないっ」
「む、これは僕の出番かな、言葉様、それと陣内君、ちょっと行って来るよ」
「ああ、」
「はい、お気をつけてハーティさん」
後方待機の勇者枠に入らない冒険者であるハーティは、結界解除とMP回復要員として参加しに行った。
俺の記憶が正しければ、ハーティは魔法などの解除を得意とする、【解魔】の【固有能力】を持っていたはずであり、そのハーティならば、結界解除に大きく貢献するであろう。
ハーティが提示したステータスプレートを、隊長らしき兵士が確認し、ニヤリと笑いハーティを最前線へと連れて行く。
それを眺めながら俺は思う。
「また出番が無い…」
「あの、ご主人様も待機が宜しいかと、魔法防御力の無いご主人様ですと、あの爆破系の罠と相性が悪いですし…」
「…そうだった」
――いくら黒鱗装束に身を包んでいても、アレはヤバイよな、
即死は無いだろうけど、結構なダメージは喰らうな…
よし、後ろで大人しくしているか、
俺は後ろで大人しくすることを決め、結界が解除された廃村へと踏み入る。
「おおい、これ…絶対に村じゃないよな」
「あの、確かにそうですねぇ、村というよりも別の何かですねぇ」
「わっ、中って結構凄いね、建物もしっかりしているのかな? ラティちゃんの言う通り、なにか別の目的で作られた所みたいだね」
俺は予想とは違う廃村の光景に対して、素直な感想を呟いていた。
ラティも俺の感想に同意を示し、そして感想を口にして、その感想に葉月が続いた。
続いて門を潜り入って来た言葉と霧島も、俺達と同じような感想を語った。
廃村という言葉とはかけ離れた風景、それはレンガなどでしっかりと作られた数々の建物、多少の雑草などは目立つが、これは明らかに、”何か特別な目的”があって作られている場所であった。
何故ここを廃村などと言ったのか疑問に思う程である。
俺が辺りを見回していると、五神樹達が聖女の勇者葉月の周りを固め、突然警戒心を高める。
そしてラティが――
「あのご主人様。門を潜ってからなのですが、ココは明らかにおかしいです。気配‥、【索敵】が機能していません、まるで反響する山彦のように気配が感じられるのです」
「ん?それってどういう事だ?」
「はい、同じような気配が複数感知出来るのです、しかも四方八方から…」
「気配が声みたいに反響をしてんのか?」
【索敵】を持っていない俺にはイマイチピンと来ないが、周りを見る限りでは、【索敵】持ちであろう者達が訝しげに辺りを見回していた。
五神樹が葉月の周りを固めたのも、それが原因なのかもしれない。
そしてその五神樹を、ファンネルのように従えた葉月がこちらへやって来る。
「陣内君、なんだかココって変な感じがするね」
「ああ、ラティが言うには【索敵】が妨害されているみたいだからな、それにもしかするともっと別の力が働いているかもな」
「そっか~、だからかな~、何となくだけどMPを吸われるような感覚がするのよね。ちょっとヤダな~」
――マジで何か仕掛けてあるのか?
罠とか結界がこれだけ張ってあるんだから、十分考えられるか…
って、五神樹は相変わらずか、
葉月が俺に話し掛けたことが気に喰わないのか、理不尽な敵意を飛ばして来る五神樹達、まるでどこぞの奴のように、過敏に反応し過ぎて反撃でもして来そうな勢いである。
だがソコに――
「葉月さん、僕のそばに。どうもこの場所はおかしい、何かとんでもない仕掛けがあるかもしれない、だから僕のそばを離れないように」
寄ってきた新たな敵に反応する五神樹。
俺はこの五神樹を抑えられるエルネを探したが。
「あれ? エルネは?」
「あ、エルネさんは今回の捜索隊から外されちゃったの、戦闘の可能性があるから、侍女は危険だって言われて」
「あ~~、それが普通だよな、地下迷宮に付いて来る方がおかしいよな」
――くそ、ストッパー不在かよ、
居ても迷惑だけど、居ないとそれはそれで厄介だな、
俺はエルネが居ないことを知り、少々面倒なことになりそうだと、ウンザリした思いで頭を掻いていると、俺のその様子を心配したのか、女神の勇者言葉が声を掛けてくる。
「陣内君、何かあったのですか?」
「いや、大した事じゃない、ちょっと面倒だなって思っただけだ」
『そうなんですか、』っと、言いながら俺の隣に白い毛玉を抱えながらやってくる言葉。
「あれ? 言葉さんって、陣内君と一緒のパーティだっけ?」
「いえ違います。最近ノトスで再会して――」
何故か探り合うような会話を始める、聖女と女神。
なんとなく、なんとなく撤退したくなり後ろへ下がる俺。
そして後ろへ下がった先には――
「へぇ~陣内先輩、先輩って意外とモテ――ッふが!?」
「何もしゃべるな。いいか? これ以上余計なことを言うなよ。それといま起きているこの件は伏せてんだから、間違っても芝居化しようとするなよ、いいな?フリじゃねえぞ」
俺に口を塞がれながら、コクコクと首を縦に振る劇場の勇者霧島。
ならば良しと、俺が手を離すと。
「大丈夫です、ちょっと色々と脚色して盛って。原型が判らないぐらいにしてやりますから、きっとシェイクさんなら良いのを作ってくれますっ」
全く解っていない様子だった。
閑話休題
それから地味な解除作業が続いていた。
廃村の広さは、ちょっと大きめの高等学校の敷地程度の広さ。
石材やレンガのようなモノで作られた建物がぎっしりと並んでおり、中に入ってしまうと思ったよりも視界が悪かった。
そしてその建物を上手く利用して結界と罠が仕掛けられており、思いの外、苦戦しつつ進行していた。
しかも【索敵】が使えないので、建物の上や物陰から不意打ちを受ける可能性もあるので、周りの警戒にも神経を尖らせていた。
そんな中、状況の報告を繰り返してくる兵士達。
結界を一つ解除したや、罠の解除、他にもMPの消費具合なども、指揮を執っている宰相のギームルに逐一報告していた。
その報告の中に――
「ギームル様、仕掛けられている罠なのですが、やはり今までの物とは別格です、それに結界の方も、一体どれだけの【大地の欠片】を使用したのか――」
工兵らしき兵士が、結界や罠のことをギームルに報告していた。しかも、ただの報告だけではなく、彼なりの考察も報告をしていた。
そして、その工兵らしい彼からの報告を、俺も横でちゃっかりと聞く。
その彼の考察によると、罠として使われているモノは、既存するモノよりも遥かに優れており、まるで長年研究された術式のようなモノだと報告してきた。
同様に結界も優れたモノだと。
ただ、結界の方は燃費が悪い作られ方をしているので、維持するエネルギーとして使われる【大地の欠片】が大量に必要だろうと付け足す。
そしてその結界が、【索敵】を妨害しているとも。
その話を聞いて、俺も自分なりに知っていることを足して考察する。
――北原がその罠と結界を編み出して創った?
いや、そんな時間があったのか? 違和感があるな…
あと【大地の欠片】って言うと、
「ギームル、【大地の欠片】って確か北原が盗んでいたって?」
「ふんッ! 貴様に語る舌など持たぬ!」
「――ッおい! この野郎が‥」
俺には一瞥もくれず、ただ前を、勇者召喚の光柱だけを睨むギームル。
「すいませんギームル様。前に報告で聞いていた、北原君がよく盗んでいたのって、【大地の欠片】と魔石でしたよね? どうしても確認をしておきたくて」
「む、ハヅキ様。‥はい、その通りです。報告では尋常ではない量の【大地の欠片】を盗んでいたと、それはもう隠す気など無いほどの量でしたね」
( 俺は無視かよ‥ )
「と、いうことはやはり、この結界や罠は‥」
「はい、おそらくこの為に盗んだのでしょう。あまり正確ではない予測になりますが、きっと結界や罠は目的の中央の場所まで設置され続けているでしょう」
「なるほど‥ありがとう御座いますギームル様」
俺が聞きたかったことを、代理のような形で聞いてくれる葉月。
そして俺を無視していた宰相のギームルは、さすがに聖女の勇者葉月は無視など出来ないので、苦虫を嚙み潰したような顔でそれに答える。
「おそらくこれは、勇者召喚までの時間稼ぎのつもりなのでしょうな。ですが、この進行速度ならば余裕をもって間に合うでしょう」
「えっと、一つご報告が。護衛のアオウとシキの二人が、結界が中央の方と繋がっていると言うのです。彼らは【魔眼】の【固有能力】持ちでして、それで薄っすらとですが筋のようなモノが視えたと‥」
葉月の言葉に、ギームルはカッと目を見開き即指示を飛ばす。
「結界を解除した後も、その場所を注意しろ! もしかすると再度結界が展開されるかもしれない。下手をすると結界により隊が分断されるかもしれないぞ」
「は、はい! すぐに入り口の方も見て参ります!」
その後、廃村の攻略する作業が一つ増えた。
結界と罠を排除しつつ進む作業に、結界を解除した後にその場所を抉る作業が追加されたのだ。
慌ただしくなる兵士達。
俺達はそれを待機しつつ眺めていた。
――くそ、何も出来ない‥
下手に前に出れば作業の邪魔になるし、
王女は無事だよな、
単純に戦闘しか出来ない俺にはやれることが無かった。
聖女の勇者である葉月は、罠の撤去中に怪我をした者を癒し、時には防壁の魔法などを唱えて兵士達を守っていたりもした。
女神の勇者言葉も同様に、白い毛玉を抱えつつ回復魔法を唱えて回っていた。
ラティは【天翔】を使い高い位置まで上がり、俯瞰視点により先に何があるのか調べていた。
ラティ単騎による特攻を、という案が一度出たが、誰のフォローも入れない状況化で、罠が多数存在するかもしれない場所へ送るのは愚策として、俺が却下した。
同様の理由で、五神樹のブラッグスも。
俺が少し焦りつつ兵士達を見ていると、もう一人の出番無しがやって来る。
「陣内先輩、ちょっと情報を仕入れてきました」
「うん?情報ってなんだ?」
やって来たのは劇場の勇者霧島。
「はい、さっきギームルさんと兵士さんが話しているの聞いたんですが。どうやらココって中央が管理していたみたいですよ」
「……それで?」
( 中央が管理? )
「それでですね、ココには一応見張りとして兵士を数名ほど常駐させていたそうです。だけど、その人達と連絡が取れていないし、確認も出来ていないと‥」
「その話をしているのを聞いたのか?」
「ええ、なんて言うか、黒子に徹するよう気配を消して、周りの動きを観察していましたからね。気配っていうか、存在感を薄くして動くのも得意なんですよボクは」
( これは中央が―― )
俺が中央組に不信感を抱いた瞬間。
王女アイリスから貰った、髪留め型の付加魔法品の石の色が変わった。
青から赤へ。
それは、姿を隠す隠蔽魔法の感知を知らせるものであった。
読んで頂きありがとう御座います。
宜しければ、感想やご質問など頂けましたら嬉しいです。
あと、誤字や脱字のご指摘も‥
もうすぐ100万文字です。
いつか百万文字達成記念で、水着回でもやってみたいモノです。
葉月とかサリオ、あとは伊吹辺りで(ラティは不明